| 十年の長きに渡って繰り広げられた“大陸戦争”の当初に建てられてそれを生き抜き、“サイーディア討伐戦”、また、“魔物掃討作戦”の激戦を生き延びた歴戦の城塞。 岩山の上に石造りされたこの建物は華美でなく、しかし質素に過ぎず、そして戦略上の合理性と生活のふたつを追求して改築が繰り返された大規模の王城で、その威容は北の大地まで伝わっている。 先代である正義王アールス、そして当代の剣王ハルッサムとともに様々な逸話を残したこの人の身ならぬ老兵は、今は平和な暮らしを営んでいるように見える。 ハルッサムと故王妃との双子は若輩ながらも、兄のシーザーは剣に、妹のリィジィーは魔術に才を見せており、ともに将来を嘱望されている。 この王家は民に絶大な人気を誇り、その治世は安定し揺るがない。 |
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政務室 会議室 研究室 詰め所 礼拝堂 |
兵士宿舎 一般宿舎 馬厩舎 家畜小屋 |
食堂 舞踏場 訓練場 鍛冶場 |
書庫 食料庫 宝物庫 地下牢 |
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| GM |
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イーディスは、騎士団寮（第五通路）へ向かった。 |
| イーディス |
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ゼノ婆＜ 「ことがことだけにあたしにはちんぷんかんぷんだ。もしものことがあればまたよろしく頼む」 軽く敬礼をし、書庫の外へとやや早足で去る。もっとも、敬礼と呼ぶべきかわからないような崩れたものであるが。 |
| ゼノ婆 |
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イーディス＜ 「そうだねぇ。今回の話と魔術師王国の話が一緒なんだったら、そりゃ、あたしも放っておく訳にはいかないと思うよ」 目を開いて、イーディスを見た。 「また、何か訊きたいことがあったらおいで。 あたしはろくに動けやしないけど、頭だけはいつまでも元気だからね。 ただし、気をつけておきな。 あたしはね、訊かれたことしか答えないんだから」 最後に、柔らかく手を振って、また身体を椅子の上にもたれさせると、目を閉じる。 |
| イーディス |
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ゼノ婆＜ 「物騒な話だな。このままじゃ、この城でも暗殺事件が起こりそうじゃないか」 身震いをしてから、難しそうな顔をし 「そのアルフォンス大侯爵の話は興味深い。さすがにそんな事件があっちゃ、今回の城で起きている異変もみすみす見逃すことはできないな。本当は気のせいとかそういうことであってほしかったけど。悪魔とか権力闘争とか、一筋縄じゃいかないようだ」 つぶやくと、ゼノ婆に向き直る。 「ありがとう。早速、隊長に報告させてもらおう。何かしらの調査が必要かもしれない。お休みのところ邪魔して申し訳ない」 |
| ゼノ婆 |
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イーディス＜ 「起こったよ、それから少し後の話だけどね。 あたしには、それが関係しているかは分からないけどね」 嘆かわしげに首を振った。 「陛下の腹心にして弟、誰からも信頼されていたアルフォンス大侯爵が陛下を暗殺、反乱を起こしたのさ。陛下が悪魔に入れ替わられていたのを見破って、それを倒したんだとか言っていたけれどもねぇ。 唯一、難を逃れたのが、生まれたばかりのセイフレイ殿下だけさ。他の親族はみんな、殺されちまった」 |
| イーディス |
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ゼノ婆＜ 「たしかに、人の数は違うけど、この城で起こっていることによく似ているな・・・」 少し、黙ってから 「・・・そして、その後、イ・サードの城で何か起こったのか？」 |
| ゼノ婆 |
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イーディス＜ 「じゃあ、教えてやろうかね。 それがあったのは、十数年、もしかしたら二十年以上も前のことになるかねぇ」 言葉を句切り、 「ああ、そうだ。イ＝サードのセイフレイ陛下が誕生する前のことだから、最低でも二十三年は昔だね。 舞台はそこ。かの国の王城さ。 時間は夜。 場所は城郭の中。 異変に気がついていたのは十数名。 何か怪しげなものがいるような気配、何かが潜んでいるような気配。 そんな雰囲気を、城に詰めていた騎士や、多くの魔術師が感じていた。 誰も、その現象を、ろくに話し合うことはしなかった。 どのものも、自分の気のせいだと考えて、胸にしまっていた。 そのときに起こったのはその程度のことかねぇ」 |
| イーディス |
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ゼノ婆＜ 黙り込んだゼノ婆さんに対して落ち着かない様子でそわそわしていたが、「無いねぇ」の言葉に残念そうに首を振る。 しかし、「別の場所でなら」という反応し、身を乗り出しゼノ婆さんに顔を近づけると 「本当か？たとえ、場所や気づいた人数が違っても何か関係があるかもしれない。詳しく教えてくれないか？」 と興奮した様子でたずねる。 |
| ゼノ婆 |
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イーディス＜ 「ふぅん、そうかい」 今度は目を完全に閉じて、黙り込む。 しばらくして、 「ないねぇ。大牙の城でそういうことがあったなんて、少なくともあたしは知らないよ。きっと、この城に住んでいた誰の、どんな日記を開いてもそういうことは載ってないね」 それから、目を開ける。 「でも、面白い事態だねぇ。 大牙の城でそういうことはなかったけれど、別の場所でならあるよ。そのときは、特殊な現象に気がついたのはもっと大勢だったんだけれどね」 |
| イーディス |
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ゼノ婆＜ 「それなら話が早い」 イーディスは喜んで身を乗り出すと、 「あたしも隊長から聞いただけで、実際に感じたわけじゃないんだけど。ちょっとした不思議なことが起こっているらしい」 と、第五通路の謎の気配について説明をし、 「過去にもこんなことが起こったりしたことはないか？ この城に詳しいゼノ婆さんならば、何か知っているんじゃないかと思ったんだけど・・・」 両手をあげて、お手上げといわんばかりに首を振り 「あたしや隊長には何にも感じないから、どうしようもないからね。気のせいかもしれないけど、場所が場所だけに放っておくこともできないってさ。あたしには気味が悪いだけで、気のせいであって欲しいんだけどねぇ」 |
| 老婆 |
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イーディス＜ 「そう、管理人だよ。ゼノ婆とでもお呼び」 薄く、開けているのか閉じているのか分からない程度の目を、イーディスに向ける。 「で、調べものかい。それとも何か質問でもあるのかい。 一応、質問に答えるのもあたしの仕事だからね。何でも聞いてみな」 |
| イーディス |
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老婆＜ 老婆がなかなか反応を示さないので顔を近づけていたが、その言葉に驚き後ずさりをする。 「起きてたか・・・・・・。 まぁ、そういうことだ。剣の第一騎士団・三番隊隊長サー・ウォンの使いでやってきた」 それから、老婆をじっと確認するように見て 「あんたが書庫の管理人か？」 と少し困惑気味に尋ねた。 |
| 老婆 |
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うっすらと目を開けて、しかしまた閉じる。 ………。 それから、また目を開けた。 イーディス＜ 老婆は、そのままの体勢で口を開ける。 その声は、寝起きとは思えないほどはっきりしていた。 「なんだい？ 騎士じゃあないね、お前さん。 調べものでも命じられたのかい」 |
| イーディス |
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眠っている老人を見つけると近くに寄り、 「管理人・・・だよな？」 と不安げに一度周囲を見回してから 「おーい・・・起きろー」 と老人の肩をたたいた。 |
| GM |
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呼びかける声が、湿っぽい空気の中に滲んでいく。 湿気が強い、というよりは単にカビくさいのだが。 奥に進んでいくと、書架の間に、小さな人影が埋もれているのが見つかった。 ちんまりとした腰掛けに、小さなエルフがもたれかかって、静かに寝息を立てている。 この人物が、書庫の管理人らしい。 非常に小柄で、しわくちゃの、おばあさんのようだった。 |
| イーディス |
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「うひゃあ、薄暗いところだな。こんなところに篭ってたら体が弱るだろうに・・・」 ぶつぶつと独り言を言いながらも、周りを気にせずにずかずかと足を踏み入れていく。 「管理人・・・管理人っと・・・」 じっと見渡すが見当たらない。 「おーい！」 と声をかけながら、奥のほうへと歩いてゆく。 |
| GM |
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書庫は、しっかりとした石材を使って頑丈に組まれた、だが辛気くさい部屋だ。 天井は低いし、火も大きなものは使ってはいけないことになっているから、とても暗い。城内の他の部分ではたいてい作られている明かり取りも書庫にはないのだ。 書庫の管理人、ゼノは非常に高齢のエルフで、ゼノ婆だとかゼノ婆さんと呼ばれている。エルフが、見た目からも老人だと分かるというのは珍しい例で、たいていのエルフはそこまでの年齢になる前に里に引きこもってしまう。 何故、こんな場所で書庫の管理人などをやっているのかは、誰も知らないことのようだ。 そのゼノ婆の姿は、今は見えない。 もしかしたら、書庫の間でひっそりと掃除などをしているのかも知れないが、ぎっしりと書架の詰まっているものだから、よく分からないのだった。 |