アルファン |
リューイ< 「はい」 にこりとして、見送る。 |
リューイ |
アルファン< 手渡された剣を真剣な眼差しで眺め、軽く振ったりして具合を確かめている。 持って言って、という言葉に小さく首をかしげた後、小さく微笑んだ。 「・・・わかった。そうさせてもらいます。」 アルファンと、今はいない彼に向けるようにそう言うと、剣をしまった。 気を取り直したような言葉に頷き 「では、先に行くね。 もし途中で会えなければ、ノーイ達のいる町で落ち合いましょう。」 またあとでと続けると、ラニを促がして踵を返す。 |
アルファン |
リューイ< ちょっと考える。 「そう、ですね。 倒したのですから、そうなります。 例外はありますが、本来、魔法で作成したからといって、魔力が消えたから無くなってしまうということはないのですが。無いということもありませんし」 剣が残っていることについては、リューイと同じように首をかしげる。 「なぜなのでしょうね。元から、歪に作用してしまった魔法ですから、何がどうなっても不思議はないですし……。 どうぞ、そのまま持って行ってくださいな」 さて。 と、声を上げる。 気を取り直したように、 「では、手早く整理だけしてしまいます。 すぐに追いかけますので、お先にどうぞ」 |
リューイ |
アルファン< 「大丈夫。こう見えても頑丈にできてるんですよ。 ・・・それに、さっきも言ったけれど、何かあることがわかっていて近づいたんですから。」 謝罪の言葉に、慌てたように首を振る。 剣の刃に、鏡のように自分が映った。 彼の言っていた言葉を思い出しながら、そこに映るもうひとりの自分を見つめる。 「恐ろしいとか、そういうことより・・・変な感じがするね。姿は同じだったけど、彼の心はきっと、彼自身のものだったし・・・。」 やっぱり消えてしまったんだと、小さく呟く。 自分と同じで、だけど違っていた彼と、もっといろんな話をしてみたかったけれど。 「彼が僕の影なら・・・僕の中に、戻ったということになるのかな。 だけどそれなら、どうしてこの剣は残っているんだろう。」 問いかけるような視線をアルファンへ向け、首をかしげた。 |
アルファン |
リューイ< 「はい」 素直に頷く。 「今の私にはもう無理なことですけれど」 それからぺこりと謝罪する。 「ごめんなさい」 魔法を行っているときほど無防備な状態の魔術師はいない。そのため、より強力な守護者を呼び出しておく必要があったが、どのような侵入者が訪れるかは分からない。 そして、どんな侵入者にも対応できる守護者とは、すなわち、その侵入者そのものであろうと考え、あの魔法を行ったのだという。 「その剣を複製するくらいなら、以前の私にはたやすいことだったのですけれども。さすがに、人族のような複雑な存在は、複製できないはずだったのに。 ああ、けれど、私もまさか、人間がやってくるとは思っていませんでしたから、きっと、そこで食い違ってしまったのですね。想定外の事態に対応できるような、器用な陣を敷いてはいませんでしたから。 無理に複製をしようとして、それでそれが成功してしまったのでしょう」 リューイの言葉を聴いて、やはり申し訳なさそうに話す。 「意志も持ってしまったのですね。 自分を殺すという、恐ろしい思いをさせてしまいましたね。 ……あなたの影にも、可哀想なことをしてしまいました」 |
リューイ |
アルファン< いくらかきょとんとした表情でアルファンの視線を受けると、同じように部屋を見渡してみる。 自分達以外に誰もいなくなっているのに気付き、軽く目を見張った。 「・・・人形、というか・・・僕にそっくりな人が出てきました。 彼は『自分は僕』で、けれど、『僕は彼じゃない』と言っていましたけど・・・不思議な感じがした、まるで自分自身と剣を交えているみたいで。」 その彼のことですか、と首を傾げる。 気まずそうな顔に気付き、慌てたように 「あの、ジレが先に教えてくれたので、不意をつかれる羽目には合わずにすんだから・・・」 そんな顔しないで、と、困ったように微笑んだ。 手にした剣に視線を落とすと、 「本当に同じものですね。この剣も、アルファンの魔法で造ったものなんですか?」 と問いかける。 |
アルファン |
リューイ< 少し照れたような、ぎこちない様子に、くすくすと笑っているが、問い返されて、不思議そうな表情をする。 「リューイのではないの?」 自らも言葉遣いを改めながら、訊ねる。 「他に同行者もいないものだから、あなたのだと思ったのだけれど」 しかし、よく見れば、リューイは自分の剣を身に付けている。 その身に付けている剣が、今しがたリューイが拾った剣と、寸分違わぬ代物だということに気づくと、今度は眉をひそめ、それから顔をこわばらせた。 慌てて部屋を見渡すが、リューイ、ラニ、ジレと自分以外にはだれも見あたらない。 訊ねるようにジレを見るが、ジレはそっぽを向いている。 やがて頭を振って、おずおず、と、リューイの顔に視線を戻す。 「お訊きしたいのですけれど」 言葉遣いが戻っている。 気まずそうでいて、申し訳なさそうでいて、やけに少女めいていた。 「私を水晶から解放して下さったとき……。 まさかとは思うのですが、あなたにそっくりな人形が、襲っては来なかったでしょうか?」 |
ジレ |
リューイ< べ。 と、舌を出してみせる。 「ご主人が出かけるなら、使い魔も出かけなくちゃいけないのさ」 出した舌で、顔を洗い始める。 洗いながらに片目で見上げて、 「ラニは人間の言葉で話すように教えられていないからさ。 ジレは教えられているから、話せるのさ。 でも、心の中ではたくさん喋ってる。それを、ジレは聴けるのさ。 聴こうとしてやってれば、リューイにもそのうち聴けるさ、きっとね」 |
リューイ |
アルファン< 「差別・・・ですか?」 困ったような笑いを小さく浮かべ、アルファンを見た。 少し考えるように視線をさまよわせた後、瞳を眇めるようにしてもう一度、軽く笑う。 「・・・そう、だね。アルファン、あなたがそれでいいのなら。」 丁寧なお辞儀に、自身も片膝を付き正礼でこたえ、そう言った。 「わかった。それじゃあ、先に行っています。」 軽く頷いて立ち上がる。 確かに、外にいる相棒は待ちくたびれているころだ。 人よりもずっと聡い彼は、アルファンに会ったときにどんな反応をするだろう。 そんな風に考えていたリューイは、アルファンが続けた言葉に目を瞬かせた。 「・・・あの剣?確かに良いものだと思うけど・・・」 とりあえず剣を拾い上げ、「持って行ってもいいの?」と戸惑ったように彼女を見た。 ジレ< 賑やかなのは得意じゃない、という言葉に軽く微笑む。 「そうなんだ?ジレはとても話すのが上手いから、意外だな。」 ラニが話すのは聞いたことが無いし、と続けて、ジレの目を覗き込んだ。 「きみも一緒に来てくれるの?もしそうだったら、とても嬉しいけれど。」 |
アルファン |
リューイ< 「では……よろしく、お願いしますね」 ふわりと身をかがめて、丁寧なお辞儀をする。 「私のことは、アルファンとだけ呼んでくださいな。 同行者なのですから。 先ほどから『リューイ』と、私もただの名前で呼ばせてもらっていますし、何より、ノーイのことはノーイとしか呼ばないのでしょう? そういう差別は、いけませんよ。リューイ」 にこりと笑う。 それから、あたりを見回すと、 「よろしければ、先に行っていて頂けますか? 私は、この館をたたまなければなりません。 身支度もありますし、オニキスも待っているみたいですから」 ふと、部屋の片隅に落ちている剣を見つける。 「あそこの剣も忘れないようにして下さいね。 良さそうな剣ですから、この館の“お片づけ”に巻き込まれると、勿体ないですよ」 |
ジレ |
リューイ< 「おかしなご主人が帰ってきたのはいいけどさ」 二人のやりとりをじっと見ていたジレが、アルファンの足下でリューイを見上げながら、ぼそりと呟く。 「おかしさの度合いが三倍くらいになってるのはどうしたものなのかな? こんなにお喋りなご主人様は見たことない。 ジレは賑やかなのは得意じゃないのさ」 こつん、こつん、と、尻尾が床をノックしている。 |
リューイ |
アルファン< 向けられた笑顔に、安心したように笑みを返した。 「はい、同行させてください。 僕の方こそ、まだまだ未熟者だし人付き合いも上手いほうではないし・・・きっとご迷惑をかけると思いますよ。」 そう言って、微かに首を傾げる。 「僕は魔術に疎いので、きっとあなたには当然のことでも理解できないことがあるでしょう。 苛々することは・・・それは、僕の方にもあると思うので、お互い様でしょうし。 いなくなってしまうのは――そうですね、あまり急だとさすがに心配になると思うので、できたら事前に教えていただけると嬉しいですけど。 でも、『そういうことがある』と今言っていただいたので、肝に銘じておきます。」 柔らかい微笑を浮かべる。 「黒衣の魔女」である彼女が辛く長い旅になると言うのだから、きっとその通りなんだろうと思う。 けれど、それでもやめようと思わない自分が少し不思議で、面白かった。 「ええと、これからよろしくお願いします。アルファンさん。」 |
アルファン“黒衣の魔女” |
リューイ< 「それはあなたの優しさですから」 謝罪するリューイに、慈しむような目を向ける。 「あなたの感情は、素敵ですね」 悪戯めかした台詞に、 「本当に、もう……」 困った風にいうと、ため息をついて見せ、それから、笑った。 「しようのない人ですね、リューイ」 嬉しそうに、笑った。 「それでは、私からお願いします。 私と一緒に、来て下さい。 でも、覚悟して下さいね。 私は長く生きていますけれど、人と親しく触れ合ったことはありません。何しろ、魔女なものですから。 きっと、色々と苛々することがあったり、よく分からないことを言ったりやったり、あ、それからこれは間違いないことなんですが、ふと気がついたときにいなくなっていたりします。 それでも、構いませんか?」 |
リューイ |
アルファン< 「それでも、恐れや不安があるからといって事実を曲げていいことにはなりません。」 強い口調でそう言ったあと、我に返ったように軽く目を伏せた。 「・・・すいません。ここであなたに当たることじゃありませんよね。 怒る権利のあるあなたが、そうやって冷静にしているのに。」 笑って頭を振る姿を、軽く首を傾げるようにして見つめた。 「・・・僕は、騎士ではないんです。そうなりたいと思っていたのは本当ですけど・・・。 今の僕は、ただの竜追いのリューイで、それでいいと思っています。 だから、僕が『騎士』だから駄目だとというのなら・・・その点では大丈夫ですよね?」 僅かに悪戯っぽく、琥珀の目が笑う。 「辛くて長い旅だというのなら、なおさらです。一緒に行ってはいけませんか? もちろん、僕が同行することで不都合が生じるとか、迷惑だということなら諦めますけど。」 冗談めかして尋ねた後、「それでも、ノーイに会うまでは一緒に行ってもいいですよね?」と小さく付け足す。 甘えるような仕草を見せるラニを片手で撫でながら、アルファンを見た。 |
アルファン“黒衣の魔女” |
リューイ< 「恐れられているのかも知れません」 だれとも知れない人物を庇うように、微笑みとも取れる表情を浮かべる。 「異質な存在というのは、恐れられるものですから。 特に為政者や、その周りの人に取っては、こんなに人里の近くに住んでいる魔法使なんて、不安要素以外の何ものでもないでしょうから」 「聖なる魔女だなんて、そんなことはありませんよ。“良き魔女”とでも呼んで下されば、それだけで。 良き魔女は、他にもたくさんいるのですよ。 私ばかり聖なる、なんて呼ばれてしまっては、少し気恥ずかしくなってしまいます」 そういいながらも、にこりとする。 「でも、嬉しいですよ。 私は、あまり率直な言葉で、誉められたことなんてあんまりありませんから」 申し出に、きょとんとする。 それから、嬉しそうな表情を浮かべて、そして、頭を振る。 「きっと、長くなってしまいます。この旅は。 それから、少し辛く。 いけませんよ、リューイ。 騎士に取って、魔女というものは、手助けすること、されることはあっても、一緒のことをするものではないんです。 でないと、引き返せなくなってしまいます」 |
リューイ |
アルファン< 「ええ、ギルドの方でも言っていました。『この依頼はなんだかキナ臭い』と。 ・・・とりあえず、僕はノーム森林の魔物の沈静化を任務と考えていいと、そう言ってもらってきたんですが。」 考えながら話すリューイの目が、強い光を浮かべる。 それはどちらかというと、怒りという感情の色のようだった。 「依頼内容に手を加えるなんて、許されることではありません。 もし本当にそんなことが行われているのなら、やめさせないと・・・」 胸をはり、にこりと笑うアルファンを見て瞳を軽く瞬かせた。 その後、つられたようにあるかなしかの微笑を浮かべる。 「本当に、あなたは魔女なんですね。先ほど『善良で誠実な魔女』だと仰ったでしょう? ノーイ・・・僕の妹のノーイは、良い魔女のことを『聖なる魔女』と言っていましたよ。 あなたがきっとそうなんですね。」 そう言って、一呼吸分の間をおいて彼女に尋ねた。 「もし、あなたが迷惑でなければ・・・あなたがあなたの娘達を訪ねるのに、僕も同行させてもらえないでしょうか? 僕が選んだものの先に、どういう答えがあるのか・・・僕なりに見届けたいと思うんです。 迷惑でなければ、なんですけれど。」 |
アルファン“黒衣の魔女” |
リューイ< 眉を寄せて、考え込む。 それから、 「おかしなことですね」 手遊びに自分の髪を一房つまみながら、言う。 「私に住民に対する悪意がないことは、あの子――、女王はご存じのはず。 立場上、表向きには魔女を肯定することはできませんが、けれど、陛下があえて私を討伐せよという指示をするはずがありません。 住民の意思がそうであったのならともかく、もともとの依頼にわざわざ手を加えるでしょうか……」 途中まで言ってから、頭を振る。 「いいえ、おそらく、この改変に、女王の意志は介在していないのでしょうね。とすると、住民からの嘆願が国にあがり、そしてギルドに依頼が降りてくるまでのどこかに他者がいて、それをさせたのでしょう。 少し、調べなければならないかもしれません」 豪快ですね、と言われて、少し照れたような表情をする。 「私は、片づけが得意ではないのです。 この部屋もご覧の通りの有様ですから。 ですから、いっそのこと、と。 それに、しまったままにして置いた方が良いものもないわけではありませんから」 それから、問いかけに対して頷く。 「ええ、私には、ラニがノーイのことが分かったように、他の娘たちの居場所が、何となく感じ取れるのです」 にこりとすると、得意げに胸を張った。 「そうでなかったとしても、私は魔女なのですよ。こんなに小さくても、あなたよりも長生きしている魔女です。 色々と手段はありますし、それに、人捜しの腕は、魔術師仲間の中でも良い方なのですよ」 |
ラニ |
目を閉じて撫でられているが、途中でぱちりと目を開けて、その指を追いかけ、舌でなめる。 それから、じゃれるように、牙で甘噛みを始めた。 |
リューイ |
アルファン< 「依頼内容はあくまで『ノーム森林の魔物たちの沈静化』だったようです。 ただ、国からおりてくる時に、それが『黒衣の魔女の討伐』になっていたというのが、少し腑に落ちなかったんですが・・・ 結局、あなたをどうにかして『魔力の生成を止めろ』という意味だったんでしょうか?」 ギルドでの会話を思い出しながら小さく首を傾げる。後半部分は尋ねるというよりも、自分自身に問いかけるようだった。 館ごとつぶしてしまう、という言葉に僅かに呆けたように目を開く。 「・・・豪快ですね。」 驚いたような呟きがもれた。 その後で、僅かに首を傾げるようにしてアルファンを見る。 「会いに行くといっても・・・どこに彼女達がいるのか、知っていらっしゃるんですか? ノーイのように、他の方たちのこともなんとなくわかると・・・?」 ラニ< しげしげとラニを見つめ、軽く目を細めた。 「どこからやってきたのかと思っていたんだけど・・・それじゃあ、きみはノーイに会いにあの場所へきたんだ。 いい子だね、ラニ。ちゃんとノーイの居場所がわかっていたんだ。」 指先で軽く、小さな額を撫でてやる。 |
アルファン“黒衣の魔女” |
ラニ< ラニが、アルファンの方に鼻を伸ばして、ふんふんと匂いを嗅ごうとする。 彼には、ノーイとアルファンの違いがちゃんと分かるのか、不思議そうな顔をしている。 アルファンは、くすりとして、その鼻先に指を伸ばした。 「使い魔。主と強い絆で結ばれたパートナーですね。この子はきっと、ノーイが“生まれた”のと同時に生まれたのでしょう 私は猫が好きなのですが、あの子は犬が好きなのですね」 リューイ< リューイの様子を見て、再び、微笑みを宿らせる。 「別にからかってなんかいませんのに。 これまであんな素敵なことを言ってくれた殿方はおりませんでしたから、素直に喜びを表現しただけです。 私は魔女ですけれど、それでも、善良で誠実な魔女なのですよ」 いうと、うふふと、悪戯ぽく笑った。 ミノッツのギルドの話を聞いて、眉を寄せると、困った表情を浮かべる。 「そう、ですね……。 そうでしたか。ノーイからおぼろげに伝わってきた記憶からはあまり分からなかったのですが、ギルドからの依頼でこちらまでいらっしゃったのですね。 とすると、住民からの依頼なのですね」 憂い顔になる。 「受け皿に収まりきれなかった私の娘たちと一緒に、膨大な魔力の渦が、散らばっていってしまったのです。 ただでさえ、魔物というのは、周辺の魔力の影響を、人族よりも敏感に受けてしまうものですが、それだけが原因ではないでしょう。 以前から、周辺の魔物を沈静化するための陣を敷いていたのが裏目に出てしまったのでしょうね。私の魔力の暴走と共に、魔法陣にも不具合が発生したのは疑いがありません。おそらく、魔法が逆に働いてしまったのではないかと思います。 もう、魔力の生成は止まりましたし、陣も、魔物たちも、以前の状態に戻ったはずですが……」 頭を振った。 「零れた水を、再び汲むことはできませんね。 周辺の方々には申し訳ないことをしてしまいました。恐ろしい思いをさせてしまいましたね。 ……長年住んでいて、それなりに気に入っていたところでしたが、いい機会かも知れません。娘たちにも会いに行かなければなりませんし、この館も潰してしまった方が、きっと、皆、安心するでしょうね」 それから、リューイと自分、ラニと、ジレ以外には、ただ様々な本や紙切れ、用途の不明な器具などばかりだけが転がった部屋を見回して、気を取り直すように笑った。 「先ほど私が言った『後かたづけ』には、単純に、この汚いままのお部屋のことも含みますし。いっそのこと、館ごと綺麗になくしてしまった方がすっきりとして良いかも知れません。 私は、以前から、使わない物をしまっておく倉庫が一杯になってしまったら、もう中の物については忘れることにして、丸ごと消してしまったりしていたのですよ」 |
リューイ |
アルファン< 「こっ・・・・・・!?」 不意をつかれたように、大きく目を見開いた。 硬直したようにアルファンの方を見るが、冗談だというかのような微笑を見てようやく息を吐く。 「――からかわないでください・・・」 赤くなった顔を隠すように伏せる。耳が熱い、とどこかで思う。 そのまま下を向いたまま彼女の言葉を聞いているが、「色々な影響」という言葉に顔を上げる。 「・・・後かたづけ・・・色々な、影響?」 それはどんなものですか、と尋ねようとして大切なことに気付く。 「最近、このノーム森林周辺で魔物が凶暴化して周囲の住民を脅かしているそうです。 ミノッツのギルドでは、『黒衣の魔女がこの件にかかわっている』と・・・もしかして、さっきの魔法が原因ですか?」 ラニ< 見つめてくる大きな目に小さく笑みを浮かべた。 「なんでもない。・・・ほらラニ、アルファンさんだよ。 ノーイの家族――母上のような、姉上のような人だ。わかるね?」 ぽん、と軽く背中を叩くとラニの顔をアルファンの方へ向けた。 |
ラニ |
目を細めて、リューイの体に鼻先をこすりつける。 問われると、ぱちりと目を開けて、「なに?」と聞き返すように、まっすぐにリューイを見つめた。 |
アルファン“黒衣の魔女” |
リューイ< 口元に指をあてて、それからおかしがるような表情を浮かべた。 「まるで恋人同士の睦言のよう。とても素敵ですね」 間をおいてからにこりとして、冗談であることを示す。 「……ああ、いけませんね。 ノーイの影響かも知れません。あなたとお話をしていると、周りの状況も忘れてしまいます。 色々と、後かたづけも必要ですのにね」 周囲を見渡して、表情を陰らせる。 「本当に、色々な影響を残してしまいました。 私の魔法は欠陥だらけだったようですね」 |
リューイ |
アルファン< 「アルファン・・・きれいな名前だ。」 呟いて、今度は自然に微笑むことができた。 「何だか、不思議な感じがする・・・します。あなたとは初めて会うのに、あなたは僕のことを知っていて・・・。 でも確かに、『はじめまして』というのも変な感じがしますね。」 「大丈夫だ」といわれたことで、目に見えてリューイの顔に安堵が広がる。 安心したように瞳を伏せるが、その後に続けられた言葉と笑みに驚いたように顔を上げた。 言われた意味を理解すると、見る間に顔が赤くなる。 「・・・ありがとう。」 そんな風に言ってくれて、と照れたように笑う。 「僕も、ノーイに感謝しています。少しの間だけれど一緒にいられて、楽しかったし・・・嬉しかった。 そう、だからきっと、あなたにも会うことができたんですね。 会いたいと思っていた『黒衣の魔女』が、あなたのような人で良かった。」 ラニ< 身を寄せてきたラニに、目元を和ませて抱き上げてやる。 「・・・きみは、知っていたのかな。アルファン・・・さんと、ノーイの関係を。」 小さな頭を撫で、ささやくように呟いた。 |
GM |
ジレとラニが寄り添って、二匹だけで何かの言葉を交わしていたようだった。 そこから、ラニだけがやってきて、リューイに身を寄せる。 |
アルファン“黒衣の魔女” |
リューイ< 「今は……」 ゆっくりと首を振る。 「今は、アルファンと呼んでください。 まだ、ですから。まだ……」 目を閉じる。 「ノーイは、私に一番、近い娘です。 私が目を覚ました今、あの子は、私と通じています」 目を開けて、リューイを見た。 「あの子の考えていること、感じていること。穏やかに、ぼんやりと、けれど確かに私に通じてきています。 ですから、剣士様。リューイ。魔女たる私も、あなたのことを知っているんですよ。 優しさと悲しさを持った人、大丈夫ですよ。私も、ノーイも」 それから、笑い返すように、微笑んだ。 「ありがとうといわれることに、資格なんてありませんよ。 とても簡単なことなんです。私もあの子も、あなたが好きですよ。そして、あなたに感謝しています」 |
リューイ |
黒衣の魔女< 「・・・ノーイ。」 かすれた声で名前を呼んだ。 自分の贈ったその名前でしか、呼びかける名前を知らなかった。 自分の知っている顔とは違うが、けれども、どこか似ているその顔を見つめる。 「ノーイ、なの?気分は・・・体の具合はどう?」 大丈夫だとは言ったものの、どうしようもない寂寥感が胸にある。 それでも、なんとか笑いかけることができた。 掠れきった感謝の言葉に、ゆるく首を振る。 「何も・・・ほとんど何もできていないよ。これが正しいのかどうか、本当に僕にはわからないんだ。 きみにとって、良い選択ができたのかどうかも・・・」 だから「ありがとう」なんて言ってもらう資格はないと、困ったように小さく笑う。 |
黒衣の魔女 |
見ると、一人だけ横たわっていた魔女が、ぴくりと動く。 すぅっと息を吸って、頼りない動作で、ゆっくりと身体を起こす。 中にある何かを掴もうとするように、手を胸に当てる。 そして、ゆっくりと顔を上げて、リューイを見た。 リューイ< 「ありがとう。 私を見つめてくれて」 掠れきったままの声での、感謝だった。 その顔は、確かにノーイに似ていた。 ノーイそのものではないが、酷似しているというほどではないが、顔の作りや目の色などより、もっと根本的な部分で同じなのだ。 |
ジレ(?) |
何も言わず、目を閉じ、ゆっくりと下に降りる。 |
リューイ |
ジレ(?)< 彼女の話を、ほとんど微動だにせず聞いている。 ひとりの人の中にたくさんの魂が住んでいた。 ひとつの家のように、家族のように。 「・・・本当に、正直に言って僕には想像もできません。自分と同じ姿で、だけど違う人を現実に見たばかりでも。 だけど、だかろこそ・・・あなたは『黒衣の魔女』と呼ばれた、大いなる魔法使いだったのかなと・・・そう思いました。」 話しながら自分の考えをまとめるように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 琥珀色の目が迷いを浮かべながら、それでも逸らすことなくジレの瞳を見つめる。 「――僕にも、何が正しいのかはわかりません。 ただ、もし、僕の予想が正しかったなら・・・僕の知っている人のことにも関わる選択です。 何があなたにとって・・・彼女にとって・・・一番いいのかわからない。だけど・・・」 僅かに頭を下げる。次の言葉を言ってもいいのか、悩んでいる風だった。 逡巡の後、顔を上げた。視線をジレにもう一度合わせる。 「あなたがひとりになることは、ないです。 それは普通、人は一人で在る存在なのかもしれないけれど・・・だけど僕達だって、自分では気がつかない自分を心の中に持っているのかもしれない。 たくさんの色を持っていて、それがあなただというなら、僕はそれでいいと思います。」 言って、僅かに顔をほころばせた。ほんの少し寂しそうな、けれど穏やかな微笑だった。 「あなたの娘を・・・その人たちを知っている人は、その人がいなくなったら少し寂しいけれど。 だけど、いなくなるわけではないんでしょう?消えてしまうわけじゃない。それなら、すくなくとも僕は・・・大丈夫です。 たくさんの色を持っているあなたに会わせてください。 僕はあなたに、会いにきました。」 |
ジレ(?) |
リューイ< 「もはや、最良の選択がその二つしかないのです。 すべてと同化するか、すべてを捨て去るか。 今のように、私の中に娘たちの欠片だけが残っている。その状態は、存在として非常に危ういことですから。欠片だけをたくさん抱えた私も、欠片を置いてきてしまった娘たちも」 そう答えてから、ふっと、柔らかい息をつく。 何か懐かしいものを思い出した、そんな調子だった。 「あなたは、あの物語をご存じなのですね。 一つの心に、二つの心。 そうですね。少し違います。辛かったのは。 私は、自分が『不完全な人間』だと思っていたのです。それが辛かったのです。 私の中には二人の人間がいる。でも、それはそれぞれが独立した人間ではない。根のところでは互いに支え合わなければ存在していられない。そう、あの物語と同じだと、勝手に思っていたのです。 そして、それを分化してもう一人の人間とすることで、安易に、自分と同質の、同格の友人ができるのだと、勝手に決め込んでいました。二人して。 ですが、違いました。 私の中には無数の人間がいました。 いくつもの魂が住んでいました。 私が意識することもなく、それは私の中に育っていて、知らない間に私自身となっていました。もう一人の私も、ただ他のものと比べて大きく成長していただけで、それらと違うところはありませんでした。 私は、例えるなら家だったのです。あるいは親でした。 私の中には私の子供たちが住んでいました。たくさん。 私にはそれが分からなかった。 住んでいるのが“娘”であることも、それがあんなにたくさんいたことも分かりませんでした。 親は子と異質であり、同質でもあります。 親がいるから子があり、子があるから親がある。彼女たちを捨て去ってしまえば、私も私ではなくなる。それなのに、私はそれを、無理矢理、引き剥がして放逐したのです。 “私の中にある、黒衣の魔女とは異質の魂を、別個の人間として抜き出す”。そんな乱暴な魔法で。 娘たちは、“娘”から、独立した“人間”になりました 親であった私はなくなりました」 だから、もしリューイが止めることもなく、黒衣の魔女の魔法がそのまま続いていたのなら、いつかは黒衣の魔女そのものが消え去っていただろう。 娘たちの残滓をすべて捨て去れば、黒衣の魔女自身が、黒衣の魔女ではなくなる。彼女自身の魂すらも、どこかへか消え去って、ただの抜け殻が残っていたのだろう。 彼女は、言葉を続けた。 次の質問に首を傾げる。 「私の記憶を持っているものもいると答えましょう。 たとえば、そこで眠っているもう一人の私は、私とほとんど同じ生活をしていましたし、記憶もかなり重なって持っています。 ですが、それがたとえば卵の殻の中にいる雛鳥のように、ずっと私の中で眠っていたままの娘だったなら、なんの記憶を持っていなくても無理はありませんし、実際に持っていません。 生まれたばかりの馬が、既に歩き方を知っているように、人間としての基本的な知識は持っていますが」 そして、最後の質問に、頭を振る。 「いいえ、消えることはないでしょう。すべては私の中に還ります。いえ、正確には、私を含めた、すべての娘たちが、重なって、別の人間になるのです。 既に多くの娘たちが、知らない間に“人間”を獲得して、それぞれの記憶を得ています。 それらすべての記憶と人格、私の記憶と人格がすべて統合されて」 |
リューイ |
ジレ(?)< 「・・・ジレが言っていました。あなたは「ひとりじゃない自分」になろうとしていたと。 僕はそれは、昔話のように一つの体に二つ以上の心があることが辛いからだと思っていました。 もう、そのことはいいのですか?」 ジレの、そしてその奥にあるのだろう彼女の表情を探すように透明な眼差しをまっすぐに見る。 困惑と、緊張と。 リューイの顔にも、僅かにそんな色が浮かんでいた。 「もうひとつだけ、教えてください。 ちらばっていったあなたの色は、あなたから離れたら記憶も失ってしまうんですか? あなたが色を集めたら、その色が持っていた記憶は消えてしまうんですか?」 無意識に握り締めた拳が、小さく音を立てた。 |
ジレ(?) |
リューイ< 最初の問いには答えず、 「あなたが前者を選択したなら、私はこのままここに住み続けるだけでしょう。不完全なまま残っている色の欠片のすべてを解き放って、ただまっさらな私になることでしょう。 個々の色は、仮初めではなくなります。青は青に、赤は赤に。それぞれの色を得て、それぞれの輝きを見つけることでしょう。 あなたが後者を選択したなら、私はこの屋敷を出るでしょう。そこで横たわっている私の隣にいる、より濃い色の“私”を再び取り込んで、大陸に散らばっていったすべての色を取り戻しに。そうして、私は再び“黒衣の魔女”となるでしょう。その二つ名は、名と実を兼ねそろえるのでしょうね。 …………」 しばらく沈黙する。 「私にはどれが良いとは分かりません。 私には、もはや何が良いのか、何が悪いのかは分かりません」 |
リューイ |
ジレ(?)< 「・・・あなたの色を、保護・・・?」 何のことだろうと、戸惑ったように瞬きをする。 「どういうことでしょう?僕はあなたとは、初めてお会いすると思うのですが・・・」 言いながら、ノーイのことが頭に浮かんだ。 記憶をなくしていた彼女。魔術師かもしれないと、そんな風に言われていたこと。 「――あなたは、どうなさりたいんです? 僕がそれを選択したら、あなたの色――いえ、あなたのこぼれていった心はどうなるんです?」 問いかけた声は、僅かに緊張に震えていた。 |
ジレ(?) |
リューイ< 「私は白になるべきでしょうか。黒になるべきでしょうか」 短く問うた。 「私は多くの色を持っていました。自分でも気がつかぬ色を。 しかしそれは失われました。 元は私だったものは、個々の色となって散っていきました。私の持っていた多くの魔力と共に。 今の私は色を持ちません。無色です。無色ですが、白になることはできるでしょう。何にも混ざらず、何にでも染まる、他のいかなる色でもない白に。 そしてまた、黒になることもできます。失った色のすべてを取り戻し、あらゆる色の混ざり合った、それ以上、何にも染まることのない黒に。 さて、私はどうするべきなのでしょう。 それをあなたに、選んで頂きたいのです。 この質問をあなたにするのは、あなただからです。 私を目覚めさせてくれたのが、あなただからです。 私の色を保護してくれたのが、あなただからです」 再度、問う。 「私は白になるべきでしょうか。黒になるべきでしょうか」 |
GM |
突然あがったうめき声に、伸ばしていた手がびくりと止まった。 「・・・あの・・・?」 ご気分でも悪いんですか、と、何か不機嫌そうな声に言葉をかけようとする。 しかし、ジレの呟いていたものに似ている言葉を唱え、くたりと力をなくした女性に慌てたようにその顔を覗き込む。 ジレが言葉を発したのは次の瞬間だった。 ジレ(?)< 目の前に浮かんでいるジレに、驚いたようにまじまじと見つめた。 今までの声と、口調とは明らかに違う。 (この人が、ジレの主人・・・?) どこか威厳のようなものを感じる言葉に、自然と姿勢を伸ばす。 片膝をついた姿勢で、まっすぐにジレの瞳を見返した。 「・・・『選択』とは、何でしょうか?」 真剣な表情で透明な眼差しを見つめ、問いかけた。 |
ジレ(?) |
リューイ< 「私を運んでくださるには及びません。お若い方」 ジレは、ふわりと空気を歩いて、リューイの目の前まで浮かんでくる。 「私はあなたにお礼をしなければなりません。 ですが、その前に、一つだけ、あなたに選択をしてもらわなくてはならないのです。 それをお願いするために、今は使い魔の身体を借りています」 |
GM |
途端、うめき声がする。 リューイが手を伸ばした女性があげたものだった。 非常に不機嫌そうなうなり声のあと、掠れきった 「その・は・り・せん」 という声だった。 たぶん、何かもっと意味のある言葉をしゃべったのだろうが。リューイの耳に聞こえたのは、とぎれとぎれで、意味の分からない音だった。 女性は、すうっと息を吸って、声にならない声で何事かを呟いた。何となく、先ほどジレが呟いていたものと雰囲気が似ている言葉だった。 呟きを終えると、女性の身体から力が抜ける。 と、 「その必要はありません」 今度は、女性の言葉が明瞭に聞こえた。 だが、しゃべっているのは、目の前の女性ではない。 女性の脇にいる、ジレだった。 聞いたこともない女性の声でしゃべっている。 |
リューイ |
ジレ< 「そんなこと言っても・・・僕は君のご主人様とは初対面なわけだし。 起こすといったって・・・」 外された視線に焦ったように言葉を返す。 困惑気味に視線をさまよわせ、表情を変える様子は年相応の少年のものだった。 「ちょっとやそっとじゃ起きないし・・・」と続けられたジレの言葉に、首をかしげて耳をかたむける。 眠っている二人を見、ふるふると首を振るジレを見て。 そんなに寝起きが悪いんだろうかと、首をひねった。 「・・・『起こす』といえば、この屋敷に入るときに不思議なことを言われたよ。 『どちらを起こすか決めなくちゃいけない』とかなんとか・・・あの小人はジレの友だち?」 問いかけながら、眠るふたりの女性を見つめる。 「運んでくれるなら、それが一番」というジレの言葉に、とりあえずベットへ運んでもいいらしいと判断する。 「部屋を教えてくれる?」とジレに頼むと、僅かに緊張した面持ちで、眠る女性を抱き上げようと手を伸ばした。 |
ジレ |
リューイ< 「…………」 見返してきたリューイを、さらに見つめ返す。 猫特有の、まっすぐで半透明な視線だ。 やがて、つっと目を外し、 「ジレは知らないさ。人間じゃないもの」 と素っ気なく答える。 それから、なにやら小さな声で、続ける。 「ちょっとやそっとじゃ起きないし、無理に起こすと不機嫌が大変なんだから、ジレは嫌さ。でも放っておいたら後で怒るのさ」 眠っている二人を順繰りに眺めて、 「ご主人様が二人。 起こさなきゃいけないのが二人。2倍」 ふるふると首を振る。 「2倍は嫌」 「だから、リューイが運んでくれるなら、それが一番さ」 |
リューイ |
眠っているだけに見える様子に、ほっと息をついた。 琥珀色の瞳が、僅かに安堵に和む。 ジレ< 「ベットに運ぶのなら手伝おうか? 魔法は使えないけれど、女の人を運ぶくらいの力はあるよ。」 こう見えてもそれなりの力はあるよと、彼にしては軽口めいた口調で言うと微かに笑う。 けれど、続けられたジレの言葉にリューイは完全に動きを止めた。 「・・・・・・おこす?」 僕が?と問い返すと、珍しく困り果てた顔で、ジレを見た。 「・・・どうやって?」 |
ジレ |
リューイ< 「分かった」 こくんと頷く。 「ご主人様が目を覚ましたら、そういうことにするさ」 それから、うーんと首を傾げる。 「元から、大きな魔法を使った後は、こんな風に寝ていたのさ。 いつもジレはベッドに運ぼうとするんだけど、ジレはあまり上手く魔法は使えないから、難しいのさ。 この様子ならきっと、すぐに目を覚ますさ。 それとも」 また首を傾げる。 「リューイが起こしてくれる?」 |
GM |
女性二人< どうやら、眠っているようだ。 呼吸は荒くないようだし、たぶん、脈拍も正常だろう。 |
ラニ |
撫でられると、気持ちよさそうに目を細めて、抱かれながらに尻尾を動かした。 しめった鼻先で、つんとリューイの手をつつく。 |
リューイ |
ラニ< 不思議な感覚に大きく眼を見開く。 思わず仔犬と、青い渦巻きとを見やった。この感覚は目の前の現象と関係しているように思えたからだ。 それらがおさまり、ラニが落ち着きを取り戻したのを幾分困惑したように見て――けれど、結局、安堵の息をついた。 頭を優しく撫でてやり 「大丈夫?」 小さく声をかけた。 ジレ< 「ご苦労様。」 疲れたような姿に微笑を浮かべ、ラニを抱いたまま歩み寄った。 ジレの視線を追って倒れている女性を見つめ、軽く瞳を瞬かせる。 黒いローブに映える、透き通った白い髪。 (・・・「黒衣の魔女」は黒髪の女性だと聞いていたけど・・・) そんな風に思いながら、自分を見つめてくる視線に気がつき、目を移した。 ジレの言葉に首をかしげ、微かに苦笑を浮かべる。 「・・・ジレにわからないのなら、僕にはさらにわからないよ。だけど・・・そうだね。 きみはずっと待っていたんだから、『お帰りなさい』でいいんじゃないかな。」 そう言って、琥珀の目をもう一度白い髪の女性にむけた。 「ご主人様が二人」という言葉に、考えるように瞳を眇める。 そっと倒れている女性へ近づくと、傍らに膝をついた。 困ったように彼女たちを見、その後でジレに問いかけるような視線をむける。 「・・・目を、覚まさないね。体の具合とか大丈夫なんだろうか? どこか、きちんと横になれる場所に移したほうがいいのかな。」 |
ジレ |
なにやら、ひどく疲れた。とでもいうようなため息をついて、リューイの脇にあった台の上に飛び移った。 白い髪の二人< 無言で、二人を見下ろしている。 リューイ< つと、リューイの方を見て、首を傾げた。 「リューイには分かる? ジレはなんていえば良いのかさ? お帰りなさい? 初めまして? ジレには分からないのさ。 この人はご主人様なのか、そうじゃないのかがさ」 悲しみとか、憤りとか、そういったことではなく、本当に単純に、“分からない”といった様子だった。 「ご主人様が二人に増えただけなのかなぁ」 やけに子供っぽくいって、また首を傾げた。 |
GM |
ラニを抱きしめていたリューイは、その子犬の中から、何かが出ていこうとするようだったのを感じた。 しかし、それは、彼の抱擁に遮られたように力を失い、収まっていく。同時に、ジレの詠唱も小さくなり、魔力の奔流も消えていった。 ラニは、今はおとなしくリューイに抱かれている。 今や、研究室の中に鎮座していた柱は二本とも消えていた。 代わりに、柱があった場所に、二人の女性が倒れていた。 身に纏っているのは、どちらも、ゆったりとした黒いローブで、白く透き通った長い髪がよく映えている。 どちらも、気を失っているようだ。 |
リューイ |
ジレの口から紡がれる言葉に、興味深そうに耳をかたむける。 自分には聞き取れないがどんな意味の言葉なんだろうと、そんな風に思った。 詠唱とともに溢れてくる青い渦巻きを、真剣な表情で見つめた。 ラニ< 暴れだしたラニを、慌てたように抱えなおした。 「どうした?大丈夫だ、怖くないよ。 これは怖いものじゃないから・・!」 安心させるように言葉を重ねると、突っ張っている手足を、小さな体を撫でて抱きしめる。 |
GM |
ジレは、リューイが離れたのを確かめると、青い水晶のすぐ手前まで移動した。 静かに腰を下ろし、リューイには聞き取れない不思議な言葉を、訥々と呟き始める。 と、先ほどまで渦を巻いていた魔力の流れが、今度はジレを中心にして、次々と生まれてくる。 ラニの詠唱が次第に音を増し、その高まりとともに、渦も強く、大きくなっていくようだ。活性化していない魔力もその目に見ることができるという仮面のアーキスならば、そのまぶしさに顔を背けていたかも知れない。 太陽も月も、そのままの姿でしか見ることのできないリューイにも、その魔力の奔流の輝きが分かった。 リューイの腕の中で、青い渦巻きから逃れようとしているのか、ラニが四本の足を突っ張って暴れ出した。 |
リューイ |
ジレ< 「そう、か・・・」 安心した、と、呟くと疲れたようにその場に片膝をついた。 ジレの透明な眼を見、その視線を追ってラニの姿を見ると、僅かに表情をほころばせた。 手を伸ばし、小さな頭を軽く撫でる。 「――最も恐ろしい敵は自分自身だ。 己に打ち勝つことのできないものが、何者をも倒すことはできない・・・父の口癖だよ。よく言われた・・・」 ささやく様に答えて、瞳を眇める。 空いている手を倒れている青年に伸ばし、息があるのを確かめて、小さく息を吐いた。 離れて、という言葉に頷くと、 「ラニ、おいで。」 仔犬を抱き上げると、3歩、そこから下がる。 |
ジレ |
リューイ< 「もう仕掛けはないよ。 これ以上、迷惑なお客さんは出てこない。 外からやってくることはあってもね」 心なしか気を許した様子で、リューイの足下まで歩いてくる。 その後をついてくるラニが気になるらしく、振り返ると、ややうるさげに尻尾を振った。 リューイを見上げ、倒れている守護者を見つめ、もう一度、リューイを見る。 「リューイは自分に勝ったのさ。 自分を殺しもしなかった。自分に負けもしなかった。 リューイは、本当の意味でリューイであることを証明できたのさ。 後はジレのお仕事。 リューイは離れておいた方がいいよ」 |
GM |
守護者の剣< リューイは、守護者が手にしていた剣を、注意深く蹴り飛ばした。 かん、と金属質の音を立てて、剣が部屋の反対の方に滑っていく。 柱< 柱は、元の青い輝きを保っている。 リューイが細工に近づいたことによる魔力の渦巻きはすっかりと治まっている。 この距離でよく見ると、中には、確かに人がいるのが分かる。 長い髪をした……女性だろうか? 二本の柱の中に、それぞれ、同じような姿形をしている女性が、立ったまま閉じこめられているようだ。 |
リューイ |
相手の身体がゆっくりと倒れていくのを、リューイは構えを解かずじっと見ていた。 「彼」が立ち上がらないのを確認した後、 「・・・っ痛・・・」 やっとつめていた息を大きく吐き出す。 思い出したかのように痛み出した場所を手で押さえ、それが相手と同じ仕草だという事に気付き、少し笑う。 そして、用心深く相手に近づいた。 とりあえず、武器は遠ざけておいたほうがいいと判断したためだ。 「彼」が気を失っている姿が、まるで自分が倒れているようだと・・・そんなふうに思う。 ジレ< 「・・・何か、不思議な感じがするけれど・・・勝ったのかな? 仕掛けというのは、まだ残っているのか?」 問いかけながら、あらためて青い柱へと視線をやる。 まるで空の青を切り取ったようなそれを覗き込んだ。 |
戦闘 |
技能判定/分類:フェイント リューイ:見切り! 敏捷判定/分類:かいくぐり リューイ:成功! 一瞬の間で、いくつもの思惑が交錯した。 先手を取ったのは、守護者だった。 窮鼠猫を噛むの故事のごとく、壁を背にし、もう一歩も下がることも出来ないという所から、逆に一歩、間合いを詰め、見せ剣としての横切りを放ち……本命である、気勢の乗った突きを繰り出そうとした。 そこで、返される。 リューイが、またそこからさらに間合いを縮め、接近距離からの痛烈な打撃を見舞ったのだ。 攻撃に集中していた守護者は、避けられない。 「稲妻」 命中判定/分類:武術・グローリアソード リューイ:クリティカルヒット! 「疾風」を、「稲妻」が切り裂き、飲み込んでいく。 > 38ダメージ! > 「気絶」! 「かはっ」 至近距離からの打撃で怯んだ所に、フェイントを仕掛け、完全に相手が防御手段を使い切ったそこへ、狙い澄ました一撃を叩き込む。 守護者は、それをまともに食らった。 剣を取り落とし、ゆっくりと倒れていく。 【 戦闘終了 】 リューイ HP52/64 MP28/60 vs |
戦闘 |
攻撃は最大の防御というのは道理で、受けた攻撃は防御しなければならないし、防御している間には攻撃は出来ない。一旦、防戦に入ってしまえば、そこから攻撃に転じることは困難だ。 その点で、リューイはガーディアンに対して、優位性を保っている。 だが、一撃に優る相手は、機会さえあればそれを突き崩すことが出来る。張りつめた緊張感が、この小さな戦場に漂っていた。 一度、二度。 リューイの一撃目は空を切るが、続けて、身を引きながら放った、掠めるような二回目の攻撃が、ガーディアンの追撃を払う。ただ、打ち払いの攻撃が命中する直前に、守護者も深追いをせずに引いた為、 回避判定/分類:受け・グローリアソード 守護者:成功! 互いの武器が火花を散らすに留まった。 ここにいたっては、守護者も自らと相手の特徴の差をはっきりと把握したようだ。 素早さでの競り合いは拒否し、オリジナルであるリューイの天性で、かつ守護者も持っている優れた動体視力で様子を見ながら、隙を見て力を込めた一撃をたたき込む。 そのような意図が感じられた。 速度を身上とするリューイは、続けて攻める。 守護者は防御に徹している。 細かくステップを踏んで、攻撃の残心を解く動作を、そのまま次の攻撃に直結させる。 命中判定/分類:グローリアソード リューイ:失敗! リューイと同じ装備で軽装なこの相手も、やはり防御は得意だ。なるべく最小限の動きで避け、回避によどみが出来ないように気を配っている。 敏捷性ではリューイに劣るとはいえ、防御のみに専念するというなら、早々、当たることはないだろう。 だが、代わりに、攻撃に出られる機会があっても、それを掴めることもなく、失ってしまっている。 互いにカウンターを狙っており、そして互いに、相手のその手札を封じる形になっていた。 膠着状態に思われた。 が、この研究室は、いつまでも動き回っていられるほど広くはなかった。後ろに引いて身を躱し続けていた守護者だったが、次第に、回避に使えるほどのスペースがないところまで、追い込まれていってしまっている。 状態は、止まっていたのではなく、守護者にとってのじり貧となっていたのだった。 「……く!」 それを悟った守護者は、反撃に転じることを決意したようだ。 【 3ターン終了 】 リューイ HP52/64 MP44/60 vs リューイ(ガーディアン) |
戦闘 |
素早さでは、やはりリューイが勝っている。 その差はほんの僅かなのだろうが、戦闘の圧縮された時間の中では、極めて絶対的な壁となる。 守護者もカウンターを狙っていることを留意してか、リューイは安定した体勢で、速やかな攻撃を仕掛ける。 今度は、躱される。 慎重にことを運ぼうとした為、本来の敏捷性が少し殺されていたからだろう。その代わり、再びカウンターをかけてきた守護者の攻撃も空を切る。 守護者は、返す刀で攻撃を仕掛けてくる。 回避判定/分類:片手剣・横切り リューイ:防御! そちらは、リューイがかざした剣が受け止める。 その力は強く、力に関しては守護者の方が上なのではないかと思われた。 守護者は、すぐさま剣を引き、再度の攻撃を仕掛けようとするが、それよりもリューイが反撃体勢に入る方が早い。 引き戻される剣の動きを遡って追いかけるように、リューイの突きが伸びる。やり方としてはカウンターに近い。 命中判定/分類:グローリアソード・突き リューイ:腕に命中! > 非武装部位 9ダメージ! 守護者は空いた腕を使って、それを受ける。 そして、身を引くかと思われたが、引き戻したばかりの剣を振るい、リューイに叩き付けようとする。 回避判定/分類:片手剣・横切り リューイ:失敗! < 10ダメージ! それは、リューイに命中し、打撃を与える。 この戦いがどう転んでも先がないと、幾分、自暴自棄になっているかのような、守護者の攻撃だった。 【 2ターン終了 】 リューイ HP52/64 MP44/60 vs リューイ(ガーディアン) |
戦闘 |
ざっ。 床を滑る乾いた音が走る。 先に仕掛けたのはリューイだった。くるりと身を転じながら、素早い踏み込みで、一気に相手との間合いを詰める。 守護者のリューイの方は、その先制攻撃を予想できなかったのか、あるいは反応しきれなかったのか、接近を許してしまう。 「稲妻」 命中判定/分類:武術・グローリアソード リューイ:命中! > 7ダメージ! ほとんど密着する距離で、刃ではなく剣の柄の部分でなされた強打を、守護者はまともに食らう。 しかし、その後の連続技は、明らかに見切られている動き方で躱された。 確かに、リューイの能力を全て知っているというのは、間違いではないようだ。 そして、この守護者の能力が、完全にリューイと等しいわけでもないということもまた、間違いではないだろう。 連続技が完全には決まらなくても、うろたえることなく、リューイは後退して素早く体勢を持ち直した。 対して、守護者の方は、受けたダメージを確かめるように、その部分に手を当てている。 そしてまた、構えを戻した。 次もまた、リューイが仕掛ける。力業よりも早業を考えた戦闘スタイルで、一撃の鋭さは従士の域を高く超えている。 > 15ダメージ! これも、守護者は避けられない。カウンターを狙っていた守護者だったが、思いの外、この一撃に込められていた気勢が鋭く、逆撃を仕掛ける機会がなかったのだった。 「“僕”より、早い……」 守護者は間合いを外して、(リューイはしなさそうなことだったが)呟いた。 【 1ターン終了 】 リューイ HP62/64 MP44/60 vs リューイ(ガーディアン) |
リューイ(?) |
リューイ< 「そうだね」 肯定する。後、二度、続けて頷いた。 それから、……頭を振った。 「今、気づかれたいと思った。 だから、やっぱり君の言うとおりで、僕は君じゃないのかもね。 でも、そんなことはあり得ないから。 “僕”がノーイに会うだなんてことは、絶対にあり得ないからね」 迎え撃つように、一歩、踏み出す。 「僕にもやらなきゃいけないことがある。 それが、“僕”の生まれた理由だから。 ……魔術で再現できることには限りがあるし、今は、僕の身体を形作っている力は、どんどん弱まってる。 だから、簡単に負けてしまうかも知れないけれど、それでも、君の方が有利だとは思わない方がいいよ」 【 戦闘開始 】 リューイ HP62/64 MP60/60 vs リューイ(ガーディアン) |
GM |
この特殊な場所に踏み込んできたものを排除するのが、彼が魔術師に与えられた役目である。 だが、黒衣の魔女は、人間のような高度な自我を持った生物が、“恐ろしい魔女”たる自分が住む、この屋敷の、さらにその再奥に踏み込んでくるとは考えておらず、この「複写物」を創造する魔術も、そのような働きをするための機能を、完全には備えていなかった。 そのため、この「リューイ」の自意識は複雑に歪み、「リューイ・イシル・ウィンダリア」とはならなかった。 魔術的に構築された存在にとって、自我とは、その全てを左右する重要な部分であり、そこに歪みを抱えている“彼”は、己自身が気がついていなかったが、きわめて不安定な状態にあった。 |
リューイ |
リューイ(?)< 相手の顔をじっと見つめ、その言葉に耳をかたむける。 「君が・・・僕の影? それなら、この仕掛けというのは・・・近づいてきたものの姿を映して、対峙させるというものなのか?」 力も、技も。同じものを持っているというのなら、防犯――と言えるのかはわからないが――としては、有効なのかもしれない。 霞むような笑みを、僅かに目を眇めるようにして見つめる。 「・・・おとぎ話のようだね。『一つの身体に、一つの心』・・・」 僕には身体があるし、君にもあるように見えるけど、と付け足して、リューイは口を閉じた。 それなら、目の前の相手はやっぱり自分なんだろうか。 自分の中の、自分では気付いていない部分が、「彼」の姿をとっているのだろうか。 相手が黙る。 そして、変わらない表情のまま、つげられた言葉に・・・リューイは目を見張った。 「ノーイを知っているのか?」 声も驚いたように響く。その後で、いくらか不思議そうな顔で相手を見る。 「・・・君は、彼女に気付いてほしい? それとも気付かれたくない?」 問いかけた後で、わずかに笑う。 「どちらにしても、倒されるわけにはいかない。僕にもやらなきゃいけないことがあるから。」 そう言って一歩、相手に近づく。 |
リューイ(?) |
リューイ< 「そうだね」 笑う。霞むような表情だ。 「僕が君が知らないことを知ってる。 その時点で、僕はやっぱり、君であるとはいえない。 僕は君の影か、それとも絵姿みたいなものだから、それで良いんだと思う。 そう、だからといって、僕が僕を獲得したいと思って、そうしようとすることが、否定されるわけじゃないから」 黙る。 そして、ややあって、目の前の少年の瞳にあるような、強い光は持たないまま、ただ、口だけを動かした。 「もし僕が君を倒して、そして消え去ることもなかったら、ノーイは気がつくのかな? 僕が君でないことに?」 |
リューイ |
リューイ(?)< 確かに、姿は同じだとリューイは思う。 剣を抜く様、足の運び、構えの型。 全てが、自分と同じもので。 けれど。 「僕が君じゃないのなら、君も僕とは違うものだろう?」 相手と同じ動きで、剣を抜く。 困惑したようなラニの声に、大丈夫だと小さく答える。 目の前に立つ少年と同じ色の瞳に、相手にはない強い光を浮かべて。 「僕は、ジレの主に用がある。 君が邪魔をするというなら・・・相手になろう。」 突きつけられた剣を見つめ、そう告げた。 |
リューイ(?) |
儚さを瞳に揺らめかせながら。 そのリューイと同じ姿をしたものは、無言で剣を引き抜いた。 リューイが教わったものと同じ姿勢で、同じ構えをしている。 リューイ< 「僕は君だ。 だけど、君は僕じゃない」 静かに言って、構えを変える。 彼に、剣を突きつける。 「君が消えれば、僕も消える。 僕も、君もなくなる。 だから、僕は僕自身になれる」 |
GM |
ラニが、匂いを嗅ぎつけたのだろうか? 一瞬、尻尾を振って見せ、……それから、おかしさに気がついたように、困惑気味に鼻を鳴らす。 これまで同行してきたリューイのほうを見上げ、心細そうに一声、小さく吠えた。 |
リューイ |
「・・・な、に?」 青い燐光を纏った、自分と同じ姿をしたものに、リューイの目が大きく見開かれる。 見慣れた髪と瞳の色。 まるで鏡の前に立ったような錯覚を、大きく頭を振ることで振り払う。 ジレとラニを、小さな二つのその姿を相手から隠すように立ち、、リューイは自分と同じ色の瞳を見据えた。 「−君は、誰だ。そこで何をしている?」 間の抜けた質問だと、自分でも思う。 それはそのまま、自分に向けられるべき言葉でもあったから。 |
GM |
ふわり。 と。 定められていた魔術が動作を始めるのを、理屈ではなく、感覚で、リューイは悟った。 音もなく巻いていた渦が、その働くべき場所を見つけて、激しく隆起し、形を作っていく。 かの道化師とは違い、魔力を見るための目を持っていないリューイにもはっきりと分かる、その青色の光。 轟々と、奔流となった魔力の流れは、魔術という織り機によって纏め上げられ、そして定められたとおりに、それを生み出した。 「ほら、来ちゃったよ。迷惑なお客さんさ。 ジレならジレ、ラニならラニが沸いてくる。 今は、リューイが近づいたから……」 琥珀色の瞳、栗色の髪。 小柄で、どこか儚げなその姿に、不釣り合いな無表情が張り付いている。 蛍のような青い燐光を纏わせて、そこに佇んでいるのは、確かに、リューイの姿をしていた。 |
ジレ |
リューイ< 「ご主人様が戻るかどうか、ジレは知らない。 ご主人様が喜ぶかどうか、ジレは知らない。 でも、ジレは喜ぶさ。たぶんね。 ご主人様がこぼれていくことはないからね」 |
リューイ |
ジレ< 宙を歩いてきて、自分をじっと見つめる猫を見返す。 不思議な眼差しをまっすぐに見ていると、今までの様子とは違う感情がそこにあるような気がした。 「・・・やっぱり、あの昔話に重なるね。 君のご主人は『一つの身体にたくさんの心』を持っていたということなんだろうか。」 ここまでに通ってきた部屋の、いくつかの本やメモを思い出す。 「何が自然な状態で、何が元に戻ると言えるのか・・・その人も、きっと悩んだんだろうね。」 青い柱に顔を向け、そう呟く。 その後、ジレの方を向き直り、リューイは微かに笑みを浮かべた。 「・・・迷惑なお客がいなくなって、その細工が解けたら。ご主人様は元に戻るのかな? そうしたら、僕もその人と話がしてみたい。」 あと3歩、という言葉に頷き、柱を見据える。 空気の渦巻く感覚に、リューイの表情が変わる。 鋭さを増した視線をその中心に向けながら、剣に手をかけた。 「ラニ・・・ジレ。ふたりとも気をつけて。」 声をかけ、青い巨石の狭間を水落見つけるように見据え。 彼は3歩目を踏み出した。 |
GM |
リューイの意図を汲んだか、彼の足下に戻ってきて、大人しく周囲を見渡していたラニが耳を立て、神経を張り詰めさせる。 鎮座している二つの青い巨石、その狭間。 濃霧の中を、一陣のつむじ風が吹き抜けていったように、何もないはずの空間がかき混ぜられている。 ねじれ、移ろい、そこに澱んでいたものが、なお澱み、より濃い気配を持って行く。 リューイが一歩、そしてまた一歩、踏み出した時。 その堰は切られ、渦となって、そこに露わなものとなるだろうと感じられた。 |
ジレ |
リューイ< 横向けた顔から、瞳だけ、きょろりとリューイを見る。 「好きかなんて知らない。 ジレは猫だから、好きなんてことを言うことはないのさ」 しばらく沈黙を保って、やおら、棚の上から飛び降りる。 翼もないのに、宙を歩いて、リューイの顔を正面から捉えに来た。 「リューイが本当に近寄ってくれるとは思わなかったのさ、ジレは」 今までとは色彩のまるで違う声音で、言う。 「迷惑なお客が来る限り、ご主人様の細工はほどけない。 ジレが近付けないから。 一人じゃなかったご主人様は、二人になろうとした。 “二人のご主人様”が“二人になろうとした”のじゃなくて。 湖に月が浮かぶように、二人のご主人様だけを映し出そうとして、器をまん中に、両脇の冷たい青い石のベッドを置いて、ご主人様は細工を始めた。 一人目のご主人様が青い石の中に生まれた。 二人目のご主人様が青い石の中に生まれた。 三人目のご主人様は、もう一杯になった青い石の中には生まれられなくて、こぼれてった。 四人目のご主人様も、六人目のご主人様も。 ご主人様は、たくさんいなくなって、二人になった。 たくさんいたから持っていられたたくさんの不思議は、二人になったご主人様みたいなのには大きすぎて、ジレが蹴たおした花瓶の水みたいに、次から次へこぼれてる。 不思議な匂いはどんどんなくなっていって、どんどん外へ流れてく」 子供が、泣き出しそうな顔をしている。 そんなものを連想させる目と、声の色だった。 すとん、と、ジレは地面に降り立つ。 「迷惑なお客は、迷惑だから、いつだって帰ってもらっていいものなのさ。 ご主人様が自分を守るために用意しておいたものだけれど、逆に守れないようなことになってるから、どかしても問題ないのさ」 今度は、つい先ほどまでと同じような、不思議な調子に戻っている。 「リューイがあと三歩近づくと、出てくるのさ」 |
リューイ |
深く澄んだ青色の柱、その中に見える影に目を凝らす。 人のようにも見えるその形に、リューイの目が僅かに鋭さを増した。 意を決したように一歩、柱へと足を踏み出す。 ラニ< 「――気をつけて。」 離れているように、と、万が一のことを考え仔犬に告げる。 ジレ< 満足そうにも見えるジレの様子に、目を眇める。 「君は、ご主人のことが好きなんだね。」 そう言って、もう一度青い柱に視線を注ぐ。 話を聞きながら、リューイは先ほどの物語を思い出していた。 「一つの身体に、一つの心・・・さっきの文字はじゃあ、きみのご主人のものだったのかな。」 柱と、その周りの空間に注意を配りながらゆっくりと歩を進めていく。 視線をその柱に向けたまま、「ジレ」と不思議な猫の名前を呼ぶ。 「もしまた迷惑なお客が現れたら、僕がその人にお帰り願っても・・・君や君のご主人は、不愉快に思ったりしないかな?」 静かな声音でそんなことを聞きながら、また一歩、柱へと近づく。 |
ジレ |
リューイが柱に向かって挨拶をしたのを見て、満足そうに尻尾を振る。尻尾の先で、とんとん、と、地面を叩くのだ。 普通の猫だったら、不機嫌である証拠なのだが、この猫ではどうなのだろう? リューイ< それから、ヒゲをひくひくとさせてジレは答える。 「“一人じゃないご主人様”は、“二人のご主人様”になろうとしていたのさ。 おかしなご主人様だから、そんなおかしなことをするのさ。 ジレはジレだし、ラニはラニだし、リューイはリューイなのに。 ジレから鼻を取っちゃったらジレじゃないし、耳がなくなってもジレじゃないし、尻尾が短くなってもジレじゃない。 ジレはジレだから、ジレがジレのままでいる方が良いことは知ってるけど、ご主人様は知らなかったのさ。 ジレは教えてあげようかと思ったけど、ご主人様はジレに質問しないから、ジレは教えられなかったのさ。 それで、おかしなご主人様は、元の入れ物の中に一人のご主人様だけ残して、他のご主人様を用意しておいた新しい入れ物に移そうとしてたのさ。 おかしなご主人様だから」 |
GM |
柱< 今のリューイの位置からではやや遠く、その柱が何であるのかはよく分からなかった。 半透明で、秋の日の空のような青色をしていて……。 中核部分に影がある。 影……。 柱の中にある影は、何か、人めいたものであるように、思えるのだった。 |
リューイ |
ジレ< 「・・・沸いて、くる?」 言葉を区切るようにして、繰り返す。どこか困惑したような響きが、その声にはあった。 (入ってくる・・・じゃなくて?) 「迷惑な客」だから、「やってくる」ことを「沸いてくる」と言っていると思ったのだが、違うのだろうか? いくらか訝しげな表情を浮かべたまま、リューイは指し示された二つの柱に注目する。 「あれが、きみのご主人様?」 首をかしげ、もう一度ジレを見上げる。 こちらを見返している瞳を見、もう一度柱を見て。 「・・・・・・こんにちは、と。ご挨拶をしたほうがいいだろうか?」 身体をその柱の方へと向け直す。 視線と意識をそちらへ集中させたのが、傍目にもわかった。 「ジレ。君のご主人は・・・ここで、何をしていたんだ?」 問いかける声はごく僅かだけ、鋭さを増していた。 |
ジレ |
リューイをちらっと見てから、 ラニ< 「ふーん」 首をかしげる。 リューイ< 「ああ、迷惑なお客。 迷惑なお客は、礼儀を知らないから迷惑なのさ。 次から次へと沸いてきて、次から次へとどっかに行くのさ」 そう答えるとあくびをして、くるりと後ろを向いて、それから見返してくる。 「リューイはおかしなご主人様に会っているから、これ以上、会うことは出来ないのさ」 ついっと顔を横に向けて、視線で示してみせたのが、この部屋の中心に並んでいる、大きな二つの柱だった。 「でも、あれはおかしなご主人様だったけど、もうおかしなご主人様じゃなくなったかもしれないから、もしかしたらリューイが会ったのはおかしなご主人様じゃなくて、迷惑なお客かも知れないけどさ。 リューイには分かる? ジレは知らない。 近寄ると一番迷惑なお客が沸いてくるから、近寄れないのさ。 おかしなご主人様が、不思議なことをするのにまともな細工もしないからさ。そのくせ、おかしなことばっかりするからさ。 ああ、でも、不思議な匂いの元は、あのご主人様みたいなものさ。 近寄ってみたら?」 |
リューイ |
ジレ< ラニに問いかける言葉に、僅かに表情を緩ませる。 困ったようにこちらを見るラニに、同じように小さく首を傾げてみせて 「そう・・・同じ、かな。僕にとっては、ラニはラニだよ。 僕たちの、旅の仲間だ。」 何をしに来たのか、という問いに、あらためてその視線に向き直る。 「このノームの森に、最近になって凶暴な魔物が現れているという話を知っているかい? 近隣の村からミノッツへと上訴が届き、僕はその沈静化のためにこの森へきた。 魔力を帯びた風をたどって、この屋敷を見つけたんだ。 失礼ながら勝手にあがらせてもらい、ここまで入ってきたわけだけれど・・・君のご主人に会わせてもらうわけにはいかないだろうか?」 ジレに問いかける声に、僅かに力がこもる。 「このお屋敷には、強い魔力を持つ人がいるだろう? 僕はギルドで、「黒衣の魔女」がこの件に関わっていると聞いてきた。 それがどういう意味なのか、現時点では不明だけれど・・・だからこそ話を聞きたいと思うんだ。 ――君のご主人は、その人とは違うのか?」 |
ラニ |
ジレ< お座りの姿勢を取ったまま、軽く首をかしげる仕草をして、ゆらゆらと尻尾を振る。 答えに窮したような様子で、傍らのリューイを見上げた。 |
ジレ |
リューイ< 「名前なんていうものはジレは知らない。 ジレは、ジレなのさ」 針金のようにツンとしたヒゲをぴくぴくとさせて、リューイをまともに見る。 「迷惑じゃないかも知れないお客のことが分かった。 そうしたら、ジレはリューイに聞くのさ。 リューイは何をしに来たのさ、てさ」 ラニ< 目をくるりと回して、この翼の生えた犬を見下ろす。 「ジレがジレなのと同じで、ラニはラニ?」 |
リューイ |
猫< ラニに視線を落とし、少し気配を変えたような眼差しを正面から受ける。 ご主人、細工、不思議なこと、迷惑なお客・・・と言った言葉に内心首をかしげながらも、表面上リューイの顔は平静を保っていた。 笑いかけるでも、恐れるわけでもなく。生真面目な表情で高い所にいる猫と向き合っている。 「・・・僕が、きみのいうW迷惑なお客Wかどうか・・・わからないけれど。少なくとも僕は、迷惑をかけたいと思っているわけじゃない。 迷惑じゃないお客になりたいと思っているけれど。」 ゆっくりと、自分の意図が正確に伝わるよう言葉をつむぐ。 「僕の名前はリューイ。この子はラニだ。 ・・・きみの名前は・・・ジレ、で、いいんだろうか?」 |
笑う猫 |
笑う、というか、微笑む様な表情をした猫が、確かに、高い知性を視線に込めて、リューイを見る。 つい、と視線を外して、リューイの足下にいるラニを見てから、再度、彼に目を向けた。 なぜだか、先ほどよりも透明さがやや濁ったような気配があるのは、知性を感じるからなのだろうか? リューイ< 「そうだよ、そう。 おかしなご主人が、まともな細工もしないまま、不思議なことをするもんだから、迷惑なお客が湧いてくる。 迷惑なお客がジレの場所に入ってくるのさ。 迷惑なお客が何で迷惑かって聞くならジレはこう答えるよ。 迷惑なお客は迷惑なお客を増やすから迷惑なのさ。 それで、ジレは聞くんだ、迷惑なお客に。 何しに来たんだ、てさ。 でも挨拶をする迷惑なお客はいないから、そこにいるのは迷惑なお客じゃないのかも知れない。でもジレは迷惑なお客しか知らないから、そこにいるのが迷惑なお客なのか迷惑じゃないお客なのか分からないのさ。 だから、ジレは聞くんだ。 誰、てさ」 |
リューイ |
くらりと、視界がまわるような感覚。 それを眉をひそめることでやりすごす。足元にいるラニに「気をつけて」と言葉をかけると、リューイは部屋の中へと踏み込んだ。 「・・・おじゃまします。」 抑揚の少ない、けれどその分、落ち着いた声が彼の口からこぼれる。 琥珀の眼差しが部屋を巡り、二本の柱と、自分に視線を注ぐ白い猫をとらえた。 猫< 「――こんにちは。」 笑みの形に口をゆがめた猫に、声をかけた。 まっすぐに透明な眼差しと向かい合う。 「今、話をしていたのは・・・」 君なのか? と。感情の読み取りにくい声で尋ねた。 |
GM |
途端に、空気が重くなったような感覚がした。 この館に入ろうとしたときに吹き寄せてきた敵意と同じようでいて、違うようでもある。 軽い、眩暈がする。 あのとき感じた、瘴気の呼び起こしたものと同じようであり、違うようでもある。 部屋< 部屋は、上階の広間と同じくらいの広さだった。 あれこれとごちゃごちゃしているのは、先ほどの研究室と同じような風情だ。 同じような物が散らばっており、同じように乱雑としている。 ただ、部屋の中心に、二つ、並んでいる半透明の大きな柱が、これまでとは異質だった。 声< リューイは、すぐ近くの棚の上に、やけに太った白い猫がいることに気がついた。ぐしゃぐしゃになった紙切れの上に、どっかりと座り込んで、香箱をつくっている、 猫特有の透明な眼差しをこちらに注いでおり、やがて、くいっと、笑みの形にゆがめた。 |
? |
「あ、参ったな。来ちゃったよ」 そんな声がする。 |
GM |
ぬいぐるみ< とりあえず、目に見えた傷はついていないようだ。 扉は、何の抵抗も無く、開かれる。 |
リューイ |
ラニ< 「まったく・・・」 何がしたかったんだ?と尻尾をふるラニをみてため息をつく。 犬のぬいぐるみに傷がついていないか、慎重な手つきで調べた。 「心をわける、二人を一人に・・・目覚めない身体に奪われてしまった二つの心。 そう、そんな話だったっけ・・・」 ぬいぐるみをひっくりかえしながら、リューイはひとり呟いた。 机にかかれた落書きのような文字を見比べ、僅かに首をひねる。 元に戻る、という言葉。 生き物を、人体を造り出そうとするかのような研究。 失ってしまった何かを作り出そうとでもしているように。 「・・・話を、聞かなくちゃ。」 あまり穏やかな研究とは思えない。 顔を奥の扉の方へ向けると、足元にいるラニに声をかけ、リューイは扉の方へ歩き出した。 |
GM |
物語< リューイは、あの物語の続きを思い出せないか、もう一度、努力をしてみることにした。 知力判定:分類/伝承・物語 再試行 リューイ:成功! 机の上に書かれた文字が、何かのヒントになったのかも知れない。 記憶の奥の方から、なんとか、続きを引っ張り出すことが出来た。 一つの身体に一つの心。 求められて、悪魔は「簡単だ」と言う。 「だが、身体を増やすことは出来ない」と言う。 「だから、心の方を減らせばいい」 悪魔の囁きによって、片方の心は、もう片方の心を悪魔に差し出す。 心の片方は、そうして悪魔に持って行かれてしまった。 残った心は自分の身体を手に入れた。 悪魔は知っていた。 だが、少年は知らなかった。 自分たちが完全に二つの心だったわけではなくて、自分も、もう一人も、根っこを同じくする、木の二つに分かれた枝の一つに過ぎなかったということを。 もう一つの枝を切り落とすということは、不完全ではなくなるということだった。 少年は、人間ではなくなってしまった。 自分だけの身体を手に入れた心は、けれどその心を枯らせてしまった。 その身体は二度と目覚めることはなく、悪魔は二つ目の心も手に入れた。 |
ラニ |
しっかりとぬいぐるみを加えたまま、上目遣いにリューイを見ていたが、やがて、かぱ、と口を開く。 そして、「何も悪いことはしていないよ」とでもいう風に尻尾を振ってみせる。 |
リューイ |
「生物を・・・再現・構築・・・?」 困惑の色もあらわにリューイは呟いた。 魔術にも錬金術にも詳しくはない。 しかし、自分がその分野に不見識でも、それがどれだけ難しいことなのかはわかる気がした。 そして、机の上に書かれた落書きのような文字。 「一人を二人」「本来二人だったものを元に戻す」――これは、最後が思い出せないあの物語の続きのように感じた。 「・・・どういうことなんだろう。一体、何の目的で・・・?」 初めて見る筆跡を指でたどり、ひとりごちる。 そして顔を上げると、部屋の奥に見えている扉へと目をやった。 答えをくれる人は、あの向こうにいるのだろうか? ラニ< 「――っ!?」 犬のぬいぐるみにかぶりつく(ように見えた)ラニに、目を見開く。 ぽかんとした表情は、リューイの顔をずいぶんと幼くみせた。 数秒間の思考停止のあと、慌ててラニの前に手を差し出す。 「こら、ダメだ!それはきみのおもちゃじゃないんだから・・・!」 返しなさいと、精一杯怖い顔をしてぬいぐるみを取り戻そうと試みた。 |
GM |
研究< どのようなことを研究していたのだろうかと、リューイは魔術や錬金術に関しては不見識ながら調べる。 その結果、リューイは何となくだが、「生物を新しく生み出す」というようなことをしていたのではないかと感じた。 人体の構造を記した覚え書きが見つかったり、それには“これをどのように再現・構築するか?”という様なメモが付け加えられたりしていたのである。 “組織から構築できないなら、自意識の活動に任せるのはどうか?” ぬいぐるみ< 何の変哲もないぬいぐるみに思える。 子どもがいたにしては、その類の扱いを連想させる損傷はない。 リューイが撫でている横からラニがひょいと顔を出してきて、犬のぬいぐるみに向けてあんぐりと口を開け、ぱくりとくわえる。 机の上< 作業机の様だ。 そこそこ整頓されていて、新しく作業を始めるためのスペースが確保されている所から、そう思える。 おそらく、この机に掛けて、調べものや書き物をしていたのだろう。その脇にぬいぐるみを置いて、気を紛らわせでもしていたのだろうか。 調べてみると、机の上に落書きを見つけることが出来た。 “一人を二人にするのではなく、本来二人だったものを元に戻す” “それが元に戻ることだと本当にいえるのだろうか?” 不思議なことに、刻まれた二つの文章の筆跡が異なるように感じられる。一つ目の文章の筆跡は、先ほど発見した覚え書きのものと類似しているが、二つ目の文章のものは違う。 |
リューイ |
自分に襲いかかってきた獣魔や、見たことのない魔法の液体を見て眉をひそめる。 錬金術というものにそれほど自分は詳しくないが、魔法の力を使って何かを作ることだと聞いたことがある。 「この館に魔術師・・・魔法を使う誰かがいるのは確かだということかな。」 館に入ったときの敵意に満ちた風を思い出す。魔力酔いという状況をおこすほど、強い魔力の主。 その誰かがあの風をおこしているのか。 そして、自分がここに来ることに不快感を持っているのだろうか。 だけど・・・何故? 「会えたら、全部わかるのかな・・・?森に現れた凶暴化した魔物のことも、この風のことも・・・」 ささやくように呟くと、リューイは考え込むように僅かに目を伏せた。 「見てごらん、ラニ。可愛らしいものがあるよ。」 座り込んでいる仔犬を呼び、机の上に置かれたぬいぐるみをそっと取り上げる。 あまり見た目も良くないのにぼろぼろになっても取ってあることから、これが大切なものなんだろうと思う。 (そういえば、あの人も手芸は苦手だったっけ) 妹にねだられて彼女がつくった人形は、手足の付け方がアンバランスというだけでなく、もう、なんというか人形と呼ぶもの無理があるような代物だった。 「・・・小さい子がいたのかな。」 絵本やパズルの本を思い出し、そっと手に持ったぬいぐるみを撫でた。 |
GM |
剥製< 近づいてみると、見覚えのある動物の剥製であることが分かる。 この館に来る前に、森の中で突然襲いかかってきた、緑の毛皮を持つ、猿に似た生き物だ。 腕部と脚部がやたらと発達していて、その他の部分がおざなりになった、おかしな動物だ。 剥製の足下にプレートが置かれている。 この生き物の名前と特徴が書かれているようだ。 液体< 魔法の力を持った薬品――何となく、それを見てリューイが思ったのはそんなことだった。 知識判定/分類:技能・錬金術 リューイ:成功! 錬金術師とかいうような人種がいて、魔法の力を使って、色々な薬や、おかしな道具を作ったりする……そんな風なことを聞いたことがあるが、そんなようなものの薬なのだろうか? 机< ごちゃごちゃとものの散乱した机の上に、目を引くものがあった。 猫のぬいぐるみと、犬のぬいぐるみ。 そこまで腕の良くない人物に作られた物である様で、目や耳の付け方がアンバランスだ。 古くて、既にぼろぼろになっている。 部屋< 部屋を全体として見回すと、その乱れ加減が視界いっぱいに広がって、思わず片付けたくなるような衝動に駆られる。 最初の方は匂いを嗅ぎ回っていたラニも、今ではすっかりと腰を落ち着けていて、雑然とした部屋の片隅で丸くなっている。 |
リューイ |
「――何かの研究室、かな?」 視線をめぐらせ、いくらか眼差しを鋭くして部屋に踏み込む。 乱雑に置かれた物品を倒さないよう注意を払いながら、ゆっくりと歩を進めた。 (実験・・・研究だろうか。何をしていたんだろう・・・) 館に入ってから初めてといっていいほど、人が生活していたことを感じる部屋だ。 誰かいないだろうかとリューイは視線をさまよわせる。 見たことのない剥製に目をとめ、よく見ようとそちらへと近づいた。 あたりを探るような仕草をするラニに、思わず笑みが浮かぶ。 |
GM |
その部屋には、何やらごちゃごちゃと物が散らばっていた。 いくつもあるガラス製の瓶には、それぞれ不思議な色合いをした液体が入っているし、見たこともないような生き物の剥製も、所々に置いてある。 乱雑になっていない机は見あたらず、どれにも、所狭しと様々な物品が置かれていた。――「置かれて」というか、撒き散らされ、といった方が正しいかも知れない。もしリューイが片づけの出来ない人間だったら、ぐちゃぐちゃでありながらも、ふと、物の配置に規則性を感じるこの部屋の持ち主には、何か通じるものを感じただろうか。 奥の方に、どこか所在なげな扉が見える。 ラニは、二、三歩、部屋の中に足を踏み入れると立ち止まり、鼻先を上げて匂いを探っているようだ。 リューイに言われたことを忠実に実行しようとしているのかも知れない。危ないことを探して、見つかったら教えようと思っているのだ。 |
リューイ |
「一つの身体に二つの心を持って生まれてしまった少年」。 しおりのようにメモが挟んであったことから、この本の持ち主はこの話が好きなんだろうかとリューイは考えた。 おぼろげに浮かぶ記憶をたどりながら、文字の薄れたページにそっと触れる。 本が傷んでいるわけでもないのに、文字が見えなくなっているなんて・・・まるで物語自体が本から抜け出てしまったようだと、ぼんやりと思う。 「続きは、どうなったんだっけ・・・」 囁きにもにた呟きが、ぽつりとこぼれた。 ラニ< 首をかしげているように見える仕草に、思わずリューイは微笑んだ。 立ち上がり、本を書棚に戻すと仔犬に話しかける。 「さぁ、行こうか。危ないと思ったら教えてくれよ?」 柔らかに声をかけると、扉の方へと足を向けた。 |
GM |
目を細めて大人しく撫でられていたラニは、リューイの言葉に、首をかしげるような仕草をする。 本< ぱらぱらとめくっていると、ページの中に、メモらしきものが挟まっているのが分かった。 メモ自体には何も書いていないので、しおり代わりにでもしていたのだろうか? その部分に書かれているのは、「一つの身体に二つの心を持って生まれてしまった少年」の話だった。 傷んでいるわけでもないのに、文字がかすれて読めなくなってしまっているので、題名だけしか確認できなかった。 知力判定:分類/伝承・物語 リューイ:辛うじて成功! リューイは、この物語を知っていることに気がついた。 二つの心ははじめは仲が良く、うまくやっていくのだが、ある幼い恋がきっかけでいがみ合い、お互い敵視するようになるのだ。 最後には、片方の心が悪魔に「身体を二つに分けてくれ」と頼む。「一つの身体に一つの心にしてくれ」というのだ。 ……確か、その続きもあったはずだが、それは思い出せない。 奥< 燭台を掲げて、奥を照らしてみる。 所狭しと並べられた書棚の隙間。その先に扉があることが分かった。 |
リューイ |
見覚えのあるおとぎ話や伝承の本に、リューイは僅かに瞳を揺らした。 懐かしいような気持ち。それに押されてその中の一冊を手にとって見る。 「本が傷んでいるわけじゃないんだ・・・」 じゃあ何故、と、パラパラとページをめくりながら、彼は内心首を傾げた。 ラニ< 「尻尾がモップになってしまうよ。」 可愛らしい仕草に、ラニの前にひざをつき小さな頭を撫でてやる。 「ここに何があるか知っているの?」 幾分不思議そうに問いかけると、リューイは燭台を軽く掲げた。 書棚の影からその先を照らす。 |
GM |
本< とても理解できそうにない、複雑な論理や図形が書かれた書ばかりが並んでいる中に、リューイにも覚えのあるような、おとぎ話や伝承が集められたものも見つけられた。 そこでふと気がついたのが、すえた匂いはするものの、湿気による傷みなどが全くないことだった。 魔法か何かで守っているのだろうか、と、魔術に詳しくないものならそう思ったかも知れない。 ラニは、書棚の角で振り返り、リューイが来るのを待っていたようだ。リューイの言葉を、先に行っちゃいけないという風に理解したのだろうか。 ゆるやかに尻尾を振っているが、腰を下ろした状態でそんなことをするものだから、まるで、床の上を尻尾を使って掃き掃除をしているようになっている。 |
リューイ |
「・・・うわぁ・・・」 背の高い書棚に並ぶ本の列を眺め、感嘆混じりの声をあげる。 魔術師の館だとすると、この部屋はそれにふさわしい気もした。 ただ、湿気に弱い本を置く部屋をこんな地下に造るというのは・・・やはり変わっている、というか。 そんな風に思いながらも、何か主や今回の事件に関係しそうな本はないかと注意深く書棚を見ていく。 ラニ< 「ラニ? あまり先に行くと・・・」 危ないよと、声をかけながらゆっくりと後を追っていく。 |
GM |
カビの匂いの正体は、本が放つすえた紙の匂いだったらしい。 その部屋は、書庫のようだった。 扉を開けると、入り口からまっすぐしか奥に進めないようにするような形で、背の高い書棚に挟み込まれている。 ラニは元気よく奥までいき、書棚の影になっている方に歩いていった。 |
リューイ |
僅かに滲んだカビの匂いに、この部屋には水があるんだろうかと首をかしげる。 「前の部屋と、そんなに造りが違うようには見えないけど・・・」 灯りを掲げ、内部を窺う。 機嫌のよさそうなラニを目で追い、扉の前で座り込むのを見て軽く笑った。 「まるで、この先に何があるのか知っているみたいだね。」 とても嬉しそうだと、興味深そうに部屋の中を見ながら扉の方に向かう。 |
GM |
扉を開けると、空気にカビの匂いが混じったようだった。 ラニが喜んで尻尾を振りながら先に進んでいき、左手奥の扉の前まで行ってお座りをする。 |
リューイ |
ひんやりとした空気を感じながら歩を進める。 特に不可解な空気の流れも、タペストリーもないことから (ここには仕掛けがない、と思ってもいいのかな・・・?) 内心で胸をなで下ろしながらそう思う。 魔術やその類にはなかなか慣れないので、とりあえず「普通」の地下室というだけでどこかほっとしていた。 自分の方を見上げているラニに首を傾げてみせる。 「よほど、この扉の先が気になるみたいだね? 何か気になるものがあるのかな。」 小さく声をかけ、彼自身も扉に手をかけた。 一息置いてから扉を開ける。 |
GM |
リューイの声に尻尾を振って答えて、ラニは扉らしきものの前まで速やかに移動する。それから二本足で立ち上がり、前足でかりかり、と扉をひっかき出す。 周囲の壁< リューイが観察した限りでは、ただの石造りの壁のように見える。……し、不思議な所から風が吹いてくるようなこともないようだ。タペストリーも掛かっていない。 足下< 絨毯もしかれていないので、足下から、ひんやりとした冷たさが登ってくるようだ。 辺りを調べながら、リューイは扉の前までやってきた。 ラニが期待するような顔で見上げてくる。 |
リューイ |
「こんなふうになっていたんだ・・・」 ゆらゆらとゆれる灯りをかざし、ゆっくりと小部屋の中を照らす。 地下室にありがちな湿気がないことから、どんな造りなんだろうと興味深そうに周りの壁を見渡した。 「よくできてる。空気が湿っていない・・・」 さっさと歩くラニにわずかに表情を緩めると、あまり遠くにいくなよと声をかける。 |
GM |
ランタンやカンテラならばもう少し明るかったのだろうが、……蝋燭の明かりは心許なく、小さい。 足下に気を付けながら階段を下りていくリューイの横を、ラニがさっさと降りていく。 そこは小さな地下室になっていた。 地下らしくもなく空気が乾いているのは、よほど腕の良い大工が、周囲の土から湿気が染み込まないような構造に造ったのだろうか。 小部屋は、南側に扉が一つある以外、何も置かれてはいなかった。 |
リューイ |
一度部屋の入り口にとって返すと燭台を外す。 荷物袋を開け、火口箱を取り出しながら苦笑まじりにラニに話しかけた。 「・・・勝手に他家のものを動かして、使って。 あまり褒められたものじゃないから、アーキスさんやノーイには内緒だよ。」 リューイは、十数秒ばかり火打ち石と火打ちがねを打ち合わせ、手早く、火種を作る。 鎧の手足も壊したなあと、どこか遠い目をしながら火を灯した。 ついておいでとラニに声をかけ、灯りをかざしながら通路に一歩を踏み出す。 |
GM |
灯り< この部屋の入り口、扉の脇に、燭台が掛けられていたはずだと、リューイは思った。 火口箱は、荷物袋の中に入っていたはずだ。 |
リューイ |
表情こそあまり動かないものの、リューイは大きく瞳を見張った。 「こんなものが隠れていたなんて・・・」 さっきまでは確かに壁があったのに、といくらか不思議そうに通路をのぞき込んだ。 暗い通路。そして階段。 (ー誰もいないんだろうか。) 人の・・・生き物の気配を探りながら、闇の奥を透かし見た。 そうしながらも、頭の中で今まで歩いてきた場所を思い出す。 何か、明かりに使えそうなものはあっただろうか? |
GM |
あたりだったようだ。 タペストリーをめくると、そこには、ちょうど人が一人通れるだけの大きさの通路が出来ていた。 そして通路の先には……階段があるようだ。 階段の方には灯りも届かず、暗い。 |
リューイ |
「・・・はずれ、かな?」 軽く周りを見渡しながらひとりごちる。 とくに変わった所はないように思えた。 (魔術について、もっと学んでおけばよかったな・・・) 首をかしげながらタペストリーに近づくと、とりあえずめくってみる。 |
GM |
いわれた言葉を察して、早足でラニがついてくる。 リューイは警戒しながら、先ほどのタペストリのある場所まで戻ってきた。 ……一見したところでは、何の変化もないようだが……? |
リューイ |
自分の中の、ふだんは奥の方で眠っている何かからの声。 第六感とでも言うのだろうか? 目の前に指先をかざし、リューイは戸惑うように瞳をゆらす。 「・・・何かが、変わった・・・?」 何が―どこが? とりあえず、今のところ思いつく場所はひとつだけだ。 「ラニ、もう一度さっきの部屋を見に行こう。」 仔犬に声をかけ、通り抜けたばかりの扉へむかう。 |
GM |
絵は、それぞれ、硬く、重たい手応えをさせながら、はめ込まれていく。 そして、最後の一枚がはめ込まれたとき、 う゛ん 空気に、ぴりっとしたものが、一瞬だけ流れる。 寒く、乾燥した日に、金属製のものに触れたときに感じる痛みのような感覚だ。 そしてどこかで何かが変質した。そのようなことを、頭の中の原始的な何かが囁いたようだった。 |
リューイ |
自分を見上げてくる小さな生き物を見て、こわばっていた表情がわずかにゆるむ。 「・・・ごめん、心配かけたね。」 床に膝をつき、小さな頭を撫でてやった。 手のひらに伝わるぬくもりを確かめるように、何度も撫でる。 そうしてから、リューイは先に外した三枚の絵に向き直った。 「月」のような絵を手に取ると、 「ちょっと、試してみたいことがあるんだ。」 そう呟くと、一番上のくぼみに「月」をはめこんだ。 その下に「樹木」を、一番下に「人」にも「船」にも見える絵を同じようにはめ直す。 |
GM |
リューイは、応接間(らしき部屋)に戻ってきた。 ……と、ちゃんとついてきたラニがその顔を見上げ、足下で心配そうに、鼻を鳴らしている。 |
リューイ |
黒い円卓に触れた瞬間、ざわりとした何かを感じた。 思わず辺りを見渡すが・・・何もない。 (これも、魔法・・・?) 胸のざわめきはすぐに消えた。けれど、なんとも言えない不可解な感覚がある。 それはこの屋敷に入ったときから感じている、違和感にも似た何かだった。 次に、リューイは白い円卓に触れた。 ひやりとした感触にわずかに眉をひそめ・・・その直後、自分を襲った奇妙な感覚に顔色を変える。 一気に血の気が引いていくのが自分でもわかった。 笑っていた家族。すぐそばにいた、その人たちがいなくなる・・・いなくなった、瞬間。 弾かれるように腕を引っ込め、リューイは青ざめた顔で白い卓を凝視した。 卓の持ち主の記憶か、かつてここに座った客の記憶か。 それとも自分の記憶だろうか。何だとしても、彼にとっては生々しい想い。 強くまぶたを閉じ、それをふりはらおうとするかのように頭を振った。 大きく息を吐くと、顔を上げる。血の気の失せた顔の中、眼の光だけはかわらずに強い。 「・・・いなくなってなんか、ない。」 低い声で呟く。睨み付けるような一瞥を与えると、リューイは視線を転じた。 「・・・月夜。海の、上を・・・飛ぶ鳥」 子どもが描いたような可愛らしい絵に強いて意識を向け、リューイは軽く首を傾げた。 月と鳥と海。 よく似た題材の絵を見たような気がする。あれはひとつひとつが分かれていたけれど。 「・・・『黒い渡り鳥』・・・」 今はいない旅の仲間の言葉を思い出し、わずかに目を伏せる。 何、ということはない。ただ、妙に符号することがどこかにひっかかるというだけで。 少し悩むそぶりを見せた後、リューイはその本を持っていくことにした。 |
GM |
ページ< ごちゃごちゃと文字や模様が並んでいたので、それまで気づかなかったが、その模様の中の一つは、まるで子どもが書いた落書きのような代物だった。 海の上を鳥が舞い、その鳥を、月が見つめている。 鳥は可愛らしく戯画されているし、月もバランスの悪い代物だ。 他に、特には、気になることを見つけることはできなかった。 円卓・黒< 触れてみると、妙に胸の中がざわついた。 そのざわつきはすぐに消えてなくなったが……。 円卓・白< 妙にひんやりとしたものを感じる。 まるでこの屋敷が自分の家で、いるはずの家族が誰もいなくなってしまい、一人取り残されているような、そんな不可思議な想いがこみ上げてくる。 円卓< 二つとも、あまり使用されている様子はない。 埃がうっすらと積もっているものの、傷みはすこしもない。 屋敷の主人が例の本を読みふけっていたことがあったとしても、それには、この卓は使われていないだろう。 部屋< 何か特殊な手段で隠蔽され出もしていない限り、この部屋には、リューイが使用した扉以外の出入り口は、窓さえも見あたらない。 |
リューイ |
読み込まれたページをしげしげと見つめる。 「・・・懐かしいな。」 国にいた頃に何度かやったことがあったっけ・・・と、書かれた文面をたどった。 この館に住む人も、この手の謎かけが好きなのだろうか。 なんとなくそれを手に取ったまま、円卓に近づく。 (どちらかの色に統一しても良さそうなものだけど・・・) 色の他に違いがあるのだろうかと、小さなその卓に触れた。 |
GM |
書棚< 書棚には、何やら意味の分からない模様が書き連ねてある巻物や、様々な魔法陣が載っている本に混じって、一冊、リューイにも馴染みのあるようなものがあった。 洒落の利いた謎々や、パズルの本だ。 その中に、特定の条件に従って、絵柄の入ったピースを並べ替えるというようなものがあった。そのページは、他のページに比べて頻繁に読まれていたらしいことが、本の具合から分かる。 |
リューイ |
埃の目立つ棚、使用された形跡のない寝台から、この部屋を訪れる客が絶えてひさしいことを知る。 ひんやりとした空気に眉をひそめながら、彼は窓ひとつ無い部屋の中を見渡した。 (黒と白・・・「黒いもの」と「白いもの」・・・) 屋敷に入る前、小人に告げられた言葉を思い出した。 決めなければならないと言われたもの。それを象徴する色。 それと同時に頭に浮かぶのは、美しい黒髪をしていた同行者だ。 「・・・体の具合は、大丈夫だろうか・・・」 小さく呟くと、軽く頭を振る。 その後、目に入った書棚に手を伸ばした。 |
GM |
少なくとも、人の気配はないようだ。 棚< リューイは棚に近づき、それをのぞき込む。 片方の棚の中には、数種類のデキャンタと、酒瓶らしいものが並んでいる。 もう片方は書棚らしく、羊皮紙の巻物と本が陳列されている。 どちらの棚も、取ってのあたりに埃が目立つ。 円卓< 棚にある酒を飲んだり、本を読んだりするためのものらしい。小さな二つの円卓に対して、やはり小さな椅子が二つずつ置かれている。 片方は白い円卓、もう片方は黒い円卓だ。 寝台< 赤を基調にしてデザインされた、上等な寝台だ。 どれも美しい刺繍がされているし、柔らかく、とても寝心地が良さそうに見える。 とはいえ、使用された様子はない。 部屋< どこかよそよそしさを感じさせる部屋だ。 やはり、家人が使用するためのものではないのだろう。 窓もない部屋で、空気はひんやりと床に沈み込んでいるようである。 |
リューイ |
やや硬直した表情で、並んでいる寝台を見つめ。 「・・・寝室・・・?」 完全に止まっていた足を、ぎこちなく動かしながら部屋へ入った。 お邪魔します、と小さく呟くと視線を動かす。 (・・・誰もいない、よな・・・?) 内心の動揺を抑え、部屋の作りを観察した。 奥に棚があることに気付き、そちらへ近づく。 |
GM |
それは寝室のようだ。 柔らかな白い絨毯が敷かれており、寝台が四つ並んでいる。 部屋の片隅には棚が置かれ、ちいさな円卓が二つ、その前に見える。 客室なのではないだろうか? 部屋の作りが余所の視線を意識したようなものに見える。 |
ラニ |
まるでうなずくように尻尾を一振りすると、リューイの後を追う。 |
リューイ |
「・・・月・・・」 そういえば先ほどの部屋にも、それらしきものを描いた絵があったなと思いながら意匠化された紋章を指でたどった。 屋敷の主を示すものかとも思ったが、他の紋章も使われている以上家柄を表すものではないのだろう。 どちらかといえば、魔法的なものなのかもしれない。 そう考えながら、丁寧に作られた部屋の中も見渡す。 居心地良く暮らせるよう、作られている・・・と思う。 部屋にたまったほこりや奇妙な部屋わりさえなければ。 リューイは眉根をよせ、しばらく悩むように視線をさ迷わせた。 あの壁の後ろには何かある。 それは確かだ。 しかし、残してきたノーイやアーキスのことを考えると、このままここで時間を潰すのは意味が無いようにも思える。 まずは屋敷の主を探すことが先決ではないだろうか。 他の部屋に謎を解く手がかりがある可能性も否定できない・・・。 気分を切り替えるように頭を振ると、手馴れたしぐさでバラバラになった甲冑を元のようにー足を破壊してしまったのでその部分は無理だったがー組み直す。 剣を横に並べて立てかけると、仔犬に「行くよ」と呼びかけた後壁に背を向けた。 入ってきたものとは違う扉に手をかけると、それを開く。 |
GM |
甲冑の残骸< リューイは跪き、先ほど剣を交えたばかりの甲冑を調べた。 見て受けた印象のとおりの品のようだ。 それに仮初めの命があったとしても、今はただの優れた武具でしかない。 ……よく見ると、ヘルメットには何やら模様がある。 それは…… 知力判定:分類/紋章学 リューイ:成功! 月を意匠化したもの……のように見えた。 そうと気が付いてみれば、剣の柄のところにも不思議な紋章が彫ってあるし、グリーブにも別の紋章がある。 紋章などは、家柄の問題で触れることが多かったから、気が付けたのだろうが、剣の方と、グリーブの方は、何を示したものなのかはよくわからなかった。“月”は、家紋に使用する貴族も多いから見慣れていたのだが……。 北の甲冑< 作りは、ほとんど先ほどの甲冑と同じである。 こちらも胸の前で剣を捧げ持っており、しかし、あちらとは違って襲いかかってくるような様子はない。 つ、と視線をやると、足下には楯が立て掛けられている。方形的な、こちらも実用的な楯だ。 南側のものはヘルメットに紋章があったが、こちらには何も描かれていない。 タペストリー< 知力判定:分類/探索 リューイ:成功! 先ほど調べた以上のことはわからない。 壁< 質のいい紙を丁寧に張った壁だ。 漆喰そのままの建築に比べて、より暖かく、居心地のよい造りだと思える。 床< そこまで上等ではないが、まあまあ程度のよい絨毯が敷いてある。その下は木の床となっている。 この絨毯も保温効果がある。 ……よくよく見れば、全体的に埃が掛かっていて、その中にリューイの靴跡や、ラニの足跡が残っている。 埃は厚くはないが、薄くもない。 調度品< 特に調度品はない。 |
リューイ |
「魔術、だろうなあ・・・」 ため息をつきつつ、軽く頭を振った。 ゆらいだように見えた壁の、今では堅固に存在するその姿を見つめなおす。 「理・・・物事の筋道。条理。道理。そして、物事のあるべき姿・・・」 つぶやきながら、あらためて大きくはない部屋の中を見渡す。 もう一度部屋の中を調べてみよう。 諦めた・・・というか、飽きてきたようにも見えるラニに「もう少し待っていて」と声をかけると踵を返した。 |
GM |
壁< リューイは目をこらした…… 魔力判定/分類:幻術(看破) 難易度3 リューイ:技能なし-20% / 絶望的な失敗! 一瞬、壁が揺らいだような感覚があったが、すぐにそれは去る。 そしてやはり、変わらずに壁はそこにある。 タペストリー< よくよく見てみれば、不可思議な模様の中に、文字が隠されていることに気がついた。 『理が自然を取り戻したとき、偽りもまた真実へと帰る』 ラニは諦めたのか、壁から少し離れた場所で座り込み、あごをかき出したりしている。 |
リューイ |
「風自体が特殊なのか・・・壁に魔法がかかってる、んだろうか・・・?」 ぺたぺたと相変わらずそこにある壁に触れながら、リューイは完全に首を傾げていた。 魔法的なものには疎い、という自覚がある。 ここが守られていたということ、そして屋敷の構造から考えて・・・「ここ」が怪しいということは確かなのに、見た目からは全くわからない。 一生懸命に何かを探る様子のラニが目に入る。 その姿に励まされ、何か手がかりはないかともう一度目をこらした。 |
GM |
壁< 意識をしてみれば、先ほどよりもはっきりと風を感じる。 壁の一部から風が来るというより……風だけが障害物も何もなしに吹き抜けてきているような、そんな感覚だ。 だが、探っては見るものの、そこに壁があるということには変わりはなかった。 |
リューイ |
「・・・?」 眉をよせ、近づいてきたラニを見て、もう一度壁に向き直る。 違和感を感じたあたりに両手を置いた。 壁ではない。少なくとも、見た目どおりの硬い感触が、ない。 (これも魔法なんだろうか・・・) だとしたら、見た目どおりではない何かがあるのかもしれない。 そう思って、指先の感覚に集中することにした。 軽く目を伏せて、ゆっくりと壁を、風を感じたあたりをさぐる。 |
GM |
タペストリー< タペストリーの裏をめくってみると…… 壁だけがあった。 触ってみても、確かに壁しかない。 感覚判定/分類:鋭敏感覚・観察 リューイ:完璧な成功! ラニ:+20% / 優秀な成功! ――と、肌に触れる柔らかな感触を覚える。 なんだろうか。壁から風を感じる。 ラニも壁に近づいて、何やら疑わしそうな様子で小さな鼻をうごめかせ、匂いを探っている。 |
リューイ |
甲冑の動きが完全に止まったことを確認すると大きく息を吐いた。 ほとんど表情の動かない顔の中、琥珀の双眸にだけわずかに憂いをおびる。 自分の意思を持たず、使役されるだけのガーディアンに、苦痛に似た想いが浮かんだ。 自分には、あれ以上のことはできようがなかったのだけれど。 軽く頭を振って気持ちを切りかえると、丁寧な手つきで力を失った甲冑を壁際に立てかける。さすがに、元通り組み立てる気にはなれず、剣や足は横に並べた。 子犬< 「・・・ラニ、もう大丈夫だよ。」 おいで、と表情を和ませ声をかける。 ガーディアンの守っていた壁を見上げると、ゆっくりとタペストリーに手を伸ばした。 |
GM |
甲冑は、不自然な生命から解き放たれ、すでにただの防具へと戻っているようだ。 ラニが、少し離れた場所で、心配そうにリューイの様子をうかがっている。 |
戦闘 |
「その体勢で戦うのは難しいだろう?」 リューイが、降伏勧告めいたことをするが、 「…………」 やはり応えはないし、 回避判定/分類:両手剣・低位置 リューイ:自動的成功 戦いを続けようとする様子に変わりはない。 リューイはため息をつき、攻撃を再開した。 かれはほとんど油断というものをせず、この相手にも丁寧に詰めていった。 幾度かやりとりがあったものの、甲冑が完全に動きを止めるまでに、さほどの時間はかからなかった。 終わってみれば、圧倒的な戦いであったが、実力の差よりもまず、リューイの慎重さが現れた結果だったといえよう。 【 戦闘終了 】 リューイ HP62/64 MP60/60 vs |
戦闘 |
命中判定/分類:グローリアソード・部位狙い/足(間接) リューイ:辛うじて命中! > 14ダメージ! 同じ部位にダメージを負い続け、とうとう、この甲冑は立っていることができなくなった。 片足が、間接から外れ、落ちた。その部分だけ、魔法の束縛から逃れ、ただの物体に戻ったようである。 甲冑はバランスを崩し、大きな音と共に転倒する。 その状態でも懸命に剣を振るおうとするが、ままならない。 【 戦闘中 】 リューイ HP62/64 MP60/60 vs 甲冑(ガーディアン) HP:○-58 |
戦闘 |
リューイは、少しだけ攻撃の方法を変えた。 敏捷判定/分類:体術・軽業 リューイ:辛うじて成功! 命中判定/分類:グローリアソード・部位狙い/足(間接) リューイ:命中! > 19ダメージ! そこが鎧にとっての死角なのかどうかは分からないが、少なくとも足の関節部分を攻撃することで、動きは止まるだろうと踏んだのであった。 斬撃は痛烈で、堅い鉄製の装甲を捲りあげる。 回避判定/分類:両手剣・縦切り リューイ:優秀な回避! 逆撃を合わせるのはうまくいかなかったものの、滑らかな動作で、うなりをあげて打ち下ろされてきた剣を捌く。 敏捷判定/分類:体術・軽業 リューイ:優秀な成功! 命中判定/分類:グローリアソード・部位狙い/足(間接) リューイ:辛うじて命中! > 14ダメージ! 再度、斬りつける。 強烈な攻撃を立て続けに受け、装甲が弾け飛ぶ。鎧はバランスを崩した。 リューイは、これまでに剣を交えた感触から、この鎧の攻撃は重たそうだが、素早さはそれほどでもないと判断した。 技術を取ってみても型ばかりを忠実に再現しているようで、見切りやすい。 【 戦闘中 】 リューイ HP62/64 MP60/60 vs 甲冑(ガーディアン) HP:○-44 |
戦闘 |
敏捷判定/分類:体術・軽業 リューイ:最高の成功! リューイは、類い希なスピードで踏み込み、抜き打ちで斬りつける。鎧は避けようともせず、近づいてきたリューイに向けて剣を振るう。 あまりにもこの若者の速度が高かったため、鎧の攻撃は空を切り、一方的に打たれる。 命中判定/分類:グローリアソード リューイ:辛うじて命中! > 防具に弾かれた! しかし、リューイの攻撃も気勢が乗っておらず、装甲を叩いただけに留まった。 かれは、即座に退く。 リューイが躱しては飛び込む態勢であるのに対して、鎧の方は、とにかく距離を詰め、間合いに入れば攻撃するという考え(あるいは命令)のようである。 敏捷判定/分類:体術・軽業 リューイ:優秀な成功! 再び距離を詰め、 命中判定/分類:グローリアソード リューイ:命中! > 11ダメージ! 斬撃を繰り出す。 今度の一撃は強く、鉄で出来た装甲を抉ることに成功する。鎧の動きが一瞬傾ぎ、やはり距離を取るリューイを追撃することが出来ない。 【 戦闘中 】 リューイ HP62/64 MP60/60 vs 甲冑(ガーディアン) HP:○-11 |
GM |
その動作で、まるで止まっていた時間が流れ出したかのように、状況が急転した。 飛び込んでくるリューイを牽制して、ぶんと大きく剣を振る。 魂さえも持たないはずの甲冑が敵意を露わにしているように感じられるのは、おそらくリューイの錯覚であろうが。 【 戦闘開始 】 リューイ HP62/64 MP60/60 vs 甲冑(ガーディアン) |
リューイ |
脳裏に浮かんだ知識に彼は唇をかみしめる。
もし、目の前の甲冑が自分の予想通りの存在であるならば。 「・・・話は、通じない・・・っ」 じりじりと間合いを計りながら、どうする、と己に問いかける。 問いかけてすぐに、リューイの口元にあるかなしかの笑みが浮かんだ。 魔術を解く方法なんて知らない。そして、この森の異変の原因もしくは手がかりがつかめない以上、この屋敷から出て行くわけにもいかない。 「逃げるわけには、いかないんだ。」 低くつぶやくと、飛び込むような勢いで自ら間合いをつめる。 |
GM |
甲冑は、やはり、何も答えない。 知力判定/分類:伝説・伝承 リューイ:成功 その非人間的な態度と、それまでのやりとりが、リューイのある記憶を呼び覚ました。 かれは、昔語りで聞いたのか、本で読んだのか、魔術師によって造られる「ガーディアン」というものについて知っていた。 甲冑や石像が命を持ち、その住居や主を守るのだという。 自分の意思は持たず、特定の命令に従い続けるだけの、哀れな存在だ。 目の前の甲冑は、その「ガーディアン」を強く彷彿とさせた。 甲冑は、音を立てて一歩踏み出す。 後、一歩踏み出せば、互いに、互いの間合に入ることになる。 |
リューイ |
「・・・はなれているんだ。」
視線を甲冑へと向けたまま、子犬に告げる。 相手の動きにあわせ、彼自身も半身をひき剣の柄を握った。 重心をやや前に、いつでも相手の懐へと飛び込めるような姿勢。 そのままで、まるで人の目のように見える青い光を見据え、再度言葉をかける。 甲冑< 「・・・ここを守護する方だろうか?」 まるで、タペストリーの奥を守ろうとするかのような動きにそう呟く。 熟練者の動きに、自然とリューイの言葉使いも丁寧なそれへと変わった。 ただ、このまま退くわけには行かない。 何しろこの館へ入って始めて手がかりになりそうな相手と出会えたのだから。 「私は、この森の異変を調査しにきた者です。 非礼は重々承知。 幾重にもお詫びするが、主にお会いしたい。お聞きしたいことがあります。」 一歩もひかない、そんな眼差しを相手へと向けた。 |
甲冑 |
甲冑は、リューイの質問には答えない。 ガチャリという音を立てて構えを取った。半身になって、剣を持った右腕を引いた、突きの姿勢だ。左腕は前に伸ばし、身を守っている。 それは熟練した戦士の――もしかすると中に人間でも入っているのかもしれない。そう感じさせる――ような動きだった。 リューイには、甲冑からは敵意も、殺意も感じられないが、「危険だ」と、それだけは分かる。 |
GM |
観察してみると、尋常ではないのはタペストリーの前にある甲冑だけのようだ。窓側のものは、そのままだ。
――と、リューイは、南側にある甲冑の面頬の奥に、まるで人間の目のような輝きを見て取った。人間の目は青く光を放ったりはしないが……。 |
リューイ |
「・・・ラニッ!」
鋭く叫ぶと、足元にいる子犬を片手ですくい上げ、背後へと飛びずさった。 油断無く甲冑を睨んだまま、両の甲冑が視界に入る位置へと――三叉路の交差地点へと後退する。 「―何者だ?」 低い声で、存在感を増した甲冑(?)へと問いかける。 片手は剣の柄にかかっているが、まだ抜いていない。 リューイは、ラニを後ろに放した。 ラニは、ようやく異常に気がついたらしく、尻尾を緊張させて周囲を見渡している。 |
GM |
壁<
リューイはタペストリーをめくろうとする。 知力判定/分類:直感 リューイ:大成功 自分の足元、視界の隅で、ラニがのんびりと前足であごを掻いている。 ――と、すぐ目の前にある甲冑が、いきなり「存在感」を増した。 「危ない」と、リューイの中の原始的な部分がざわついた。 |
リューイ |
甲冑が実用的なものだとわかると、リューイの眼差しが明るいものへと変わった。
指先で強度を確かめるように触れ、けして観賞して楽しむわけでは無いそれをどこか 懐かしむように見つめる。 「・・・使っていたのかな・・・」 捧げ持つような形で持っている剣を眺め、いいものだと独白する。 ただ、見て楽しむわけではないのなら、なぜこのような形で安置されているのかと・ ・・そんな思いが頭をよぎった。 印象的な色合いの眼差しが、甲冑から後ろのタペストリーへと移る。 こちらの方は「大きなものだなあ」といった感想しか思い浮かばないリューイだった。 軽く首をひねりながら織物と甲冑、壁を見比べていたが、やがて思い切ったようにタ ペストリーをめくってみる。 |
GM |
甲冑<
近くで見てみると、観賞用というにはよほど実用的な作りをしているのが分かる。体格さえ合えば、リューイが着て、そのまま戦いをすることも出来そうだ。 無骨な雰囲気で、一般人の目を楽しませるような代物ではない。 壁< 北側の壁は、甲冑のすぐ後ろで窓になっている。 南側の壁には、タペストリーが掛かっていた。横幅も縦幅もある大きな綴れ織りだ。 赤とか白とか、様々な色で模様を作ってある。 もしかしたら何かを図案化したものかも知れないが、リューイにはそれは分からなかった。 わざわざ、一部が甲冑に隠れてしまうように掛けるのは、少々、不審である。 |
リューイ |
後ろをついてくるラニに微笑を浮かべ、窓の外を眺めた。
(静かだな・・・) 森の様子をごくわずかに目を細めて見ると、軽く息をついた。 その後、きちんと窓を閉めなおすと鎧に向き直る。 「観賞用・・・かな?」 興味深そうな眼差しで、甲冑を見上げた。 |
GM |
窓は簡単に開いた。外は森のようだ。静かで、風と木々のささやきが良く聞こえる。
誰もいる様子はない。 窓の方へ来ると分かったが、T字路の両側に、やや黄色がかった鋼の甲冑が置かれている。胸の前で剣を捧げ持った姿勢だ。 左手(北)側の甲冑の背後には窓があるが、右手(南)側の甲冑の方には、壁しか見えない。 |
ラニ |
良く磨いたオブシダンのような目で見返し、軽く尻尾を一振りする。
それから、鼻をあちらこちらに寄せ、匂いを嗅ぎながらリューイの後をついていく。 |
リューイ |
「・・・不思議な造りの屋敷だな・・・」
なぜここに廊下があるのか、首をかしげながら足を踏み出した。 廊下の様子をうかがいながら、とりあえず窓の方へ向かう。 ふと気がついたように子犬を見下ろし、床へおろした。 ラニ< 「遠くへ行ってはダメだよ。」 声をかけ、少し迷った跡に窓を開ける。 誰かいないだろうかと、かるく辺りを見渡した。 |
GM |
扉を開くと、そこは廊下になっている。
一面に敷物がされており、薄い青が広がっている。 右手の方、正面に窓があり、また、ちょっとしたT字路のようになっているようだ。 |
リューイ |
乱れた筆跡に、文面ほどは回復していないのだろうとため息をつく。
それでも腕の中でおとなしくしている仔犬をのぞき込んだ。 ラニ< 「ご苦労様・・・良い名をもらったね、ラニ。 ここからは、僕といっしょにきてくれるかい?」 足元にラニを下ろし、軽く頭を撫でてやりながら語りかける。 「何があるかわからないからね、危ないと思ったら物陰に隠れているんだよ。」 気持ちをきり返るように軽く頭を振ると、まっすぐ左奥の扉へ向かう。 とん、と小さく扉を叩き、大きく開いた。 |
GM |
紙切れ<
リューイが開いてみると、お世辞にも丁寧とはいえない文字が並んでいた。 『この子の名前はラニと付けました。 どうか、連れて行ってやって下さい。 具合は大分よくなりました。 どうか、気をつけて。 ノーイ』 |
翼のある犬 |
撫でられて落ち着いたのか、おとなしくしている。
|
リューイ |
翼のある犬<
落ち着いた様子の黒馬を確認し、その不思議そうな目に見つめられて苦笑した。 「・・・誰も、いないみたいだ。 じゃあ、おまえ、本当にひとりできたんだな。」 危なくなかったかい、と撫でてやる。 その時に、子犬が首にベルトをつけていること、そこに何か挟まっていることに気付 いた。 「?」 子犬を落とさないよう抱えなおすと、片方の手で紙切れを外し、広げてみる。 何かあったのだろうか? 別れるとき、青白い顔をしていたノーイを思い出して、リューイの瞳にほんのわずかに不安の色が浮かんだ。 |
GM |
外の様子< 外の様子には、特に変わった事はない。何か不審なものがいるようでもないし、異変は見あたらない。 きょろきょろと警戒しているリューイを、愛馬が不思議そうな顔をしてこちらをみている。 犬<
犬にも特に変わった様子はない。少し興奮していて、舌を出して荒い息を吐いている。熱心に、リューイの匂いを嗅いでいるようだ。 つと、よく見ると革製の赤いベルトを首に巻いており、そこに小さな紙切れが挟まっていた。 |
リューイ |
翼のある犬<
飛び込んできたものの正体に気付き、大きくため息をつく。 「・・・おまえ・・・」 両手で顔の辺りまで持ち上げると、円い大きな目と正面からのぞき込む。 リューイは呆れたように犬へ話しかけた。 「危ないじゃないか。急に飛び込んできて、僕が剣を抜いていたらどうするんだ・・・ああ、もう、やめろよ。」 くすぐったいじゃないか、と、困ったようにしながらも小さく笑った。 小さな頭を片手で撫でてやりながら、犬の飛び込んできた窓から外をうかがう。 まさか、宿で待っているはずの同行者まできていることはないと思うが・・・。 「おまえ、ひとりできたのか? ノーイやアーキスさんが心配しているぞ。」 |
翼のある犬 |
へっへ、と舌を出して息を吐きながら、腕の中で暴れている。
|
GM |
リューイに、“それ”は、見事にキャッチされる。かれの腕の中で暴れて、一生懸命かれの顔を目指して身体を伸ばすのは……どうも顔を舐めようとしているからのようである。
よく見れば、道中に突然現れてノーイになついていた、あの翼のある犬のようだと分かる。 |
リューイ |
「・・・っ!」
顔面めがけて飛んできた“それ”に、さすがに息をのむ。 金の双眸を大きく見開き、何かを見極めようとしたのは彼の剣士としての性だ。 同時に、片方の腕を“それ”を受け止めようと伸ばしてしまったのは・・・小動物め いたその動きに、驚きはしても恐れは感じなかったからだろう。 |
GM |
窓の外で音を立てていたらしい“それ”は、気配もなく、開いた窓から飛び込んでき、そのままリューイの顔をめがけて飛びかかる。
|
リューイ |
「なんだかなあ・・・」
律儀にすべての絵の裏と鍵穴を調べ、ため息をついた。 描かれた絵もさることながら、絵の飾り方も不可解だ。 丁寧に外した絵を床へ置くと、もういちど描かれたものを眺めて息を吐く。 館の主人の仕業なら、よほど変わった人間らしい。 そう思ったところで、窓の外から響く音に気付く。 まるで生き物がたてるかのようなその音に、リューイは窓へと近づいた。 外の様子をうかがったあと、一気に窓を開く。 絵を眺めていたときとは別人のような眼差しで、音の正体をさぐった。 |
GM |
リューイは、いとも簡単に残りの絵を外す。
その二つにも、最初に外した絵と同様の突起が付いているし、壁にはやはり似たような穴があいている。 たとえばどこかの部屋からだれかがやってくるような気配はないようだ。 が、……「かりかり」と音がするのに気が付く。 館の南側の出窓の辺りだ。 |
リューイ |
はずれた絵と、壁にあいた穴をやや唖然とした顔でなんども見比べる。
壁を見て。 絵の裏を見て。 ぶら下がっている絵を見る。 「・・・うわあ。」 触らなかったほうが良かったか?と思いながらも、突起や六角形の穴を恐る恐る触ってみる。 (何かの鍵、とか?) だったら自分はそれを開けてしまったのだろうか。 きょろきょろと周りを見渡し、誰もやってこないのを確認する。 その後、ぶら下がっている二つの絵も外しにかかった。 半端にかかっている様子は、どう見ても具合が悪い。 とりあえず外して、外に出る前には忘れずに戻さないとと思いながら。 |
GM |
リューイが引っ張ってみると、ちょっとした手応えと共に、
『がこん』 固い音が鳴る。それまでは抵抗があったのが、その後はすんなりと額縁が外れる。 見てみると、壁には六角形の穴があいており、額縁の裏側にはその穴にはまり込むような鍵状の突起が突き出ている。 その絵が外れると同時に、他二つの絵の方からも、同様の『がこん』という音が鳴る。 そちらの方は、もはや壁にぴったりと張り付いてはいない。裏側の突起を支えにして、ぶら下がっているようだ。 |
リューイ |
「――何故?」
完全に眉をひそめ、その場にいない主に問いかける。おかしい。どう考えても、変だ。これではかけかえることも、配置を変えることもできない。 貼り付けにする理由が、リューイにはどうしてもわからなかった。 「・・・それとも、実はくっついてないのかな?」 わずかな好奇心におされて、リューイは絵に手を伸ばした。自然と苦笑が浮かぶ。他人の家で、主の許可もなく、こんなことをするなんて。 (・・・父さんに知られたら、殴り倒されるな。) そんなふうに思う自分に、なぜか笑えた。 |
GM |
絵<
よく見てみると、判る。 額縁が、「壁に張り付いている」ようなのだ。 壁と額縁の間にほとんど隙間がないために、そう見えるのだ。掛け金なども無いし、壁に直接打ち付けられているのだろうか? |
リューイ |
金色の双眸が怪訝そうにすがめられる。
「・・・・・・?」 (何だろう、この違和感。) 体全体を絵の方へ向け、もう一度、今度は額縁をふくめ全体から見直すようにした。 |
GM |
絵<
リューイは絵をもっと細かく観察した。 題名や作者についての手がかりは……見られない。 自分の創作物に対して主張を行わない芸術家など、そう滅多にはいないのだが……。 詳細に絵の中身を眺めてみても、特に変わったところは見受けられない。この場合、鑑賞者の専門的知識が欠けているからなのか、その絵自体が尋常じゃないのか、区別がつかない。 タッチから作者を読み取ることはできないし、額縁自体は平凡である。…… 知識判定/分類・探索 リューイ : 成功 リューイはふと違和感を覚える。 ……何だろう、それは絵に感じたものではなく……額縁の辺りに目をやったときに、ちらついたものだ。その違和感は別に額縁自体に根ざしたものではない、と思う。 楽器< 楽器は、鍵盤楽器の一種であるように思える。 内部に小型のハンマーと弦が設置されていて、手元の鍵を押すとハンマーが弦を叩き、音を鳴らすようにできている。 今はしっかりと蓋が下ろされており、鍵盤を見ることはできない。 背はリューイの腰ほどで、茶色く塗られた外側は木で造られており、そこかしこに割と新しい傷が見られる。 |
リューイ |
「控えの間・・・いや、違うかな・・・?」
唇に拳を押し当てるようにして、リューイは考えこんだ。 応接間にしては位置がおかしく、それなら従者や小間使いが主を待つ部屋かとも思ったのだが。 どうも自分の知っている屋敷とは違うらしい。 幾分不思議そうに目を見張り、部屋に置かれた楽器や壁にかかった絵の前に立つ。 警戒というよりは、人の家の物ということで礼儀正しくものには触れない。 (主の趣味、かな) どんな人間なんだろう、そんなふうに思いながら装飾品を眺めた。 |
GM |
もしリューイが、扉が開かぬ事を危惧していたとしても、それは杞憂であった。扉は苦もなく開き、道を示す。 部屋< おそらく、応接間なのだろう。 床には薄い朱色の敷布が広がり、分厚い木製のテーブルが置かれ、部屋の一角には楽器らしいものが見える。 右手には出窓が、左手の壁にはまた、扉が見える。 テーブルを挟んだ向かい側の壁には、三枚の絵が縦に一列に飾られている。 絵< ……どう見てもまっとうな絵ではない。ありとあらゆる絵の具を塗ったくったとしか形容できない。 その混沌から無理に形を取りだしてみるならば、一番上の絵は「樹木」であり、真ん中は――下弦だけがやたらと突き出て反り返っているものをそう呼べるならば――「月」、下のものは……何だろうか? 大きく腕を広げた人間か、あるいは十字架、見る角度によっては、話にだけ聞いたことのある船のようでさえある。 その他< 育ちの関係で豪奢な屋敷には見識もあるリューイはふと、疑問を感じる。 「扉が多すぎるのではないだろうか?」 通常、この屋敷のような形式の建築物では、応接間の役割を持つ部屋というものは、玄関や広間から一番近い場所に位置し、かつ扉などで遮られるべきではない。少なくとも、普通の客が通される部屋は、だが。 (再開にあたって、少々、書式を変更しています。 ストーリーなどの描写ばかりは、いざ更新を開始してみなければ分からないので、再開後のテストとなっています。 もし、今までと勝手が違うなど、混乱してしまったとしたら申し訳ありません…。 現在ある場所、状況などについて、より詳しい、あるいは更なる説明を求める場合、上記の「絵<」「その他」などのようにして、取りあげて描写致します。行動メールなどに、そのターゲットを記述して下さい。 こちらから特に制限は設けませんが、状況がその説明を拒否することはあり得ます。その為、複数のターゲットを指定する場合は、優先順位(というか、調べる順番)を定めておくことを推奨します。特に優先順位がない場合、メールに書かれている順番に調べることになります) |
リューイ |
表面上はほとんどとまどいを見せず、首をめぐらせて屋敷の内部を見渡す。
(・・・豪華だなあ・・・)
感心半分呆れ半分といった気持ちで、所狭しと置かれた調度品を眺めた。
よく手入れがされているのがわかる。
それなのに、生き物の気配が感じられないというのはなぜだろう。
「・・・失礼する。」
もう一度、どこにいるとも知れない相手にむかい声をかけると、リューイは足を進めた。
あくまで自然な動きで、それでいて最大限の注意を払いながら、入ってすぐ右手にある小さな扉を開ける。
|
GM |
リューイが足を踏み入れると、背後の扉は音もなく閉まる。 途端、彼は外と館の中の世界が完全に隔絶されたかのような錯覚に陥った。くらり、と、眩暈さえ起こる。 玄関は手狭いが、それは所狭しと調度品が置かれているからで、本来の部屋の空間はそれなりのようだ。 玄関から、リューイは奥の部屋に進んだ。 そこは大きな広間だった。板張りの床に、茶色い絨毯が心細げにしている。 空気は静かで、広々と重たく、まるで地面に沈みこんでいるようだ。 |
リューイ |
瘴気と、それに勝るとも劣らない敵意に。 よろめきかけた体勢を立て直したリューイは、薄く笑った。 「・・・歓迎されていないからといって、帰るわけにもいかないので。」 普段よりも、僅かに低い声でそう告げると一歩を踏み出す。 (・・・ここに、鍵となる何かがある。) それがわかったのに、立ち去る気は無かった。 隙のない足取りで屋敷の奥へと進む。 |
GM |
人の気配は見当たらない。返事も無い。 …と、思った刹那! ぶわっという音さえ立てて、圧倒的な瘴気と、敵意が押し寄せてくる。 よろめきそうになりながらも、リューイは確信する。 この館には間違いなく何ものかがいて、自分の存在を拒否している。 それと…、この吐き気のするような風は、間違いなくこの館の奥から生まれ出でてきている! |
リューイ |
一瞬、硬直したように動きを止める。 軽く瞳を見開いたあと、小さく息を吐いて一歩進んだ。 「・・・失礼します。どなたか、いらっしゃいませんか?」 どこまでも真面目に、声をかける。 目線だけで人の気配を探した。 |
GM |
彼が呼び子を鳴らそうとした時― 音もなく、扉が、勝手に、内側に開かれていく。 びょうという足音を鳴らして、風がリューイの背後から走り、館の中へ吸い込まれていく。 扉は完全に開いた。 後は、しんとして、木の葉の落ちる音さえも聞こえそうな、静寂だ。 |
リューイ |
「・・・っ!?」 呆気にとられた顔で、飛びまわる小人を見つめる。 ぽかんとした表情はしかし、小さな生き物の言葉を聴くうちに鋭くなった。 「それはどういう・・・」 意味なのかと。 尋ねようとして、小人が消えたことに苦笑を浮かべた。 (「危険」とだけ言われてもな・・・。 謎かけのような言葉だけでは、要領をえない。) まあ、何かがあることは確かなのだろうと扉を見直す。 「―黒と白、か。 僕が会いたいのは『黒衣の魔女』なのだから・・・やっぱり黒いものを起こすべきなのかな。」 小さく呟くと、今度こそ呼び子に手を伸ばした。 |
GM |
異様なその場の雰囲気に寒気を覚える。 僅かに顔をしかめながらそれでもここにノーイがいないことに安堵した。 魔力を感じることのない自分でこうなら、きっと彼女の体に障るだろうから。 深く息を吸って気持ちを切りかえると、目の前の扉を見据える。 そして、彼が呼び子を鳴らそうとした時、 「危ないよ! いけないよ、危ないよ!」 彼の前に突然小さな影が現れ、甲高い声で叫びたてる。 |
GM |
警戒しながら、リューイは館の前庭を抜けて、その扉まできた。 特に何の変哲もない、館のようである。 だから、その異様な澱みがなければ、こうも、彼の肌が粟立つこともないだろうが。 扉は、木で作られた、平凡なものだった。 とっての部分に獅子を象った呼び子が据えられている。 扉の両脇には、名も知れぬ木が鉢に植えられてすっくと立っている。 何の気配も、感じない。 |
リューイ |
「・・・そういえば、噂の魔術師の家がどの辺りなのか聞いていなかったな・・・」 森の中、とは聞いていたけれど。 軽く苦笑いを浮かべて呟くと、馬を下りる。 「おまえはここにいるんだ。僕が戻るまで待っていてくれ。」 オニキスに言いきかせるように囁くと、迷う素振りも見せず庭の中へ入って行った。 自然に、しかし何かあれば即座に反応ができるよう周りに気を配りながら歩を進める。 (件の魔術師の家であれば、直接事情をきくこともできるし。 違っていても、森の詳しい様子がきけるかもしれない。 何にしても、手持ちの情報が少なすぎるのだから・・・) 玄関のあると思われる方へ向かいながら、そんなことを思う。 もし、「敵」の罠であっても。 (なんとかするしかない。・・・帰ると、約束したんだから。) 胸の中で、言い聞かせるように呟いた。 |
GM |
はたしてその道が正しかったのか、否か。 十分ばかりも歩いたようだった。 風の中に含まれる濁りはその濃度をましてきたように思えた。 次第に、道を挟んだ木々との距離が広がってくる。 ……そして。 ついに森が開けた。 そこは、円形に開けた空間になっていた。 芝生が広がった円形の地面、その中心部に、煉瓦造りの館が建っている。外壁に蔦が這い回ることもなく、よく手入れがされているようだ。 |
リューイ |
「弱ったな・・・分かれ道か。」 さして困った顔もせず、淡々と呟く。 拳を口元に当て、数瞬考え込むが―。 (運まかせ、かな。) 聞く相手がいればあきれるようなことを内心呟き、西の道を選んだ。 |
GM |
リューイが猿との戦場から移動を開始して、また十分ほどが過ぎた。 戦いのときとは一変して静けさに包まれている。 …道が、四つに分かれていた。 もとより獣道と呼べるものくらいしかない森の中だったが、そこは明確に分かれている。 ひとつはさらに西に、ひとつは北に、南に。そして、今彼のいる南への道だ。 風はさらに濁っていて、あまりに濃すぎていて、どちらからくるのかは容易には分からない。 |
リューイ |
大きく息をつくと剣を鞘へと戻した。 「・・・もう、大丈夫だ。」 ぽんぽん、と愛馬の長首を叩きながら辺りを見渡す。 魔物が町に出るときいていたが、今のような獣が出ていたのだろうか。 それとも。 「―本当に、魔術師が関わっているのか・・・?」 だとしたら、何故、こんなことを。 金にも見える眼を森の奥へ向け、再び風上へと向かう。 |
戦闘 |
今度もまた、先手を取ったのはリューイだった。 素早さでは猿の方が勝っているはずだが、機敏さに於いてはリューイのほうが一枚上手のようだった。 緩から急への突然の動きに狼狽する猿の防御をくぐりぬけ、一直線に突っ込む。 >緑の猿に“渾身の一撃”の刺突! 激しく突きこみ、命中したかしてないかの間際に既に退いて、リューイは構えを取り直す。 ≪戦闘終了≫ ≪情報≫ ≪状態≫
|
戦闘 |
リューイは、迷わずに動いた。 機先を制し、一気に間を詰めて切りつける。 >緑の猿に斬撃! リューイは一撃を加えたのち、即座にそこを飛びのく。 :リューイは予定の行動を起こした: >リューイの“待機行動”二段切り! 猿の毛皮は柔軟性に富み、剣を滑らせて刃を通さない。 ≪戦闘開始≫ ≪情報≫ ≪状態≫
|
GM |
森に流れる雰囲気は、他に例えようも無いほど怪しいものだった。 例えばそれは、草むらの中に不意に獰猛な獣が隠れているのではないかという不安をあおるものだったし、例えばそれは、自分をつけてきた敵が今にも背後からナイフを突き立ててくるのではないかという想像さえ掻き立てるものだった。 並みの精神の持ち主であれば、五分と立たず耐えられなくなり、悲鳴をあげて逃げ出しているところだろう。 そこを、リューイは一歩もたゆませずに進んでいく。 そうして、十分、三十分と進んだが、森の風景そのものにたいした変化は無い。そして、その変化が無いということそのものが、この森の侵入者の不安を増上させるのだろう。 … そしてある時。 「――!」 彼らの前方に、頭上から音も無く降り立った影が、オニキスを飛び越えてリューイに飛び掛ってきた。彼は何もできずに体当たりを喰らい、地面に叩き落される。 その次の瞬間に見せた彼の判断と行動の迅速さが、彼の戦士としての素質を表すものだったに違いない。 彼は咄嗟に受身を取って衝撃を和らげ、そのまま地面を転がってそこを逃れたのだ。追撃してきた影は、既に獲物が逃れた後の地面を無意味に殴りつけてから、そのことに気が付いた。 そのときにはリューイは立ち上がっていた。 その影は、緑色の毛皮を持った猿に酷似していた。 ≪戦闘開始≫ ≪情報≫ ≪状態≫
|
リューイ |
異様な空気に眉をひそめながら周りを見渡した。 (・・・いったい、ここに何が・・・?) 生き物の気配はないか、今までのような待ち伏せはないか。 意識を研ぎ澄ませながら、さらに風を辿って行く。 黒馬は主人の気持ちを察したのか、異常な場の雰囲気に怯える事なく その足を進めていた。 リューイは更に奥へと進んで行く。 |
GM |
「了解しました。剣士殿もお気をつけて」 アーキスの声を背に、リューイはオニキスを走らせる。 風の源を求め、彼は、森にやってきた。 空には既に紅ではなく、群青が満ちている。 |
リューイ |
ノーイ< 安堵の息をつくと、少しかがんで目線を合わせた。 アーキス< 「西へ。風を辿るつもりです。」 |
アーキス |
ふたりのやり取りを見て、ひとつ頷く。 リューイ< 「話は決着がついたようですね。 |
ノーイ |
リューイ< ほう、と長く息を吐いてから、ようやく頷く。 |
リューイ |
アーキス< 「・・・わかりました。よく覚えておきます。 ノーイ< 慌てて倒れそうな体を支える。 |
ノーイ |
リューイ< リューイとアーキスの会話を聞いて、リューイに詰め寄る。 |
アーキス |
リューイ< 「ええ、これは尋常ではありませんよ。 |
リューイ |
アーキス< 肌寒くなってきた、とノーイが言った時点でもう少し気をつけるべきだった。 ギリ、と歯をくいしばった後青い顔をアーキスに向ける。 ノーイ< 「・・・ごめん、もっと気を配るべきだった」 |
アーキス |
アーキスは、先ほどから周囲を見渡していた。 何事か呟きをもらし、不審げに町を観察する。 リューイ< 「風の具合がおかしいようですね。創造竜の夢の欠片…魔力の濃度が異常です」 |
ノーイ |
リューイ< 「いえ――、ちょっと、急に…」 |
リューイ |
「・・・いやに寒いな・・・」 呟いて、町の様子を見渡す。 夕飯の仕度でもしているのだろうか、煙のたなびく様を見ながらそんなふうに思う。 まだ夕方だというのに外に人影が見られないというのが、奇妙と言えば奇妙だろうか。 (寒さで外に出るのを控えているのだとすれば、別におかしくないかな・・・?) もしくは、魔獣を警戒しているのかもしれない。 ぼんやりとそんなことを考えながら、ふとノーイに視線を移した。 ノーイ< 青い顔をしているのに気付き、僅かに顔色を変えた。 |
GM |
リューイたちは川沿いに更に歩き続けた。 日が暮れるころ、夕焼けに包まれた小さな町にたどり着く。 煉瓦造りの家々ばかりの町で、そこここの煙突からかまどの煙がたなびいている。外に出ている人々の姿はない。 やけに、風が冷たかった。 ノーイが青い顔をして、犬を、すがるように抱きしめている。 |
ノーイ |
リューイ< 「ええ、大丈夫ですよ」 |
リューイ |
アーキス< 少し考え込むようにしたあとで。 ノーイ< 「もう少しだけ頑張ってくれるかな? |
アーキス |
リューイ< 「どうしましょうかね。 |
リューイ |
無事森を抜けられたことに安堵の息をつく。 自分達が魔法で見張られていたとするなら、まだ安心できる状況ではないけれど。 (嵐の前の静けさ・・・って奴かな) そんなふうに思いながら、何の気もなしに辺りの様子を見た。 野営の跡に、自分達は今日はどこで休もうか・・・などと考える。 日暮れまで約1時間。 もう少し距離を稼げるだろうか? そんなことを考えていたが、ノーイの声に我に返る。 ノーイ< 「・・・本当だ。風が冷たくなってきた・・・」 |
ノーイ |
リューイ< 「なんだか…、肌寒くなってきましたね」 |
GM |
それ以後はとくに何事も無く道を進んでいった。 時折ノーイが悪寒を感じた事もあったが、明らかな妨害や障害は無い。 一、二時間も歩いたころ、ホルンの森を抜けた。 … 先には緑の色が広がっている。 そこは、背後に森を背負う、小高い丘になっていた。 右手の方に川が流れており、清らかなせせらぎの音が聞こえる。 そこに、野営らしきもののあとがあった。火を焚いた炭の跡や何かだ。 西には草原が広がっている。 正面には道が蛇行を繰り返して先に走っていき、奥の奥のほうで深い緑の森の中へと入り込んでいる。ノームの森は、常緑樹ばかりで形成される深い森だ。その森の東端、いま彼らが右においている川沿いに進んでいくと、例の、ノームの森から現れるという魔物の襲撃を受けたという、小さな町があるはずだ。 … 太陽がそろそろと、西の空の方に移動をしている。もう一時間もすれば空が朱色に染まってくるだろう。 |
リューイ |
ノーイ< 「うん・・・でも、焦ることはないから。」 アーキス< 「そうですね、行きましょうか。」 |
アーキス |
リューイ< 「まあ、虎穴にいらずんば虎子を得ず。 |
ノーイ |
リューイ< 照れたように笑む。 |
リューイ |
アーキス< 癒えた傷口を感心したように触って確かめた後。 ノーイ< 少し驚いたように目を見開いて、ノーイを見た。 |
ノーイ |
あ、と声を上げて、慌てて腕の力を緩める。 犬が急いで腕から飛び降り、不満げにノーイを見上げた。 申し訳なさそうに犬の頭を撫でてやりながら、 リューイ< 「私が、本当に魔術師だったらよかったのに」 |
アーキス |
リューイ< 手当てをはじめようとするリューイを留める。 「これで大丈夫でしょう。 |
リューイ |
「・・・ッ痛・・・」 僅かに眉をひそめ、殴られた側頭部を押さえている。 (ふいをつかれたら、危なかったかな・・・?) 気付けて良かった、と思いながら剣をぬぐい鞘に納めた。 さりげなく周りを確認しながら、ノーイ達の方に向き直る。 ノーイ< 「大丈夫・・・たいしたことないよ。」 アーキス< 「・・・ずいぶん勇敢なオークでしたね?」 |
GM |
アーキスは敵の出現を見て取ると、迷わず詠唱をはじめた。 「四空に戦士あり」 “ウィンドカッター”の魔法だった。 リューイはひとり前に出、剣を抜き、そして一挙動で振りぬいた。 >オークAに「隼斬」! 「戦士の道に大地なく」 突撃をかけながら先制攻撃を掛けられたオークは激怒し、手にした太い木の枝を振り回す。 <リューイに攻撃! リューイはそれをがっきと受け、とめずに地面へと叩きつけさせる。がら空きになったオークの脇腹を、撫でるようにして切り裂いた。 「戦士の剣に光なし」 吠えながら、もう一度オークが攻撃を仕掛ける。 <リューイに攻撃! ほんの数瞬のやり取り。オークは地に伏した。 「光なき故に無形の覇者」 それを見て取ったアーキスは、詠唱を取りやめて、半ばまで完成した魔術を解放する。 <リューイに攻撃! リューイは避け損ね、側頭部に手痛い一撃を受ける。 >オークBに攻撃! 先ほどの攻撃をリューイが受けてしまったのを油断だといえるほど、その攻撃は甘くは無かった。そのオークがリューイの斬撃のひとつで屠られたのは、しかし油断だった。 ≪戦闘開始≫ ≪情報≫ ≪状態≫
ノーイ アーキス |
GM |
アーキスとノーイがそれぞれに答えようとする。 彼らが何事か言いかける、その瞬間、リューイは違和感の正体に、その原因に気がついた。 “待ち伏せだ!” 茂みの中から、影が飛び出してくる。 ≪戦闘開始≫ ≪情報≫ ≪状態≫
ノーイ アーキス |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
何か違和感を感じて、リューイは足を止めた。 (・・・何だ?この感じ・・・) 無意識に片手を首筋に当て、僅かに眉を潜める。 「・・・待ってください。ちょっと、止まって。」 少し硬めの声でそう言うと、ふたりを静止した。 アーキス< 「アーキスさん、あの茂みの辺り・・・何か感じませんか?」 ノーイ< 止まって、と仕草で伝えながら、同じように尋ねた。 |
GM |
ホルンの森は、その名に似合わず静謐な空気の満ちた森で、木々が複雑に絡まりあって、朝の淡い日差しはほとんど降りていなかった。 薄暗い中に森特有のしっとりとした風が流れている。 そこを、一本の獣道が貫いている。 獣道と言っても、旅人や、それこそ獣に踏み固められた地面は歩きやすく、ノーイもたいした苦労もせずに彼らについていくことができた。 森に入ってから十数分後。 |
アーキス |
リューイ< 「虎穴にいらずんば虎子を得ず。随分と的を射た故事もあったものです」 ひょいと肩をすくめて、リューイに従って歩を進める。 |
リューイ |
ノーイ< 言われた言葉に、軽く困惑の表情を浮かべて。 アーキス< 「・・・何かって・・・、あぁ」 |
アーキス |
ノーイ< 「…ふむ、また、興味深いことですね…」 リューイ< 「まあ、既に何かが起こっているかもしれませんけどね」 |
ノーイ |
リューイ< 「…そう、ですね」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 問いかけに頷いて。 ノーイ< 「森に掛かっている魔法は、まだ見える?」 |
GM |
「はい」と答えるノーイを後ろにリューイは水を汲みに行った。 そして、食事が終了し(ノーイは奮闘したが、けっきょく、食事はアーキスが作った)野営地を畳む。 アーキスがリューイにいった。 「ホルンの森へ目指しますか?」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 「おはよう、ノーイ。」 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「あ、リューイさん、どちらへ行くのですか?」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
(・・・結局、何事もなく夜が明けたか・・・) 良かった、と胸の中で呟く。 筋肉を軽く解しながら、朝の森を眺めた。 太陽の下で見る森は、とても美しく目に映る。 何かの魔力の影響下にあるとは思えなかった。 (―今日中に、越えられるといいのだけど・・・。) そんな風に考えながら、水を汲んでこようと立ちあがった。 |
GM |
今度は平穏に、夜が過ぎていく。 そして、明けた。 静謐な朝の空気に包まれて、今のホルンの森は、この上もなく神秘的に映る。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< ノーイを見てから、ひょいと肩を竦めて見せて、そして戻っていった。 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「はいっ」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 犬を抱きしめる姿に淡く微笑する。 アーキス< 青年の言葉に頷いて、踵を返す。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「ノーイ嬢のいい友人になりそうですね?」 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 犬を抱きしめて、頷く。 |
GM |
周囲を見渡しても他の生き物の気配も姿も、ない。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 犯罪的に、という言葉に珍しく破顔する。 ノーイ< 「動物は好き?」 |
黒髪のノーイ |
翼の生えた犬< 「可愛い…」 |
翼の生えた犬 |
リューイ< 犬特有の、何もかもを理解していそうで、理解していなさそうでもある瞳で、リューイを見返す。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「いえ…」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 首を傾げ、彼の方へ視線をやる。 犬(?)< 片膝をついて、驚かさないようにしながら手を伸ばす。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「これは――この生き物は…」 |
黒髪のノーイ |
犬?< 無言で犬らしき生き物を見つめている。 |
翼の生えた犬 |
アーキスとノーイがくると、尾を振りながら近付いていく。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
返そうとした剣を、慌てて止める。 「・・・・・・・・・犬?」 数秒間の沈黙。 完全に無表情のまま―これは呆然としてしまっただけなのだが―犬らしき生き物を見下ろす。 ノーム森林に出るという魔物、にはどう見ても思えない。 しかし、こんな生き物がたまたま出てくるというのも・・・あまりないのではないだろうか。 そんなことを考えながら、リューイは小さく苦笑した。 どうも怯えられているらしい。 小動物を苛めているようで気が咎めて、とりあえず彼は剣をしまった。 ノーイ&アーキス< かけられた声に、無言で体をずらしその生き物を見せた。 |
GM |
ノーイは小さく身じろぎしてから起き上がる。 アーキスは、声が掛けられてから一瞬後に跳ね起き、リューイの姿を探す。 リューイが注意を向けたままの草むらから現れたのは… 「どうなさったのですか?」
|
リューイ・イシル・ウィンダリア |
揺れる草むらをみて、リューイの眼が細められる。 (何かがいる!) 腰から剣を引き抜くと、その「何か」が隠れている草むらを切り払う。 それと同時に、眠っているふたりにむけて声をかけた。 ノーイ&アーキス< 「ふたりとも、起きろ!」 |
GM |
リューイの行動に反応したように、今度は、大きな音が響く。 明らかに、今は彼の正面の草の陰に何かがいることがわかる。息を潜めて隠れているようだが、どうする…? |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
何もなかったかのように、再び月へとその視線を移す。 しかし空を見上げるその顔からは、先程までの無防備さが消えていた。 (・・・気のせいじゃない。確かに聞こえた。) ほんの僅かに、細い眉がひそめられる。 音がしたのは、確かだ。 問題は、それが「何の音か」ということ。 獣の類であれば問題はない。 けれど。 躊躇したのは一瞬だった。 何気ない仕草で、彼は立ち上がった。 表情も眼差しも、静かなまま。 けれど次の瞬間、身体を翻しリューイは音のした方向へと突進した。 |
GM |
がさり。 不意に、東側、リューイの後ろの方角で音がした。 非常に小さな音だったが、ちょうど東側が風上だったために彼の耳にも届いたのだろう。 …視線を向けてみても、何か特別なものが見えるわけではない。 だが、確かに音はしたのだ。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
リューイはまっすぐに月を見上げていた。 空に向けられている顔には、あまり表情がなく。 無心に月を眺める横顔は、年相応の幼さが見て取れた。 (こんなふうに空を見るのは久しぶりだ・・・) 景色や空へ関心を向けることなんて、ずいぶんなかったから。 少しは、自分も変われたということなのだろうか? とりとめのない思いが、浮かんでは消える。 段々と位置を変えていく空を眺めながら、時間を過ごした。 ごく自然な姿勢だが、気付くものは彼がいつでも動ける姿勢にあるのがわかるだろう |
GM |
かくして、夜は更けていく。 アーキスが眠り込んでから数刻立つ。 あたりに異常は無く、忍び寄るものの気配も無い。 平穏な夜が、満ちていた。空に、輪郭も美しい月が貼り付いている。 遠くに見える森も、今はひっそりと眠り込んでいるようだ。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「…、そうですねぇ。 そして、自分の毛布を取って、手頃な岩を見つけ、それを背にして毛布を被った。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 興味深そうな眼差しでアーキスの言葉に耳を傾けていた。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「かしこまりました、剣士殿」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 「運命か・・・。」 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「それはまた、興味深いめぐり合わせだ。あなたは運命の申し子をその背に負われているのかもしれませんね」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 生真面目な顔に、僅かに困惑の色が滲む。 |
“道化”のアーキス |
道化の化粧そのまま、能面のような表情で、リューイを見る。 視線は大して生きていない。 リューイ< 「そういえば、リーダー殿? |
GM |
日が落ちる。 広大な草原に満ちた、濃厚な闇の幕を、赤々とした光りが突き抜けている。 ノーイは、地面に足を折り曲げて休んでいるオニキスにもたれるようにしており、どうやら眠っているようだ。 見張りをしているリューイに、焚火の前に腰を下ろしているアーキスが話しかけた。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「道化師とは、ひとを楽しませるものでなくてはね」 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「大物ですか? ありがとう」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 楽しそうなノーイの様子に顔をほころばせる。 アーキス< 彼の台詞に深く頷き、軽く首を傾げる。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「アイ・アイ・サー。リーダー殿」 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「はい、…それじゃあ、野営をするんですね。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
「リーダー」と言われて、面食らったように目を円くする。 きょとんとした表情が、めずらしく前面に出て誰の目にも明らかだ。 アーキス< 「・・・僕が?」 ノーイ< 自分の方を見る視線に気付き、そちらへ向き直る。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「そうですねぇ…」 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「あまり自信はありませんけど…」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 「上・・・?」 アーキス< 「そうですか・・・。 「では、森に働いている魔法も気をつけたほうが良いかな。 |
“道化”のアーキス |
ノーイ< 「なるほど…」 リューイ< 暫く経ってからリューイに向かい、 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「良くは…」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
「森に魔法が・・・?」 そう言いながら、目をこらすようにして森を見直す。 (魔術の使えない僕には、わからないか。) 視界に広がるのは、夕陽に染まる森の木々だけだった。 ノーイ< 彼女の言葉に、僅かに目つきを鋭くする。 アーキス< 視線を草原へ向けたまま、 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 平原に霞む地平を見回しながら、不安な面持ちでリューイに言う。 |
“道化”のアーキス |
アーキスは朱に美麗なホルンの森の輪郭を眺めた。 遍く魔力の輝きを映すことの出来る彼の瞳には、不自然なほどの魔力の光に溢れた、もう一つの森の姿が見えた。 リューイ< 「魔獣の類は…ぼくの知る限りはですけどね。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
「夜・・・か。」 ぽつりと呟き、辺りの風景に目を凝らしてみる。 視認できる範囲に、妖しいものはなさそうだが・・・。 アーキス< 「ホルンの森では、何か魔獣の類って出るんでしょうか?」 |
GM |
一向は順調に路を進み、シノン街道が北に折れる場所までやってきた。 リューイ達の目の前には、小広い草原が広がりその手奥に森が見える。 あれが、ホルンの森であろう。 気が付くと、日は傾き、朱が西の陽から広がって、天空に美麗な漣を波打たせていた。 このまま進むと、ホルンの森の中で夜を過ごすことになりそうだが… |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「はい」 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「それも選択ですね。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
考え込むように目を伏せる。 が、すぐに顔をあげて相手の顔を見た。 アーキス< 「・・・いえ、全員で動きましょう。 ノーイ< 「・・・とりあえず行こうか。」 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「わたしは、特に… アーキス< 「…、でしたら、そのときはお願いしますね」 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「それが順当じゃないかと、ぼくも思いますねぇ。 ノーイ< 「その場合は、ぼくがお嬢さんの護衛を務めましょう」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 「街道を抜けてホルンの森を通過するつもりでした。 ノーイ< 「ノーイはどう?意見があれば聞かせて欲しい。」 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 差し出された手を右手で握り、 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 「では、アーキス。しばらくの間よろしくお願いします。」 |
“道化”のアーキス |
リューイ< ああ、これは失礼でした。そう言って、アーキスは優雅に一礼した。 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「はい、リューイも、痛い思いをしないで済みますね」 アーキス< 「よろしくお願いします」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
アーキス< 「では、お互い様と言う事ですね。」 ノーイ< 振り返って軽く微笑を浮かべる。 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「いやいや、僕もこっそりと近付いてしまいました。失礼でした」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
「・・・っ!」 頭がまだ戦闘状況から抜けきっていなかったリューイは、思わず息を飲む。 振りかえる、ただそれだけの動きがやや緊張気味になってしまった。 「・・・・・・?」 いつのまにか後ろに立っていた、相手を見て。 表情の少ないリューイの目が、軽く見開かれた。 草原の緑の中に、とてつもなく彼のまとう色彩は目立つ。 (それなのに、こんな側にくるまで気が付かなかったなんて。) 己の未熟と、それ以上に相手に対してすごいと思った。 アーキス< 「すみません・・・まったく気が付きませんでした。」 |
“道化”のアーキス |
リューイ< 「お助けしたのは、僕ですよ、剣士さん」 ノーイ< 「それから、美しいお嬢さん」 |
GM |
ノーイの台詞に続けるように、リューイの後ろから声が届く。 「そうですよ、ひどいなぁ」 何時の間にか、リューイの後ろに、奇怪な服装をした細身の男が立っている。 原色を散りばめたひらひらとした服に、顔料を塗りたくった顔。 道化の様相である。 涙と笑いを象った化粧の下で、表情は不思議に乾いていた。 |
黒髪のノーイ |
リューイ< きょとんとしてから、頭を振る。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 思ったよりも元気な様子に安堵の息をつく。 「魔術、だと思うよ。 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 駆け寄ると、気遣う目で傷口を見る。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
呼吸を整え、剣を鞘に戻す。 (斥候・・・?だとしたら、ずいぶん用心深いな。) したたかに殴られた即頭部に触れてみる。 「痛い・・・ってほどでも、ないか。」 まあ、大丈夫だろう。 そんなふうに呟くと、同行者の方へゆっくりと戻る。 ノーイ< 「・・・大丈夫?怪我は?」 |
戦闘 |
「・・・逃がさない!」 リューイは即座に駆け出し、追撃していた。 周囲に気を配りながらも全速で走る。 だが、ゴブリンも必死で、容易には追いつけない。 もし、この近くに敵の別働隊が居れば、厄介なことになる。 彼が歯噛みしたとき、草原に、朗々とした声が響いた。 「其は浮揚の花の如く柔らかく、揺蕩う。
刹那、青い光を仄かに放つ、朧な輪郭の網が、走る赤膚鬼の脚部へと纏わりつき、絡みつく。 ≪戦闘終了≫
≪情報≫
≪状態≫
ノーイ:
軍馬オニキス:
周囲には、他には害敵はいないようだ。 |
戦闘 |
ゴブリン達が立ち直る隙を与えず、リューイは、その群れの中に飛び込んだ。手近に居た魔物との間合いを一気につめると、一挙動で切りつける。 <隼斬> 速攻の強撃が袈裟懸けにゴブリンを刻み、続けざまの攻撃が逆袈裟に決まる。そこで、他の二体は正気に戻った。 彼の攻撃を受けたゴブリンは恐慌から冷めていないものの、決死の攻撃を仕掛けてくる。手に持った弓を捨てて、殴りかかる。 その場に置いていた棍棒の存在は忘れているようだ。 リューイは落ち着いて拳を躱し、攻撃をその動きにあわせた。 強烈なカウンターが入り、ゴブリンは倒れた。 残りの二体に向き直る。 内一体(ゴブリンC)が彼に、残り(ゴブリンB)が彼の脇を抜けてオニキスとノーイの方へと向かっている。 目の前の一体の攻撃を避け、駄賃に軽い一撃を食らわせて牽制すると、後ろへ飛んで、ノーイへと進んでいたゴブリン(B)を妨害する。 その動作で隙が出来ていたからか、そのゴブリン(B)が打ち下ろしてきた棍棒を躱し切れずに側頭に受けてしまう。 リューイ:
顔を顰めながらも恐れず、リューイは切りかかる。 戦況の変化で、行動方針に変更をする方はメールを送ってください |
GM |
ノーイがリューイに答えたその時、彼は背筋に走る物を感じて、素早く剣を抜き放つ。そして、左翼から風を斬って一向に飛来する数本の矢の軌道を即座に見切り、その悉くを斬り落とした。 (狙撃…!) 矢が放たれてきた左手の方を見やると、背の高い草に紛れて、小柄で醜悪な黒い影が弓を構えているのを見つける。 最も下等で、だが狡猾な妖魔、赤膚鬼<ゴブリン>だ。 性質は臆病で、人間との正面からの戦いは滅多に挑んで来ないものだが…、女性交じりの為に、簡単な獲物と見誤ったのだろうか。 射放った矢が全て打ち落とされたのを見て、彼らは恐慌に陥っていた。 (馬に付いて、データを変更しましたので、こちらをご覧下さい。 ≪戦闘開始≫
≪情報≫
≪状態≫
ノーイ:
軍馬オニキス:
|
黒髪のノーイ |
リューイ< ノーイは僅かに表情を硬くした。 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 小さく微笑んで周りを見渡した。 |
黒髪のノーイ |
リューイ< 「オニキスですか…、綺麗な感じの名前」 オニキス< 「こんにちは、オニキス。改めて、宜しく」 |
リューイ・イシル・ウィンダリア |
ノーイ< 「あぁ、そういえばこいつの紹介がまだだったね。」 |
黒髪のノーイ |
ギルド員に借用した旅装に身を包んで、風に髪をなびかせながら歩いていたノーイが、ふと思いついたように、 リューイ< 「そういえば、この子の名前はなんと言うんですか?」 |
GM |
リューイたちは、ミノッツの首都から二日ほどの場所まで進んでいた。街道を東に向かい、目的地までの半分弱まで来ている。 街道は広大な草原に挟まれており、野生の馬も目立つ。 リューイの黒馬が仲間にふとした視線を注いだりなどして、のどかな空気が流れていた。 |