PBeM
〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

騎士王国シルヴァード:
大陸の東部、バーナード地方の列国、最強の国。
剣王ハルッサムによる安定した統治を受け、現在が史上の全盛期と言われている。

:大牙の城:
 十年の長きに渡って繰り広げられた“大陸戦争”の当初に建てられてそれを生き抜き、“サイーディア討伐戦”、また、“魔物掃討作戦”の激戦を生き延びた歴戦の城塞。
 岩山の上に石造りされたこの建物は華美でなく、しかし質素に過ぎず、そして戦略上の合理性と生活のふたつを追求して改築が繰り返された大規模の王城で、その威容は北の大地まで伝わっている。
 先代である正義王アールス、そして当代の剣王ハルッサムとともに様々な逸話を残したこの人の身ならぬ老兵は、今は平和な暮らしを営んでいるように見える。
 ハルッサムと故王妃との双子は若輩ながらも、兄のシーザーは剣に、妹のリィジィーは魔術に才を見せており、ともに将来を嘱望されている。
 この王家は民に絶大な人気を誇り、その治世は安定し揺るがない。
投稿(件名…大牙の城)
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正門
大牙の塔
謁見の間
政務室
会議室
研究室
詰め所
礼拝堂
騎士団寮
兵士宿舎
一般宿舎
馬厩舎
家畜小屋
大食堂
食堂
舞踏場
訓練場
鍛冶場
武具庫
書庫
食料庫
宝物庫
地下牢
大牙の塔・通路図
  第三通路  第四通路


第二通路  






-階段-
地下牢


騎士団寮
中庭



 






第八通路  
第七通路
王族墓地
 



GM

 サーラたちは騎士団寮へ移動した。


アルマ

サーラ<

「もちろんです」
 同行してもらえないかとの言葉に、当然のように頷く。
「アルパージャ卿は、恐らく精神が疲労しきっているだけでしょうから、大丈夫だと思います。
 体力の回復ができれば、自然と心も癒されます。身体を暖かくして、食べ物と、後は睡眠を取れば問題ないでしょう。
 ……神官がいれば、精神そのものを癒すことができますから、手っ取り早く回復させることは可能ですが、敢えて無理をすることもないでしょう」


アイスバーグ

サーラ<

「この程度、傷の内には入りません」
 実際、サーラの傷に比べれば大したものではない。
 とはいえ、アルパージャを手当てしなければならないのは確かだ。
 内心は不承不承ながら、頷く。
「分かりました、アルパージャ卿をお連れします」
 言って、二人で通路の闇の奧へ去っていく。



梟の騎士

 明かりの下で見れば、すぐにそれと分かった。
 腰のベルトに括り付けられた、弦の外れた弓、それから甲冑に刻まれた猛禽の翼を象った紋章は、彼が“弓の騎士団” に所属する騎士であり、中でも弓兵部隊の強豪さで知られる、梟騎士団に属するものであることを教えている。

サーラ<

 一瞬戸惑った様子だったが、相手がシルヴァードでは“あの騎士”よく知られた人物であることに気づき、頷く。
「了解した、サー・ナイト。
 すぐに手配する」
 サーラが共のものに矢継ぎ早に指示を出す間に、彼女自身の傷にも気がついて「あなたも手当を」と言おうかと思ったが、まったく当人が気にした様子がないもので、敢えて口を出した方が無礼にあたるかと考え直す。

「アルファ!」
 サーラと反対側へ早足で戻っていきながら、恐らくは従騎士の名を呼んでいる。


サーラ

「手を貸してくれ。
 地下牢に魔物の襲撃があった。
 件の魔物は退治したし、看守も外傷はないが・・・念には念を入れた方がいい。
 警備の者を何人か回してほしい。」
 この時間の警備担当部署はどこだっただろうか。
 赤鱗騎士団か剣の騎士団なら話が通じるんだが・・・と思いながらも言葉を続ける。
「上には私が説明しに行く。
 とりあえず、このあたりの灯りを増やすんだ。魔物は暗がりを好むらしいから。」
 瘴気と陽気の関係を恐ろしく簡潔に説明すると、踵を返した。

アイスバーグ<

「アイスバーグ、アルパージャ卿を医務室まで運んでやってくれないか?
 早く医者に診せてやってくれ。」
 ぐったりとした様子に、やや早口にそう頼んだ。
 胸に傷のついたアイスバーグの鎧にも視線を走らせると、わずかに眉をひそめる。
「ついでに、おまえも診てもらってこい。
 私はこのまま団長に報告してくるから。」

アルマ<

「アルマ殿、もう少しお付き合い願えるだろうか?」
 魔物のことを説明するのに、彼女にもいてもらったほうがいい。
 そう考え、幾分申し訳なさそうな顔で同行を頼む。
 アルパージャの様子に眉をひそめた後
「彼は医者に診てもらえば大丈夫なのか?」
 神官をよんだ方がいいのだろうか、とやや心もとなげに尋ねた。


騎士?

 サーラの声に応じて、駆けつけてくるものの姿がある。
「どうした、サー・ナイト?」
 尋常でない様子に、驚いている。


サーラ

「誰かいないか!」
 通路へ出ると、辺りを見渡しながら声をかける。
 通路の壁に跳ね返り、サーラの声が反響して響いた。


GM

 サーラたちは地下牢へ移動しました。


アルマ

サーラ<

「いいえ、問題ありません。騎士サーラ、許可を頂けて幸いです」
 わざとらしい口ぶりで答えて、頷く。
「魔法は悪用しようと思えば、いくらでも役に立てられます。ですから、ギルドの掟は魔術師の規律を守るために必要不可欠なのですが、これもこれでなかなか巧妙に抜け穴がこしらえてあるのです」
 それでは早速、といって、手にしていた杖をかざす。
 複雑な、踊りのような動作をしながら、不可思議な言語を口にする。
隠されしことわりを光の元に
 最後にサーラたちにも分かる言葉を呟くと、その瞳が青く輝き出す。
 微笑んで、
「では、参りましょうか」


サーラ

アルマ<

「わかった。それでは早速調べてみよう。
 緊急事態の可能性もあるから、誰も『入るな』などど煩いことは言わないはずだ。」
 アスラン騎士隊長には後ほど報告すると笑って言葉を続ける。
 見ようによっては爽やかですらある笑顔だったが、『煩いこと』を言われてもサーラなら問答無用で入るだろうということは、彼女を知るものには簡単に予想できる未来でもある。
 魔法での探索という言葉に軽く目を見張る。
「そんな便利な事もできるのか?」
 しげしげとアルマの顔を見たあと、
「是非お願いしたいところだな。せっかくアルマ殿に協力してもらっているのだから、騎士団だけではできない調査がしたい。」
 真剣な表情でそう言った。
 その後わずかに首をかしげ
「――と言っても、私の要請では駄目かな?騎士団長級の要請が必要だろうか。」
 そう続けた。


アルマ

イーディス<

「そうかもしれませんね」
 今し方のサーラの口ぶりを聞いて、くすりと笑う。

サーラ<

「そうですね、可能であるのなら、是非、確認しておきたいところです」
 思案げな表情で頷く。
「もしも魔法を使うことの許可を頂ければ、知覚のみに頼らない探索もできるのですが……。城や寺院内では、住人の無許可での魔法の行使はできませんから」


サーラ

アルマ<

 空恐ろしい施設、という言葉にサーラの顔に笑みらしきものが閃いた。
 恐ろしいほどの凄みが感じられる笑顔。
「――そんな施設がなくてもいいように、我々がいるんだ」
 拷問も迷宮も、国と民のために必要不可欠だというのなら妥協する。
 しかしそんな不健康なものには可能な限り頼りたくないーと言わんばかりの表情だった。
 いかにサーラと、その「空恐ろしい施設」かが反発するかがわかる。

「まあ、それはともかく。
地下牢の中ものぞいてみるか? ここまで来たら怪しい場所は全て、改めたほうがいいだろう?」
 地下牢の扉の方に目をやり、そう問いかける。

イーディス<

「奇遇だな、私も好きな場所ではない。」
 苦笑と同時に肩をすくめる。
「ただ、地下牢にも換気が必要だという話だ。
 陰気とやらが溜まると魔物が沸いてくる・・・のだったかな?どうもそういうことらしいので、定期的にのぞくことは大切なようだ。」


イーディス

サーラ<

「地下牢ですか……」
 陰気くさい施設のことを思い出して顔をしかめる。
「正直、あんまり好きな所じゃないですが、調査しなけりゃならないんなら仕方ないですね。地下牢以外、あまり、その陰気とかいうものがありそうな場所は思いつかないですしね。
 そういえば、王族墓地なんていうのもありましたっけ」

アルマ<

 つい、素直に言葉を返してしまう。
「まあ、真面目な国ですからね。退屈っていうかなんというか」
 今の自分の状況に気がついて、慌てて言い換える。
「ほら、なんていうんですか、上も下も規律がしっかりしていますからね。地下牢くらいしかいらないんですよ」


GM

 サーラの記憶によれば、牢屋の管理は、白衣の騎士団のアスラン騎士隊長が務めているはずである。とはいえ、直接に囚人と関わる業務は騎士は行わず、大抵は専業としての看守が入っている。
 特に警備を厳しくする必要のある場合においては、優れた騎士が一人、二人と配備されることもあるが、基本的に騎士は日向の(いわゆる、「誉れ」となりうる)仕事を好む傾向にあり、看守の仕事などは敬遠されがちであり、また、重要視されない。


アルマ

サーラ<

「はい、まさに、そのような場所のことです」
 手を打って、頷く。
「城主によっては、拷問室ですとか、入れば二度と出られない地下深くの迷宮ですとか、空恐ろしい施設を造らせているものもいるようですが、こと、この国に関しては、期待できなさそうですね。陰気の発生源としては格好なのですが」
 まじめくさった顔で言ってみせる。


サーラ

アルマ<

 歩いてみた方がいい、という言葉に軽く頷く。
 灯りに揺れる金の双眸を、かわらず周囲の薄闇にすえながら足を進めた。
「陰気の発生源・・・というと、昼間の話だろうか?」
 視線がそちらへと向かう。
「――この通路の先に、その地下牢がある。
 この際、牢の中も調べておいた方がいいかもしれないな。」
 担当の騎士は誰だったか・・・などと考えながら、歩を進める。

アイスバーグ<

「最初は誰でもそんなものだ。」
 に、と笑顔を浮かべて、続けて肩を叩いた。

イーディス<

 迷宮、という言葉に大きく頷いた。
「言い当て妙だ。いつ、何が出てきてもおかしくないような雰囲気だな。」


イーディス

 周囲を油断なく警戒しながら、歩を進めている。
 この城の複雑な構造になれていないため、ここで生まれ育った人たちが先導してくれるのがありがたい。

サーラ<

「あたしにもイマイチ分からないですね」
 首をひねる。
「しかしまあ、迷宮にいるみたいな気分ですね」


アイスバーグ

サーラ<

「はい、隊長」
 素直にうなずく。
 それから、自分の肩に力が入りすぎていたらしいことに気がついて、苦笑するとかぶりを振った。
「まだまだ、経験が足りませんね。」


アルマ

サーラ<

「匂いのようなものだと捉えてください。ですから、淀んだり、溜まったりすることはあります。ですが、どうにも、判断しがたいですね」
 困ったような顔をする。
「私に、魔力の働きを見る眼があれば良いのですが。もう少し、歩いてみた方が良いかもしれません。――そういえば、何か、陰気の発生源になりそうな施設がありませんでしたでしょうか?」


サーラ

 薄暗い第五通路を見渡す、サーラの金色の眼がすっと細められる。
「――目立った異変はないようだが、奇妙な感じだな?」
 呟く声は、いつも通りのものだった。
 少なくとも見た目には、通常の巡回時とかわらない彼女に見える。
 夜になると――暗くなると瘴気が増えるというのなら、とりあえず燭台全部に灯を灯してみようか。
 そんなことを考えながら、周囲の様子を見やった。

イーディス<

「・・・すばらしく雰囲気が暗い以外、いつもと変わらないように見えるが・・・」
 軽く首をひねりながらイーディスを見る。
「貴方は何か感じるものはあるか?」

アイスバーグ<

 緊張した様子に、少し口元をほころばせた。
「緊張するなとは言わないが、ほどほどにな。普段の力が発揮できないぞ。」
 明るい声音でそういうと、拳で軽くアイスバーグの肩口を小突いた。

アルマ<

 共同墓地に迫るほどの陰気、という言葉に、サーラの眼差しが僅かに鋭さを増した。
「その陰気というものは、全体に薄くのびているものなのだろうか?
 凝ったり、溜まっている場所はないのか?」
 強い光を放つような目を通路にすえたまま、言葉を続ける。
「発生源がもう少し絞れると、ありがたいのだが。」


GM

 一行は、周囲の様子を警戒しながら、第五通路へと進んでいく。通路の中は暗く、ひっそりとしている。壁には燭台が取り付けられているが、必要なときでもない限り、そのすべてに火が灯ることはない。
 要所要所には歩哨が立っているし、このあたりも、騎士団の夜警が通るはずだが、まるで、廃墟にいるかのような心地がする。それは、ここで異常な事態が起きているのではと疑う心が思わせるものなのかもしれなかったが。
 とはいえ、今のところ、あたりに、はっきりとした異変が起きているわけでもなかった。
 アイスバーグは顔に緊張の色を出して、神経を尖らせて周囲を警戒している。
 アルマは、どこか超然とした面持ちで、空間を見つめている。
「――やはり、陰気が強いですね。戦火にさらされた土地というのは、陰気を放ちやすいものではあります。ですが、それほど、この城で特に人死にがでたというわけでもないはずですが。共同墓地ほどではありませんが、それに迫ります」


イーディス

サーラ<

「そうでしたか、魔法っていうのは便利なもんなんですね」
 感心したようにアルマを見やる。
「先祖代々伝わる魔法の剣みたいなものがあれば話はもっと楽になるんでしょうけどね」
 ぼやきながらサーラに続いていく。
「自分も気は長い方じゃないですよ。なんなら、今夜早速のお出ましで出てきてくれたっていいんですが」


サーラ

アルマ<

「なるほど。では、気を引き締めていくとしよう。
 アルマ殿も何か異変を感じたら教えていただきたい。」
そう言いながら足を進める。

イーディス<

「正直に言えば、私もぼんやりしたものは好みではない。」
 不敵な、という形容がぴったりの笑みを浮かべる。
「しかし、剣が当たるかどうかということなら心配は無用だ。
 アルマ殿の力を借りることで、私達の剣も魔物や亡霊にも通用する。」

 間近に見えてきた第二門に視線をやり、目を光らせる。
「――まあ、何があるにしろ、原因を特定しない限り取り除くことも不可能だ。
 叩きのめすにしろ説得するにしろ、相手がいるのなら早く出てきてほしいものだな。」
 誰かに、というよりは、ひとり言のようにそう呟いた。


GM

 一行は、東第二門まで移動しました。


イーディス

サーラ<

「じゃあ、行きましょうか。
 あたしは、目に見えるものならなんとかできる自信があるんですが、モヤっとしたものは得意じゃないです。船乗りってのは迷信深いものらしいですけど。
 ですけど、できる限りのことはやるつもりです。怪しいやつが出てきたとして、それが魔物だろうが悪霊だろうが。剣が当てられれば良いんですけどね」
 陽気に笑って、ついていく。

アルマ<

「へえ、この町の共同墓地からして、そんなことになってるんですか」
 目を見張る。
「そしたら、死んでも、共同墓地には葬られたくはないっすね。戦死は怖くはないですけど、ゾンビみたいなものになるのはゾッとしないっていうものです。できりゃ、海にでも放り込んでもらいたいもんですが、この地域じゃ難しいでしょうねえ」


アルマ

 興味深そうな顔で、周囲に目をやっている。
 彼女はもちろん、一般的な部外者の例に漏れず、夜中の城内には足を踏み入れたことはない。

サーラ<

「そうですね。一概には申し上げられませんが、通常は、そうです。例えば、このお城の王族墓地は、昼は全く陰気というものがなく、どちらかといえば清浄なものを感じさせるのですが、夜中には暗く沈み込んだ気配があるのだそうです。
 また、共同墓地は、墓守をされているギュンター様のお力もあって、悪霊が跋扈することだけは抑えられていますが、そこも夜になれば全くの魔境となるようです。
 それ以外の場所でも、大抵は、夜中の方が陰気の濃度が増すものだと考えて良いでしょう」


サーラ

 薄闇に沈んでいく風景の中を、慣れた様子で歩いていく。
 燭台の灯りとそれによって揺らめく影が、まるでサーラの髪を本物の炎のように映し出していた。
 巡回の兵士たちに軽く挨拶をしながら、さりげなく、しかし注意深く、彼女は辺りに目を配っていた。
「――とりあえず、問題の第二門を見にいくか。」
 そんな風に呟きながら、昼間にも見た第二門の方へと足を向ける。

アルマ<

「ところでアルマ殿。」
 金色に光る目を魔術師へと向ける。
「昼間にあの辺りには『陰気』とやらが多いと伺ったが、それはやはり、夜になると量を増すものなのか?」


GM

 西の地平に太陽が沈んでいき、周辺は瞬く間に闇に包まれていく。巡回の兵士たちが、要所に設置された燭台に火を灯していくが、城内は非常に暗く、慣れていなければすぐに道に迷ってしまうだろう。


GM

 サーラたちが、移動してきました。


GM

 イーディスは、訓練場に移動しました。


イーディス

「まったく、いつ来ても面倒だ。いっそのこと、すべて一直線で作ってくれたほうが便利なのに」
 防衛のための構造ということに意識が廻らない彼女は悪態をつきながら、腕を回しながら訓練場を目指す。身体を動かすことは好きだし、人の動きを学ぶのも嫌いではなかったからだ。


GM

 イーディスは、大牙の城の通廊に到着した。
 本郭を取り巻くような、曲がりくねった道で、始めて通ったものならばすぐに迷い込んでしまうだろう。
(城というものには、招かれざる客を迷わせるための様々な仕掛けがしてあるものである)
 今では、イーディスもほとんどの道を諳んじているはずである。

 訓練場、鍛冶場、食堂など、ここから、どこの場所に向かうこともできる。


アイスバーグ

サーラ<

「了解です」
 改めて頷くと、年相応の笑顔で、にこりとする。
「隊長のご命令とあれば。『休憩も戦いの一部』ですからね」
 休憩の〜とは、何かからの引用のようだった。
 書物からのものか、あるいは、以前にサーラが口にした台詞だったかも知れないが。

 訓練所に向かうサーラの姿を見送ると、自分も歩き出した。


サーラ

アイスバーグ<

 後で何か持っていく、という言葉に破願する。
「それはありがたい。
 だけど、急がなくていいぞ。まずおまえがゆっくり食事を取ることだ。
 これは隊長命令と思ってきくように。」
 大らかな笑みを浮かべ、アイスバーグの顔を見下ろした。
「怪しい気配とやらに気付いたのはおまえだけなんだからな。
気力を充分養っておいてくれ。」
 相手に答えるように敬礼をおくると、「また後でな」という言葉とともに踵を返した。


アイスバーグ

サーラ<

「あ、あはは。了解しました、隊長」
 照れたように困った風に笑うと、敬礼する。
「厨房を覗いて、余った食事でももらってくることにします。
 隊長にも何かお持ちします。では、失礼します」


サーラ

アイスバーグ<

 魔術師が去っていくのを見送った後、不思議そうな顔をして彼を見下ろした。
「どうした?いつもに輪をかけて大人しかったじゃないか。」
 金色の目を怪訝そうに細めて首を傾げている。
 数瞬の間、考えるようにアイスバーグの顔をじっと見ていたが、ややあって何かに気付いたように手を打った。
「・・・腹でも減ったか?今日は走り回ったしな。
 アルマ殿と合流するまでは特にすることもないし、何か食べてくるといい。
 私はちょっと訓練場をのぞいてくるから。」
 おまえはまだまだ育ち盛りだしな、とひとり納得して頷いている。
 冗談ではなく、本気で言っているらしいことがその表情から伺えた。
 アイスバーグの予想通り、彼の葛藤には思い至らなかったようである。


アルマ

サーラ<

「はい、構いません」
 にこりとして、頷いた。
「では、私はギルドに行って参ります。
 なるべく早めに戻りますね。
 そこまで時間は掛からないとは思いますが……」

 丁寧に礼を送って、その場から辞する。


サーラ

イーディス<

「ありがとう。気を引き締めてかかるとしよう。」
 敬礼を返し、去っていく後姿を見送った。

アルマ<

「なるほどな・・・どちらかというと私には、悪霊よりも人間の悪意の方が厄介に思えるが。」
 不敵にも見える笑みをちらりと浮かべると、そんなふうに呟いた。
「どちらにしても、厄介なことになりそうだ。油断だけはしないようにしないとな。」

 ひとつ頭を振って気持ちを切り替えるような動きをする。
 再びアルマへと視線を向けると、普段どおりの明るい瞳がそこにはあった。
「ではアルマ殿、日が落ちてからもう一度落ち合おう。
 場所は・・・そうだな、正門の辺りでよろしいだろうか?」
 軽く首を傾げるようにして問いかけた。


イーディス

サーラ<

「了解です!!」
 びしっと敬礼をすると、
「では、失礼します。いかんせん何があるのかわかりません。気をつけてください」
 そして、踵を返し、また通路を騎士団寮のほうへ向かって歩き始める。

 騎士団寮に向かった


アルマ

サーラ<

 一考して、それから首肯する。
「あり得ないとは言えません。
 たとえば、悪霊が騒ぎを引き起こしたのだと仮定したなら、その悪霊が王弟によからぬ影響を及ぼしたということも考えられますし、もしも騒ぎを起こしていたのが悪霊ではなく、たとえば人間だと仮定しても、似たような結果を引き起こすことはあり得るでしょう。
 たとえば、敵国からの密偵が王弟の元へ忍び込み、悪巧みを吹き込んだ、とか。
 騎士王国と大魔術師王国は、比較しても差違ばかり目立ちますが……」
 むしろだからこそ、このような類似は気に掛かりますね。
 そう言葉を締めくくる。


サーラ

イーディス<

「・・・なるほど・・・今回と同じようなできごとが過去にあったわけだ。
 イーディス殿、貴重な情報を教えていただき感謝する。」
 イーディスの話を聞き終わると、そう言って考えるように軽く目を伏せる。
「場所は王城、人数はイ・サードの方が多いとは言え、同じように不審な気配が感じられていた。
 その後、王が暗殺され反乱があったと・・・確かに勘違いで済ませてはいられない話だな。」
 伏せていた目を上げる。金色の炎が灯ったような強い光が浮かぶ。
 イーディスの意見に頷くと笑みを浮かべ
「私もそう思う。何者の仕業であれ、我々の住処で、そんなふざけた真似を許すわけにはいかない。」
 強い口調で、そう言い切った。
「私たちはこの後、夜を待ってもう一度この辺りを調べてみるつもりだ。
 魔術師殿が言われるには、この周辺には濁った想念ー瘴気のようなものが集まっているらしい。
 本来のそれより、過剰なくらいにな。そのこととの関連も調べてみたいと思う。
 ・・・ということを、ご足労だがウォン隊長にお伝えいただけるだろうか?」
 にこり、というよりは、にやりと形容するのが正しいような力強い笑顔を浮かべて、そう言った。

アルマ<

 首をめぐらせるようにして魔術師の方へ視線を向け、
「20年程前と今回感じられたような不審な気配が、その後の事態に関連している可能性というのはあるのだろうか?」
 と問いかけた。


イーディス

アイスバーグ<

 サーラの話を聞きながらちらっとアイスバーグを見やる。最初は自分と同じような従士かと思って会釈をしたが、サーラの「うちの隊の騎士アイスバーグが」という言葉で礼を送られ、初めて気づき慌てて苦笑いをする。

サーラ<

「自分もちょうどその件について話があります。ここで話すのは少し憚られるような気もしますけど・・・」
 と少し躊躇ってから
「サー・アイスバーグの感じたという不審な気配ですが、書庫のゼノ婆さんに聞いたところ、その話と似たことが20年くらい前にイ・サードの王城でも起こったことがあるそうです。・・・・そのときはサー・アイスバーグのように一人というわけでなく、十数人が気配を感じたとのことですけど・・・」
 少し興奮した様子で早口に喋りだす。
「その数日後、当時のイ・サード王が弟にして腹心の大侯爵に暗殺、反乱を起こされるという事件がおこったという話です」
 そして、息を大きく吸ってから
「自分は今回のサー・アイスバーグの話をただの勘違いで済ますわけにはいかないと思います。あたしには良くわからないけど・・・・・・もし、何ごとかの謀事がこの城内に起こっているのであればそれを事前に突き止めなければ取り返しのつかないことになりそうな予感がします」
 と強く意見を述べる。


アイスバーグ

イーディス<

(ああ、会ってしまった。
 しまった、やはり前もって対応を考えておけば良かった)
 自分よりも年上の女性で、しかし騎士側の世界に属していて、かつ階級上は自分の方が優位だという、どの礼儀作法の指南書にも書いていない状況に困惑する。
 
 どういった態度をすれば良いのか悩んだ末に、
「……」
 サーラの『うちの隊の騎士アイスバーグが』のあたりで、無言で礼を送る。
 “サーラが話をしているところに割り込むのは失礼だから、とりあえず挨拶まで”というようなポーズである。


サーラ

イーディス<

 軽く目を見張ったあと、楽しそうな笑みを浮かべて言った。
「いや、気にしないでもらいたい。私もまさに『ちょうどよかった』という心境だったからな。
 さっきも、貴方がそこを通らないかと道をうかがっていたところだ。」
 悪戯っぽくその金の目を光らせると、姿勢を正す。
 ウォン隊長から伺っていると思うが、と言った後、第五通路第二門周辺を手で指し示す。
「うちの隊の騎士アイスバーグが、最近この辺りで不審な気配を感じたというので調査をしている。
 ウォン隊長から、あなたがこの件について調べてくださっていると聞いた。
 私たちも調査は続けていたのだが、どうもこれといった手がかりがなくてな。
 貴方の方で何かわかったことがあるかと思って、ひき止めさせていただいたのだが、どうだろうか。」


イーディス

「うーむ、やっぱあんな話を聞いた後だと、この通路が気味悪く感じるな」
 と、早足で通路を歩いていたが、呼び止める声に気づき足を止める。

サーラ<

「サー・サーラ!ちょうどよかった」
 その姿を見止め、驚きながらも喜びの声を上げ
「申し訳ありません!」
 とあわてて敬礼をする。
「して、お話とは?」


GM

 ちなみに、騎士団は各騎士団ごとに色分けがされています。
 甲冑やマントの装飾は自由ですが、サー・コート(甲冑や鎖帷子の上に羽織るもので、兜などで顔が見えなくても、その騎士がどういった素性の人物かが分かるように、家の紋章などが編み込まれていたりします)は規定のものです。
 槍の騎士団が赤、剣の騎士団が青で、弓の騎士団が緑です。近衛兵団が白黒の二色ですね。

 補足すると、騎士王国シルヴァードの国旗は灰色ですが、あらゆる色の絵の具を混ぜると灰色になるところから、シルヴァードの騎士団が設立されるとき、かれらは鮮やかな色で分けられた、というエピソードがあったりします。



サーラ

アルマ<

「了解した。では、そのように・・・」
 言いかけたサーラの目が、見覚えのある姿を捉えた。
「ちょうどいいタイミングだな。」
 に、と軽く笑みを浮かべると踵を返す。
 通路を歩いてくる女性騎士に近づき、声をかけた。

イーディス<

「失礼、第一騎士団のイーディス殿だろうか?
 私は赤鱗騎士団のサーラ・フィリス・ウィンダリアだ。少し話を伺いたいのだが、よろしいだろうか。」
 金の目を眇めるようにして、明るい声で話しかける。
 敬礼をしながらも、その顔には屈託のない笑みが浮かんでいた。


GM

 サーラたちが話しているところに、見覚えのある姿が戻ってくる。
 どうやら、従士イーディスが、書庫での用を済ませて来たらしい。


アルマ

サーラ<

「そうですね」
 一つ、頷く。
「では、私は一旦お暇して、所用が済み次第、戻って参りますね。
 時間としては、日が落ちるすぐ前くらいになるかと思います」


サーラ

アルマ<

「なるほど。瘴気に向かって存在するものを魔物という、か。
勉強になるな。」
 そうなると、共存するというのは難しそうだなと思いながらひとり頷く。
(ある程度距離をおくしかないのかな。)
 そんなふうに考えながら瞳をめぐらせた。

 これからどうすのか、と問われて軽く首をかたむける。
「書庫へおもむいてもいいのだが・・・あまり時間もなさそうだしな。
 あちらへは調べに行っていただいているし、報告を待とうと思う。
 一度解散し、日が落ちてから再調査ということでよろしいだろうか?」
 同じように空の様子を見つめ、そう尋ねた。


アルマ

サーラ<

「そうですね、その通りです。
 それが、魔物なのですね」
 と、説明をする。
「私たちの間では、強い瘴気を発生させうるか、そうではないかという区分によって、“魔物”を定義しています。
 俗には、魔物とは魂を持たないとされていますが、魔術師の間では、それは否定されています。
 なぜ、私たち人族は、そして魔物は、互いに嫌い、恐れるのか。まるで、ある種の虫に対して、私たち人間が極度の嫌悪感を覚えるように、この二種類の生命体は、互いに親しくすることができません。
 それは、人族は陽気に向かって存在し、魔物は瘴気に向かって存在するからなのです。火は水の中で燃えさかることはできません。
 ……すべてお話しすると長くなってしまうのですが、そういうことなのです」

 髪をつまんでいる姿を見て、くすりと微笑む。
「ええ、色は大きな要素です。赤い色は特に、激しさや明るさを象徴するもので、陽気を与える力を持っています。
 けれど、私が、サーラ様が陽気をまとっていると申したのは、それだけの意味ではないですよ」

 サーラが見やって方向を見て、興味深そうな顔をする。
「夜を待つのも良いですし、書庫に行ってみるのも面白そうですね。お任せします。
 もし夜を待つということでしたら、一旦、私はギルドに戻って、少しだけ準備をして参りますし。書庫も見てみるのでしたら、私がお役に立てることもあるでしょうし」
 どちらにしてもあまり時間はなさそうですが。
 と、採光窓から覗く朱色を見て、首を傾げた。


サーラ

アイスバーグ<

 簡単に追い出せそうだ、という言葉ににっと笑う。
「胸倉をつかんで放り出せるのなら、遠慮なくそうするんだがな。」
 追い出すという言葉から力技を連想したらしい。
 何故か指をぽきぽきと鳴らしながらそう言った。

アルマ<

「人族が強い瘴気を出すのは難しい、ということは、別の種族なら可能なのだろうか?」
 興味を惹かれたように、瞳をめぐらせながら尋ねた。
 金色の目がくるりと表情を変える様は、案外子どもっぽくも見える。

「暖かな陽気・・・?この髪の色のことだろうか?」
 とりあえず、それくらいしか思いつかなかったらしく長めの前髪をつまんで引っ張ってみる。
「うちの家系でもこれだけ赤いのは珍しいらしいが、そんなにありがたみがあるとは思わなかったな。
 効果があるのなら、定期的にのぞいて換気をすることにしよう。」
 太陽と同じ効果があるなら悪くない、と鮮やかに笑った。

 夜を待とうか、という言葉に頷きながら首をめぐらせた。
「そうだな・・・やはり日が高いうちは何も起こらないようだし。
 イーディス殿の調査は、どちらにしても後からよこしてくれるとウォン隊長も仰っていたので今会えなくても平気なんだが・・・」
 第五通路を通るとは限らないし、と言いながらもとりあえず書庫の方へと視線をやった。


アルマ

サーラ<

「いいえ、こちらこそ」
 サーラからの謝罪に対して頭を振ると、微笑んだ。
 それから、少し考える。
「――そうですね、とりあえずは気にしないでも良いかと思います。調査をしてみて、まだ何も分からないようなら、あたってみるという程度に考えておけば良いはずです」
 それほど、人族が、周囲に影響を及ぼすほどの瘴気を生み出すのは難しいのだと言う。

 空気の入れ換えについて耳にすると、まじめな表情で頷く。
「悪いことではありません。むしろ、効果的であると言えるでしょうね。
 サーラ様は暖かな陽気をまとった方ですから、瘴気を消し去るにはとても、良いです」
 にこりとする。
「太陽の下に毛布を干すと、嫌な湿っぽさが消えますでしょう?
 それと同じようなものだと考えてください」

「それにしても、やはり、今のところは特別な異常は他には見あたりませんね。
 夜を待った方が良いでしょうか。
 先ほどの、イーディスさんという方の調査も気になりますけれども」


アイスバーグ

サーラ<

「空気の入れ換え、ですか」
 くすりと笑った。
「確かに、隊長でしたら、ちょっとやそっとの陰気くらい、簡単に追い出してしまえそうですね」


サーラ

アイスバーグ<

「そうだな。私たちの知らない区域があるというのなら別だが・・・まあその辺りだろう。」
 軽く頷いて腕を組む。
「しかし、あれだな。牢だの処刑場だのといった場所は、暗いし陰気な気がするしで必要以上に近づかなかったんだが、こうなるとあまり褒められたものじゃないな。
 定期的に立ち寄って空気の入れ替えくらいするべきだったか。」
 カビだの湿気だのを追い払うような口調で呟いている。
 がしがしと髪をかき上げている表情は、かなり本気が混じっていそうだった。

アルマ<

 謝罪の言葉に苦笑を浮かべて首を振る。
「いや、謝っていただくには及ばない。」
 腕を組み替えて軽く肩をすくめた。金の目が強く光を弾く。
「政治や権力の集まる場所なら『人が苦しむような施設』がある可能性も否定できない。そう思ってしまった自分に腹が立ったんだ。
 私こそ、気を遣わせてしまったのだったら申し訳ない。」
 そう言って気持ちを切りかえるように頭を振った。
 表情も真剣なものに変えると、地下牢の方を見つめる。
「――今、牢に入っているのはそこまで凶悪な者ではなかったと思うが・・・担当の騎士に当たってみようか?」


アルマ

サーラ<

「あ、申し訳ないです。少し、語弊があったかも知れません」
 サーラの表情を見て、自分の言葉がどう聞こえたかに気づいて、謝罪する。
「まさしく、地下牢のような施設のことを申し上げたかったのです。墓場や、牢獄などは、その性質からどうしても、人の強い想念が生まれやすく、また、集まりやすいのです。
 すぐそこに地下牢があるのですね。
 でしたら、この周辺の空気も、納得がいきます。
 ……それにしては、少々、濁った想念が過剰であるようにも思えますが」
 周囲を見渡しながら、壁に向かっていき、手で石壁の表面を撫でる。

 それから、ひとりごちた。

「地下牢に入っている人物が病的なほどの凶悪犯罪者でもなければ……」


アイスバーグ

サーラ<

 ふるふる、と、やけに子供っぽく頭を振る。
 少しばかり焦っているような表情だ。
「ないです。あ、いえ、ありません。そのはずです」
 一旦、否定してから、城内の地図を脳裏に巡らせて、確かめていく。
「……はい、やはりありません。
 後、思いつくのは処刑場くらいですが、……こちらは城外ですし」


GM

 サーラの知っている限りは、地下牢くらいしか思い当たるものはない。
 その地下牢も、現在は、詐欺を働いた旅商が、審議のために一時的に拘置されているものがいるだけの他は、謀反を企てた旧帝国の貴族がいるだけに過ぎない。


サーラ

アルマ<

 人が苦しんだりするような、という言葉に思いっきり眉をよせる。
「この城にそんな施設は存在しないぞ。」
 してもらっては困る、と不機嫌そうに言う。「人を苦しめる特殊な施設」というものに対して嫌悪感を持ったようだった。
「・・・思いつくのは地下牢くらいだろうか?楽しめる場所ではないだろうし、アルマ殿の言う濁った思念、というものが沸いてきそうな場所ではあるが。」
 ちなみに、地下牢門があちらになる、と手で示した。

アイスバーグ<

「他に、魔術師殿の言われるような場所に心当たりはあるか?」
 尋ねるのも嫌なのか、サーラは苦虫を100匹ほどまとめてかみ潰したような顔をしていた。


アルマ

サーラ<

「あまりはっきりとしたことは。
 ちょっとした発見はありましたけれど」
 周囲をぐるりと見回して、
「亡霊が出てもおかしくないような環境ではありますね。
 魔力の度合いが比較的濃密で、それも少し濁っています。
 元々、このあたりは過去から幾度も戦火に曝されて来ましたから、濁った想念が通常よりも集まりやすいのは確かです。ですが、そういった想念はすべてギュンター様の術で、閉鎖された共同墓地に集められたはずなのですが……。
 このあたりに、何か特殊な施設はありませんか?
 人が苦しんだりするような」


サーラ

 ウォン隊長に敬礼を送り、その後姿をしばらく見送った。
 その後、調査を続行すべくアイスバーグと魔術師の方を振り返る。

アイスバーグ<

「おまえの方こそ、あまりおだてないでくれ。照れるじゃないか。」
 はっはっは、と笑いながら、少年の背中をばんばんと叩く。彼女なりの照れ隠しなのかもしれなかった。
「まあ、それでもありがたいことだな。礼を言うぞアイスバーグ。
 これからも職務に励むことにしよう。」
 おまえ達にあまり被害のでないようにな、と続けて笑みを深めた。
「では、調査続行といこうか。
 この第二門周辺だったな?」

アルマ<

 退屈ではなかった、という言葉に目元を綻ばせた。
「そう言っていただけるとありがたい。」
 青みがかった瞳を興味深そうに見つめると、姿勢を正して相手に向き直る。
「異変が感じられたのは第五通路、特にこちらにある第二門周辺ということだったのだが・・・何か魔法でお分かりになっただろうか?」


アルマ

 目を閉じ、背を伸ばして、直立したまま、こつん、こつんと床を杖で叩きながら、空いた片手で意味ありげな動作をする。
 最後にひときわ強く床を叩くと動きを止め、目を開く。うっすらと、黒かった瞳の色が青みがかっている。
 そうして、周囲を改めて見直しだした。
 そこで声を掛けられて、サーラの方を振り返る。

サーラ<

「いいえ、退屈ではありませんでしたから」
 にこりとする。
「お先に、感知の魔法を使って、見ただけで分かることを調べてはいましたし」


アイスバーグ

サーラ<

「あまりおだてないでください。私は単純にできているんですから」
 顔を赤くして、目をそらす。
 それから、ふと気がつき、
「隊長の勉学が足りないだなんて事はないと思いますよ。
 他の隊の方よりも、一歩二歩、先を見ておられます。特別読書時間を増やそうとなさらなくても良いのではないでしょうか。
 それに……」
 いたずらっぽく笑う。
「隊長が余暇時間を読書に当て始めたりなんかしたら、その鬱憤が訓練にまわされてしまいますから、私たちに取っては空恐ろしいことになってしまいます」


ウォン

アルマ<

「気にされないように。別段、報告の時間を決めてあるわけではないからな」
 正礼を返す。
「雑用、……をお願いすることはないだろうが、まあ、楽しみにしている。
 あなたと訓練をするとしたら、念入りに対策を練っておかなければならないな」
 ふーむ、と思案してみせる。
「いずれにしてもあとの話か。
 では、とりあえず失礼する。
 そちらも、良い結果があることを祈っている」

 そして、騎士団寮に向かっていく。


サーラ

アイスバーグ<

「何をいう。本が好きというのは立派な才能だぞ?
 おまえの計画する軍略はいつも理にかなっている。たいしたものだ。」
 言いながら、そういえば自分が最後に本を手に取ったのはいつだったかと考えていた。
 しばらくの沈黙の後、軽く頭を振って呟く。
「・・・たまには私も勉学に励むべきか。」

ウォン<

「そうか、第五通路に限らなければ、同様の現象が起こった可能性も否定できない。
 もし起きていたのなら、解決方法も調べられるかもしれないな。」
 頷くと、楽しそうな笑みを浮かべて目を細めた。
「イーディス殿とも会えるのなら楽しみだ。
 第五通路を通るよう祈っていよう。」
 そう言った後、ふと何かに気付いたように目を開いた。
「『団長に報告にいく』と先ほど言われたな?申し訳ない、引き止めてしまった。
 こちらでも何かわかれば、かならず貴方の方に連絡を入れよう。
 そしてこの件が片付いたなら、訓練でも練習でも雑用でも、何かお礼をしに伺うと約束する。」
 少し慌てたようにそう言うと、最後の部分は笑顔で正礼をおくった。

アルマ<

 周りの様子を観察しているのに気付き、声をかける。
「すまないな、アルマ殿。つい話し込んでしまった。
 さっそく調べてみようか。」


アルマ

 アルマは三歩離れたところで、微笑みながら三人の会話を見守っている。
 時折、周囲に視線を走らせて、通路の様子を観察するようなそぶりを見せている。


アイスバーグ

サーラ<

「いえ、まさかッ、そんな」
 慌てて頭を振る。
「知力担当だなんて、私はそこまで勉強家ではないですよ。
 ……まあ、白兵戦は得意ではないですし、私の中で何が一番ましかと考えると、確かに、本を読んでいる分は知識が該当するかも知れませんが……」


ウォン

アルマ<

「了解した、サーラ隊長。
 イーディスの調査に、それほど時間が掛かることもないだろうから、運が良ければ――たとえばすぐにも調査が終わって、イーディスが騎士団寮へ向かう道にこの第五通路を選択したとか――紹介と同時に情報交換ができることと思う。
 まあ、いずれにしてもあなたの元にやろうとは思っているが。
 彼女に調べさせているのは、『これまでに大牙の城で同様の現象があったかどうか』だ。あったでも、なかったでも。何らかの手がかりにはなるだろう」
 生真面目に答えてから、あとの言葉に興ありげに眉を上げた。
「隊の合同練習か。考えたこともなかったな」
 シルヴァードの騎士団が、現在のような編成になってから、訓練や模擬戦はそれぞれの騎士団、隊で個々に行うようになっていた。
 トーナメントは定期的にされていたが、訓練そのものを合同で行うことはなかったのだ。
「面白そうだな。いい刺激になる」


サーラ

ウォン<

「そちらでも調べていただけるとは心強いな。騎士団長にもよろしくお伝えしてほしい。
 何かわかったことがあったら、また情報交換をしてもらえるとありがたい。」
 にかっと笑う。
 その後で、こちらは今のところ亡霊または魔法現象の可能性ありとしかわかっていないんだがと付け加えた。
「今からアルマ殿に立ち会っていただいて、この辺りをもう一度調べてみるつもりだ。
 アイスバーグの言った時間にはまだ早いが・・・
「ああ、まあ作法なんてものは要は慣れだし・・・。
 腕が立ち、貴方が見込みありと言われるのだからきっと良い騎士になるのだろうな。
 私も一度話がしてみたいと思っていたんだ。訓練でも試合でも、イーディス殿さえよろしければいつでもつき合わせていただくが。」
 うちの隊との合同演習とかでもいいぞ、と冗談半分本気半分の口調で言う。

アイスバーグ<

「アルマ殿が魔力担当なら、おまえが知力担当かな?」
 自分が腕力という自覚はあるのか、微笑を浮かべながらアイスバーグの方を見た。
「期待しているぞ。調査方法でも戦術でも、いい考えが浮かんだら教えてくれ。」


ウォン

アルマ<

「こちらこそ、術士アルマ。専門家の助力を得られるのはとても心強いことだ。よろしくお願いする」
 挨拶を返して、正礼を送る。


アルマ

 黙礼をするアイスバーグの横から一歩進み出て、まじめな表情で魔術師の礼をする。

ウォン<

「はじめまして、サー・ウォン。魔術師ギルド第七席術士、アルマ・ラーカイオンと申します。
 今後は、どうぞよろしくお願いしますね」


ウォン

サーラ<

「警備は交代したのだが、やはり気になった。こちらでも調査を進めて、団長に報告をしようと考えているのだ」
 敬礼を返して、頷く。
「ああ、イーディスは私の従騎士を務めている。見込みはあるのだが、我々とは違って騎士の生まれではないからな。騎士としての作法には、少々、難がある。
 だが、腕は立つし、体格にも恵まれている。指導のしがいがある。機会があれば、あなたも訓練につきあってやってもらいたいところだ」
 口元だけで笑ってみせる。
 術士を連れてきたとの言葉に、にやりとする。
「それは心強い。なるほど、腕力と知力に、これで魔力が揃ったわけだ」


サーラ

「――さて、ここが問題の第五通路なんだが・・・」
 視線を左右に投げかけ、とりあえず異変がないことを確認する。
(やはり場所だけでなく、時間も関係しているのかもしれないな。
 まあ私が気付けないだけという可能性もあるが・・・)
 何か魔法的な力が働いているのなら、今回は見逃すことはないだろう。
 そんな風に思っていると、知り合いの騎士隊長と従騎士の姿を見つけた。
 どこかへ立ち去っていく後ろ姿と、何か苦笑を浮かべているふうなウォンを眺め、第一騎士団所属だったのかと小さく呟く。

ウォン<

「ウォン隊長、まだ貴方の隊が警備中だったのか。」
 声をかけ、軽く敬礼をしながら近づいていく。
 黒髪の従騎士の消えていった方を興味深そうな目で見つめた後、視線を彼に向けた。
「確か・・・イーディス殿、だったかな?城内でなんどか見かけたことがあるが・・・貴方の隊だったのか。」
 そんなふうに言った後、屈託のない笑みを浮かべた。
「ちょうど良かった、貴方にはさきほど話をきいていただいたからな。報告に行ったほうがいいかとも思っていたところだ。
 魔術師ギルドの方が協力してくださることになったんだ。
 こちらが調査を手伝ってくださるアルマ・カーライオン殿。
 アルマ殿、剣の第一騎士団三番隊隊長のウォン・ディー・ナッシュ殿だ。」
 簡単に紹介をした後、彼の方に向き直り軽く肩をすくめた。
「何か魔法的なしかけがあったら、今回は気がつけると思う。対抗策のようなものも教えていただけたからな。」


GM

 サーラたちは第五通路へと戻ってきた。
 彼女たちがやってきたときに、ちょうど、ウォンと話し込んでいたらしい従騎士が、どこかへ立ち去っていくところだった。
 騎士団の中でもそう多くはない女性騎士だったようだ。
 サーラも名前は知っていたかもしれない。

 ウォンは、まだ一行には気がついていないようだ。
 なんだか苦笑をしながら、去っていく従騎士の姿を見送っている。


GM

 イーディスは書庫へと向かいました。


ウォン

イーディス<

「お前は、まったく」
 イーディスの質問は半ば予想していたことでもあったらしく、軽く頭を振っただけであった。
「まあ、我が騎士団でも、二割は書庫などには縁がないようだからな。お前が行ったことがなくても無理もないだろう。
 だが、城の構造を把握できていないようでは、城兵として勤めていくことはできん。ちょうどいい機会だ、覚えておけ」
 と、丁寧に、書庫までの道筋を教える。


イーディス

ウォン<

「了解!」
 背筋を伸ばし、敬礼をすると早足で書庫を目指そうとする・・・が、数歩で振り返り、
「すいません。書庫ってどちらでしたっけ?」
 学問嫌いがたたって書庫などはまったく行った事がなかった。
 あきれているであろう上司を見ながら、舌を出した。


ウォン

イーディス<

「ああ、先ほど話した、このあたりで起きているかも知れない異変についてだな」
 頷いて、続ける。
「書庫まで行ってもらいたい。
 といっても、別に本を調べろというわけじゃない。
 書庫の管理人に、この大牙の城で、何か同様の異常が報告されたことがないかどうかを聞いてきてもらいたいのだ。
 もう四十年は勤めていて、大牙の城に関してはベテランだ。似たような事件があったのならすぐに分かるだろう。
 私は私で、副団長から仕事を言いつけられているから、騎士団寮に戻らねばならないから、お前に頼んでおく。
 聞いてこれたら、私の部屋まで来てくれ」


イーディス

ウォン<

「そうッスか?」
 ウォンの言葉に顔をほころばせる。
「あたしは貴婦人なんて性分じゃないッスよ」
 と明るく笑ったが、頼まれごとの言葉にピッと反応し、神妙な顔つきになる。
「はい。頼まれごととは?」


ウォン

イーディス<

「当然だ。お前もそれを望んで、私に言ってきたのだろうが?」
 ぴしゃりといってから、ふと微笑を浮かべた。
「だが、お前が立派な作法を身に付けられたら、見違えるぞ。貴婦人というには違うかも知れないが。……かっとなると手が出るようだとな」
 微笑を苦笑に変えて、腕を組む。
 しばらく、そのまま考え込み、それから、口を開く。
「イーディス、ちょっと頼まれごとをしてもらおう」



イーディス

ウォン<

 隊長の思案を見て
「お手合わせッスか?もしそうならなかなか面白い対決が見れますね」
 楽しみそうに拳を何もないところへと突き出し、軽くパンチの素振りをしてから
「それと、あたしはサー・サーラほど気が強くないッス」
 と付け足す。軽い対抗心があるような響きであった。
「ただ、カッとなると自制できないだけッス」
 拳をもう一度すばやく突き出す。

 それから、顔をしかめて
「それは厄介だ。罪人ってのも変に狡賢い奴がいますからね」
 と周囲をちらっと見渡す。

 そして、礼儀作法の話に喜んで
「そう言ってもらえると嬉しいッスね」
 頭を掻くと
「あたしは頭が悪いんで、こういったことを覚えるのが苦手で・・・。隊長のようなちゃんとした礼儀を持つ人に教えてもらえたらだいぶ覚えるのも楽になるんじゃないかと思うンスよ」
 そう言って、恥ずかしそうに笑った。が、早速の指導に顔をまたしかめ
「うは、隊長、早速ですか」
 次は苦笑いであった。


ウォン

イーディス<

「気が強いというのを、お前が言うのか」
 面白そうに見返す。
「……実際、存在感のある人物だな。
 既に詩人の歌の材料になっているとも聞く」
 その人物と模擬戦の約束をしたことを思い出し、思案げにあごを撫でる。
「ふむ、どうやって立ち向かったものかな」

「そうだな……。
 たとえば、知っての通り、この第五通路は地下牢へと通じる唯一の道だ。もしも、現在、拘留されている罪人と、何らかの関わりがあるものがいて、それが魔術師であるか、もしくは魔術師と通じたならば……」
 言いかけて、途中で口をつぐむ。
「止めておく。今のところは、論理の礎となる何物もないからな。考えてもろくなことにはなるまい」

 礼儀作法を教えてくれ、との言葉に目を瞠る。
 そのまま、黙ってイーディスの顔を見つめてから、
「良いだろう」
 頷いた。
「お前の礼儀について、私もああ言ってはきたが、別段、作法ができていないのは、お前に問題があるからというわけじゃない。
 いみじくもお前が自分で言ったとおり、まさに習慣の問題だ。あるいは環境か。他のものが、一人前の騎士の立ち居振る舞いを日常的に見続けてきて、かつ、そうなるべく育てられてきたのに対して、お前はそうではなかったというだけだ。
 だから、無理はさせず、地道に仕込んでいこうと思っていたんだが……」
 再度、頷く。
「お前がその気になったのなら、言うことはない。
 しっかりと教えてやる。集中的、継続的にな。まあ、任務に支障がでない程度には」
 今度は首を振り、
「まず、第一にだ。お前は今『アイスバーグ』と呼んだが、彼は正騎士で、しかも別の騎士団に属している。まだ若年だし、正騎士に任ぜられたばかりで、お前も抵抗があるかも知れんが、この場合は『サー・アイスバーグ』だ。
 彼が目の前にいるならば『サー・ナイト』でも正しいが」
 と、早速、指導を始めた。


イーディス

「何も無いッスね」
 ぼんやりと天井を見渡したが何も見えず、飽きたようにウォンへと視線を落とす。

ウォン<

「サー・サーラ・・・? ああ! あの気が強そうな人」
 何度か遠目に見たという程度ではあるが、忘れられないほどの存在感を感じていた。
「英雄ってのは、ああいう人のための言葉か」
 と呟いてから
「へぇ、魔術絡みか。もし、その・・・・・・・アイスバーグ? って人の話が本当なら、こんな何の変哲もないような通路で何をしようというんでしょうね?」
 物覚えはあまりよくない。
 そして、礼儀作法という言葉に舌を出し
「いやあ、なかなか昔からの習慣が抜けなくて・・・」
 と言って笑ってごまかそうとしたが、ふと先ほどまで広場で話していた詩人の言葉を思い出し
「・・・隊長? あたしに騎士としての礼儀作法を教えてくれませんか?」
 こういったところからも自分を鍛えていかなくちゃいけないかな、と考え直しウォンに向かってまじめな顔でたずねた。


ウォン

 少しばかり苦々しげな顔をして、従士を振り返る。

イーディス<

 簡素に礼を返し、
「いや、槍の騎士団のサー・サーラからの伝達があってな。
 部下の騎士が、一度ならず、宿直中に、このあたりで不穏な気配を感じたというのだ。
 その部下の、騎士アイスバーグ以外には、異常は察知できなかったということだから、本当は何もなかったのか、それとも、魔術絡みの事件が起きていたのかも知れん。
 いずれにしても、念入りに調査をしてみるに如くはないからな。見回りをしていた」

 質問に答えた後、そういえば、と付け足した。
「前々から思っていたことだが、正騎士に任じられるまでには最低限の作法は身に付けなければならんな、イーディス。
 お前は武術については申し分がないのだから」


GM

 イーディスが観察する限りでは、とりあえずは、天井に何かしらの異常があるようには見えなかった。


イーディス

ウォン<

「何やってるンスか? サー・ウォン?」
 天井を見上げながら、後ろから声をかける。
「サー・ナイト。イーディス、ただいま戻りました」
 と慌てて、敬礼をする。しかし、その言葉もどこかしら棒読みのような気の抜けたものである。敬語というのが苦手であった。
 それから
「天井に何かあるンスかね?」
 と相手の返事を待たず呟き、じっと天井を見つめる。


GM

 城の中を歩き回り始めたイーディスは、やがて、内郭を中心とした回廊の一部、第五通路のあたりに差し掛かる。そこで、やけに物見高そうに周囲を観察している上司の姿を発見した。
 騎馬靴についた金の拍車にはサンサジの飾り。
 騎士隊長の証だ。
 あちらは、自分の従者が近づいてきたことなど知らぬげに、城という建造物にしては比較的高い、大牙の城の天井に視線を巡らせている。


イーディス

 城に戻るためにやや急ぎ足で歩きながら、彼女は周囲を見る。
 見知った顔には軽く会釈をし、自分の上司の姿を探しながら、城門をくぐってゆく。

「さて、また見回りに出てるのかな」
 真面目すぎる性格。暇があれば勝手に巡回任務に出ては、隊の者の仕事振りを確認しているような人物だ。そのせいか、彼の隊は実直すぎると言われるといわれる剣の騎士団内でも飛びぬけて、真面目で堅実であるように感じられた。
 まっすぐ、上司の部屋へ向かうよりも城の中を歩き回ったほうが彼と出くわす可能性は高いと思った。


GM

 イーディスは大牙の城へやってきた。
 従士らしい若者が、数人、彼女と同じように城へ戻ってこようとしている。


GM

 三人は、騎士団寮槍の塔へ向かった。


アイスバーグ

サーラ<

「全くですね」
 と答えるものの、彼自身は、わりと室内で本を読んでいれば満足という性質があったりする。
 家も、代々騎士の家系ではあるが、傍流では大臣を輩出していたこともあって、彼もどちらかといえば学者肌なのだ。


アルマ

サーラ<

「そうですね、私たちと同じです」
 くすりと笑う。
「ただ、私たちはあまり、訓練や模擬戦はしませんね。やるとすれば、舌戦でしょうか。
 本当は、議論とか論戦という方がよいのでしょうし、確かに最初はまさしく議論をしているのですが、白熱してくると、たいていマナーとかがどこかに行ってしまうのです。私も含めて。
 もっとも、だから分かるということもありますし、実際、相手を深く知ることも出来ますから、面白いものですよ」


サーラ

アルマ<

 アルマの言葉に破顔し、大きく頷く。
「もちろんだ。私は最初から、貴方もご一緒にと思っていたんだ。」
 首をかしげる魔術師の様子に、金色の瞳を細めるようにして微笑んだ。
「なんとなくわかる気がするな。
 いろいろな人間と知り合うのは興味深いし、楽しいものだ。」
 そう言って、手合わせや訓練ができれば言うことがないな、と付け加える。

アイスバーグ<

「団長室か・・・よし、とりあえずそこから行こう。」
 そう言った後、大きくため息をついた。
「そりゃあ、外に出たい気にもなるだろう。
 こんないい天気なのに室内にこもるなんて拷問でしかないぞ。
 まあ、そのおかげでこちらは団長を捕まえやすいんだが。」
 にっと笑い、ふたりを促がすようにして団長室へとむかった。



アイスバーグ

サーラ<

「今日は天気が良いですから、団長も外か、それとも訓練場にいらっしゃるかもしれませんね。ですが、まずは団長室でしょうか。
 騎士団寮は湿っぽいから嫌だといつも仰ってますが、そんなに抜け出すわけにもいきませんしね」
 サーラの様子を見て、小さく笑う。
「団長も、似たようなことを感じていらっしゃるでしょうね。
 機会さえあれば、いつでも訓練や、模擬戦やらで、外に出たがる方ですし」


アルマ

 興味深そうな面持ちで、サーラを眺めている。

サーラ<

「はい、もちろん、私は構いません」
 と、応じる。
「もしよろしければ、私も団長様のところに同行させて頂いてもよいでしょうか?」
 首をかしげて見せる。
「非公式とはいえ、大牙の城の調査をするとなると、ご挨拶をしていた方がよいでしょうし。……いえ、それは建前なのですが。私は、これまであまり騎士様との関わりがありませんでしたもので、なるべく多くの方とお会いしてみたいのです」


サーラ

「さてと、まずは団長を探さないとな・・・」
 自分に確認するように呟くと、同行者である二人に向きなおる。

アルマ<

「アルマ殿、団長への報告を先にすませようと思うのだがいいだろうか?
 途中何かおかしなことを感じたり、見つけた場合には、そちらを優先させていただくが。」
 どうだろう?と、くるくると表情を変える瞳で問いかける。

アイスバーグ<

「すぐに団長がつかまるといいんだが・・・。
 そうすれば大手を振って調査を進めて、なんとか解決して、何の気兼ねなく訓練に励めるんだがなあ。」
 ため息をつきながら、軽く指を鳴らしている。
 身体を動かしたい、と思っているのが、傍目にもよくわかる仕草だった。


GM

 サーラ一行は、城門までやってきた。


GM

 二人は、魔術師ギルドに移動しました。


アイスバーグ

サーラ<

 何か応じようとしたが、気の利いた台詞も思いつく前に向けられた笑顔に(その笑顔から感じられるあれこれは置いておくとして)、また、さっと顔を赤らめて、言葉をとどめてしまう。
 それで、ただ、
「なるべく、食い下がれるよう、頑張ります」
 とだけ、答えた。


ウォン

サーラ<

「了解した。
 まあ、こちらでも調べられることは調べておこう。
 健闘を祈る」
 再度、槍の挨拶を行い、背中を見送る。


サーラ

アイスバーグ<

 強張った笑みに気付いていないのか、あるいは黙殺することにしたのか。
「白兵戦の場合とは槍の扱い方が多少違ってくるから、勘を取り戻さないとダメだな。
 間合いの詰め方と重心のとり方を考慮に入れて・・・振り落とすくらいの気持ちで攻めるべきかな・・・?」
 お手柔らかに、という言葉には反応せずサーラは楽しげにそんなことを呟いていた。
 そのうち自分を見つめる視線に気付き、にっと笑ってみせる。
 実に力強い・・・その分手加減はあまり期待できないことを感じられる笑顔だった。

ウォン<

「お時間をとって頂いた事に改めて感謝する。
 お礼といっては何だが、もし私が役に立つことがあればいつでも声をかけてほしい。」
 明るく両目を眇めると、そう言って一礼した。
「それでは、今日はここで失礼する。
 この奇妙な一件を早く片付けて、あなたと試合ができることを楽しみにしている。」
 顔をあげ笑いかけると、アイスバーグを促がしてその場を後にした。


アイスバーグ

サーラ<

「光栄です、隊長」
 と答えてから、ぱきぱきという音に、強ばった笑顔をして見せる。
「なるべく……お手柔らかにお願いしますね」


ウォン

サーラ<

「ああ、私としては白兵よりも馬上での試合の方が得意だし、望ましい。
 ……日時についても、こちらも問題はない。
 訓練のための時間ならば、ある程度はいつでも確保できるからな。
 楽しみにしている」
 視線で笑いを返し、コン、と槍の柄で石床をついてから、ふと考え込むような仕草をする。
「今、馬上なら私に主導権があるかも知れないとは思ったんだが……そういえば、貴君は馬術にも定評があったな。
 ……まあ、何だ。楽しみにしている」


サーラ

ウォン<

「馬上試合! 本格的に楽しめそうだな。」
 面白そうだ、と答えるサーラの目は本当に楽しそうに輝いていた。
 光が弾けたような鮮やかな笑顔を顔中に浮かべ、瞳を眇める。
「今すぐにでも、とでも言いたいところだが・・・そういうわけにはいかないからな。
 この件が片付いて、あなたの都合がつくときでもいいだろうか?」
 自分の方は何を置いても時間を作るし、と続けて、どこか悪戯めいた笑みを浮かべた。

アイスバーグ<

 顔を赤くする少年にもにっと笑ってみせ、
「そうだな。では、そういうことにしようか。
 早く解決して時間を作らないとな。」
 そんな風に言って腕を組む。
 楽しそうな顔と口調を崩さないまま、アイスバーグを見て続けた。
「私もあまり無様なことはしたくない。
 これが終わったら、今度は私の訓練につきあってもらおうかな。」
 何故か指をぱきぱきと鳴らしながらそんな風に言った。


アイスバーグ

ウォン<

(馬上試合……)
 と、二人の会話を聞きながら考える。
 果たして、試合とはいえ、サーラと正面から剣を交えるのと、馬上で槍を交わすのと、どちらの方がより勝率が高い(あるいは、青あざが出来ないか)といえるだろうか?
 訓練用の剣や、槍でも殴られれば痛い。
 騎馬同士なら、互いに重心を取りにいこともあり、また、ある程度の衝撃は逃げるのでそこまででもなくなるが、代わりに馬から落ちることがあり、そうなるとかなり辛い。
 さて。
 と考えていたところでサーラの視線を受け、我に返った。

サーラ<

 その視線だけの問いかけに、まるで口頭試問を受けたような気持ちに勝手になって、少しばかり早口になって応じる。
「はい、どちらかだけ選ぶという訳ではありませんし、もしも魔術師ギルドの方で話が解決し、神官の方々の手を煩わせずに済むならそれに越したことはないでしょう」
 慌てていた自分に気がついて、顔を上気させる。
「ですから、はい、魔術師ギルドに行ってみるということで、良いかと思います」 


ウォン

サーラ<

「ああ。
 ただ、私としては、馬上試合でも構わないことだけは、この場で伝えておくとしよう」
 と、生真面目な顔を保って、頷く。


サーラ

ウォン<

「ありがとう。楽しみにしている。」
 弾けるような言葉と笑顔でウォンに答えた。
 自分を見てにやりと笑う顔に、同じように笑い返して
「私の方も、体力には少々自信があるからな。こちらも簡単には負けるつもりはないが。」
 と、続けた。

“特別な事態”という言葉に大きく頷く。
「ここまで目撃情報が少ないということは、その可能性も考慮すべきなんだろうな。
 私も魔術に関しては素人同然だし、一度魔術師ギルドで話を聞いてみるか。」
 それでいいか? とアイスバーグに目で尋ねる。神官を外したのは「警備で消耗している」というウォンの言葉を気にしたからだ。
(ギルドで手がかりがつかめなければ、神殿にまわるか・・・)
 そんな風に考え、ひとり頷く。


ウォン

サーラ<

「む」
 ウォンはひるんでみせた。
「……まあ……、違う騎士団の者同士で訓練するのも、いいだろう。
 いつでも受けて立とう」
 頷く。
 ついと目線を上げ、サーラに視線を合わせ、にやりと笑う。
「体格で勝てる気はしないが、技量なら早々は負けん」
 一応、下手なりの冗談で、軽口を叩いたつもりらしい。

 サーラの言葉を受けて、考え込む。
「確かに、一部の人間だけが気がついたとなると、そういった“特別な事態”かも知れないな。
 とすると、連中に話を持っていくのは有効な手段だろうな。こういう時のために、陛下は、魔術師たちに予算を割いているのだろうから。
 神官たちの方も悪くはないな。ことが墓場の影だとするなら、こっちはまるで手が出ない。
 ただ、共同墓地の警備で、相当に消耗しているようだから、そこまでの力は期待できないかも知れんが」


サーラ

アイスバーグ<

「そうか? ならいいんだが・・・無理はするなよ?」
 じーっと少年の顔を見た後、ようやくそう言って姿勢を戻す。
 距離をとられたことはまるで気付かなかったようだ。

ウォン<

「運動をすると気分が良くなる」という言葉に大きく頷く。
「私もそう思う。気分が悪いときや体調が悪いときに軽い運動は最適だな。
 相手がいるのなら、その相手との相互理解にも役立つし、いいこと尽くめだ。」
 うんうんと頷いた後、人懐っこい笑みを浮かべてウォンに視線を合わせた。
「実はあなたとも、一度手合わせ願いたいと思っていた。時間が合うときにいつか、お願いできるだろうか?」

 縄張り意識云々という言葉に困ったように笑い、頭をかいた。

「あなたの意見に全面的に賛成なんだが、槍の騎士団全体に関することになると私の独断では決められないしな。
 とりあえず、我が軍の他の隊長連中をまきこんで今度話を持っていこう。情報の共有はどう考えても必須事項だし。」
 話の持って行き方を検討しようと考え、意識を切り替える。
 大きく首を傾げると、視線を第二門へと向けた。
「とりあえず、昼間の探索では何も出なさそうだし・・・夜にもう一度調べてみようと思う。
 怪しい気配が出たのは時間帯は夜だし。宿直に参加するのも手だろう。ただ・・・」
 視線をアイスバーグに向け、考え込むように腕を組む。
「問題が場所や時間じゃなく、その人間が感じ取れるかどうかだとな・・・。ここで調べることはなさそうだし、その手の問題に詳しい人に聞いたほうがいいかも知れない。
 魔術師ギルドか聖堂の方々に対抗策を聞こうかな、と思っている。」


ウォン

サーラ<

 まじめな顔で、同じように重々しく頷く。
「そうだな。
 誤解を解くために無理にならない程度の訓練をするというのは、我が隊でも良くやっていることだ。運動をすると、気分が良くなるものだからな」

 謝辞に対して軽く首を振り、
「同じ方を君主を仰ぐもの同士だろう。我々に縄張り意識は必要ない。出来れば、情報も同じ場所に集め、同じ場所から参照できるようにしたいものだ」
 そういうと、少しばかり苦い顔をする。
「違う意見をお持ちの方もおられるがな。
 ……ふむ」
 考えるような仕草をして、
「了解した。隊の者には私から伝えておこう。
 といって、今まで我々に気づけなかったものが、今更、分かるようになるというのは難しいと思うが。
 ……もしかすると、何か特殊な才が必要なのかもしれんな。墓場の影も、その影を見ることすら出来ない人間もいるらしいからな。
 とすると、なるべく多くの人間が注意をしていた方が良いだろう」
 さて、と表情を改める。
「心配せず、探索を続けてもらいたい。
 とりあえず、何を調べようと考えているのだ?」


アイスバーグ

サーラ<

「あー、いえ、本当に、大丈夫です。体調管理は出来ています」
 そういって、厳かに咳払いする。
 それから、なるべく自然に見えるように努力して、のぞき込んできたサーラから離れる。 


サーラ

アイスバーグ<

 将軍殿が・・・という言葉に、納得したように頷く。
「まあ、そうだな・・・真似でもなんでも、効率的なことならしてみればいいと思ってしまうんだが。」
 渋い顔をする将軍の顔を思い浮かべ、小さく笑う。
 仕方がないなといったその表情からは、彼女が槍の騎士団の将軍を信頼していることが見て取れた。

 顔を赤くし、ウォンに詳細を説明するアイスバーグを不思議そうに見つめる。
(風邪でもひいているのか・・・?)
 だったら連れまわしてはまずいだろうかと、少々心配そうな顔でアイスバーグの顔を覗き込んだ。
「体調が悪いんだったら、無理はするなよ?
 とりあえずあやしい気配のでる場所と時間はわかっているんだから、私一人でも調査はできるし。」
 ああでも、何かアイスバーグしかもっていない特殊能力がいると私にはわからないのか?
 と、珍しく途方にくれたような表情を見せた。

ウォン<

「わかっていただけたら、それでいいんだ。」
 重々しく頷くと、お手柔らかにという言葉ににやりと笑う。
「もちろん。平和的に誤解を解くつもりでいるぞ?」
 どこか凄みを感じる笑顔を浮かべるが、すぐにあっけらかんとした顔に戻る。
 あまり根の深い感情ではなかったのか、明るい色の瞳にはなんの翳りもなかった。
 弟のような存在へのコメントには、くすぐったいような気持ちになる。
 口元をほころばせ、軽く頭を下げることで謝意をしめした。

「本格的に、アイスバーグ限定で起こっている現象なんだろうか・・・?」
 なんの報告もないという言葉に、眉根を寄せて腕を組む。
 しかし、すぐに慌てたように腕を解き、ウォンに向かって頭を下げた。
「ああ、すまない礼も言わずに。貴重な情報をありがとう、ウォン隊長。
 あなたの隊でもそんな現象は報告にない、ということがわかっただけでも前進だ。
 やはり記録が残っているというのは大きいな。ここであなたに教えてもらえた運に感謝しよう。」
 そう言ってにこりと笑う。
 屈託のない口調と明るい笑顔から、本気で彼女がそう言っていることが見て取れた。
「墓場の影か。最近でもそんな話はあったかな?」
 問いかけると同時に首を傾げる。
 手伝えることはないか?という言葉に、まず驚いたように大きく目を見張ると、続いて嬉しそうに破願した。
「ありがとう。もし私達だけで手に余るようなら、その時は頼む。
 とりあえずは、私達がこのあたりをうろうろしても気にしないよう、隊の方々に伝えておいていただけるか?」


ウォン

サーラ<

「了解した。やり合ったという言葉は訂正しよう、サー」
 ごほん、と咳払いをする。
「だから、もし報告した騎士が誰か分かっても、まあ、何だ、出来るだけお手柔らかにお願いしたい」
 ちびすけ、という言葉を聞いて、納得する。
「そうか、彼のことか。惜しい人材だ。国を出ていなければ、立派な騎士となっていただろう」

アイスバーグ<

「なるほど」
 話を聞き終えると、一つ頷く。
「そのような報告は受けていないし――日誌にも載っていなかったはずだ。
 ……我々の隊のものがその現象に遭遇していたなら、間違いなく日誌には書かれていたはずだ。犬の遠吠えを耳にしただけでも、律儀にそれが記されるほどだからな」

サーラ<

「さて、面妖な出来事だな。
 この城に墓場の影が出たという話はこれまでにも何度か聞いたことはあるが、それは噂程度で、このように具体的に話が持ち上がってきたのは初めてだ。
 ――隊の者には警戒を促しておこう。
 他に何か、手伝えることはあるだろうか?」


アイスバーグ

 父親の話が出ている時には、やや伏し目がちになって、黙っている。幼い頃の、父の記憶を思い出しているのかも知れない。

 淡々とした怒りの様子を見て、脇の方で冷や汗をかき、こっそりと、その見知らぬ情報元の騎士に祈りを捧げる仕草をしたりなどする。

サーラ<

「どうでしょうね、隊だけでやるのも何ですから、どうせなら団全体で行いたいですね。ですが、――将軍殿が、既に他の騎士団で採用されている方式を導入したがるとはあんまり……」
 最後の方は囁きにしても小さな声で言った。
 槍の騎士の将軍は、派手好みで、破天荒なことが好きな人物だ。例えそれが効率的なのだとしても、二番煎じだと思われる様なことをするのには難色を示すだろう。

 サーラに促され、再度、サーラに話したことをウォンにも告げる。その顔は、何やら真っ赤に染まっている。
 緊張をしているのか、目の前で褒められたからか、どうか?


サーラ

ウォン<

「よろしく、ウォン。私のこともサーラでかまわない。」
 明るい笑顔で答えるが、続けられた言葉にサーラの顔がはっきりと強張った。
 近くにいたウォンやアイスバーグには、彼女のこめかみに青筋が浮かぶのと、「誰だ言いふらしたヤツは・・・」と地を這うような独り言が聞こえたかもしれない。
「・・・お言葉だが、やり合っていたわけではない。断じてない。
 私はごく穏やかに、兄の不明をただしただけだ。」
 唸るようにつげるサーラの顔は、恐ろしく獰猛な笑顔だった。
 笑っているが、目が完全に据わっている。
「兄上とは我が家のちびすけのことで、若干意見の食い違いがあってな。
 まあ言葉の応酬はあったが、それだけだ。」
 サーラから見ればたいていの人間は小さいだろうと、言われた当人がいれば反論しただろう。

 日誌、という言葉に目を丸くする。
「・・・うちの隊でもやった方がいいのかな?」
 気が回らなかった、と、こっそりとアイスバーグにささやいた後、目の前の騎士に向き直った。
「そんなものがあるとはありがたい。些細なことでもなんでも、今は一つでも多くの情報がほしいと思っていたところだ。
 ご協力、心から感謝する。」
 輝かんばかりの笑顔になり、頭を下げた。
 ウォンの視線を追うようにアイスバーグを見つめ、それまでのものとは質の違う静かな微笑を浮かべる。
「私もベイシュタット卿のことはよく知っている。今でも敬愛し、尊敬する騎士のひとりだ。
 卿をご存知なら話は早い。アイスバーグも父上に勝るとも劣らない、誠実で優れた人間だぞ。」
 私が保証しようと続け、優しい目で少年を見つめた後相手に視線を移した。

アイスバーグ<

「・・・というわけだ。アイスバーグ、ウォン・ディー・ナッシュ殿に、もう一度おまえの体験したことを説明してくれないか?」
 にっと少年の緊張をほぐすように笑みを見せると、彼の肩をたたいた。


警備の騎士

サーラ<

「私は、ウォン・ディー・ナッシュ。ウォンと呼んでくれて構わない。
 剣の第一騎士団、三番隊の隊長を務めている。
 ……互いに未知ではないが、正式に挨拶を交わしたことはなかったな。以後、よろしくお願いする」
 丁寧に、簡素な礼を返す。
 ふと、笑みを浮かべて、
「隊の者から聞いたばかりだが、第二騎士団の副団長殿と、何やらやり合っていたそうだが、サー?」

 サーラの質問に思いを巡らせる。
「……少なくとも、今日までで、そのようなことをあからさまに聞いたことはなかったな。
 われわれ剣の騎士団は、将軍殿からの命令で、巡回・警備の際にあたって不審な出来事があれば、すべて日誌に書き込んでおくことになっている。
 どんな些細なものでも、ということだから、ネズミと遭遇したことから、白昼夢の内容までなんでも書いてある。
 何かがあればすぐに分かるはずだが……そうだな。あまりになんでも書いてあるために、内容に対する意識は薄くなっているかもしれない。改めて日誌を調べてみることを約束しよう」

 ちら、とアイスバーグを見て、

かれの父君であるベイシュタット卿には個人的に何度かお会いしたことがある。
 誠実な人物だったし、統率者としても優れた騎士だったと記憶している。
 その息子だというのなら、私からは貴君の判断に異存を挟むことはない。
 とりあえず、どのような現象に遭遇したのか聞かせてもらえるだろうか?」


アイスバーグ

サーラ<

 思わず、ぴんと姿勢を正し、
「了解しました」
 打てば響く、というように返事をした。

 それから、警備の騎士に対して向き直り、隊長に負けじと、正式な礼をした。


サーラ

アイスバーグ<

 楽しそうに笑い声をあげ、明るい笑みを相手に向けた。
「そりゃあ、斬ったり殴ったりできる相手なら期待に沿うようにするがな。」
 意志の強さを感じさせる眼が明るくきらめく。
「それが通用しない場合は、おまえが主だぞ?」
 にっこりと、何故か迫力を感じさせる笑顔でサーラはそんなことを言った。

警備の騎士<

「感謝する。もちろんお時間は取らせないつもりだ。」
 屈託のない笑みを浮かべると、同じように槍を持ち替え穂先を下ろした。
「まず、あらためて自己紹介をさせてほしい。赤鱗騎士団のサーラ・フィリス・ウィンダリアだ。こちらは同じ隊のアイスバーグ。」
 流れるような仕草で一礼をした。
 赤い髪が日差しを弾き、力に溢れた顔を鮮やかに彩る。
「実は、このアイスバーグから第五通路の宿直時に不審な気配を感じたと話を聞いた。
 むろん、同じ組の者と周りを調べたが何も発見できなかったと・・・それどころか彼以外のものにはその気配すら感じられなかったというんだ。」
 淡々とそう述べると、一度言葉を切る。
 僅かに首を傾げた後、相手をまっすぐに見つめながら口を開いた。
「今のところ、何かあった・・・または何かがいた、という証拠はない。
 だが、私はアイスバーグをよく知っている。彼が気になる、という以上、ただの気のせいとは思えないんだ。
 そこで伺いたいのだが、貴方がた――いや、剣の騎士団に広げてもいい、この第五通路や第二門の周辺でかわったことがあったという話を聞いた者や変わったものを見た者はいないだろうか?
 噂の類でも一向に構わない、それを教えていただきたいんだ。
 どうだろう、サー? 要領を得ない上に不躾なお願いだという自覚はあるんだが。」


警備の騎士

 表情を変えずに、話しかけてきた相手に向き直る。
 明かりの当たり方が変わって、顔が露わになる(城の中は暗い)。
 そこでサーラは、彼が“剣の第一騎士団”に所属している騎士であることに気がついた。そこまで親しくしているわけではないが、多少の面識はある。

サーラ<

「任務の支障にならない限りは。サー・ナイト」
 持っていた槍(剣の騎士団だからといって、剣しか使わないというわけではない)を持ち替えて、その穂先を下にし、石床を突くような形にする。相手に対して害意のないことを示す行為だ。
 そして、言葉を待つ。


GM

辺りの様子<

 サーラは、辺りから、普段と変わっているところを探す。
 ……人々の様子、建物の具合などにも、日常から外れているような物を発見することは出来なかった。
 もし、何かの変化があったとしてもそれは些細なもので、見つけることは困難なのだろう。


アイスバーグ

サーラ<

「はい、その通りです」
 頷いて、はじめの方の言葉に賛意を示す。

「幽霊……ですか?」
 少しばかり、表情を強ばらせる。
「そればかりは、勘弁して頂きたい所ですね。人間相手でしたら、勝てないまでも、なんとか食い下がるんですが」
 と、まじめぶった顔で、
「そうですね。そうなったら、隊長の鉄拳にお任せすることにして、私は精一杯、補佐に努めさせて頂こうと思います」


サーラ

アイスバーグ<

「警備の者もいるし、何かたくらむのに相応しいとは・・・言えないんだがな?」
 いったいなんなんだか、と首を傾げ、アイスバーグのしめした辺りへと向かう。
「以前と特別に変わっていることはないと思うんだが。
 だいたい、この辺りなら一日中警備の者がいるんだし・・・おまえも見た限りでは異常は見つからなかったんだろう?」
 不思議そうに言いながら、それでも真剣な眼差しで通路や外壁を目で確認していく。
 冷たい石の壁を軽く指で叩くと、思いついたように少年に笑いかけた。
「真夜中に気配がする、しかし探しても誰もいない・・・幽霊の類だったら、どうする?」
 襲い掛かってきたら嫌だなあと、言葉とは裏腹に表情は何故か楽しそうだ。
「とりあえず、昼間勤務のときにいつもと違うことがないか聞いてみるか」
 そう呟いて周辺を警備する騎士に目をやり、にこりと笑いかける。

警備の騎士<

 第二門へと近づき、穏やかな口調で話しかけた。
「巡回任務中、申し訳ない・・・少し尋ねたいことがあるのだが、よろしいだろうか?」
 金色の瞳が、今は静かに落ち着いた光を浮かべて相手を見た。


GM

 いま、第二門の辺りは、他の騎士団が担当しているようだ。
 肩に付いている紋章が、かれらが剣の騎士団に所属していることを示している。
 橋を守る数人、巡回する数人。かれらは、黙々と警備に励んでいる。
 地下牢門の前にも一人立っているし、もしもこの周辺で何かあっても、すぐに対応できないということはなさそうだ。


アイスバーグ

 顔を赤らめて、こっそりとため息をつく。

サーラ<

「具体的に、ですか……」
 問われて、かれも表情を真剣にさせる。
 唇に手の甲を付けて、今度は目を閉じて思いを巡らせているようだ。
「そうですね、ここでした。それは、間違いないと思います」
 と、第二門の周辺を手で示す。
「場所が場所でしたから、気になったんです。そして、私が東・中央架け橋を調べて、念のため、他の組に地下牢へ続く扉――ええと、地下牢門――の方も確認してもらいました」


サーラ

 なんだか愕然としたように見える少年に、くすりと笑う。
「冗談だ、そんなことはしないさ。
 ・・・悪かったな、真面目なおまえをからかいすぎた。」
 ぽんぽん、と、今度は軽く彼の頭を叩いて微笑んだ。
「真面目な話、犯人がどこかのお嬢さんにしても不思議な何かにしてもだ。
 おまえしか気がつかないということは、解決するのにもおまえの力がいるということだ。
 期待しているぞアイスバーグ。」

 第二門が見えてくると、サーラは首をめぐらせて通路を見渡した。
(外郭へ抜ける通路・・・地下牢への扉。重要な領域には違いないが・・・)
 アイスバーグの感じたという気配はいったい何なんだろう。
 難しい顔をして門を見上げたあと、少年へと視線を戻す。
「具体的に言うと、その気配を感じたのはどの辺りだ?」
 まっすぐな眼差しを相手に向ける。


GM

 そのようなことを話しながら、城内を進んでいく。
 第五通路とは、ある特定の一本の通路のことではない。
 大牙の城の内郭にある回廊の一部分で、東側の外郭に通じる門(東・第二門。このような門が、東側に三つ、西側に一つ造られている)を中心とした、その周辺に与えられた番号である。
 この回廊は、もしも城壁が破られ、外郭に敵の侵入を許した場合の、重要な防衛戦となる部分であり、常に、警備の兵が絶えることはない。
 特に、第五通路は外郭との接点(内郭と外郭は架け橋によって繋がっている)でもあるし、地下牢に通じる階段が備えられている場所でもあることから、特に重点的に巡回がなされる領域だ。
 サーラたちは、そんな第五通路の、第二門の前までやってきた。


アイスバーグ

サーラ<

「ええっ」
 愕然とする。
「た、隊の全員は勘弁して下さい」
 頭を抱えてみせる。
「それじゃあ、うかつに隊長に知られるわけにはいかなくなりましたね」


サーラ

 引継ぎを滞りなくすませ、自分の巡回では別に怪しいものが出なかったなとサーラは思った。
(まあ、そうひょこひょこ出てもらっても困るんだが・・・)
 軽く肩をまわし、腕を伸ばす。
 大型の獣が伸びをするのにも似た動きだった。

アイスバーグ<

「さて、それじゃあ問題の第五通路に行ってみるか。」
 にっと笑うと、案内してくれと少年を促す。
 どこか楽しそうな足取りで歩き出すと、
「不思議な力とやらが必要だと私に出番はないかもしれんが・・・愛らしいお嬢さんならまかせておけ。
 隊の全員を連れてきて応援してやるからな!」
 夜間の逢引はあまり奨励できないから、その辺の説得は自分でしろよ。
 などと言うサーラの声は、完全に笑っていた。


GM

 教会の鐘が昼の訪れを告げ、サーラの巡回は、何事もなく終了する。
 引き継ぎも問題なく、とりあえず、サーラは非番となった。


アイスバーグ

サーラ<

「いいえ、気になさらないで下さい」
 にっこりと笑ってかぶりを振る。
 げほん、と咳き込んでから、
「隊長とお話ができるのは、とても…ええと、光栄なことですから」

「あ、そうですね」
 そちらの可能性には気がつきませんでした。二、三度、うなずきを返す。
「私が不思議な力を持っているとかいうことでなければ、そちらの方があり得そうですね。
 ……さる高貴な出自の女性が、こっそりと私を追いかけて来ている、とかいうことでしたら、まだ安心できるのですが。
 まあ、夜も遅くにそうやってこそこそと追いかけられているのだったら、薄ら寒いですが」
 あはは、と笑う。


サーラ

アイスバーグ<

 自主的にやっているのか、との問いに首を振る。
「いや、正規の任務だ。・・・だがそろそろ交代だからな。
 もう少し待ってくれないか?」
 悪いな、と、少し申し訳なさそうな笑顔を見せた。
 歩みを再開させながら、『時間帯が違う』という彼の言葉にさらに首を傾げる。
「まるでおまえの宿直の時を狙っているようだな?」
 不思議そうな顔をしながら呟く。
 考え込むような表情を浮かべるが、大きく頭を振ると笑みを浮かべた。
「ま、何はともあれ一度見てみないとわからないな。
 今のところ害はないが、こそこそされるのは性に合わない。
 何かはっきりさせないと。」


アイスバーグ

サーラ<

 大げさにつんのめりながら、楽しそうに笑い出す。
「はい、隊長」
 弓の騎士団の部隊みたいですよ。
 付け加えてから、それから、まじめな顔になる。
「時間帯は別でした。一番の時でしたから。
 ええ、ご案内いたします。隊長の巡回は……自主的になさっているものなんでしたっけ?」


サーラ

アイスバーグ<

「なんだ、もうやっている隊があるのか?」
 何故か残念そうな顔でそんなことを言う。
 真似になるのはつまらないし、仕方ないから別の言い方を・・・と不穏なことを呟いていたが、にっこりと笑う少年に軽く目を見張った。
 一瞬後、おおらかな笑い声が響く。
 サーラは笑いながら、親愛を込めてばしばしと少年の背中を叩いた。
「本ッ当におまえは可愛いヤツだなあ!
 了解だ、そう呼んでくれ。私も隊の皆からそう呼ばれるのは、結構気に入っているんだ実は。」
 言いながらもくつくつと笑った。楽しそうな嬉しそうな感情がありありとわかる。

 考え込む少年を興味深げに見やり、話始めるのを待った。
「アイスバーグとエインヘルも含め、通常通り5組10人・・・それなのにおまえ以外の誰も異常に気がつかなかった、と。」
 城の地図を頭に描きながら首を傾げる。
「他の組にも通達したのは良い判断だ。今のところ特に危険性は感じないが、用心するにこしたことはない。
しかし・・・真夜中の、第五通路? 昨夜も同じ時間、同じ場所か?」
 何か重要なものがあっただろうか、と首をひねっている。そこを警邏のものが通るのはわかっているだろうに。
 うーんと唸ってから、宙を睨んでいた眼を部下に戻す。
「とりあえず、私もそこにいってみたいな。真夜中に犯人・・・というか、何か知らんがこそこそするモノ出るようだが、一度昼間に見ておいてもいいだろうし。
 この後、時間が空いているなら案内してくれるか?」
 とりあえず今夜の宿直に参加してみようと思いながら、アイスバーグに問いかけた。


アイスバーグ

サーラ<

「いぇっ、隊長に『サー・アイスバーグ』とか……さ、さすがにそれは身に余りますッ」
 どこかたじたじとなって、謝辞する。
「ブラザーもびっくりしますよ。噂では、団長も副団長も、隊長も隊員も、全員が全員をサー・ナイトと呼び合う団もあるそうですが……隊長は、なんというか私たちにとって『隊長』ですから。
 ……そうですね、でしたら、サーではなく、『隊長』とお呼びするということでよろしいでしょうか?
 これまでにもそうお呼びしてはいましたが……正式な呼び方、とでもいうことで」
 と、にっこりとしてみせる。

 突然、ぱっと花開いた笑顔に、やはりぱっと顔を赤らめながらも、後に続いたサーラの言葉に、考え込むような表情をする。
 唇に手の甲をつけてややうつむき加減になるのが、思案している時のこの少年の癖だということを、サーラは知っている。
「そうですね……二番の宿直に入ったばかりの時でしたから、真夜中ですね。
 第五通路の歩哨に、ブラザー・エインヘルとペアでついていました」
 エインヘルというのは、アイスバーグより二歳年上の正騎士だ。剣の腕は立つが、あまり周囲の細かい部分に気が向かない性質だ。
「私とかれの二人、そして他の八人と、いつも通りの合計五組で宿直をしていました。
 その時に、感じたんです。
 やはり、感じたとしかいえませんし、他に説明しようもありませんが。
 何かがこそこそとしている、というような感覚です。
 私は、ブラザーにもそう言って、周囲を調べて見たんですが、何も見あたりませんでしたし、誰もいませんでした。
 念のため、他の組にも言って、調査と警戒をしてもらったんですが、何もありませんでした」


サーラ

アイスバーグ<

 困った顔をしている部下に、明るい笑い声をあげた。
「本人が良いといっているのに、面倒なやつだ。
 それなら私も、おまえのことを『サー・ナイト』と呼んでやろうか?」
 そうすれば対等だろう、と、面白そうに金の目が輝いている。
 アイスバーグだけでは不公平か、なんなら隊の全員に敬称をつけてやろう・・・と、完全に楽しんでいる表情でサーラは呟いた。
 それでも、相手が話し始めると表情を真面目なものへと切り替える。
 申し訳なさそうな少年の顔を見下ろし、腕を組んだ。
「こそこそと、か。しかもおまえのそばで・・・他の者は気付かなかったというんだな?」
 おかしなこともあるものだな、と首を傾げ、
「団長が仰るとおり、気のせいなら何の問題もないが・・・」
 足を止めると、少年の目を捉えてにっこりと笑った。
 屈託の無いおおらかな笑顔は、サーラがたまさか仲間にみせるものだった。
「逆におまえだけが気付いた可能性もある。
 宿直というのは、おかしなことがおこらないようにするものだからな。
 『おかしい』と思ったのなら、それが何か証明することが大切だと思うぞ。」
 そう言って、状況を詳しく話せと促した。


アイスバーグ

サーラ<

 くすくす笑いを抑えながら、頷いてみせる。
 半歩下がってついていく足取りも軽い。
「ええ、そうでした。実に平和的な解決方法ですね」
 まあ、成敗されるよりは……と、付け足して。
 それから、困った顔をする。
「そのことでブラザーにも何度か叱られました。『もう従騎士じゃない、対等な仲間なんだから、敬称を付けるな』。
 ですが、さすがに、サーラ隊長を呼び捨てにするのは気が引けてしまいます」
 うーん、と唸ってから、
「ああ、そうでした」
 と手を打つ。
「悩み事ではないんです。……ある意味では、悩みと言えないこともないんですが、気がかりなことがあるんです。
 なんと言えばいいのかは、分からないですが……。
 前に、宿直をしている時におかしなものを感じたんです。
 誰かが、自分のすぐそばでこそこそとしているような、そんな妙な感覚でした。
 何かを見たわけでも、聞いたわけでもないし、調べてみても何もないし、実際、一緒に番をしている奴は何も感じていなかったようなんです。
 だから、私も気のせいだと思っていたんですが……、つい昨日、また同じ感じがしたんです。
 それで、団長にご報告をしたんですが、やはり『気のせい』と言われてしまいました」
 正騎士になったばかりで、神経が過敏になっているんだろうと片付けられてしまうのだそうである。
「まじめに取り合ってくれそうなのが、隊長しかいない、と思っていたもので、つい、こう、思わず声をお掛けしてしまった次第でして……」
 そう申し訳なさそうに付け加えて、言葉を句切った。


サーラ

アイスバーグ<

 何やら頷いている相手に、心外だとばかりに目を見開いてみせる。
「何をいう。私のようにか弱い乙女が相手だぞ?
 しかもごく平和的な手段でおひきとり願おうとしているじゃないか。」
 半分以上本気の顔でそんなことを言った。
 しかし、忙しく顔色を変える少年に向ける眼差しは優しい。
「『サー』はいらん。そんなにたいしたものじゃないぞ、私は。
 ・・・で、何だ。まさか顔を見に来ただけじゃないだろう?」
 悩み事か?といいながら、さくさくと歩き始めた。
 サーラの巡回時間はまだ残っている。
 歩きながら聞く、ということらしい。


アイスバーグ

 瞳に残っていた焔を見て、一瞬立ちすくんでしまったのは、訓練が身体に染みついているからだろうか。

サーラ<

「……隊長の巡回時間に不埒な真似をするとしたら、そいつはえらく不幸な奴だと思いますよ」
 しみじみと頷いてから、会いたかったのかとの言葉に、
「はい、そうなんです。サー・サーラ」
 反射的に血の気が引いてしまった顔を、今度はわずかに紅潮させて、応じる。
 気の利いた冗談のような台詞で返したかったのだが、自分の顔色にまでは気がまわらなかったらしい。 


サーラ

 呼びかける声に、サーラは足を止める。
 くるりと振り返り、まだ幼さの残る顔を見下ろす目には未だ焔のような光があった。
 しかし。
「・・・あぁ、おまえか。誰かと思った。」
 相手を認め、表情が明るく和む。
目に鮮やかな笑みを浮かべると、軽くうなずいてみせた。
「今は私の巡回時間だ。
 不埒な真似をする輩がいたら、叩きのめしてやると思っているんだがな。」
 右の拳をかかげてみせ、にやりと笑う。
「アイスバーグ、そういうおまえは何をしている?
 巡回が終了するのが待てないほど、私に会いたかったのか?」 
 多分に冗談を含んだ口調でそう言うと、相手の顔をのぞきこんだ。


アイスバーグ

サーラ<

「サー・ナイト! サーラ隊長、見回りですかっ?」
 そばかすにあどけない部分を残した、正騎士になってまだ日も浅い隊員が、声をかける。
 相手の様子になど、てんで気がついていないようだ。


GM

 さくさく歩いているサーラを発見し、何も知らぬげに、声をかけようとしている若者の姿があった。
 かれは、後ろから小走りで近づいてきた。


サーラ

 赤茶の髪、金の双眸をもつその女性は、おそろしく不機嫌な顔つきで歩いていた。
 身のこなしは大柄な体躯に似合わず律動的で、しかし石畳を蹴り上げそうな勢いがある。
「・・・全く、兄上はのん気が過ぎる・・・」
 ぶつぶつと呟く声は、女性にしては低い方だろうか。ひそめていても力強く、どこか心に残る声音だ。
「『そのうち何か言ってくるだろう』?
 そんなことを言っていたら、ちびが戻ってくるまでに何十年かかるかわからんだろうに。」
 相変わらず、気の弱い人間がいあわせたら逃げ出しそうな顔つきのまま、サーラは歩を進めた。
 
 
GM

 正午から夕刻まで、嘆願のために訪れる市民や売り込みの詩人などのために城門は開かれているため、カールはそのまま入城した。

 
 
カール・グスタフ

「いつ見ても…この城の威容は素晴らしい…」
 カールは城門の前に立ち、感嘆のため息を漏らす。
 
 
GM

 大牙の城は白い陽光に照らされて、大地に悠然と立っている。
 背の高いこの老兵はこうして、日々人々の営みを見守っているのだ。
 シルヴァードに流れる風は今日も涼やかだ。遠い大地で吹く血風とは無縁の香りだった。