PBeM
〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

シナリオ
19
「狂気の雲」

 イザクはクロウ族の依頼である、「飛竜の退治」――あるいは救済――の詳細を知り、可能ならばそれを請け負うために、依頼人が滞留しているという遊牧地を目指して、貿易都市カルファールを発った。
 同行者は、学者であり魔術師でもあるというウィナー。果たして、二人は何に出会うのか?
 
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GM

 イザクたちは周囲に対する警戒を強めながら、歩いていく。
 昨日から、珍しく晴れている。太陽が中天に達し、より、陽射しを強める。バーナード地方の南部のようなむっとする不快感はないが、代わりに、身体全体から水分を奪い去っていくような、冷たい熱気がある。
 遠くに見える剣山が、少しずつ輪郭を際だたせていく。
 後どれくらい歩けばよいのか、まだ、判断はつかない。


ウィナー

イザク<

「そうだねえ」
 手をかざして、遠くの岩を眺める。
「何だか、急がなくてはいけないというような気持ちになってきたよ。参ったね。僕は、自分の直感ばかりは信用したくないんだけれど」
 イザクに続いて歩きながら、そういえば、と声を上げる。
「これまでは何もなかったけれど、これからもそうだとは言い難い。いざというときのために、お互いにできることを相談して置いた方がよくはないかな?
 僕は、まあ、戦士と行動を共にしたことはあるけど、竜戦士とはないし、君も、魔術師と共に旅をしたことはないようだからね」


イザク

ウィナー<

「どうやら、あの岩山だと思って間違いは無さそうだな」
 一旦足を止め、視界に入ってきた岩山に目を凝らして、その剣を思わせる特徴的な形状を確認すると、隣に立つウィナーに声を掛ける。
 後は、この近くにある筈の最後の目印を見つけるだけ、そこから先は道に迷う心配は殆ど無いという話だ。
 残った道程はわずか、出来れば一息に進んでしまいたい所だが・・・
 ウィナーも感じているらしい、焦燥感、高揚感を含んだ奇妙な感覚。 まとわりついて離れない、ざわつくような気分・・・それがどうにも気に入らない。
 心なしか、吹きすぎていく風も普段とは異なったものの様に感じる。
 やはり、少しばかり時が掛かったとしても、慎重に進んだ方が良さそうだ。
 周囲を警戒しつつ、最後の目印である巨岩を探して、進み始める。


GM

 歩を進めていくと、地平の果てに、ワーカインに教えられたものと思しき剣のような岩山が見え始めた。大地に高くそびえ、高い空に挑むようにつきだしている。
 そして、奇妙な風が、吹いている……。


ウィナー

イザク<

「うん?」
 きょとんとした顔を竜人に向ける。
 砂埃に汚れた顔を、小川で濡らした布で拭い、思案する。
「そうだねえ……」
 眉をひそめて、自分の感覚に問いかける。
「なんだか、日頃にないような妙な高揚感のような、焦燥感のようなものはあるね。意識をヤスリで掛けられているようなものもある。気にはしていなかったし、君に尋ねられるまで認識していたとも言い難いけど」
 そう答えて、髪を掻く。


イザク

「妙だな・・・」
 ワーカインから最後の目印として教えられた巨石を目指し、荒れ地を流れる小さな川に沿って進む中、キャンプ地を出発してからこれまでの間、まとわりついて離れない奇妙な感覚が呟きとなって漏れる。
 
ウィナー<

「ウィナー、何か奇妙な、ざわめきの様なものを感じないか?」
 彼もまた、この奇妙な感覚の中にいるのだろうか?あるいは己一人だけが捉われている感覚なのだろうか。
 傍らを進む若き学者に頭を巡らすと、知らずに、声を潜める様にして問いかける。


GM

 イザクたちは、再び、荒野を進み始めた。
 旅を再開してからしばらくして、イザクは奇妙な違和感を得た。
 この荒れ地は、時折、“不毛の風”と呼ばれる気候に包まれることがある。恐ろしいほどに乾き、地上のあらゆるものから水分を奪い去り、川を枯らせ、多肉植物も枯死させるほどの嵐だ。それは夏期の、特定の時期にだけ訪れる。
 この地で生き伸びている住民は皆、イザクも当然のように、不毛の風が来るときには、その気配を感じ取ることができる。今は薄い雲がかかっていて、湿気も降りており、とても不毛の風が訪れるような時期でも状態でもないのだが、まるで、死の嵐の直前のような、音のない音が満ちている。
 妙に整合性のつかない、不可思議な匂いがするのである。
 不毛の風はまだ来ない。それは断言できるのだが、心がざわつくのだった。
 旅程をこなしていくと、小さな水の流れにぶつかった。
 ワーカインが教えた目印だ。
 稀に降る雨や、北から流れてくる水が地下にたまっている。この川は、その水の中の、僅かな一筋だそうである。時折、枯れ、姿を消すこともあるが、気がついたときにまた流れを作っているのだという。周辺の住民や、頻繁に荒れ地を旅するものたちしか知らないような、貴重な、水分の補給源だった。
 この川の流れに沿ってしばらく進めば、向かって左手に、剣のような山が見えてくるのだという。それが見える場所まで行けば、その周辺に、最後の目印である、特徴的な巨岩があるはずだ。


ウィナー

イザク<

「うらやましいよ」
 笑って、イザクの頑強さを称える。
「そうだね、出発しよう。
 順調にいけば、今日頃には、遊牧地に辿り着けるんだったかな。道中、何も起きなければいいけども」


イザク

「そうか、良く眠れたか、それは何よりだ」
 存分に眠ったらしい。体調も良さそうな学者の様子を見て、満足気に頷く。
「ああ、見てのとおり頑強さが取り柄でね、余程の事が無い限り、寝不足の心配は必要ないだろうな」
 よく眠れたようじゃないか、と感心した様子のウィナーに太い笑みを見せて答える。


「おっと・・これは、ありがとう」
 ウィナーが放ってよこした簡素な朝食を左手で受け取ると、空いた方の利き手で槍を掴み、立ち上がる。
「さて、お互い準備も整ったようだ、出発するとしよう」
 荷造りも終え、すっかり準備万端といった様子の学者に、そう声を掛けると、快適な一夜をもたらしてくれた岩間を後にする。


GM

 軽装の旅のこと、イザクはほんの数分で準備を終えてしまう。かれに少し遅れてウィナーも野営をたたむ準備を始める。鍋の中に残ったポリッジはそのまま蓋をして荷物にくくりつけてしまったりしている。同じく残っていた鳥肉は細く引き裂いて、手際よくパンの中に挟んでいった。
「簡単だけど、朝食にはこれを食べるとしようか。ポリッジと違って、歩きながら口にできるしね」
 言うと、イザクの分を取り分けてかれに放った。
 ウィナーも準備が終わったようだ。


ウィナー

「くわあぁ」
 大きな欠伸と共に伸びをして、

イザク<

「今、起きたところさ。しかし、何だね、やはり睡眠は重要だと改めて思うよ。いや、昨日の朝より、よっぽど寝覚めが楽なもんだからね」
 下に敷いていたクロークを取って、砂や塵をはたくと、無造作に身にまとった。

「うん、問題ないよ。君こそ、よく眠れたようじゃないか。
 鋭い槍捌き、眠気なんて全然、残っちゃいないようだったね」


イザク

 眼前の相手、自らの意識が練り上げた影との攻防に集中するあまり、ウィナーの視線には気付かない。
 それから暫く後、影との模擬戦を終え、集中を解いた段になって漸く、身を起こしてこちらを見つめる学者の姿が目に入る。
「なんだ、もう起きていたのか」
 背後からの視線に気付かなかった己の未熟さに苦笑を浮かべながら、学者の方に向き直って声を掛ける。
「昨日は寝不足だったらしいが、十分に眠る事ができたか?」
 訓練によって乱れた呼吸を整えつつ、ウィナーに向かって尋ねる、問題なしとの返答が返ってきたならば、岩間の中に戻り、出発の為の準備を始めるだろう。


GM

 身体が柔らかくなり、意識は研ぎ澄まされていく。
 イザクが想定する相手の姿はどのようなものなのか、いずれにせよ、影が練り上げられていく。

 訓練判定:分類/シャドー
  イザク:優秀な成功!


 傍で眺めているものがいたら、槍を振るうイザクが、あたかも同等の実力を持った人物と闘っているように錯覚したことだろう。
 イザクは槍を薙ぎ、打ち返し、払い、突き、躱した。
 ひゅぉん、ひゅぉん、空を切る快い音が、荒野に流れる風に吸い込まれていく。
 訓練に打ち込んでいるイザクの姿を、いつの間にか起きあがっていたウィナーが見守っている。
「やぁ……、見事なもんだねぇ」
 感心したように頷く学者の姿に、イザクは気が付いたかどうか。


イザク

 僅かに反応を示したものの、また直ぐにまどろみの世界へと戻ってしまった学者に、思わず苦笑する。
(そういえば、寝不足だったと言っていたな…)
 昨晩、クロークの上に寝転んだウィナーがそう言っていたのを思い出す。
 十分な睡眠をとらずに、あれだけの距離を歩いたのだ、起きられないのも無理はない。

 移動中は、意外な程確かな足取りで、疲れを表情に出す事も殆ど無かったが、どうやら見た目以上に疲労していた様である。
(もう少し、眠らせておくとしようか)
 出発は早いに越した事はないだろうが、疲れを残して、いざと言う時に力を発揮できない事になれば、本末転倒である。
 ぐっすりと寝入っている学者を起こすのは、ひとまず後回しにして、傍らに立て掛けてあった槍を掴み、岩の間から外へ抜け出す。
 朝靄と共に冷えた空気を吸い込むと、その場で柔軟運動を始める。
 じっくりと時間をかけ、四肢の筋肉を解きほぐしていく。
 やがて十分に身体がほぐれると、側の砂地に突き刺してあった槍を手に取り、中段に構える。
 図らずも空いてしまった早朝の一時を、槍術の訓練に使う算段。 
 構えを維持したまま、精神を集中させ、数メートル程先の空間に仮想敵の像をイメージしていく。


GM

 イザクが視線をやると、クロークで作った簡素な寝床の上で、毛布代わりにしたらしい大きめの布の中に埋もれて昏々と眠りにつくウィナーの姿が見えた。
 ぐっすりと寝入っており、こちらまで寝息が聞こえてきそうな具合だ。
 イザクは、仕方なしにウィナーに声を掛ける。
「ん………………ん……」
 学者の口が微かに動き、虚ろな、何の意味もない応えが返ってくる。ぱたりと手が上がり、そのまま、ことりと落ちる。
 再び、寝息がし始める。
 爽やかな風が再び吹き込んできた。浅く掛かった靄をかき混ぜ、押し流す。
 どこかで、鳥が羽ばたき、翼の音をさせていく。
 薄もやを透かして、朝日の光が落ちてくる。
 傍らで、すっかりと冷めたポリッジの鍋が、真っ白になった、釜戸の炭の上に乗っていた。


イザク

 岩の間まで吹き込んできた風を感じて、静かに目を覚ます。
 十分な食事と睡眠をとる事が出来たおかげで気分はすっきりとしている。
 その場で上体を起こすと、少し離れた場所で眠っているはずの若い学者の方に視線を向ける。もし、まだ眠っている様であれば――あまり気は進まないが――声を掛けて起こす事にする。
 竜追いギルドで聞いた話によると、順調に進めば、今日中にクロウ族の遊牧地に到着することができるとの事だ。昨日は、目印として教えられた地形もうまく発見する事ができて、殆ど停滞する事なく進んで来る事が出来た。しかし、今日もそう順調にいくとは限らないだろう、迷ってしまった時の事を考えれば、出発は早いに越した事はない。


GM

 夜は更けていく。
 野営地として選んだ場所がよかったのか、その夜に何かの遭遇が起きることはなかった。
 二人はゆっくりと休むことができ、そして、朝が来る。

 基本的に乾燥しているこの地域では珍しく、朝霧が掛かっている。空気は少し冷たく、湿気を帯びており、あまり快適な目覚めではない。
 ただ、時折吹き抜けてくる風は涼やかで、心地よかった。


ウィナー

イザク<

「もちろん、構わないよ」
 ひとつ目の問いと、二つ目の問いに、同じ言葉で返す。
 それから、にこりとした。
「ぼくも休むことにするよ。ほどよく満腹だし、……昨夜は寝不足だからね」
 そして、先ほど宣言していた通り、下にクロークを敷いて、そこに横になる。


イザク

 2種類の肉から出た旨みと、適度に効いた塩気を味わいながら、麦粥を食べ進んでいく。合間に齧るパンも軽く炙っており香ばしい、中に挟んであるバンチャの肉は、多少ぱさついてはいるが、粥と交互に食べる分にはさほど気にはならなかった。
 ――程なくして、小ぶりな椀の中身と、横に添えられたパンをきれいに、腹の中に収めてしまう。
 切迫した空腹感は無くなったが、十分に腹を満たしたとは言い難い。出来れば、もう少し腹に入れたい所だ。

ウィナー<

「中々に美味い粥だ、もっと貰っても構わないだろうか」
 一杯目の粥を、のんびりと口に運んでいるウィナーに断りを入れると、鍋に残っている粥を自らの椀に掬い取って再び食べ始める。
 結局、その後もう3回、椀の中身を平らげてから、スプーンを置く。
 
 食事を終えて一息ついていると、今度はトロリとした眠気が忍び寄ってくる。日中、とりわけ肉体を酷使したという訳でもないのだが・・・。
 竜人族以外の者と、これほど長く行動を共にしたのは、初めての経験である、己が思っている以上に緊張し、疲労していたのかもしれない。
 こんな時は、無理に眠気に逆らわず、素直に眠ってしまった方が良いだろう、明日は今日以上に長い距離を行く事になるだろう。
 ウィナーが食事を終え、落ち着いた頃を見計らって声を掛ける。
「さて、眠るには良い頃合になってきた。
 明日の事もある、そろそろ休もうと思うが構わないだろうか」


GM

 ウィナーのポリッジは、ほどよく火も通り、煮えすぎてもいず、ほどほどにうまいといえた。
 とても良くできているほどでもないが、空腹は最良の香辛料、腹さえ空いていればいくらでも食べることができる程度には良くできていた。
 気が付けば、空は澄み渡り、皓々とした月が昇っている。この夕餉を済ませたら、もうそろそろ、眠りにつく頃だろう。


ウィナー

イザク<

「ま、味はどうだって、量だけはたっぷりあるからね。好きなだけ、食べてくれ」
 自分もスプーンを取り、料理を食べ始める。
「ふむ……。悪くはないかな」


イザク

(なるほど、父親の遺志を継いでな・・・)
 飄々とした口調で自らの境遇、そして旅の目的を語るウィナーの言葉に、静かに耳を傾ける。

ウィナー<

「そうしよう、折角の料理を冷めさせてしまっては勿体無い」
 ”食べようか”とのウィナーの言葉に対して、微笑を浮かべながら同意する。
「それでは、ありがたく頂くとしよう」
 両の拳を胸の前で小さく打ち合わせる、竜人族特有の仕草で、ウィナーへの感謝の意志を表した後、料理を食べ始める。
 最初に手を付けたのは、ウィナー特製のポリッジ。皿に添えられたスプーンで軽く一掬いすると、静かに口に運んだ。


ウィナー

「そうだね、ああ、ただ、ぼくはクロークも下に敷いておくことにするよ」
 笑いながら言う。
「腰が弱くてね、硬いところで寝ると、すぐに身体が痛くなるんだ」
 粥を炊いた釜戸に残っていた熾で作った暖かいお茶を木製のカップに注ぎ、傍らに置く。
 そうしながら、イザクの言葉に応じる。

イザク<


「ぼくが生まれたのは、商人の国だよ。生まれは商人じゃなくて、生物学者の家なんだ。――商人の国に学者がいるなんて思わなかっただろう?――祖父は書家、父が生物学者だった。
 祖父はとっくに、父も十五年ほど前に死んでいるけれどね。ちょうどこのあたり、荒野の生態調査に旅立って、帰らなかったんだ。
 大陸の南部では、どんな生き物がいて、どんな生活をしているのか、ほとんど明らかにされていない。だから、父の主な研究対象は、荒野に棲息している生物たちだったんだ。
 ぼくは父の後を継ぐつもりなんてなかったんだけれど、父が死んだと知ってから、不思議と、血が騒いでね。
 大学を卒業してから、あちこちと渡り歩いて、結局、父のいた場所にいる。
 それで、こんなことをしているよ。
 できれば、前人未踏の場所に入って、誰も見たことがない生き物たちについて詳しく調べて、記録に残したいと思ってる。」
 にこりと笑った。
「できあがり。食べようか」

 技能判定:分類/調理
  ウィナー:成功!


 岩のテーブルに置かれた食事は、それなりに美味しそうに見える。


イザク

 あれこれと質問を繰り出しながらも、料理を作る手を休める事も無い。ウィナーの器用さに少なからず感心しつつ、自らは釜戸の近くに突き出た小さな岩に腰を降ろす。
 谷を旅立ってどれくらい経っただろうか。早くも、若干の懐かしさを伴いはじめた故郷での生活を思い浮かべながら、ウィナーの質問に対して答えていく。
 質問の合間に、ウィナーの生まれや、旅の目的などついて、こちらからも問いかけていく。
 やがて、目の前の簡易食卓に料理が並べられた。
 ウィナーの得意料理だという麦粥(確かポリッジだっただろうか?)が誘うように湯気をあげて、焼けた鳥肉が放つ香ばしい香りと共に胃の腑を刺激してくる。
「そうだな、今夜はそれほど寒さも感じない、毛布一枚あれば十分そうだ」
 料理の方を気にしながら、ウィナーの言葉に応じた。


GM

 ウィナーは、イザクの火が出来上がるのを見ると大鍋を持って行く。火の周りに石を並べて簡単な釜戸を作ると、そこに鍋を設置した。
 魔法で水を生み出して鍋を満たし、慣れた手つきであれこれと準備していく。
 手を動かしながらも、イザクの生まれとか、村の暮らしとか、何故、村を出てきたのかとか、思いつくままに、旅仲間の竜人について質問を飛ばしている。
 食事は、三十分もしないうちに出来上がった。
 平たい岩の上に布を広げただけの簡素な食卓の上で、肉入りのポリッジ……粥が椀に盛られて美味しそうな湯気を立てており、その脇には火で炙ったパンに肉を挟んだ物が置かれている。添えられた木製のスプーンは、ウィナーの私物らしい。
「さて、できあがり。野営の準備もできているかな? といっても、適当な場所に毛布を敷くだけだけれども」


イザク

 種火が燃え尽きてしまう前に、手早く付け木を添える。
 付け木に種火が燃え移り、しっかりとした炎に変わるのを待ちながら、ウィナーから返されたパンと鳥肉を丁寧に包み直し、背負い袋にしまいこんだ。
「さすがに手際が良いな」
 てきぱきとした動きで大鍋を準備し、料理の下拵えをこなしていく若き学者を見ながら、感心した様子で呟く。自ら賄い役を買って出ただけあってかなり手慣れている。これならば、料理の味の方も、かなり期待できそうである。


ウィナー

イザク<

 何事かを言いたげにイザクを見ていたが、火熾しに専念しているらしいので、口を閉じておくことにする。
 鳥肉とパンを受け取ると、
「じゃあ、君のも使わせてもらうよ。ちょっとは豪勢な食事が楽しめるかもしれないね。パンは、あとで炙ろうか」
 大鍋に、平らな木板を取り出し、手頃な場所を探して設置する。鍋の中に麦を入れ、その上に適当に切り分けたバンチャの肉と、刻んだ乾し肉を乗せる。
「鳥肉とパン、多すぎる分は返しておくよ」
 ちょうどその頃に、イザクも、種火を産み落とすことができたようだ。


GM

 イザクは、かち、かち、かち、と、しばらくは火打ち石を打ち合わせ続けることになる。二、三分もあれば、なんとか火をおこせるだろう。


イザク

ウィナー<

「良さそうな場所だ」
 岩の隙間に入り込むと、内部を見回しながら呟く。
「砂まじりの風も、この中には殆ど吹き込んで来ない様だ。今夜の野営地は此処にしよう」
 続いて入ってきたウィナーに、そう声を掛けると、背負い袋を地面に置き、自らもその側に腰を下ろす。
 袋の中から火口箱を引っ張り出すと、早速、火おこしに取り掛かる。
「野営の準備が整ったら、辺りを一回りして、薪の代わりになりそうな物を集めてこよう。食事の準備は任せた」
 と、何かを思い出した様に顔を上げると、再度、背負い袋の口を開く。
 中から取り出したのは油紙の包み、ワーカインから譲り受けた、バンチャの肉と堅いパンが入っている。
 「中身は鳥の炙り肉とパンだ、料理に必要なら使ってくれて構わない」
 ウィナーに包みを手渡すと、視線を手元に戻し、今度こそ火おこしに集中する。


GM

 イザクは首尾良く、背の高い岩に三方を囲まれた、都合の良い隙間を見つけ出す。この岩が壁になって、少なくとも風を遮ることはできるし、火を焚いても――うまく隠せば――明かりが嫌なものを呼び寄せることも少なさそうだ。


ウィナー

イザク<

「食料や水を揃えるのは問題ないけど、腕の立つ仲間はなかなか手に入れがたいんだ」
 困った顔をする。
「まあ、すぐに行きたいというわけじゃないから、いいか。道順は確かに覚えたよ。ありがとう。
 お礼といっちゃあなんだけど、料理なら任せて欲しいな。
 硬くて塩もきついっていう上等な乾し肉と、あとは挽き割り麦があるから、野営の準備ができたらポリッジでも作ってみよう」
 軽口を叩きながら、イザクと同様に、野営地になりそうな場所を探し始める。


イザク

ウィナー<

「ほう、竜人の集落に行ってみたいと?
 学者というのは皆、その様な奇特な願望を持っているものなのか?」
 ウィナーからの問いかけに、少しだけ呆れた様な表情を見せる。
「そうだな・・・カルファールの外壁を出たら、西の方角に向けてひたすら進むといい。あるいは、フィアヌスに足を踏み入れ、森人の案内人を求めるのも良いだろう。いずれにしても、竜人族の谷までは必ず一度は荒野を通らなければならないが、途中までなら、荒野か大森林を進むか、二通りの選択があるからな。
 西へ進んだのなら、
荒地の中を突っ切り、“イサラの木立”という、絶海の岬とフィアヌスの中央部、最南端とが交わった場所を目指す。途中で“塩の原”に突き当たるはずだから、その縁に沿いながら南西に向かう心づもりでいれば、木立まで迷うことはないだろう。
 
それからまた荒地の中を進む。あの荒野は、たまに空が分厚い雲で覆われることがあるが、そうなったら、少なくとも太陽が見られるまで出発を控えた方が良い。太陽を見付けて、正しく夕日に向かって進み続けることができたなら、“乾いた河”にあたるはずだ。今はすっかりと涸れているが、太古には地域一帯に豊穣をもたらした河なのだと伝えられている。森人の案内人を求めたなら、とりあえずこの川の跡までは先導してもらえるはずだ。
 その川床を西の方に歩き続ければ、いずれ、地平線を埋め尽くす山の峰のうねりが見えてくる。しばらくはそのまま川沿いに進めば良い。途中で、河は南西の方角と、ほとんど真西の方角に進むのと二つに分かれているから、そこを西に折れる。そこから更に西に進み、今度は山に分け入っていくことになる。そこまで来れば、少し方角を外れても問題ない。土と岩ばかりの山へ登って行って、
運が良ければ、そのうち広大な断崖にぶつかる事になる。それが、我々竜人の故郷だ。但し――」
 一旦言葉を切った後、僅かに声を低くして言葉を継ぐ。
「無事に辿りつきたければ、十分すぎる程の水と食料、それから腕の立つ仲間を揃えた方が良いだろうな。何しろ、谷の周辺には都市はおろか小さな村さえ存在してない、此処と似た様な荒野と岩山があるだけだ。その上、凶暴な獣や、性質の悪い魔物が度々姿を見せるからな」
 そう言って、隣を歩く年若い学者に忠告する。

 太陽が地平線に近づいて、空が朱を帯びはじめた頃、それまで一定を保っていた歩調を緩めると、ウィナーに声を掛ける。 
「そろそろ日も落ちる頃だ、野営の準備を始めるとしよう」
 歩きながら、小さな洞穴や岩棚の隙間など、目立たず眠りにつけそうな場所を探す。


GM

 二人の旅は、とりあえずは順調に進んでいるようだ。
 一時間、二時間と、単調な移動の中、淡々と時間が過ぎていく。道はさして険しくはない。といって、石の敷かれた道があるわけでもなく、楽な通行ができるわけでもなかったが。
 ウィナーは柔弱ではなく、イザクのペースに意外なほど確かな足取りで付いてきていた。もちろん、驚異的な強靱さと体力を誇る竜人族には及ばなかったが、人間という種族の、魔術師という人種の中では、というくらいだったが。

 雨が降ったならば、途端にぬかるみができて難儀したことだろうが、この地域では、頻繁には雨は降らない。
 天気の面でも、道の上でも。総じて、良くも悪くもなかった。

 イザクは幾つかの目印を見付けた。ワーカインが目安として話していたものより、少しタイミングが早かったのは、彼女の想定よりも、この旅程が順調に進んでいるということなのだろう。
 出立より大分、時間が過ぎて、日暮れまでもう少しといった頃になった。この時点で、道程の半ばは超えただろうと思われた。


ウィナー

「ぼくはね、あまり町の方に来たことはないんだ。北西の方――大森林の方角には行っていたんだけれどもね。
 あちらは、森人たちの巡視があるからか、大分、治安がいいんだよ。ぼくたち学者にとって、興味深いものも色々とあるしね」

 歩を進めながら、とりとめもないことを口にする。

「そういえばきみたち竜人の集落は、どのあたりにあるんだろうね?
 存在は聞いたことがあるんだけど、どの口もこの口も、詳しい場所については全く知らないんだ。ぼくも興味があるから、行ってみたいと思っていたのさ」


イザク

 クロウ族の遊牧地を目指し、荒涼とした風景の中を進んでゆく。
 日没が迫れば、移動を中断して野営の準備に掛からなければならない、それまでに、なるべく距離を稼いでおきたいところではあるが――独り旅とは違い、同行者の体力も考慮しなければならない。
 適度に休憩を挟みながらの移動。歩調も、隣を歩くウィナーに合わせた速度になるだろう。
 時折、足を止めて周囲を見渡す。マスターから教えられた、特徴のある地形を見落とさない様にする為、それと、獣や魔物等からの不意の襲撃を警戒しての行動である。尤も、周りには身を隠せる様な物も殆ど無く、見晴らしもすこぶる良い。後者についての心配はあまり必要なさそうではある。


GM

 イザクにとっては見慣れた風景だった。竜人族の谷から旅立ち、紆余曲折を経て、あの町へたどり着くまでに何日も目にした、乾いた荒野と岩山の景色だ。
 この不毛な大地には、常に南から砂混じりの黄色い風が吹いてくる。
 空は大抵は濁っており、たまに降る盛大な雨のあとには綺麗に晴れ、その時にだけは、清々しい様子を見せる。
 特徴的な形の灌木が、点々と、地に根を張っていて、単調な景色に少しでも色を添えようとしているかのようだ。
 昼頃にカルファールを出発した彼らの、移動のペースはどれほどのものだっただろうか。