PBeM
〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

シナリオ
13
「謎の洞窟への挑戦」

 ラウス、フィックが受けた依頼――
『“謎の洞窟”調査の助力』
 だれが、いつ、何のために造ったのか、仔細のまったく分からない洞窟。唯一知らされているのはその名前だけ。「謎の洞窟」。
 二人は先に出発している考古学者ジョーンズと合流し、この洞窟の踏破を行わなくてはならない。



GM

 ラウスたちは、境界都市オウロの竜追いギルドまで戻っていった。


ジョーンズ

ラウス<

「ああ、では、行こうか」


フィック

 神妙に、ラウスの顔を見やってから……
 堪えきれずに笑い出す。

ラウス<

「あんまり、神に祈るという質ではないんですね、本当に」


ラウス

ジョーンズ<

「それでは街まで案内をお願いします。遺跡についても僕らにできるのもここまででしょうから」

フィック<

「ここは感謝の祈りくらい捧げておくべきなのかもしれないね」
 安心したのか、あるいは今頃、神秘に触れた実感がわいてきたのかもしれない。彼にしては珍しく愁傷なセリフだった。

独り言(祈り?)<

「女神の導きに感謝します……」
 そう言ってみたもののあまりしっくり来なかったらしい。ラウスは首をかしげて唸った。
「う〜ん……」


GM

 「町へ戻る」と宣言すれば、いつでもシナリオを終わらせることができます。


ジョーンズ

ALL<

「この辺りならよく知っているよ。
 ぼくが案内できるから……たぶん、迷うことなしに帰ることができるんじゃないかな」


フィック

ラウス<

「きっと、神の思し召しですよ」
 にっこりと応じた。


ラウス

「どうやら、これは……オウロの近くかな」
 顎に指を当てて呟き、安堵したように頬を緩めた。

フィック<

「幸運なのか、女神の思し召しかはわからないが、どちらにせよ野宿の必要はないみたいだよ」


GM

 一行は、丘を登っていく。
 傾斜は緩やかだが、高く、結構、頂上まで行くのは骨が折れた。
 頂上に着くと、足下には森が広がっている。
 そして、視界の大部分に、随分と覚えのある山景が広がっている。
 サーマヴァーロフ山脈の中の……境界都市近くの、風景じゃあないだろか。と、ラウスは思った。


フィック

ラウス<

「余裕があったら、一度、野伏の方を雇ってみたいですね。
 どんな技術があって、どのような人がなるのか、色々と興味を持っていたんです。
 ……そうですね、まあ、幸い森は食料も豊富でしょうし、餓死することもないですしね」


ラウス

フィック<

「そうだね。一度登ってみよう。それで現在位置がわかればよし、わからなきゃ休んでから……」
 ラウスは少し言葉を切って続けた。
「……海の方へ進めば場所はわからないでもないだろうけれど、崖になってるかもしれないね。気長に街道を探そうか。僕に野伏の心得があったら良かったんだけどね」


フィック

ラウス<

「いつか我が家にご招待しますよ」
 にこりとしてみせる。
 それから、冗談めかして、
「その時は、口にチャックをしないといけないですね」

ジョーンズ<

「なんのことでしょうか?」
 何も聞こえなかったようなそぶりでそう答える。それから、笑って首を振って見せた。

ALL<

「とりあえず、丘に登ってみましょうか?」


ジョーンズ

ラウス<

「この世界はかくも詩的にできているわけだね」
 同じように空を見上げる。
「われわれは、忘れられた神々に囲まれて、また、次々と神々を生み続けるわけだ」

 フィックの方に、済まなさそうな目を向けて、

「学術的なことをいっているわけであって、信仰をけなしているわけではないよ…?」


ラウス

フィック<

「キミの実家というとあの神聖王国だものね。いつかは行ってみたいけど――少し口には気をつけたほうが良さそうだ」
 ラウスは苦笑を漏らして言った。
 
ジョーンズ<

「星空の中には忘れられた神々がいるわけですか。面白い話ですね……」
 ラウスは丘の向こうの空を見ながら呟いた。


ジョーンズ

ラウス<

「そうか……うぅん。
 他の聖地とやらを見つけても、ぼくが質問できなかったらやはり切ないな。
 まあ、うん、ありがとう。
 次のぼくの課題は、その聖地の発見かな」

フィック<

「こういった説を口にすると、本気で怒りだす人もいるんだけど……まあ、もし気に触ったら、赦して欲しいな」

ラウス<

「神は、人の信仰がなければ生きていけないという説がある。
 信仰というか、愛だね。
 ぼくたちがパンを食べ、水を飲まなければならないのと同じように、神々は人に愛され、信仰されなければ滅んでしまうというのさ。
 信徒を失い、忘れられた神々は、零落し、風の囁きや水のせせらぎと同じような存在になってしまうんだ。
 そして、いつかそれでさえもなくなり、最後には、空に輝くひとかけらの星になる。
 ……まあ、ぼくがそう信じているわけではないけど、そういった話を聞いたことがあるね」
 肩をすくめてから、前を見て、
「ほら、あれがその丘さ。
 あそこに登っても何も分からなかったら、どうしたもんかなぁ……」


フィック

ラウス<

 やや唖然とした顔をしてから、くすりと顔をほころばせる。
「そういった台詞を私の母が聞きつけたら、すぐに木の鞭を持ってきますよ」
 彼自身は、あまりそういった狭量さとは無縁のようだ。


ラウス

フィック<

「いやそんな事はない。あの女神はこう言っていたよ。『神は常に信奉者を欲する』と。確かに僕は神に頼ろうとしないけれど、だからこそあんな体験ができたのかもしれない。何故、神という存在が信奉者を求めるのかはわからないけれど」
 ラウスはそんな事を言ってから軽く付け加えた。
「しかしまあ、僕たちにしたって疑われるよりは信じられた方が気分がいいものだしね」
 畏敬の念もなにもあったものではない。

ジョーンズ<

「そうですね。あの女神にとっての財宝とは真実と知識の事のようですから。他にも聖地があるような話でしたけれど、お金になるような物は期待できないでしょう」
 遺跡の中が簡素な作りだったのも、女神像が裸婦であったのも、恐らく女神が真実を好み虚飾を嫌う性質を持つからだろう、とラウスは考えた。


ジョーンズ

「知識と真実の女神か……」
 かぶりを振った拍子にずれてしまった帽子を整える。

ラウス<

「できれば、ぼくの前にも現われて欲しかったものだ。
 神に頼るのはきらいだけど、……うーん、まあ、簡単に答えを与えられても面白くないかな?」
 肩をすくめる。
「しかし、財宝も何も見つけられなかったのは残念だ。
 少々、資金も少なくなってきた頃だからね」


フィック

ラウス<

「ラウスさんは奇跡を体験されたのですね……」
 頷いて、思案げに呟く。
 ラウスに質問するようでいて、独り言めいてもいる。
「私は、ラウスさんはあまり神というものには頼らない方であると思っていましたが、違ったんでしょうか……。
 それとも、神は、自らを信じるか信じないかなどを些末事だとお考えになられる……?
 私が奉じる神と、あの聖地の神とは、関係はないのかも知れませんが……」


GM

「あっちの方に森の切れ目があったようだったから、そこに行ってみれば、何か分かるかも知れないね」
 というジョーンズが先頭に立って進んでいく。
 途中で、ラウスの説明を聞いて、二人ともいたく驚いた。


ラウス

独り言<

「使われぬ知識に価値はない……」
 女神のセリフを呟いて確認する。その言葉に偽りがなければ、けして帰れないような場所に来ているわけではないだろう。

ジョーンズ<

「……そうですね。とにかく進んでみましょう。私が呆けている間のそちらの事は大体わかりましたし、こちらの事も進みながらおいおい話していきますよ」
 ラウスはジョードヌや創造竜の事はともかくとして、女神と遺跡の事くらいは話しておいて良いだろう、と考えてそんなことをいった。もしかすればジョーンズの発見がふいになってしまったかもしれないからだ。


ジョーンズ

ラウス<

「きみがぼんやりとしている間、フィックくんにいてもらって、ちょっと調べては見たんだ。
 空気の匂いや、気温に、目立った違いはないし、植物の生え方も、変わらない。
 だから、どこかにとばされたんだとしても、まあ、そんなに離れた場所じゃあないと思うよ。
 ただまあ、迷子になっちゃったんだとすれば、少し面倒だねぇ。
 どうしようか?
 とりあえず、歩き出してみるかい?」


フィック

ラウス<

「いえ、大丈夫なようで、良かったです」
 にっこりとする。
「遺跡が幻……そうですね、そういう可能性もありましたね」
 頷く。


ラウス

ジョーンズ<

「森……?」
 言われて辺りを見渡すと確かに周囲は森だ。

フィック<

「そうか、心配をかけたね。とにかく僕は平気だよ。とは言っても……なんだか変なことになったね」
 女神の言葉が気にならないでもなかったが、とにかく目の前の事を整理することにした。

ジョーンズ&フィック<

「遺跡からどこかへ魔法で飛ばされたのか、それとも遺跡自体が幻のような存在だったのか……。とにかく辺りを調べたほうがいいでしょう」
 未だに遺跡の中にいて幻を見ているという可能性が無いでもなかったが、あの女神の言葉を考えるとラウスにはそれはないように思えた。


フィック

ラウス<

「ジョーンズさんが女神像の横を通り抜けようとした途端、周りの景色が歪んで、気がついたらここにいたんです。
 ラウスさんだけ、なんだかぼんやりとした様子でいたので、何か変な魔法が掛かっているのかと心配しました」


ジョーンズ

ラウス<

「きみが……というか、ぼくたちが。かな?」
 頬をかきながら、周囲の森を示す。
「一体ここは、どこなんだろうねぇ」


GM

 二人は、互いに顔を見合わせて、首をひねっている。
 ……それから、ジョーンズが口を開いた。


ラウス

 ラウスはどうやら戻ってこれたらしい、と気がつくと口を開いた。

ジョーンズ&フィック<

「いったい、僕はどうなっていたんです?」


GM

 女神像が存在感を失っていき……
 気がつけば、ラウスはジョーンズとフィックに顔をのぞき込まれている。


女神像

ラウス<

「“楽園に至る”時とは、使徒が肉体を失った時である。故に、使徒は転生の時を待つこととなる。
 そして、その知識を女神に語り、同時に楽園より知識を得る。
 時が来、そして望むならば同じ魂を持ち、同じ種族として、この世界の何処かに生まれることとなる。
 また、望むならば、女神が眷属として、南西の野に生を受けることとなる」

 女神像の瞳が、みたび、輝いた。

「ラウス=ウォード。それは知識を与えられた。
 そして肉体を失った際の、選択肢をも得た。
 それは、“楽園に至る”のを望むことができる。
 それまでこの扉は、開くことはない。
 神とは常に信奉者を欲するもの。
 いずれまた会えることを望む。ラウス=ウォード」


ラウス

 最後にもたらされた答えにラウスはほう、と息を漏らした。誰にも発見されず眠り、失われ行く知識や真実を活かすというのは悪くない話だ。
 けれども同時に、真実を覆い隠すことによって生まれるものもあるのではないか、という考えがラウスの脳裏をフッとよぎった。ラウスはこの女神の教義には向いていないらしい。
「それで最後に一つだけ訊けるんだったね。それじゃ……」
 そこで先ほどの女神が本当に女神なのか、という疑念を思い出す。だがラウスは当人に向かって「本物ですか」と訊いても仕方がないことだ、と思い当たり、別のことを訊くことにした。
「楽園にたどり着いた使徒は、それからどうなるんだろう?」


女神像

ラウス<

「それは女神が楽園にあり。
 楽園より、ラウス=ウォードが最後の問いに答えよう」

 額の中心にある目が、一度瞬く。

「女神は、知識と真実を守護するもの。
 用いられぬ知識に価値はなく、明らかにされぬ真実に意味はない。
 故にこそ、女神はあらゆる“知”を集め、楽園より、相応しき者に与える。
 この聖地は、そのための手段の一つである。
 大陸に存在する二つ目の門であり、楽園に通ず。女神の使徒はこの門より楽園にいたり、使徒にあらざれば、この門より“知”を得る」


ラウス

 ラウスは女神の言葉に微かに苦笑すると、先ほどの答えを吟味した。創造竜を見つけたければ、魔境を巡らなければならないらしい。脅威は大きくないと言えども、今のラウスには荷が勝ちそうな話だ。
 とはいえ全く無価値な情報ではない。後々何かの役に立つだろう。
「それでは最後の質問。この遺跡はなんのために作られたのか?」
 ラウスは自身の好奇心が満たされたところで、どうしてこのような知識が自分に与えられようとしているのか気になったようだ。


女神像

ラウス<

「かの神は今、すべての子らの前から身を隠している。この大地のあらゆる者は創造の竜が子であり、この女神もまた、かの者の子であることに変わりはない。故にこそ、女神はそれの知識を持たず。ではあるが、後者。それは女神が楽園にあり。
 楽園より、ラウス=ウォードがひとつ目の問いに答えよう」

 額の中心にある目が、一度瞬く。

「時が来れば、かの者は自ずと姿を見せる。
 その時を作り出すのは“竜追い”であり、それらが作り出せねば、亡びの時まで、竜は現われぬ。
 一つならぬ、過去において竜が身を休めた地を求めるが良い。
 時が経つにつれ、それらの地は、人の身にとっての魔境へと変わっていく。その刻限は切られたばかりであり、今ならば、脅威は大きからず。
 それらの地を“観測”するごとに、竜の存在は、その子らの前に集束していく。
 すれば、いずれ、竜の居場所を求めることも可能となろう」

 ……と、像が言葉を続けだした。
 それはそれまでとは、少し違う調子だった。

「新しき知識には疑いがつきまとわるもの。ラウス=ウォード、それの疑念に対し、不謹慎となじるものは、女神が使徒にはいまい。
 疑問は、三つ目の質問の後に口にするが良い。
 三つの知識に、ただ一つの質問のみ、許される。

 故に今は、それの言葉の内、……女神に対するその礼賛の言のみを、個人的好意として受け取っておこう」


ラウス

(匠の者というとどこかの船大工、厄は魔物か何かだろう)
 ラウスは一つずつ見当をつけていく。
(しかし神の加護で進む船だって?)
 しかも海流に逆らって進み続けるというのだから、ラウスの想像の埒外である。今更ながらに疑念も沸きあがってくる。
(何か変なものに、からかわれているんじゃないだろうな。そうでなくとも良い女ほど巧く嘘をつくもんだ)
 ラウスは彼の父親が時折口にする、訓戒めいた戯言を胸中で呟いて苦笑した。どうせ今考えてもどうしようもないことだ。
 女神の言葉をしっかりと記憶したラウスは、気をとりなおして次の質問を口にした。
「創造竜の居場所、それがわからなければ手がかりのようなものは?」


女神像

ラウス<

「その知識は女神が楽園にあり。
 楽園より、ラウス=ウォードがひとつ目の問いに答えよう」

 額の中心にある目が、一度瞬く。

「まずは船を得よ。人の力のみではなく、風と水の神アルフェイルが加護により進む船を探すが良い。その船、未だこの世界に姿を得ざりしが、心にそれを見出した匠の者がある。
 意志と機会を与え、海の王国より発て。
 そして氷雪の国、北の果てより西に向かう。
 水の流れに常に逆らい、厄は火と油を以て打ち払え。
 二月と七日の後に、大陸に至る。」


ラウス

(特定の知識が与えられるものではなかったか。拍子抜けしたがこれはこれで面白い)
 目下、人族の疑問といえばリンテグレル魔境になにがあるかだが、そういった知識をここで得るのはあまりにつまらない。あとは竜追いとしての本義である、創造竜探索に関してだろうか。とはいえ、神話の中で見失われた創造竜のことを、この女神が知っているかといえばそれはそれで疑問だ。
(よし、一つ女神を試してやれ)
 非常に罰当たりなことを考えながらラウスは一つ目の質問をしてみることにした。
「噂に聞くジョードヌ大陸へと到るための方法は?」


女神像

ラウス<

「ラウス=ウォードが望む知識を与えよう。
 問うが良い。その問いがいかなるものであれ、この女神が知ることならば、ラウス=ウォードに答えを与えよう」


ラウス

(二人とも近くにいるような気がするのに、返事がない。幻覚のようなものに囚われているのか)
 女神像の額の宝石を見つめながらさらに考える。『女神の使徒』という言葉から恐らく先ほどの推測は概ね当たっていたのだろう。
(だが使徒には与えられないものとは? 使徒のための神殿にたまたまそんなものがあったのか、それとも……?)
 そこで思い当たる。
(もしも『真実の女神』の使徒ならば、必ず真実を求めるんじゃないか? 鎖というのがそういう意味だとすると……)
 推測に推測を重ねて推察する。
 勘繰りすぎている可能性もあるが、どうせ手に入るのはどちらか片方だ。
「我、ラウス=ウォードは知識を求めん」


女神像

ラウス<

 額の部分にある、そこだけまるで生きているような目が、ラウスを見下ろす。
「ラウス=ウォード、其れはこの女神が使徒にあらず。
 故にこそ、其れはただ一度、三つの知識、あるいは真実を与えられる。
 ラウス=ウォード、鎖持たざる者。
 其れは知識を求めしか? それとも、真実を求めしか?」


GM

周囲<

 二人の姿も見えず、その呼びかけに対する応えもない。
 ただ、なぜだか、それでも二人は、手を伸ばせば届くようなほど近くに“いる”と思えた。


ラウス

(……魔法装置!)
 唐突な現象にラウスは一瞬身を堅くする。
(また何かを試されるのか……?)
 考えながらとりあえず他の二人に呼びかけることにした。

ジョーンズ&フィック<

「フィック? ジョーンズ先生?」


GM

 ジョーンズが、女神像の横をすり抜けようとする。
 ……と。
 ラウスが異変に気がつく。

 女神像の、やや伏せがちな顔。その額の部分に一筋の線が走り、かと思うと、まるで瞼のように、ひし形に開いていく。
 そしてその下から、白く輝く宝石が現われた。
 と同時に、ラウスはその女神像が存在感を発し始めたのを感じる。
 いつの間にか、ラウスは女神像の正面に立っていた。
 周囲の風景はぼやけて見えない。まるで濃い霧が掛かっているかのようだ。


ジョーンズ

ラウス<

「おおっと。そうだったね」
 熱心に、手元の羊皮紙に何かを書き付けていたジョーンズが我に返る。
「また、問題が出されるのかなぁ。答え損なうかもしれないと考えると、やっぱり空恐ろしいものがあるね」


フィック

ラウス<

「あはは。大丈夫ですよ」
 にっこりとして応じる。
「私も、そこまで厳格な使徒じゃあ、ありませんから」


ラウス

フィック<

「まあ、なに、知らなければどんな意味があるのかわかったもんじゃないからね」
 ラウスは軽くフォローらしきものを入れて取り繕った。

ジョーンズ<

「もしここが神殿のような物だとすれば、信仰されていた神を調べることで詳しいことがわかるかもしれませんね」
 女神像に目をやりながら言う。
「それはそうとそろそろあちらの扉の方も調べてみましょうか?」



フィック

ラウス<

「ええ。信仰に関係があると、妙な作りになる……と言われると、ちょっと複雑な気もしますが」
 と、苦笑いしてみせる。彼自身も、第五位・空の神“見守る者”サタナーシャという、慈愛を司る存在を奉じる身だ。



ラウス

フィック<

「神殿? なるほど。何かの信仰や神話に関係があるのなら、ここがこういう妙な作りになっているのにも説明がつくのかもしれないな……」
 信仰とはあまり縁のないラウスには住居や倉庫以外の建物には疎かったが、そう言われると納得できる部分もあるように思えた。

独り言<

「謎を解き明かせる者だけを受け入れるというのは、信者であることの証明か。あるいは信者や司祭となるためのテストの役割か……」
 もしそうだとすれば信者や入信希望者を大きな危険に晒すとは考えにくい。ここはそう危険ではないのかも知れない。
(ここが神殿なら奥にいけば祭具か何かが発掘できるかもしれないな)

 知力判定/分類:神学(古代)
  ラウス:技能なし-20% / 辛うじて成功!


 ・ 一般に伝えられている“成人の儀式”と同様に、特定の神に仕える者として、ある種の試練を行うというのは、おかしくはないだろう。
 ・ 危険かもしれないし、危険でないかもしれない。入信希望者が受ける試練ならばそう危険でもないだろうが、司祭やそれ以上の位として認められるためのものならば……。
 ・ これが聖地であれ、試練場であれ、何かが発見できる見込みは大きいだろう。



フィック

 ジョーンズの言葉に、さらに首をかしげながら、

ラウス<

「いえ、なんだか、『真実の女神』という言葉に聞いた覚えがあったような気がしたんです。
 思い出せないんですが……、神々の名前や歴史を学んだときに、ちらっと聞いたような。だから、ここは神殿なのかな、と思ったんですよ」


ジョーンズ

ラウス<

「そうかもしれないね」
 熱心に観察をしながら、やや上の空で答える。

「真実の女神、真実の女神、か……。
 謎の洞窟? 洞窟が謎に包まれているのか、謎を隠しているのか? ……財宝の代わりに謎を仕舞い込んでいる?
 謎の奥に、真実……ふーむ……」



ラウス

独り言<

「『真実の女神』……。外にあったのが王の木像で、こっちは大理石の女神か」
 小さく呟きを漏らしてラウスは女神像を見上げた。

ジョーンズ<

「この女神像も何かの動作で反応があるかもしれませんね。さっきの扉みたいに」

フィック<

「どうかしたかい?」


GM

裸婦像<

 それは、2m程の背の像だ。
 黒大理石で造られているようで、ラウスの持っている明かりを反射して、闇の中に妖しく浮かび上がっている。
 足下に、何やら文字が刻まれている。
 そこには、こう書いてある。

『真実の女神』


フィック

 何やら、裸婦像を見つめて考え込んでいる。


ジョーンズ

ラウス<

 何やら首をひねっていたが、すぐに頭を振る。
「うん……、そうだね」
 ラウスに続いて、調べに行く。



ラウス

独り言<

「裸婦像に扉か……。ちょっとだけ変わってきたかな」
 変化があったとはいえ、相変わらず殺風景だ。この遺跡が作られた目的はなんだったのだろうか。
 ラウスは少ししてから頭を振って雑念を払った。それよりも調べるのが先だ。

ジョーンズ<

「あの裸婦像を調べてみましょう。何かあるかもしれません」
 言うとラウスは裸婦像に近寄った。



GM

 今度の通路は、すぐに終わった。

 小広く作られたドーム場の間の中心に、一体の裸婦像が置いてある。奥には壁と、その一角にはやや小さな扉が見える。


ジョーンズ

ラウス<

「ああ、そうだね」


ラウス

ジョーンズ<

「まったくですね……」
 ラウスも息をついて笑う。
「さ、進みましょうか。次は何かこの洞窟についての手がかりでも見つかればいいんですけどね」


GM

 少し前に見たものと同じ光景が繰り返される。
 扉と、球が強く輝き、そして消えていく。

「ふう……。
 なかなか、心臓に悪いな、全く」
 ジョーンズが、こめかみのあたりを拭いながら、おどけたように笑う。


ジョーンズ

「では……」
 前に進んで、球に手を乗せながら、言う。

「鍵」


フィック

 了解です。
 ジョーンズに聞こえないくらいの小声で、ラウスに応答する。


ラウス

ジョーンズ<

「はい。わかりました」
 ラウスは言いながら、フィックに目配せして後ろに下がった。さっきと同じようにアクシデントに注意しろという意味だ。


ジョーンズ

ラウス<

「ふむふむ、鍵か!」
 目を輝かせる。
「うん、考えられるね。
 実際、目に見えない壁みたいなものがあって、合い言葉をいわないと通れないような通路もあった。
 これは合い言葉が鍵で、目に見えない壁が扉や錠なんだといえそうだね」
 うんうん、とうなずく。

ALL<

「よおし、早速試してみようか。
 下がっていてくれるかな?」


ラウス

 ラウスは爪先でこつこつと地面を鳴らしながら唸った。
「守るもの……扉に塀に……あるいは蓋とか……」
 そこまで言ってラウスは顔を上げた。

ジョーンズ<

「古代人達は優れた魔法の文化をもっていたんですよね? 形がない、というのは魔法で代用できたという風には考えられないでしょうか。対になるもので……例えば鍵と錠とか」


ジョーンズ

ラウス<

「あははは……それが、まったく」
 苦く笑って頭を掻く。
「もしかしたらちゃんと書いてあるものもあるかもしれないが……少なくとも、ぼくが発見した文献には、日付も、他の情報もなかったんだ」
 困り果てて、腕を組む。

「何となく、日常に使われるもののようだけどね。
 とすると、……日常に使われ、何かを守るための、主に金属で出来ている、何かと対になって使われるもの……?」


ラウス

ジョーンズ<

「他に金属と言えば、装飾品やあるいは硬貨とか……。しかし無数という事はそういうものではないんでしょうね」
 ラウスはそういってジョーンズに向き直った。
「この洞窟の事が書いてあった文献には、何か当時のことに関して書いてなかったんでしょうか?」


ジョーンズ

ラウス<

「盾か……。どうなんだろう、星の数ほどあるかな。
 こういった謎かけで問題になるのは、『現代の事情から考えてはならない』といったことだね。この問題が作られた当時のことを念頭に置かなければならない。
 うーん、とはいったものの……」
 頭を悩ませる。


ラウス

「金属でできている守るもの……?」
 ラウスはあごに手を当てると考え込んだ。先ほどとは違ってなかなか簡単ではないようだ。
「そうだな……盾とか。有用ならば石の盾、役に立たないなら紙の盾……」


GM

「それなら楽ですけど、ちょっと面白さに欠けるかもしれませんね」
 冗談めかしてフィックが言う中、先ほどと同様の現象が起きる。
 辺りが明るくなり、そして……

「我は無数に存在する者である。
 我の姿は星の数ほどあるが、存在する理由はほぼ一つである。
 我は金属である場合が多いが、時として、木であったり、石であったり、紙であることさえもある。そして、目に見える形を持たない場合もある。
 それらは、我と対になる者にも言えることである。
 我は、主に、何かを守るために存在する。
 我が名前を答えよ」

 宙に、青い球が浮かんでいる。


ラウス

「また同じ扉か。この遺跡は一本道なのかな……」
 呟くとそっと扉に触れる。さっきと同じならば再び問いかけが聞こえてくるはずだ。


GM

 こつこつと足音を響かせながら、一行は奥へと進んでいく。
 通路はまっすぐ進んでいく。
 五分ほど歩いた頃、ただ深淵の闇だった前方に、何かが見え始める。
「……行き止まりでしょうか?」
 フィックが呟いたりする。
 そのまま歩いていくと――
 見覚えのある作りの扉に行き当たった。


フィック

胸中で<

「明りなら私もお手伝いできるから、この魔法が切れたら、ちょっと主張してみようかな……」
 とか、心に決めた。


ジョーンズ

ラウス<

「おお、便利なものがあるもんだ。……魔術には、興味は持っているんだが、どうにもぼくには難しくてね」


ラウス

ジョーンズ<

「私には魔術がありますから。いざという時に手が使えますしね。いまつけますよ」
 ラウスはそういうとライトの呪文を唱え始めた。

ラウスの魔術は何ごともなく完成する。
かれを中心に、周囲が柔らかい光で満たされる。

「さ、先へ進みましょう」


ジョーンズ

「やれやれ……生き延びたか」
 といいながら、奥を覗く。

ラウス<

「暗いな……照明器具は持ってきたかい?」
 ぼくも持ってはいるけど、と、ランタンを取り出す。


GM

 ラウスが押すと、いとも容易く扉は開いた。
 奥は、この広間とは違って自然に発光することはないようだ。大きめな筒状の、歩きにくい通路が進んでいって、暗闇の中に消えていく。


ラウス

 ラウスは警戒しながらその様子を見ていたが、光が消えるのを見るとジョーンズに歩み寄った。

ジョーンズ<

「どうやら大丈夫みたいですね。開けてみましょう」
 言って扉を押してみる。


GM

 ジョーンズは二人を見て、うなずいた。
「さて……」
 呟きながら、青い球に手を載せ、発語する。

「謎」

 いうやいなや、青い球がひときわ大きな光を放つ。
 それと同時に、扉を青い光が縁取り、同様に輝く。
 それから、輝きを失い、青い球も姿を消した。


フィック

ジョーンズ<

 何かを言いたそうにしながらも、後ろに下がる。

ラウス<

 小さく目を開き、それからうなずく。
「了解しました」
 同じようにこっそりと答えると、こちらはジョーンズに注意を向ける。


ラウス

 ラウスはしょうがあるまい、と心の中で呟いた。本当なら依頼人を危険な目に合わせたくはなかったし、不思議な仕掛けに触れて見たかったのだが、遺跡の発掘は元々ジョーンズの仕事で、遺跡を発見したのは彼だ。それを横取りするわけにはいかない。

ジョーンズ<

「了解しました」
 ジョーンズの指示に頷きながらラウスはいくらか後ろに下がった。

フィック<

「何かあったら飛び出せるようにしておこう。用心には越したことがないよ」
 こっそりフィックに耳打ちして、ラウスは軽く辺りに注意を払う。


ジョーンズ

ラウス<

ぼくもそう思うよ。ああ、でも、そっちの方はぼくの仕事だ」
 一歩踏み出す。

ラウス&フィック<

「諸君はちょっと、下がっていてくれるかな?
 ……今までの経験だと、こういった仕組みでミスしても、害が及ぶのはミスした当人だけなんだが、用心した方がいいのは確かだしね。ああそうそう、先に行っておくけど、もしここでとか、探索の途中とかで何かがあったとき。
 たとえばぼくが死んだ場合は諸君の判断に任せる。もしただ行動不能になっただけだったら、できるだけ探索を進めてほしいけど、無理そうならぼくを持って街に帰ってもらいたいな」
 それから、「ちゃんと下がったかな? と後ろを振り向く。


ラウス

「……なかなか凝った作りですね。未だに魔法が生きているというのもちょっとしたもんだ」
 言いながら青い球を感心するように見つめる。
「問いかけに答えないと進めない作りなんでしょうね。間違えるとどうなるんだろう……」
 興味をそそられたらしくぶつぶつと呟いてジョーンズに向き直る。

ジョーンズ<

「答えは多分、『謎』じゃないかと思うんですが……試してみましょうか?」


GM

 ジョーンズが扉に触れるや否や、部屋の明りが一瞬暗くなる。
 ……そして、どこからともなく声が聞こえだした。

「我は世界のいずこにも潜んでいる。
 我は自然に生まれた者である。
 我は人の手で作られた者でもある。
 我はたいていは形を持たない。
 我は娯楽でもあるが、娯楽ではないときもある。
 我は明らかではないが、必ず明らかにされるものである。
 我が名前を答えよ」

 声を聞いて、ジョーンズはぽかんと口を開く。

 いつの間にか、目の前に小さな青い球が浮かんでいる。
 何を説明されたわけでもないが、ラウスには、この青い球に触れながら「答え」を言うのだと分かった。


ジョーンズ

ラウス&フィック<

「よしよしよしよし」
 うなずいて、嬉しそうに手を擦り合わせる。

 ラウスのわくわくした様子に、にやりとしてみせたりもする。


「さて、と」
 自然にぼんやりと光っている部屋の様子を見渡してから、扉の方に向かう。
「多分、罠はないと思うんだが……」
 といいながら、扉を押す。


フィック

ジョーンズ<

「わたしもありません」



ラウス

ジョーンズ<

「僕のほうからは聞くことは特にありません。何かあればおいおい話しましょう」
 言いながらラウスも少しそわそわしている。洞窟を探し当てた興奮がまだ残ってい るのかもしれない。


ジョーンズ

「なるほど。ね」
 ふんふんと頷きながら、二人の説明を聴く。

ラウス<

「うん、戦闘技能の保有者がいるのは助かる。危険はいつだってつきものだからね。この遺跡の場合はあんまり、力づくで何とかする障害とかはなさそうなんだけどね」

フィック<

「いや、十分役に立つ技術だよ。どちらもね」

ALL<

「さて……?
 二人とも、準備はできてるのかな?
 それとも、何か聞いておきたいことがあるかい?」
 今すぐにでもそこの扉を開けて行きたいという想いが明白になっている。


フィック

ジョーンズ<

「わたしは、あんまり器用ではありません…」
 少し、情けなさそうに答える。
「ラウスさんは、色々な技術をお持ちですが…わたしは、そうですね、幸いにして豊穣の神のご加護を賜っておりますので、神術と呼ばれる奇跡の代行をすることができます」
 それから首を振って、
「他には、あまり…紋章学や建築学、細工でしたら少しは造詣もあるのですが」



ラウス

ジョーンズ<

「僕は杖を使っての武術……」
 と、ラウスは言いながら杖を示す。
「それと簡単な魔術を少々。魔術の主だったところは攻撃と癒し、あと明かりの魔法です。道具があれば鍵開けの真似事も出来ますね」
 簡単に遺跡の調査に関係ありそうなものを並べていく。それからあまり関係ないが、と付け加えて、
「品物の市価の鑑定ができますよ。まぁこれはここで発掘品がでてからのお楽しみですね」


ジョーンズ

ラウス&フィック<

「おっと、そうだ、あいさつを忘れちゃいけなかったね。
 どうぞよろしく。ぼくはジョーンズ・ビッグフィブ。学者さ」

ラウス<

「そうかそうか。まあ、ズルをできるというのも才能のうちさ。
 ……じゃあ、合格かな? 我ながら偉そうな台詞だけどね。
 ふむ……」
 軽く顎を触って、

ラウス&フィック<

「とりあえず、君たちがどういうことをできるのか、聞いておこうかな?」


フィック

ジョーンズ<

「どうぞ、よろしくお願いします」
 丁寧に頭を下げる。



ラウス

ジョーンズ<

「ええ、まず地図に書かれていた石版を見つけて、その通りに北に行きました。崖の上に、苔の下と、一通り疑ってから『偉大なる王』を探し当てました。まぁこれは少 しズルをしてジョーンズ先生の足跡を追わせてもらいましたけどね。それから拝謁を試してみてその意味に気付きました。あとは道しるべを追ってここまで」
 ラウスは一通り話し終えると思いついたように付け加えた。
「おっと、言い忘れていました。僕はラウス=ウォード。こっちの彼はフィック。以後お見知りおきを」




 どうやら眠りについていたらしい男性は、ラウスの言葉に反応して身じろぎし、それから大きく伸びをした。
 泥に汚れた以外はさっぱりとした服装の、壮年の男だ。

ラウス<

「随分……早かったね」
 欠伸をしながら答える。
「ああ、ぼくがジョーンズだよ。……三日待って誰も来なかったら、一人で行こうと考えていたんだが、うん、合格合格」
 にやりとしてみせる。

ラウス&フィック<

「君たちは、どうやって謎を解いたのかな?」



ラウス

 大きな部屋につくと人心地ついた、とばかりに息を吐く。変わった形の部屋に、あちこち視線をめぐらせる。

フィック<

「どうやら見つけたみたいだよ。あれがジョーンズ先生だろう」  相棒に言ってから口に手を添えて男に向かって大声で呼びかけた。

男<

「あなたがジョーンズ先生ですか? 我々はロウファさんの紹介でやってきた者です !」



GM

 姿勢を低くしながら通っていく。感触で分かるが、綺麗に掘られた穴のようで、表面はすべすべしている。
 ほんの6mくらいで、何やら大きな部屋につながる。
 球形の部屋で、今まで進んできた通路はその中心に対して垂直に繋がっている。反対側には扉があり、……球の底辺に、汚い格好をした男性が座り込んでうつらうつらしているのが見えた。

フィック

ラウス<

「気をつけます」
 言うと、肩をすくめてみせる。
「どうも、こういうのは私は苦手みたいです……」


ラウス

「よし! 当たりだ!」
 壁を通り抜けた手を確認して思わず喝采をあげる。
「フィック、姿勢を低くすれば通れるらしい。慎重にいくぞ」
 言うと身を屈めながら足先で地面を確かめ、ゆっくりと壁の向こうへと進んでい く。



GM

 まず触れてみても何も変わらない。
 分厚い崖の重みや、苔の絨毯の状態には何の変化もない。
 ラウスは、考えていたとおりに、姿勢を低くして、あのぼやけを掴む。
 そして再度崖を調べようとしたラウスが、今度も苔の柔らかさや、ひんやりとした感触を予想していたとしたら、それはあっさりと裏切られた。
――触れられない。
 そこには何もないかのように、ラウスの手は崖の中に消えていく。
 フィックが驚きの声を上げ、あわてて近寄ってきた。


ラウス

「空間自体はただの道しるべか……。この先の崖になにかあるはずだ」
 言うと空間を時々確認しながら進んでいく。そして揺らぎの示す部分を見つけると 早速調べることにした。



GM

 揺らいでいる空間に入る。
 それは、入って何か効果があるというものではなく、まさにただの道しるべにしか過ぎないようだ。
 少しでも焦点をずらすと見えなくなり、戻せばまた見えるようになる。
 そうやってまた、崖の方に戻っていく。

 空間の揺らぎは、崖の一点を示してとぎれた。
 例の苔むした崖の方には、何の違和も見受けられないが…


フィック

 フィックはフィックで、彼の発見について行けていないので、何も考えずに後に続こうと心に決める。

ラウス<

「はーい、お供します」


ラウス

フィック<

「見つけたぞ。フィック! 洞窟までの道がある!」
 ラウスは抑えられない興奮をはらんだ声で告げる。
「姿勢を低くしている時だけ現れるらしい。多分、この先だ……」


GM

違和感<

 そろそろと立ち上がり、また降ろし、として、その様子を探っていたラウスは、まさにその跪く仕草の最中に、その正体を見つける。
 それは視界の隅にあった――木像を中心として、ラウスと先ほどの崖を結ぶ線となるだろう空間が、妙に揺らぎ、ぼやけた感じである。
 この場所から、あの崖まで、何かの通路でもあるかのように、そのぼやけが続いていく。
 それは、跪こうと姿勢を低くしたときにだけ、現れるようだ。

ラウス

フィック<

「これは外れみたいだね。……でもさっき何か――」
 一瞬感じたものにきっと何かある。
 ラウスは違和感の元を確かめるべくそろそろと立ち上がってみる。


GM

 フィックもラウスに従い、像の前に跪く。片膝を突いて、俯く。
――特に、何かしらの変化は感じられない。
 ただ、ラウスは、跪こうとするまさにその“最中”に、何かしら妙な違和感を覚えた。


ラウス

フィック<

「ここで足跡が止まってるってことは、ここが目指すべき地点だってことだ……」
 ラウスはここにたどり着けた事に安堵しながら呟いた。
「ほら、像がある。当時の王様の像かなにかじゃないかな。『拝謁せよ』……言葉通 りの意味ならこんな感じか」
 いいながらラウスは朽ちかけた木像の前で跪いた。


フィック

ラウス<

「足跡は……とりあえずこの辺りで止まっているみたいですね……」



GM

 足跡は最初はくっきりとしているが、森の中に踏み込んで行くに従って薄らいでいく。右へ行き、左へ行き、蛇行すると言うより更にでたらめに動いているようだ。

 敏捷判定/分類:追跡 ×3
  ラウス : 失敗/大成功/失敗
  フィック : 成功/大失敗/成功

 見失い、また探して見つけ、と繰り返しながら、おそらくはジョーンズ博士の物と思われる足跡を追いかける。
 二人で探していたのでなかったら、途中で迷っていたかも知れない。それほど規則性のない動きだった。
 直線距離にすれば大したものではなかった。
 二人が辿り着いたのは、木と木の狭間に埋もれて、ほとんど朽ちかけた像だった。
 木で出来ており、全身が苔むしている。よく見ると、人間が直立している姿を象った物のようだ……。



フィック

ラウス<

「あっ、は、はーい」
 何だかやたらとびっくりさせられてばかりだなあ、とか思いながら、ラウスに着いていく。


ラウス

フィック<

「どうやらジョーンズ先生は僕たちと同じ結論に達していたようだね。崖の上に何かがあるか、苔の下に何かあるのではないかと疑ったようだ」
 だが『偉大なる王』らしきものはないようだ。何か見落としているのか、それとも 崖の上に上るしかないのか……。
 思わず考え込んだラウスにフィックの声が聞こえる。
「足跡が戻ってる……? 一度街に帰ってきてるんだから当然といえば当然だけど……もしかして。……フィック!」
 ラウスは興奮を抑えるように言った。
「戻ろう、フィック。恐らく探すべき場所を間違えてるんだ。この足跡を追って少し引き返してみよう。
 何かわかるかもしれない」
 苔や崖という致し方のない困難に直面して街へ引き返す途中、ジョーンズ先生は何かを発見したのではないか。ラウスはそう考えたのだ。

GM

 ラウスは、人間が残すような後を中心に、崖を調べる。フィックはかれの行動を良く理解していないので、漠然と、壁中心に色々な場所を調べる。

 知力判定/分類:狩猟・探索
  ラウス : 成功
  フィック : 成功

崖<

 環境がとても都合が良いらしく、苔は本当に分厚い。元からすべすべしている岩肌にびっしり、深々と苔が生えているため、遠目には緑色の壁のようでさえある。
 ラウスが触ったり、押してみても、返ってくる感触はどれも似たような物だった。
 ――ふと、ラウスは、その痕跡を発見する。
 何か硬い物で削り取られたような苔と、その苔がはがされた場所に残っている、ちょっとした傷。傷の方は鋭利な物を打ち付けた時にできるような代物だ。
 また、「頑張って登ろうとして失敗した」ような跡も発見できた。といっても、それは、重い物で押されてそっちの方に偏ってしまったような苔の様子から推測したものだが。

地面<

 フィックは、地面にそれを見つけ、声を上げる。
 足跡……硬いブーツの跡のようだ。あちこちと行き来して回ったのか、混ざり合っていて良くは判別できないが、……一部が背後の森の方へ戻っていっているように見える。



フィック

ラウス<

 滔々と流れ出すラウスの台詞に、ぽかんと口を開いて聞き惚れる。
 崖を調べだしたラウスの行動にはっとして、
「あっ、わ、私も手伝いますー」
 一緒に壁を調べ始める。


ラウス

フィック<

「うん。あの石板に書かれた文句は一つ丸ごとで洞窟の場所を指してるんだと思う。
 それからなんでジョーンズさんが洞窟についての詳細を教えてくれなかったのか。
 聞いた話じゃ相当に慌てていたっていうし単にそういう事に疎い人なのかもしれないけど……」
 ラウスは自分の思いつきに興奮しているみたいにぺらぺらと喋りながら壁を調べ始めた。
 喋っている方が考えが纏まるらしい。
「でもよくよく考えれば洞窟の入り口さえ見つけられない冒険者じゃ洞窟の探索には役に立たない。
 僕達のことを知らないジョーンズ先生には、冒険者と名乗る遺跡探索のプロが来るんだか冒険者って名前の無法者が来るんだかわからないしね。
 実はちょっとしたテスト代わりなのかもしれないよ。そして……」
 ラウスは逡巡するように一度言葉を切って言葉を続けた。
「偉大なる王。遺跡を作った連中が太陽や月を信仰してたというならともかく、そう じゃないのならそれらしいものをこのあたりに用意してあるはずだ。
 長く放っておかれて分かりにくくなっているんだろう。
 埋まったとか壊れたという可能性もあるけど、そうだな、例えばこのコケの下に隠れてるとかね。
 ジョーンズ先生が一度見つけた後ならきっと何か痕跡が残ってると思うんだけど……」

 言うと、崖を調べ出す。


フィック

ラウス<

 どうやって登ったらいいのだろうとあれこれ考えていたフィックは、ラウスの言葉にぽかんとする。
「え」
 目をぱちくりとさせてから、ラウスの言葉を考える。しばらく黙り込んでから、
「なるほど」
 頷き、
「パズルって言うか、謎解きって言うか、そうなっているんですね」
 うんうん、といちいち納得する。
「そういえば、私が読んだような冒険者物語でも、そういうのがありました。……でも、でしたら何故、ジョーンズさんは先に教えておいてくれなかったのでしょうね」
 不思議そうな顔をする。
「あと、拝謁と、偉大なる王……どれのことなんでしょう……」
 辺りを見回す。
 ここに来るまでの最中に、特に目立った代物は無かったはずだった。


ラウス

 ラウスはいきなり行き止まりになってしまった道に怪訝そうに眉をひそめた。

独り言<

「ん? 盗掘されるような洞窟なんてどこにもないじゃないか」
 道でも間違えたかと不安を覚えながら指先で岩肌を突く。
「うわぁ、こりゃ登りたきゃ腕利きの野伏でも呼んできたほうがいいなぁ」
 そういって何か気になるらしくブツブツと呟きだした。
 洞窟……盗掘……謎……北に半刻……偉大なる王……拝謁……。
 そのうちに何やら閃いたらしくフィックに向き直る。

フィック<

「そうだフィック! 拝謁だ。『北に半刻』、それから『偉大なる王に拝謁』。
 両方合わせて洞窟の場所がわかるんじゃないか?  きっとそうに違いないよ!」


GM

 両側を崖に挟まれながら北に進むと、道がなだらかな坂道に変わっていき、仕舞いには崖の上に出た。
 背の高い木々の姿が目立つようになり、景色は森の中のものへ。
 あの広場を出発してから半刻をさらに数分過ぎた辺りで……道が行き止まりとなる。それまではすんなりと北に向けて進んでこれていたのだが、今、目の前には登る取っ掛かりも見られないくらいに綺麗な岩肌の崖が立っている。そこまで高い代物ではないが……登るのは難儀しそうである。表面は厚く苔むしているし、岩肌はサルスベリのように滑らかなのだ。

崖<

 左右に長々と続いている。見渡すと、その両端は森の中へ続いているようだ。
 高さは5m程度。崖と呼べるほどの高さではない。
 表面がつるつるとしていて登攀には向かない。樹でも生えていれば登ることも出来るが、背後には幾らでもあっても手近にはない。



フィック

 物珍しそうに石板を見つつ。

ラウス<

「はい、わかりました。いきましょう」

ラウス

「どうやらこいつが石版で……ここで間違いないか」
 ラウスは地図と周りの風景を見比べながら呟いた。石版に刻まれた文字を確認し二、三度頷く。

フィック<

「どうやらまずは依頼人を捜すとこから始めないといけないみたいだね。この『偉大なる王』ってのがなんなのかはわからないが、この石版の示す先に問題の洞窟があるんだろう」
 急ごうか、とフィックを促すとラウスは北に向かって歩き出した。

GM

 サーマヴァーロフ山脈の北端、境界都市オウロにほど近い小峰、その山間に、小高い断崖に挟まれた広場がある。環状の木立に囲まれたその場所は、一見すると本当にただの広場だが、……よくよく見てみると、広場の中心に、偽装された石板が埋められている。その石板に書かれている文字を解読すると、「北に半刻歩き、偉大なる王に拝謁せよ」……。
 地図に書かれていたのはこの広場の場所と、石板の存在を示唆する文章だけ。

 ラウスたちが辿り着いたときには、他に何もないし、誰もいない。