PBeM
〜Dragon Pursurs〜
竜追い達の唄

騎士王国シルヴァード:
大陸の東部、バーナード地方の列国、最強の国。
剣王ハルッサムによる安定した統治を受け、現在が史上の全盛期と言われている。

:大牙の城:
 十年の長きに渡って繰り広げられた“大陸戦争”の当初に建てられてそれを生き抜き、“サイーディア討伐戦”、また、“魔物掃討作戦”の激戦を生き延びた歴戦の城塞。
 岩山の上に石造りされたこの建物は華美でなく、しかし質素に過ぎず、そして戦略上の合理性と生活の利便さふたつを追求して改築が繰り返された大規模の王城で、その威容は北の大地まで伝わっている。
 先代である正義王アールス、そして当代の剣王ハルッサムとともに様々な逸話を残したこの人の身ならぬ老兵は、今は平和な暮らしを営んでいるように見える。
 ハルッサムと故王妃との双子は若輩ながらも、兄のシーザーは剣に、妹のリィジィーは魔術に才を見せており、ともに将来を嘱望されている。
 この王家は民に絶大な人気を誇り、その治世は安定し揺るがない。
投稿(件名…大牙の城)
戻る

 
正門
大牙の塔
謁見の間
政務室
会議室
研究室
詰め所
礼拝堂
騎士団寮
兵士宿舎
一般宿舎
馬厩舎
家畜小屋
大食堂
食堂
舞踏場
訓練場
鍛冶場
武具庫
書庫
食料庫
宝物庫
地下牢
 


GM

 サーラは三人を連れて、地下牢を出た


看守ボード

サーラ<

「アルパージャ……? 恩人……?」
 まだ現実がよく掴めていないようだ。
 アルパージャを連れて行くといわれ、思わず頷いている。
「はあ……」
 呆然とした様子で、サーラが差し出した水などを口にしている。


アイスバーグ

 耳に蓋をするサーラに笑みを投げかけ、サーラの後に続く。


アルマ

 サーラに代わって、ざっと看守の様子を見る。
 立ち上がると、サーラに小声で、

サーラ<

「憑依をされたわけではないでしょう。
 恐らくは、“黒の衝撃”。あの魔物によって、心に打撃を負う魔法を受けたのだと思います」


GM

看守の容態<

 サーラが脈を取るなどして調べたが、特段、問題になるような症状はなかった。
 若干脈が速すぎ、顔も青ざめているものの、命に別状はないだろう。


サーラ

アイスバーグ<

「私は何も言っていないぞ」
 こちらもわざとらしく、耳を押さえるふりをしてにやりと笑う。

看守ボード<

 先ほどの横柄な態度とは違う、どこか怯えたような表情に眉をあげた。
「大丈夫か。――怪我はないな?」
 ざっと相手の様子を見、確認をする。
(憑依が解けたときのアルパージャに似ているか?)
 あの魔物が何かしていったのかと、ちらりと視線でアルマに問いかけた。
「ああ、魔物の襲撃を受けたな。
 安心しろ。我々が退治した・・・少々牢が崩れたが」
 淡々とした口調でそう告げた後、アイスバーグが背負ったアルパージャに目をやった。
「アルパージャ卿のおかげで手遅れにならずにすんだ。彼は罪人ではなく、我らの恩人だ。
 経過の報告は後ほど。とりあえず、彼は連れて行くぞ」
 貴殿も神官に一度診てもらえ、と付け加えると踵を返す。
 牢の警備のこともあるし、看守もこの状態では応援を呼んでおいた方がいいだろう。
 巡回の騎士を呼ぶため、通路側の扉へと向かう。


看守ボード

「……む、……ぐ……」
 うめき声を上げ、軋むような動作で身体を起こす。
 目を開き、真っ青な顔で、かぶりを振る。

サーラ<

「――サー・ナイト……?」
 かすれた声で呼ばわる。
「侵入者らしきものが、奇妙な黒い影が、そちらに、地下牢に……」


GM

 サーラは看守を起こすために近づく。
 と、どうやら居眠りをしているわけでもないらしい。テーブルの上で、水の入ったカップが横倒しになっており、水がこぼれている。
 看守が突っ伏しているのはその上だ。
 居眠りというよりは、「眠らされた」のではないか。

 声を掛けながら、サーラは看守の肩を揺する。


アイスバーグ

 呟きが耳に入り、思わず笑みがこぼれ落ちる。

サーラ<

「隊長、不穏なことは仰らないでください」
 わざとらしくまじめぶった顔でいってみる。


サーラ

 扉が開いた瞬間、わずかにサーラの動きがとまる。
 一瞬の沈黙の後、
「・・・つまらん」
 小さな呟きが、傍らの二人に聞こえるか聞こえないかという音量でもらされた。

 扉の奥を素早く観察する。
 何か変わったことはないだろうか?
 部屋の中を見渡すサーラの目が、看守の上で止まった。
「居眠りか?職務怠慢もいいところだが・・・」
 軽い口調だが、魔物の影響という疑いも排除はしていないのだろう。
 いきなり殴りつける、という暴挙にはでず、静かに看守へと近づいた。


アイスバーグ

「……開きましたね」
 肩すかしを食ったような顔で見ている。


GM

 まずは正攻法で行こう、と、サーラがドアに手を掛けると、これが思いの外なんの問題もなく扉は開く。
 まさか、扉がサーラは怖がったというわけでもあるまいが。

 サーラには、扉の奧で、机の上に看守のボードが突っ伏しているのが見える。


サーラ

アイスバーグ<

 文句を言いたそうにアイスバーグを見るが、口を閉じる。
 渋々といった表情で頷いたあと
「・・・おまえは時々、うちの甥っ子なみに口うるさくなるな」
 私の方が年上なのに、と口を尖らせた。
 そんな風な仕草をすると、大柄なサーラでもどこか子どもっぽく見える。

 アルパージャの姿を認めると、表情をあらためてその脈を取る。
(疲労がたまっているのか、それとも・・・?)
 彼こそ神官の祈りが必要なのではないかと、容体を確かめる。
 アイスバーグに軽く頷きを返し、「頼む」とひとこと告げた。

アルマ<

 にやりとしか形容できない笑みを浮かべ、腕を組む。
「それもひとつの方法ではあるが。
 ・・・怪我人もいることだし、回り道をするのは面倒くさいな。
 ま、まずは開くかどうか確認してみよう」
 物騒なことを考えているな、と、誰もが思うようなサーラの笑顔だった。

 一応、周りの牢の様子を確認しつつ扉へ向かう。


GM

 周囲を観察する限り、今はひっそりと静まりかえり、なんの異変もない。先ほどまで、激烈な戦いが行われていたことなど、嘘のようだった。

 一行は、祭壇から離れ、地下牢と向かう。

 地下牢の中へ戻ると、出てきたときの姿のままに、アルパージャがうずくまっている。あのまま意識は戻っていないらしい。
「わたしが背負っていきます」
 アイスバーグが進み出る。
 アルマが唇に指を当て、
「出入り口は使えるでしょうか……開かない場合は、地下墓地の入り口へ向かわないといけないでしょうね」
 そんなことをいう。


アイスバーグ

サーラ<

「いえ、わたしはやはり、痛いものは痛いと思います」
 珍しく抗弁してみせる。
「是非、神殿で手当をして頂きましょう」


サーラ

アイスバーグ<

「このくらい、何てことないぞ」
 ことさら大げさに肩を回してみせる。
 いくらかは痛みがあるのか、眉をひそめるが
「心頭滅却すれば・・・と昔から言うじゃないか。
 痛くないと思えば痛くない」
 うん、と、なぜか胸を張ってそう言い切った。

アルマ<

 傷口が癒えていく様子を、面白いものを見るように見た。
「ありがとう・・・便利だな、魔術というものは」
 しげしげと傷のあった場所を見た後、肩を回したり腕を曲げたりと動かしてみる。
「もう治っているように見えるが、まだ治療がいるのか?
 別に傷跡くらいどうということはないが・・・」
 面倒くさいのだろうな、ということが誰にでもわかるような顔で肩口を見ている。

 しかしやはり、いまだにぐるぐる肩を回すとそれなりに痛い。

 その後、
「――まあ、肩はともかく、この布を燃やすのに神殿まで行くのはいいかもしれないな。
 どうせなら徹底的に、聖なる炎で燃やしてもらおう。」
 そんな風に言って、にこりと笑った。

「では、とりあえず牢の方へ戻ろうか。
 アルパージャ卿の様子も気になる。早く外に出して、きちんと休ませてやりたい。」
 アルマに倣うように辺りを見渡し、周囲の様子を確認する。



アルマ

サーラ&アイスバーグ<

「お疲れ様でした」
 周囲の気配を伺って、何も潜んではいないことを終わったことを確認してから、ようやく息をついて二人の元に来る。

サーラ<

「おそらく、そうだと思います」
 近くまで来て、サーラの肩を見ると眉をひそめる。
 杖を掲げると呪言を唱え、魔法を行使する。

 発動判定:マナヒール > サーラ
  アルマ:優秀な成功!
    > 13回復!


 癒しの力を呼び起こし、サーラの傷を癒す。
「とりあえずの応急手当をしておきました。
 奇跡を呼び起こせる神官を招いて、治療を受けた方がいいと思います。魔法や自然治癒に任せると、かなりの傷跡になってしまいそうですから」

 槍をいじくる様子を見て、くすりと笑む。
「大丈夫でしょう。あの濃厚な気配は消えていますから。
 その布は、本当に燃やしてしまっていいかも知れません。
 装束とか、物体に本体を移す秘術も魔族の中には伝わっているそうですから」


アイスバーグ

 目の前の骸骨戦士が崩れ落ちたのを見て、一時、呆然とする。
 そこで、我に返る。

サーラ<

「た、隊長!」
 隊長こそ大丈夫かと問い返す。
 実際、派手な出血こそないが、結構な傷に見える。

 胸を叩かれて労われ、顔を赤らめる。
「いえ、隊長。足手まといにならないだけで、精一杯でした。
 兵法だけでなく、剣ももっと鍛えなくては」
 呟いて、ふと、自分の同輩でありながらめきめきと剣の腕を上げ、サーラとも渡り合えるほどになった、年少の従騎士仲間を思い出す。


サーラ

「――二度目はない。覚えておくといい。」
 静かな低い声が、不思議とそれでもあたりに響いた。
 完全にその姿が消え去ると、闇の残滓を振り払うかのように宙を払う。
 槍を下ろし、振り返る。

アイスバーグ<

「――ケガは?」
 確認するように、金色の目がまっすぐにアイスバーグに向けられた。
 軽傷であることを確認すると安心したのか、明るい笑みが顔中に広がる。
 ぽん、と、軽く鎧の胸の辺りをたたく。
「おまえの援護のおかげで、魔物に集中できた。
 ありがとうアイスバーグ。」

アルマ<

「アルマ殿にも礼を。・・・魔物は駆逐できたと、考えてもいいのだろうか?」
 確認するように問いかけると、地に落ちた布を槍先に引っ掛け持ち上げる。
「実体がない者が相手、というのは厄介だな。害がなくなったのかいまいち判断がつかん。」
 縁起の悪そうな布だな、燃やすか・・・などとぶつぶつ呟きながらアルマを見た。


GM

 何とか後退しようとするオスト。
 「逃がさん!」
 サーラが怒号する。

「結界――亡者の衣を纏っていたというわけですね」
 アルマは好機と見ている。
 (自分を含め)魔術を扱うものにとっては、戦士に接近されて張り付かれることは、ほとんど無力化された状態に陥ることに等しい。
 とあれば、自分の仕事は手前の骸骨戦士を足止めすること、あるいは戦場から除外することだ。
 足止めの手段があればよいのだが、手頃な魔法が思いつかない。
(修行不足かも知れませんね)
 骸骨戦士を排除する方向で進めることに決める。
「サー・サーラ、追撃を!」
 アルマは詠唱を開始した。

 詠唱開始:ディスペルマジック

 アイスバーグは目の前の骸骨戦士二体の動きに集中している。
 その敵の背後に光が閃き、サーラが辛うじて躱したのは確認したが、その後は見ている暇はなかった。
 反撃も考えなくはなかったが、この手強い敵を二体相手取るには自分の技量は不足しているのは間違いない。
 引き続き防御に専念する。

 アイスバーグ:戦法/防御集中

 サーラとアルマの間にいる骸骨戦士たちは、主人の危地を察したのか、それとも何らかの指示をオストがしたものか、どちらもサーラに向かって進もうとする。
 先ほど雷撃を受けた骸骨戦士の動きは鈍い。
 身体の至る所が破損しているようだ。

 アイスバーグの目の前の二体は、そのまま彼に向かっていく。

 命中判定:分類/ソード > アイスバーグ
  骸骨戦士3:失敗!


 命中判定:分類/ソード > アイスバーグ
  骸骨戦士4:通常の成功!
   胸に命中!
     > 9ダメージ!


 波状攻撃を見切り損ね、骸骨戦士の剣がアイスバーグの胸を叩く。
「くっ」
 打撃に息を詰まらせるが、固い鎧のおかげで、外傷自体はたいしたことはない。

 オストは魔法を詠唱することができず――詠唱に入れば、隙を見せることとなる――歯噛みをする。
 後退しながら、吠える。
「人間めが!」
 瞬間的に魔力を練り上げ、叩き付ける。

 命中判定:分類/魔力の炸裂(Lv.2) > サーラ
  オスト:失敗!


 サーラが身をかがめた頭上を、衝撃波が通過していく。

 先ほどの光線の魔法のような圧力はない。せいぜいが、力自慢の男が振り回すハンマー程度のものだ……。
 素早く踏み込み、手にした槍を力を込めて振りかざす。
 空を切り裂き、円弧を描いて槍が唸りを上げる。

 命中判定:分類/ソード > サーラ
  骸骨戦士:非の打ち所のない成功!
   右肩に命中!
     > 26ダメージ!


 槍を突き出す直前、迫ってきた骸骨戦士が妨害に入る。
 直撃。痛烈な一撃がサーラを見舞うが、

     < 「貫徹」!

 かなりの痛打のはずだったが、小揺るぎもしない。攻撃の構えを崩さない。

 武術判定:火焔(シルバースネーク) > オスト

 そのまま、裂帛の気合いとともに、サーラは槍を突き出す。 


GM

 骸骨戦士(1)が突き進み、サーラを横合いから突き刺そうとする。

 命中判定:分類/ショートスピア > サーラ
  優秀な成功!
    < 完全な回避(クリティカル)!


 鋭い一撃だったがサーラの身のこなしはそれを更に上回り、穂先をかいくぐっていく。
 そうしながら、目の前の骸骨戦士(2)が起きあがったところへ蹴りを入れる。骸骨戦士は避けられるような体勢でもなく無防備に受け、はねとばされてたたらを踏む。まるでオストへの楯とするような位置だ。
 そのまま、サーラは間を抜けて行く。

 アイスバーグは骸骨戦士たちの動きに集中し、攻めあぐねる骸骨戦士たちを引きつけ、少しずつサーラやアルマから引き離していく。
 オストはサーラに狙いをつけている。指した指先に青い光が集中し、高まっていく。その光が輝きをまし、何かの臨界を迎えようとする。
 直前、アルマの魔術が完成する。

 発動判定:サンダーボルト > オスト(貫通F7→F2)
  アルマ:優秀な成功!
    骸骨戦士2に命中!
      > 24ダメージ!
    オストに命中!
      > 18ダメージ!


 アルマの伸べた杖から雷気の槍が迸る。
 雷撃は骸骨戦士を巻き込み、オストを撃つ。
「オォッ」
 うめき声をあげながら、オストもまた力を解放する。

 発動判定:マナショット > サーラ
  オスト:集中阻害-20 辛うじて成功!


 サーラには発動の瞬間の区別はつかなかったが、それでも、光が閃いた刹那に反射的に身をかわそうとする。

   サーラに命中!
    > 13ダメージ!
    > 「レザーアーマー」 破損-7


 オストが体勢を崩していたのも幸い、サーラは光の直撃を避け、胸元を掠めるだけに留めることができる。
 それでも、強い衝撃がサーラに被害を与える。
「隊長!?」
 彼女を掠めて通り過ぎていった閃光は、空恐ろしい存在感を放っていた。
 真っ向から受けていれば、一撃で戦闘不能に追い込まれたかも知れなかった。

 サーラは痛みを意に介することもなく間を詰め、槍を閃かせる。

 武術判定:飛燕(シルバースネーク) > オスト
  完全な命中(クリティカル)!
    「魔性の幻衣」を打破!
    > 35ダメージ!

 足の運び、体重の移動、槍の軌道、全てがぴたりと完全な形にはまった。
 うぉん、と唸りを上げた槍がオストを叩き、また水面を打つような感触が一瞬した後に、しかし突き破る手応え。
「がッ――ハっ!?」
 生々しいオストの悲鳴。
 何かうっすらとした黒色の布めいた物が、千切れて中空に霞み、溶けていく。
 そして、半透明だったオストの身体が存在感を得て、実体となっている。
「ば、かな」

(術が破られた――? 信じられぬ――)
(勝てぬ――? ならば、退くか――?)


サーラ

 攻撃が外れたことに盛大な舌打ちをする。
 しかし、それでも冷静さは失わない。素早く繰り出した槍を引き寄せ、次の攻撃の体勢を作る。
 ちらりとアイスバーグの方に視線をやると、こんな場面に不似合いな弾けるような笑みを浮かべた。
「了解した。そちらは任せる!」


GM

 不適にいったサーラが一歩突き進み、槍を振るう。

 命中判定:分類/シルバースネーク(部位狙い/頸部) > 骸骨戦士2
  サーラ:辛うじて失敗!


 翻った穂先が骸骨戦士の急所を狙うが、細かい狙いをつけたのが祟ったか、槍は逸れて祭壇を叩く。
 骸骨戦士は緩慢な動作で身を起こそうとしている。
 左側の骸骨戦士は既に立ち上がり、武器を構え直した。

 アイスバーグは防御に集中することに決めたようだ。
「隊長、こちらはわたしだけでも何とかなります。
 そちらを! 首謀者を逃がしては!」

 アイスバーグ:戦法/防御集中

 詠唱をしていたアルマはオストを杖で指し、オストは手強いと見たかサーラを指さしている。
 アイスバーグは魔力の高まりを感覚として理解する。
 魔法の素養が高いとはいえないサーラも、首筋の毛が逆立つような気配を感じたかも知れない。

 命中判定:分類/ソード > アイスバーグ
  骸骨戦士4:致命的な失敗(ファンブル)!
   > 「武器が破損する」


 防御を固めたアイスバーグに斬りかかった骸骨戦士は、何かに足を滑らせたかもんどり打って転倒する。
 同時に剣が地面を叩く。変な力の掛かり方をしたか、ただでさえ傷んでいた錆だらけの剣が折れ曲がる。


サーラ

「誉め言葉として受け取っておこう」
 不遜なというオストの声に、にやりとも笑わずに返答を返した。


GM

「不遜な――!!」
 槍を受けた衣が切り裂かれているのを見、オストが初めて声を上げる。
 一歩退きながら、手指を蠢かせて詠唱を続ける。
 骸骨戦士たちは前進し、それぞれ、サーラとアイスバーグを押し包むように出てくる。
 サーラは前に進むこともできたが、その場合は否応なく邀撃されることとなるので、断念せざるを得ない。

 近づいてきた斧を持った骸骨戦士に対し、アイスバーグは果敢に打ちかかる。

 命中判定:分類/ソード(部位狙い/頭部) > 骸骨戦士3
  アイスバーグ:巧みな成功!
   命中!
    > 17ダメージ!


 剣が閃き、骸骨戦士の頭部に的中する。
 確かな一撃だったが、アイスバーグは呟く。
「固いッ……隊長、ご注意を! まるで石のようです!」
 先ほどの骸骨戦士は、まさしく古びた骨でしかなかったが、この相手はより強い魔力を得て動いているのか、動きに力があふれている。

「邪魔をするな!」

 サーラが、唸りを上げて槍を振り回す。

 命中判定:分類/シルバースネーク(薙ぎ払い) > 骸骨戦士1・2
  サーラ:成功!
   骸骨戦士1に命中!
    > 7ダメージ!
   骸骨戦士2に命中!
    > 10ダメージ!


 吠えるサーラの槍が、まとめて二体の骸骨戦士を薙ぎ倒す。
 押し返されて、二体とも転倒する。
 力強くとも、肉のないだけ体重の少ない骸骨戦士が相手であるからこその荒技だったろう。

 剣を持った骸骨戦士(4)がアイスバーグとの距離を詰め、突きかかる。

 辛うじて、アイスバーグは剣で受け流す。
 その一撃は、やはり早い。
 全体的に、骸骨戦士の能力が向上しているようだ。

 アルマが戦況を確認し、意を固める。
「サーラ、オストの正面は空けておいてください!」
 言うと、真っ直ぐにオストを見つめて詠唱を開始する。


アルマ

サーラ&アイスバーグ<

「魔法への守りをかけました!
 少しは効果があるはずです」


サーラ

 予想外に薄い手応えに眉をひそめる。
 実体が無いからだろうか。それとも、何かからくりが?
そんなことを考えながら、それでもサーラは不敵な笑いを浮かべてみせた。
「――何があっても、叩き潰すだけだがな!」


GM

 がん!!

 サーラの長靴が石畳を踏み込む音が広間に響き渡る。

“青嵐”

 早くも魔族を間合いにとらえたサーラが、初手から最大の力を込めて技を振るう。

 武術判定:青嵐(シルバースネーク) > オスト
  命中!
   > 13ダメージ!
  命中!
   > 7ダメージ!


 踏み込みから、フェイントを織り交ぜた目まぐるしい攻撃が繰り出される。オストは黒い衣を楯のように上げて攻撃を躱そうとするが、サーラの方が一手、早い。

 だが、サーラは思いの外、手応えが薄いことに気が付く。
 確かに槍は相手を貫いているはずだが、まるで水面を打つような不確かさだ。

 アイスバーグは、サーラの横、アルマの前に立つ。オストと石棺を睨み、その場で戦線を維持する構えだ。

 オストは何事か詠唱しようとしたところで、予想外の突貫を受けてたじろいでいた様子だった。
 が。

 石棺の中から、それぞれ骸骨戦士が立ち上がる。
 左側の1体は槍を持ち、1体は剣と楯を手にしている。
 右側は2体とも剣を携えている。

 先ほどと同じ相手に見えるが、不思議と、先ほどよりも強い存在感を受ける。

「我らを包め。“守護”」
 アルマの魔法が発動し、三人の身体を仄青い衣が取り巻いた。カウンターマジックの魔法だ。


アルマ

 一歩横へ踏み出し、戦場を余さず見つめることのできる位置へ移動すると、淡々と詠唱を始める。
「大いなる夢の力よ、魔力を打ち消す鎧となりて……」


アイスバーグ

サーラ<

「守りはお任せください! 隊長は魔族を!」
 似合いもしない覇気を漂わせ、サーラに続く。


サーラ

「なるほど、魔物が好みそうな場所ではあるな。」
 紫色の光にひたりと視線を合わせ、サーラは唇を吊り上げて笑ってみせる。
 体格からは想像しにくい、流れるような動きで槍を構えた。
「城の中まで入り込んだことには敬意をしめしてやってもいい。が、ここで終わりだ!」
 言葉を叩きつけると同時に、音を立て始めた石棺を恐れる様子もなく疾走を開始する。



GM

 サーラたちは正面へ進んでいった。

 もはや、小細工もなく、隠れもしない。

 地下墓地の深層にあるのは、祭壇の置かれた小広い部屋だ。
 祭壇の前には半透明の人影が灰色の衣を纏って、地上50cmほどの宙に浮かんでいる。彼の左右には、石棺が二つずつ置かれていた。
 人影は衣の下から、紫色の光がサーラたちをにらみつけている。
 す、と。片手を差し上げる。

 途端、石棺の蓋が弾けとんだ。そして、中からがちゃがちゃと乾いた音がしはじめる。
 アイスバーグが剣を構え、アルマが杖を伸べる。


アルマ

 動かなくなった骨の様子を調べていたが、やがて立ち上がる。

サーラ<

 戯けたような台詞に顔をほころばせる。
「地下牢に大穴が開いてますから。ばれてしまうかと思いますよ」
 それから、真剣な目でサーラを見る。
「魔法の残滓が強く感じられます。
 術者が近くにいるのだと思います」


アイスバーグ

サーラ<

「まだまだです」
 頬を紅潮させながら、きまじめに答える。
「いつか、隊長の足元までには及びたいと思っています」
 サーラに叩かれた胸の前に拳を上げ、嬉しそうにする。
 怪我の影響はほとんどないようだ。
 若干、胸甲のあたりに擦った傷が付いた程度だ。


サーラ

「なめられたものだな。この程度でどうにかなると思ったのか。」
 特に返答を期待したものではない。
 淡々とした口調と冷ややかな眼差し。
 それを一瞬闇の奥へと投げつけ、槍をおろした。

アイスバーグ<

「正確な狙いだったな。また腕をあげたんじゃないか?」
 仕掛けが残っていないか周りを確かめた後。
 サーラはそう言ってにこりと笑った。
「おまえは身のこなしが早いからな。
 ・・・この後もいけるな?」
 言いながら、拳で軽く彼の胸の辺りを叩いた。
 怪我の様子を尋ねるようにその顔をじっと見つめる。

アルマ<

「後始末は考えていなかったな。」
 床に散らばる骨を見て、ふむ、と首を傾げる。
 王族特有の副葬品を見て、少し考えるような素振りを見せた後。
「・・・あの魔物が墓荒らしをしたことにするか。」
 にやりと、子どもが悪戯を企むかのような顔をアルマに向けた。


GM

「動きをよく見ろ。確実にいけ!」
 サーラがアイスバーグに声をかけつつ、一歩引いた後に反動をつけて、骸骨戦士に飛び込んでいく。
「了解、隊長――」
 呟くような復命を返し、アイスバーグは相手の動きに集中する。

 命中判定:分類/ソード(軽攻撃・部位狙い/頭部) > 骸骨戦士C
  アイスバーグ:巧みな成功!
   命中!
    > 13ダメージ!

 威力よりも当てることを考えた、軽めの攻撃が骸骨戦士の頭部に的中する。
 骸骨戦士はよろめき、たたらを踏む。

 発動判定:分類/ディスペルマジック > 骸骨戦士C
  アルマ:完全な成功!
   命中!

 詠唱を終えたアルマが杖を伸べ、骸骨戦士を指し示す。
「魔力の戒めをほどき、偽りの生命を夢へ還せ
。“解放”
 幾つもの青く輝く魔力の方陣が生じ、骸骨戦士を取り囲む。

    > 20ダメージ!
    > 撃破!

 骸骨戦士は避けられない。
 彼を動かしていた魔力が分解され、為すすべもなく石畳の上にくず折れる。

 同時に、サーラが槍を振るう。

 命中判定:分類/シルバースネーク(殴打) > 骸骨戦士B
  サーラ:完全な成功!
   命中!
    > 30ダメージ!
     > 撃破!


 一撃を叩き込んだ後、続けて攻撃を仕掛けようとしたサーラは肩透かしを食ったように思ったかもしれない。
 綺麗に体重の乗った攻撃は、一撃で相手の依り代を粉砕していた。

 戦闘終了!



GM

 何故か前回、骨が三体表示されていました。
 ……一体、成仏しました、ということで。


 剣の間合いにはまだ遠い。
 槍には大いに都合がよい。

 サーラは竜巻を纏うがごとく、槍の一撃を繰り出した。

 命中判定:分類/シルバースネーク(打撃) > 骸骨戦士1
  サーラ:優秀な成功!
   胴に命中!
     > 21ダメージ!
      > 「転倒」


「邪魔だ!」
 横薙ぎの攻撃は防御のいとまも与えず、骸骨戦士の胴体を打ち抜いた。
 その武器で与えうる最大の威力で強打されると同時にアルマの付与した魔力が弾け、骸骨戦士はもんどり打って転倒する。骨が石畳を打ち付ける軽く硬い音と、鎖帷子が立てる騒音が周囲に反響する。
 アイスバーグも前進し、突きかかる。

 命中判定:分類/ソード(刺突) > 骸骨戦士3
  アイスバーグ:成功!
   胴に命中!
    > 2ダメージ!


 素早くも狙いに甘さのある攻撃は骸骨戦士に命中するが、その身体の表面をなぞるに終わる。
「手応えがっ……」
 若い騎士は歯を食いしばり、剣を引き戻す。

 アルマが杖を掲げ、朗々と何かを詠唱し始める。
 一体の骸骨戦士が突き進み、ぎこちなく剣を振るう。
 サーラは槍の一端で剣を弾き、捌いてのける。
「退いてろ!」
 返す勢いで槍を伸ばし、転倒した骸骨戦士に追撃をかけた。

 命中判定:分類/シルバースネーク(打突・頭部狙い) > 骸骨戦士1
  サーラ:巧みな成功!
   命中!
     > 18ダメージ!
      > 撃破!


 もとより、強い魔力の掛けられたアンデッドというわけでもない。
 転倒していて避けようもないところに渾身の突きを受け、一体の骸骨戦士は粉砕される。

 と、アイスバーグと斬り結んでいた骸骨戦士が見事な冴えをみせる斬撃を放つ。
 アイスバーグも剣を上げて防ごうとするが、防御をするりと抜けて刃が忍び込む。
「くっ」

   胸部に命中!
    < 6ダメージ!


 幸い、威力の大部分をブレストアーマーが庇い大事に至るほどの傷ではない。
 反撃とばかりに、アイスバーグも剣を振るう。

 命中判定:分類/ソード(斬撃) > 骸骨戦士3
  アイスバーグ:巧みな成功!
   胸に命中!
     > 12ダメージ!


 がつっ、と音を立て、胸部に剣が食い込む。
 骸骨戦士は苦痛の色も見せないが、骨の幾つかにひびが入り、砕け散って床に散らばる。


GM

 詳細戦闘ではないですが、位置関係を分かりやすくマップにしてみました。

行動値:
 サーラ:28(17+2D6) アイスバーグ:22(14+2D6) アルマ:18(15+2D6)


 サーラ(S)は真っ直ぐに突き進み、アイスバーグ(A)もゆっくりと骸骨戦士に近づいていく。
 アルマ(a)はその場で動かず、状況を見守っている。
 骸骨戦士たちは、近づいてきた二人に対し、それぞれ狙いを定めたようだ。


アイスバーグ

サーラ<

「了解しました!」
 しっかりとした声を返し、すっと前に出る。


サーラ

アルマ<

「破壊は私の得意分野だ、まかせろ。」
 にやりと笑うと、流れるように骸骨戦士の方へと走り出す。

アイスバーグ<

「右は任せた!」
 迷う素振りも見せず、左側の敵へと向かいながら声をかけた。
 一瞬、金の双眸がアイスバーグを射抜く。
 迷いも恐れも弾き飛ばすような強い光がそこにはあった。
「私が許す。墓の中へ叩き返せ!!」

骸骨戦士<

「速やかに帰られよ、ここは死者がいるべき世界ではない!」
 死者には持ち得ない、圧倒的な「生命」の光。
 声にまでその力は溢れるようで。
 それを叩きつけながら、サーラは左側の二体の前へと突進する。


GM

 音の正体が、姿を現す。
 アイスバーグが息をのむ音が響く。

 左右の角から同時に現れたのは、中級の王族が身につける死衣をまとった骨の姿だ。
 左側に2体、右側から1体。合計3体。
 おのおのが虚ろな眼窩でサーラたちをねめつけ、宝石の飾られた剣を構える。
 身体に身につけた鎖帷子がぎしぎしと音を立てる。
 王族を埋葬するときに武装をさせるのは、過去のある時期にあった風習だ。

「陰気と魔力、想念が結びつくことによって、死者も再び生を得ることがあります。英雄として、あるいは邪悪なるものの従僕としても」
 アルマがいう。
 かたかたと音を立てながら、骸骨戦士が迫ってくる。
 その動きは意外に速い。
「依り代を破壊することで無力化できます、サー・サーラ!」


アイスバーグ

 頷いて、剣を構え直す。


サーラ

「・・・何だ?」
 乾いた軽い音。
 標的の他には、誰もいないだろうと思っていた空間である。
 聞こえてきた音に眉を顰めると、サーラは足を止めた。
 同時に片手でアルマを押しとどめると、辺りの様子を探る。
(魔法の攻撃というわけでは、なさそうだが・・・)
 新手だろうかと、音の出所をそっとうかがった。

アイスバーグ&アルマ<

 ちらりと、その視線が二人の方に向けられる。
「あれが敵なら、問答無用で叩き伏せるぞ。」
 言葉にしたらそうなるに違いない、どこか楽しそうなーそれでいて、何より物騒な眼差しだった。


GM

 アルマが示す方向に一行は進んでいく。
 一本道の大きな通りを短い通路が貫いて、十字路になっている部分が幾つかある。
 サーラたちも、その一つから通りに侵入してきたことになる。

 と。
 また一本の十字路を越えようとするとき、

 ――かた
 ――かしゃん

 乾いた、軽い音が左右の道の方から聞こえる。
 複数だ。


GM

 知覚判定:分類/気配感知(陰気)
  サーラ:完全な失敗!
  アイスバーグ:完全な失敗!
  アルマ: 完璧な成功!


 サーラとアイスバーグが相手の気配を探る中、アルマが一歩足を踏み出す。
 杖を持った手をゆっくりと前にのばす。

 つ、と。

 その杖を流れるような動きで十字路の左へと、指し示す。

「こちらに」

 一言、呟いた。


アルマ

サーラ<

「畏まりました」
 杖を上げて敬意を示す。
「本当に、太陽のようでいらっしゃいますね」
 その泰然自若な雰囲気に、アルマも先ほどから落ち着きを分けてもらっているのだった。


サーラ

アルマ<

「ああ、よろしく頼む」
 笑いかけ、歩き出す様はとても今から魔物の元へ赴くようには見えない。
 普段と同じように見える彼女の様子は、相手に安心感を与えたかもしれなかった。
「遠距離からの攻撃があるのはありがたいが、無茶はしないでほしい。
 魔物を倒すだけでなく、私達全員が無事に地上に戻ることが大切なのだから」

アイスバーグ<

 即座に返ってきた返答に破願する。
「いい返事だ。頼むぞ、アイスバーグ」
 信頼しているという気持ちが、表情にも声にも溢れているようだった。

 十字路にさしかかり、アイスバーグの言葉を聞いて眉をひそめる。
「外に逃げた可能性は低いと思うが・・・どこに隠れている?」
 言いながら、闇の奥へと目をこらした。
 先ほどの気配が感じられないか、意識を研ぎ澄ます。



GM

 サーラたちは地下墓地へと足を踏み入れた。
 すぐに、湿った嫌な臭いが鼻を突いてくる。
 ひんやりとした空気が辺りに漂っている。本当に気温が低いのか、それともこの場に漂う気配がそう思わせるのか。おそらくそのどちらともなのだろう。
 こつ、こつと、サーラとアイスバーグの長靴が音を響かせる。
 不思議なことに、火のついた燭台があるわけでもないのに、あたりはぼんやりと明るく、動作に不自由はない。

 意外な程天井は高いが、通路は狭い。
 そこかしこに、通路を挟んで向かい合った横穴があるのを見て、アルマが補足する。
「おそらく、それほど高貴ではない方が安置される場所なのでしょう。この辺りは空ですが、実際はここに石棺が収められるのだと思われます」
 そのうち、十字路にさしかかる。

 知覚判定:方向感覚(騎士王国)
  サーラ:失敗!
  アイスバーグ:成功!
  アルマ:失敗!


 どちらがどちらに続いているのかは分からないが、アイスバーグが小さな声でいう。
「城内の通路との位置関係からすると、右手側が出口の方ですね――地下墓地の構造は分からないですが、少なくとも方角はそうかと」


アイスバーグ

サーラ<

 ギムリアスへの直言の援護を頼むといわれ、一瞬答えに詰まるが、
「了解しました」
 と、そつなく答える。
 そして、アルマの守りを任せても良いかとの問いには、即座に答えた。
「お任せください!」


アルマ

サーラ<

「そうなのだろうと思っていました」
 笑う。すっかり自分の役割を取り戻している。
「直接、実体のないものを傷つけることの手段は、私には魔力の矢くらいしかありませんが……それでも、できる限りのお手伝いはいたします」


サーラ

アルマ<

「気合や覇気なら私の得意分野だ。」
 にやりとしか形容できない笑いを浮かべた後、拳を握る。
「肉弾戦でもいいのなら、格闘技ももう少しかじっておけばよかったな。
 より効果的な一撃が入れられたのに・・・後の楽しみに取っておこう。」
 魔力の加護――サーラの中では支援、と変換されていたが――は頼むかもしれない、と付け加えて唇をつりあげた。

アイスバーグ<

 流れるように言葉を紡ぐアイスバーグを、瞳を眇めるようにして見つめる。
「魔術にお詳しい殿下がそう仰るのなら、やはり問題なのだろうな。
 私の方からもギムリアス団長に進言してみよう。おまえも援護をたのむぞ、アイスバーグ。」
 今回は城内への侵入を許したが、2度目はない。
 はっきりとした口調でそう言うと、強い光を浮かべた視線でアイスバーグとアルマを見る。
「では、魔物退治へと向かおうか。
 アルマ殿は後方から援護を。私とアイスバーグは攻撃だが・・・」
 一度言葉を切り、笑みに似たものを浮かべると少年をひたりと見据えた。
「アルマ殿の守りは任せてもいいな?アイスバーグ。」

 暗闇を睨みつけるように見た後、躊躇なく穴の中へと踏み込んでいく。
 サーラの髪と瞳の色が、まるで炎の灯りのように闇をはじいた。


GM

 サーラは穴を覗いてみる。

 穴というよりは壁に走った亀裂といえ、すぐに別の空間に繋がっているのが分かる。本当に壁一枚で、地下牢と地下墓地は隔てられていたのだろう。
 地下墓地の通路のようだ。
 一本の道が真っ直ぐに左から右へ続いている。左手はすぐに行きどまっているようだ。
 残念ながらサーラたちは地下墓地に足を踏み入れたことはなく、その構造は分からない。
 ただ、特別な趣向を凝らした建造物というわけではなかったはずで、恐らくはすぐに“敵”の元へ行けるはずだ。


アイスバーグ

サーラ<

「リィジィー殿下もそのようなことを仰っていました」
 唐突に騎士王国の王女の名をあげる。
「殿下は魔術に堪能であられるから、そういった隙は目に付くのでしょうね。何度か陛下に進言されていて、そこから、大魔術師王国との提携も実現したわけですが……騎士団の対応はというと、やや遅きに失したということでしょうか。
 この件が終わったら、ギムリアス団長に申し上げた方がいいかも知れませんね」
 この遠慮深い若者は、戦術だとか騎士団の体制だとかの話となると、俄然口が動くようになる。
 それから、気を抜くなとの台詞に改めて口元を引き締める。
「はい、隊長!」


アルマ

アルパージャ<

 顔の前に手を翳して、絶息したわけではないことを確認する。
 安心して息をはき出した。

サーラ<

「ここが危険だとしても、彼は置いていく他はないと思われます。
 奥の方がもっと危険でしょうから」
 穴の方に目をやる。
「私に光の力があれば、“聖域”の術を使うこともできたのでしょうけれど、無い物ねだりをしても仕方がありません。
 気休めにしか過ぎないかも知れませんが、これを彼に――」
 言うと、襟元から鎖をたぐり、服の中に落とし込んでいたらしいネックレスを外してアルパージャに掛けさせる。
 見ると、小さな金細工の車輪があしらわれた首飾りだった。
 太陽神をあらわすシンボルだ。

 頬に指をあて、考える。
「サーラ様はその覇気をもって槍を振るわれるのが良いと思います。それこそが、陽気をぶつけることになるはずです。
 気合いだとか、精神力だとか、そういったものこそが彼らを脅かすのですから」
 それから、にこりとする。
「素手で殴られるのも宜しいですよ。そのときは事前におっしゃってくだされば、魔力の加護も差し上げられます」


アルパージャ

サーラ<

「……」
 サーラを見上げ、そしてほっとしたらしく晴れやかに笑うと、がっくりと項垂れる。
 どうやら、再び意識を失ったようだった。


アイスバーグ

アルパージャ<

「私たちを亡き者にする?」
 ぎらぎらとした眼をしながら、それでも唇を吊り上げるようにしてサーラは笑ってみせた。
「身の程知らずな。−返り討ちにしてやるさ。」
 指の骨を鳴らしながら、そんな物騒な言葉を宣言する。
 気迫だけで攻撃ができるのなら、間違いなく相手に打撃を与えられるような。
 そんな力がサーラの体を覆うようにも感じられた。
 しかし。
「よく話してくれたな。――ここから先は我々の仕事だ。」
 一瞬でそれを消すと、朗らかとさえいえる笑顔でアルパージャの手を軽く叩いた。
「貴殿は自分の仕事をやりとげた。辛い役目だっただろうが、おかげで助かった・・・礼を言わせてくれ。」

アルマ<

「この場に他の魔物はいないと見てもいいだろうか?
 彼を休ませてやりたいが・・・この場で休ませても大丈夫だろうか。」
 瘴気がない、という先ほどのアルマの言葉を思い出しながら首をかしげた。
「オストと言ったか、その魔物。
 陽気が苦手という話だったが・・・アルマ殿は昼間、私が陽気を纏っているといわれただろう。
 何とかしてそれを相手にぶつけてやる方法はないものかな。」
 槍より直接殴りつけたほうがいいのかなと、軽口めいた口調で尋ねる。

アイスバーグ<

「王城に魔物の進入を許し、しかもそれに気付かないとは。
 警備体制に不備がある気がするな。物理的なものだけでなく、対魔術的な警護も必要なんじゃないのか。」
 騎士団と魔術師ギルドとの連携が必要じゃないのかと、渋面を作ってそんな風に言った。
「とりあえず、おまえの感じた違和感に助けられた。おかげで今回のことに気がつけたからな。
 あとは大元を叩いて終わりだ・・・最後まで気を抜くなよ。」
 にやりとした笑いを浮かべると、アイスバーグの隣りに立ち穴の奥を透かし見る。


アルパージャ

サーラ<

 サーラの質問に答え、説明したのは次のような事だった。

 かの魔族の名は“オスト”。
 実体を持たない、人の心の寸隙を突いて憑依し操ることのできる魔族であり、また、人の感情や魂の欠片などから生まれた陰気を操ることもできる。そして陰気をもって善良な人々の心を蝕むことを好む。

 オストは初めから剣王を狙いとして騎士王国に潜り込んできた。
 太陽の光や、神のシンボル、果ては笑い声など、ありとあらゆる陽気を苦手としており、本体そのままでは人族の世界を移動をすることすら困難なため、憑依と離脱を繰り返しながらアルパージャの元までやってきた。
 アルパージャを狙いとしたのは、王家に潜り込むことの容易な貴族であることと、剣王に憎悪を抱いている見込みがあったからだった。憎悪や怒りは、憑依を完全にするための格好の材料だった。
「だが、わたしは剣王を敬愛こそすれ、憎んでなどいない」
 オストのあては外れたが、それでもアルパージャの精神力に、オストの魔力に完全に抵抗する力まではなかった。
 不完全ながら憑依に成功したオストだったが、剣王に憑依することだけはできなかった。王城を訪れたときにいくらでも接近する機会はあったが、剣王の精神力は堅固すぎ、何度憑依を試みても成功する可能性の欠片すら見えなかった。
 計画は憑依から暗殺へと変更を余儀なくされ、オストはアルパージャの権力と財力を利用して兵を雇うこととした。
 そしてそれもまた頓挫する。ことあるごとに抵抗を見せるアルパージャが、ほんの一瞬だけ意識を取り戻した際に、自らの肉体が企んでいる計画を官吏に密告することに成功したのだ。
 だが、地下牢に拘置されたことは、結果的にオストにとって好都合だった。地下牢自体に満ちた陰気だけではとても足りないが、地下牢に地下墓地が密接していることが分かったのだ。ここに身を潜めていれば、いくらでも陰気を集めることができる。
 充分な陰気を集め、隙を見て看守や兵士に憑依して剣王に近づくことさえできれば、目的は達成できる。莫大な陰気を直撃させれば剣王の精神を回復不能なほ ど汚すことができるだろうし、そうなれば自らが憑依する隙も生まれ、でなくとも、騎士王国の秩序は破綻するだろう。
 目立たぬように力を操り陰気を集め、程なく、剣王の精神を汚すに足る魔力を得られただろうところに、サーラたちの調査が入った。

「こうなっては、このまま身を隠すことはできない。
 騎士サーラ、あなたたちや私をすべて亡き者とし、あとは何とか時間を稼ぎながら、計画を遂行させるしかないだろう」


サーラ

アルパージャ<

 水差しも何もないことに舌打ちをしながら、アルパージャの襟元をゆるめていく。
 壁にもたれかからせ、少しでも楽な姿勢がとれるようにしながら、男の言葉に耳を傾けた。
「・・・剣王を手中に?」
不可解なほどに静かに、穏やかにさえ聞こえる声で男の言葉を繰り返す。
 サーラの顔から表情が消えたように見えた。
 感情が激する前の、一瞬の空白。その直後、燃え上がるような光がその双眸に宿る。
「我らが王をそのような手段で亡き者にしようとは――愚か者が!」
 爛々と輝く目が、正面からアルパージャを捉える。
「当たり前だ。我々騎士団は陛下と、この国の民を守るために存在する。
 貴殿の望みが奴の消滅なら、我らに協力を。――あれは何だ。
 なぜあれは貴殿にとりついた?そして、陛下が狙いというのなら・・・なぜこのような場所にいたんだ。」
 掴んでくる手をしっかり握り返しながら、問いを重ねた。


アルマ

アルパージャ<

「……大丈夫でしょうか」
 不安げに様子を見守る。


アイスバーグ

サーラ<

「たっ――」
 飛んでいる蜂でも落とせと言わんばかりの言葉に、思わずつんのめる。
 そこで、自分はともかくこの隊長ならできるかも知れないなあと、緊迫感のないことを思ったりする。


アルパージャ

 サーラが見たところ、特に外傷はない。
(サーラが“気付け”をしたときに何か怪我でもしていない限り、との但し書きがつくが)

サーラ<

 サーラが介抱をしようとしている間にも呟くようにしゃべり続ける。
「狙っているのは陛下か、陛下の信頼の篤いもの……。あいつはこの禍々しい空気を集め、人を変えることができる。剣王を手中にするか、悪くとも暗殺することができれば、状況は魔族に有利になる」
 弱っているはずなのに、空恐ろしいほどの力でサーラの腕を掴む。
「騎士サーラ、あいつを滅ぼさなくては」


サーラ

アルパージャ<

「救い?」
 眉をひそめ、訝しげに問い返す。
 力なく横たわる様子に顔つきを和らげると、アルパージャの瞳を覗きこんだ。
 呼吸や脈に加え、ざっとではあるが怪我がないか確認をしていく。
「今の状況はわかるか?
 悪いが休ませてやる時間的余裕がない。――話せるか。」
 言いながら、牢の中を見渡す。この男に飲ませてやる水でも置いていないだろうかと思いながら。

 残念ながら、飲み物の類は置いていないようだ。

アイスバーグ<

 アイスバーグが穴の方に近づくのを視界の隅に確認し。
「気をつけろ。・・・また出てきたら叩き落せ。」
 無茶なことを言いながらアルパージャを診ている。
 隠れて何かを、という言葉に舌打ちをした。
「なめられたものだな。」
 低く抑えた声が、怒気をはらんで響く。

アルマ<

「亡霊ではない。人に取り憑く、魔物?」
 言いながら、軽く首を傾げるような仕草をする。
 見た目はいかにも亡霊だったがな、と埒もあかないことを考えた。
 アルマが示すのに合わせ、アルパージャに目をやる。
「・・・確かに、聞いたほうが早そうだ。」
 青白く輝く刃を見つめ、うっすらと微笑んだ。


アルマ

 怪物判定:分類/???
  アルマ:かろうじて失敗!


アルパージャ<

 魔力の輝きをたたえた瞳で、貴族の男をじっと見る。
 先ほどまで見られた異様な気配は消え去っている。
「彼の中は空っぽ、通常の人間に戻ったようですね」

サーラ<

「あの異形は、……亡霊ではありません。少なくとも。
 ただ、このあまりの瘴気の少なさに関係しているような気はします。通常、地下牢には陰の気がこもっているものです。
 それに、墓地にも。この穴の向こうがあの地下墓地だというのなら、私はもっと寒気を感じて良いはずなのですが、取り立てて感じるものはありません。
 あの異形が瘴気を糧としているのか、それとも、瘴気を操る力を持っているのか……」

 そこでアルパージャを示す。

「彼が正気を取り戻したら何か聞けるかも知れません。
 あの異形に取り憑かれていたようですし、運に恵まれれば、その間の記憶が残っていることもあるでしょう」

 それからサーラの要請に応じる。

「槍を、それから騎士アイスバーグの剣に力を付与します」

 魔術判定:分類/マナエンチャント(Lv.2)
  アルマ:成功!


 アルマが瞳を閉じて精神を集中する。
 時間をかけ、複雑な身振りと共に呪言を紡ぐ。
 最後の一音と共に、鳥を放つような仕草をする。
 周囲の魔力がサーラたちの武器に導かれていき、冷たい鉄を、薄い青白い輝きで包み込む。
 まぶたを開け、二人にいう。
「これから数分の間、あなた方の武器は魔力を放ちます。
 亡霊や肉体を持たない精霊、魔物の類を打ち砕く力を得ました。効果が切れる頃に再び魔力を付与します」


アイスバーグ

 サーラが扉を開き、アルパージャの元に行くのを見ると、剣を構えたまま異形の消えていった穴の側まで進む。
 見張りを自分の役割として考えたようだ。

サーラ<

「いくらでも誤魔化せた……、ということでしょうか。
 わたしにはそういう意味に聞こえました。
 あいつはここに隠れて、何かをしていたのかも?」


アルパージャ

 サーラが脈を取ったところ、今のところは生きているようだった。
 と、うめき声を上げ、目を開ける。
 どうやら気が付いたようだ。

サーラ<

「う……」
 半目を開き、それから、数度の瞬きの後、サーラを認める。

 知名度判定:分類/対貴族(騎士王国)・有名
  アルパージャ:成功!


「騎士、サーラ?
 よかった、救いか、間に合った……わたしは、あいつに……」


サーラ

半透明の異形<

 牢の壁が崩れ落ちるのを見て舌打ちをする。
「待て!」
 吸い込まれるように消えていく影に鋭い声をかけ、アルパージャの牢の扉へ手をかけた。

 牢には鍵がかかっていたが、看守から徴収した鍵束の中の鍵が合い、牢の扉は開いた。

アルパージャ<

「おい、起きろ!!」
 何の躊躇もなく牢へと飛び込むと、倒れている男の頬を数回叩く。
 サーラは力を加減していたが、見ようによっては力任せに頬を張っているように見えただろう。
「説明をしろ!どこからあんなものを連れてきた。
 城内には陛下もいらっしゃるんだぞ、あんな怪しげなモノを連れ込んで・・・!」
 言い募って、急に言葉を切る。
 軽く首をかしげ、アルパージャの首筋に手を当てた。
「――生きてるんだろうな、こいつ?」
 どこか間の抜けたひとり言を言いながら、脈を取る。

アイスバーグ<

「おまえの言っていた気配の正体は、さっきのアレか?」
 言いながら、アイスバーグに視線を送る。
「どう思う?『貴様らだけならいかようにもできたものを』とかなんとか言っていたが・・・いったい何をする気だ。」
 爛々と輝く眼差しが、まっすぐにアイスバーグを見た。

アルマ<

「あれは、何だ。」
 金の双眸をアルマにも向けると、低く尋ねた。
「この壁の向こうは、王立墓地の地下部分になる。そこへ引っ込んだということは亡霊ということか?
 それとも、瘴気とやらから湧いてくる魔物なのか。」
 ちらりと自分の武器を見た後、もう一度アルマに視線を合わせた。
「武器の強化を、お願いしたい。」
 淡々とした口調で、そう要請する。


半透明の異形

 アルパージャと半分重なっていた異形が浮かび上がり、サーラたちを見下ろすように宙に浮かんだ。
 骸骨のような顔が憎々しげな表情を作り、三人を睥睨している。

サーラ<

 異形はサーラの誰何には答えない。
 だが、サーラは確かにその声を聞いた気がした。

(魔術師を連れてくるとは
 魔の力を知らぬ貴様らだけならばいかようにもできたものを)

 それは無念の声だった。

 と、やおら異形は衣に包まれたその片手を振り上げた。
 途端、アルパージャの背にしていた牢の壁が崩れ落ちる。
 そして吸い込まれるように、半透明の異形だけがその奥の闇の中に消え去る。異形が離れると同時に、アルパージャが力無くその場に崩れ落ちた。

 知力判定:分類/地図(大牙の城)
  サーラ:優秀な成功!


 サーラは王城の内部構造には詳しく、地理関係から、崩れ落ちた壁の奥に何があるのか容易に推測ができた。
 それは、おそらく王族墓地の地下部分。今は封印されている、過去の王族たちの眠る場所だ。


アイスバーグ

サーラ<

「――!!」
 無言で指示に答え、素早く下がり、アルマの前に出る。


サーラ

アルパージャ<

 現実感のなさそうな顔と言葉に、サーラは訝しげに眉をひそめた。
 何かおかしい。
 自分達のことに気付かなかったということも、話している内容も。
 起きているのに眠っているかのような表情も。
「どこが」ということは難しいが、「おかしい」という違和感を感じる。
「――おまえ・・・」
 言いかけて言葉を止め、探るように男を見た。
 その時だった。

 アルマの声に反応し、反対に彼女を庇う位置で槍を握りなおす。
「アイスバーグ!!」
 アルマを守れと、そう意図をこめた強い口調で部下の名を呼ぶ。
 どんな状況の変化にも対応できるよう、それとはわからぬように体勢を整えた。
 二重映しになった姿に、険しく表情をひきしめ。
「何者だ?」
 低く鋭く、誰何する声が牢内に響いた。


GM

 サーラの後ろ、陰になるところで密やかに魔法を詠唱し、解き放つ。
 魔法の力を見抜き、暴くための術だった。
 目に見えない解析の光がアルパージャを貫くと、その刹那、アルマが押し殺した声を上げる。
「サー・サーラ、その男から離れてください!」
 見れば、サーラにも分かる。
 ぼんやりと見返してくるアルパージャと、見たこともないような半透明の異形の姿が二重になっている。
 その異形は、骸骨のような顔を持ち、灰色の衣で体を覆っている。


アルパージャ

サーラ<

「いや、騎士殿――騎士殿とお見受けしますが、実際、分からないのですよ。最近はどうにも眠くて眠くて」
 現実感のなさそうな表情でサーラを見返す。
「ここ数日間もいつも起きられなくて、気が付けば一日が終わっていることもしょっちゅうで……」
 とりとめもないことを話し出す。


サーラ

アルマ&アイスバーグ<

「――気を抜くな。」
 飄々とした表情を崩さないまま、視線を男にすえ、ふたりにだけ聴こえるような声でささやいた。
 目の光だけが、一瞬、燃え上がるように強くなるのが見て取れる。
「・・・すぐに動けるように備えていろ。」
 恐れる様子もなく、男のすぐ目の前でサーラは足を止めた。

声の主<

 ぼんやりとした顔を、僅かに眉をしかめて見返す。
「自慢じゃないが私の声は大きいぞ。
 城の両端というならともかく、この至近距離で気付かなかったというのか?」
 鋭い眼差しが男と、牢内を探る。
「こんなに暗い場所にうじうじとしているからだ。
 なぜここにいるのかわからない?
 おまえがそれをはっきりと言わなければ状況は変わらん。
 ――そうではないのか、アルパージャ卿。」


アイスバーグ

 サーラの横で、油断なく男を見ながら、耳打ちする。

サーラ<

「謀反です」
 サーラもそれで分かる。
 3ヶ月ほど前、詰め所に旧帝国の貴族が謀反(サイーディアは騎士王国の属国でもなく臣従しているわけでもないため、謀反という言葉は正しくなく、加えて その貴族は騎士王国の貴族として地位を与えられているため、二重に誤っている)を企てているという密告があった。首謀者は、ラームナード統一戦争の折り に、早々に旧帝国を離反して騎士王国に味方したことから、戦後騎士王国に領地を持つことを赦されたローハ家の現当主アルパージャであるということだった。
 事実、官吏が教えられた館に踏み込むと、実際に現当主アルパージャが多量の武器を隠し持っていたことが分かった。
 謀反についての明確な証拠はなかった上に、それまでの素行にも全く問題はなく、日頃つきあいのあるものも口をそろえて“とても信じられないことだ”という。
 しかし、当のアルパージャ自身が官吏の取り調べに対して、『騎士王国を打倒するための正義の戦いを起こすつもりだった』と話したことから、釈放するわけにもいかず、かといってはっきりと処断することもできずに、地下牢に拘留されているのだという。


声の主

 牢屋に入っていたのは、三十歳くらいの男で、薄汚れた服を着て寝台に腰掛けていた。

 サーラが通路を進み、自分の牢の前まで来るのを見て、顔を上げる。

サーラ<

 なんだかぼんやりとした顔で、サーラを見あげる。
「ああ、騒ぎがあったのですか」
 とぼけた返事をする。
「どうにも最近頭がはっきりとしなくて。
 そもそも、なんで私はこんな所にいるんでしょう」


アルマ

サーラ<

「そう、でしょうか」
 なんだか毒気を抜かれたような顔をしている。
 しばらく考えてから、ふっと、にこりとする。
「そう、かもしれません」
 軽く頭を下げた。
「騎士団も面白そうな所だと思います、サー・サーラ。あなたのような人がいるところでしたら、とても楽しいでしょうね」


サーラ

アルマ<

「魔術師というのは知識を売り物にする職業だろう。」
 目元を眇めるようにしてアルマを見る。
「知られていないような事がらまで、知識として整理し、系統だてて、頭の中に蓄えるのが仕事なんだろう?
 あなたはその知識を活かし、私達にできない方面から調査をすることができる。
 何も気にする必要はないと思うが。」
 にかりと笑みを浮かべ、もう一度アルマの顔を覗き込んだ。
「知識は気にせず経験の方をつみたいのなら、騎士団に入るか?
 うちの隊なら経験値をあげるには最適だぞ。」
 軽口めいた口調でそんな風に言う。

声の主<

 眉をあげ、声がした方に視線を向ける。
 仕草でアイスバーグとアルマに注意を促がすと、自分はそちらへ近づいていく。
「何でしょうか、と言われてもな。先ほどからの騒ぎを知らないのか?」
 主に騒いでいたのが自分、ということには全く触れず、灯りのほうへと足を進めた。
 まるで普段どおりの歩き方だが、見るものが見れば獲物に飛び掛る直前の獣の歩みにも見えたかもしれない。
「――で、おまえは誰だ?何をしでかしてここにいる。」
 言いながら、どんどんと近づいていく。



GM

 サーラの問いかけに、沈黙が続く。

 反応がない、と思えたとき。
「何でしょうか、呼びましたか」
 どこか眠そうな声が返事をした。


サーラ

サーラ<

「いいえ、そういうわけではないのです」
 焦った風にかぶりを振る。
 やがて、眉根を下げてサーラを見る。
「……どうにも、わたしは実地経験に乏しいものですから。知識ばかり持っていても仕方ないということでしょうね。
 ラー・カイオンはどちらかといえば学者なのかも知れません」


アイスバーグ

サーラ<

「もちろんです」
 しかめつらしく頷く。
「半分はサーラ隊長、残り半分はギムリアス団長……わたしは残った分だけで結構です」


サーラ

アルマ<

「よろしく頼む。
 いざとなったらこれが人間外にも当たるよう、強化してもらわなければならないが。」
 武器を掲げ、軽く笑みを浮かべてそう言った後、様子が違うことに首を傾げる。
「・・・どうかしたのか?もしかして、どこか怪我でも?」
 少し慌てたようにアルマの顔を覗き込んだ。

アイスバーグ<

「もちろんだ。さっきの攻撃は、私達に対する宣戦布告とみなす。」
 重々しい口調を作りながらも、サーラの表情は楽しげだった。
 アルマの魔法の灯りを受けて、金色の双眸が煌くように輝く。
「アイスバーグ。私より先に手を出すのは構わないが、私が殴る分はとっておくように。」

 通路の奥から漏れてくる橙色の灯りに、僅かにサーラの表情が変わる。
 アルマを庇うような位置に立つと、闇の奥を透かし見て声をかけた。
「誰かいるのか。」


GM

 サーラたちは通路へと戻る。
 先ほど、魔法による攻撃を受けた場所までやってきた。
 アルマが魔法の様子を探るが、何も感じられない。

 通路の奥は暗闇に沈んでいる。
 と、一番奥の左右差し向かいになった牢屋の一方(右手側)にうっすらと明かりが見える。
 彼女たちの位置からでは、鉄格子の隙間から漏れる橙色の明かり、恐らくは蝋燭の光しか見えないが……。


アイスバーグ

サーラ<

「了解、隊長」
 何やら元気を取り戻した風に応える。
 意気揚々と、
「なんだかいつもの調子になってきました。
 こんな妙なことばかりする相手を見つけて、殴りつけてやりましょう」


アルマ

サーラ<

「魔法からの守りはお任せください」
 灯りの魔法が掛けられた杖を掲げながら、どこか自信なさげにいった。


サーラ

アルマ<

「なるほど・・・。ということは、なるべく相手の視界に入らないようにする必要があるのかな。」
 こんな狭い場所では限度があるがと言い、にやりと笑う。
「ま、対象が小さくないのならありがたい。
 あの目が本体では狙いを定めるのも一苦労だからな。」

 がちゃ、という音に舌打ちをする。
「看守!緊急事態だ、ここを開けろ!!」
 声をかけながらも、気の短いサーラはガンガンと扉を蹴っていた。
 本気の蹴りではないものの、かなり盛大な音が辺りに響く。

 がしゃん!がん!
 ブーツに裏打ちされた鉄鋲が扉に叩き付けられ、鉄製の扉に小さなへこみを穿つ。
 扉の留め具が激しく音を立て、ともすれば打ち破られないかと思えるほどだった。
 扉にとっては幸いなことに、看守の反応がないと分かった時点でサーラは蹴るのをやめた。


アイスバーグ<

「閉じ込められたぞ。」
 どこか憮然とした表情でそう告げると踵を返す。
「とりあえずこの扉は後だ。一番奥まで調べてみよう。
 相手も私たちが近づいているのは気付いているだろうから、気を抜くなよ。」
 気配を探りながら、再度牢の奥へと進んでいく。


GM

 サーラは扉の向こうの気配を探る。
 ……何も感じ取れない。不思議なほど静まりかえっている。
 そこで、彼女はドアに手を掛け、慎重に扉を開いた。

 がちゃ

 固い音がする。
 ドアノブが回らない。

 鍵が、かかっている?


アイスバーグ

 周囲に目をやる。

サーラ<

「いえ、隊長――」
 再度、辺りを調べる。
「特に、何も……」


アルマ

サーラ<

「なるほど。
 ……本体はここにはいません。いるとするなら、この地下牢の奥にいるのでしょう。私たち魔術師にとって、自ら見、あるいは把握していない場所に魔力を行 使することは至難の業ですから、魔術師の目によって私たちの位置を掌握し、通路をまたいでの攻撃をしてきたと見て良いと思います」


サーラ

アルマ<

「そう、確かにそんな形をしていたな。
 ということは、本体はここにはいないのか?」
 首をかしげ、目玉のようなものが浮いていた場所を槍で示す。
「目玉だけで魔法を使うとは、魔術師とは器用なものだな。」
 軽口めいたことを言いながら、気配を探ることだけは怠らない。
 何の異変もみせない扉に視線を固定すると、薄く瞳を眇めた。
(・・・何も言ってこないのは、妙と言えば妙か?)
 自分の管理する牢で騒ぎの在る気配があれば、この場合、何か言ってこないだろうか。
 少なくとも覗くぐらいのことはするだろう。
「気配がつたわらないような仕掛けがしてあるのか、あるいは・・・」
 何かこの件にかかわっているのか。

アイスバーグ<

「アイスバーグ、何か変わった物はあるか?
 この牢自体を見張っていたのなら、今回の件に関わるものがあるかもしれない。」
 そう、自分達が見張られているのでなければ。


GM

 サーラはそのまま進み、鋼鉄の扉の前までやってきた。
 ここまで、何の異変もない……。


アイスバーグ

サーラ<

「お任せください、隊長」
 剣を構え、サーラの背中と横の通路とを交互に警戒する。


アルマ

 サーラが突然声をあげたのを聞いて、びくりとする。
(消えた? 何が?)
 混乱するが、また出たらと言われて理解する。
(今、何かが現れていたのだ)
 先ほどの襲撃者そのものか、あるいはその手先か。

サーラ<

「かしこまりました、サーラ」
 頷く。
 それから、もう一つの可能性に思い当たる。
「サーラ、“魔術師の目”かも知れません。消えたのは、これくらいの大きさの、灰色の目玉めいたものではありませんでしたか?
 もしもそうならそれは魔法の一つで、術者はその目を通して、離れた場所も見ることができるようになります」


サーラ

アルマ<

「消えた!?逃げる気か!!」
 何故か腹を立てているように、声を荒げる。
(何のための攻撃だ?警告か、様子見か。
 あれでしとめられるとは、相手も思ってはいないだろうが・・・)
 強い声とは反対に、恐ろしいほど怜悧な光をその目に浮かべて更に闇の奥を透かし見る。
 しかし次の瞬間、視線を転じて、音のした方ー扉の方へと踵を返した。
「・・・私の後ろに。また出てくるようなら教えてくれ。」
 言いながら、安心させるようにアルマの背中を軽く叩く。

アイスバーグ<

「警戒を怠るな。後ろは任せた。」
 低い声でそう告げると、槍に手をやる。
 攻撃態勢を整え、体重を感じさせない流れるような動きで、音のした方向へと進む。


GM

 ドアの方からは返答がない。

 気配感知:
  サーラ:成功!


 ただ、周囲を伺っていたサーラは首筋の後に奇妙な気配を感じて振り仰いだ。
 天井の隅に、灰色がかったちいさな球体――それこそ、人間の目玉のようなものが浮かんでいる。それはぎょろぎょろと辺りに視線を向けている。
 と、その目玉とサーラの視線がぶつかる。
 途端にその目玉が掻き消えた。

「魔力の気配が消えました」
 アルマがちいさな声でサーラに告げる。


アイスバーグ

サーラ<

「了解! 隊長!」
 青ざめていながらも、声高に応答する。


サーラ

アイスバーグ<

 どこにも怪我がないことを見て取ると、うっすらと笑顔を浮かべる。
「良い反応だ。いいか、相手がなんだろうがここで片付けるぞ。
 私は売られた喧嘩は必ず買う主義なんだからな!!」
 自慢にもならない言葉を高らかに言い放った。

 何の応えもないことに、眉がつり上がる。
 静まり返った牢内を、金の双眸がゆっくりと探っていく。
(狙って攻撃を仕掛けているのなら、向こうもこちらを視認できる位置にいるはず。
 どこだ?)
 そう考えていたときに、風が動いた。
 入り口の方から聞こえた音に、顔を向ける。
 無言のまま、一歩、音のした方へと足を踏み出す。
「――誰だ?」


GM

 サーラの声に応えはない。
 地下牢は、ただただ、静まりかえっている。
 ……不意に、風が動く。
 彼らの背後で、がちゃりと音がした。
 あちらは、この地下牢の入り口。看守の部屋に続く扉がある方向だ。


アルマ

(魔法による攻撃……“魔法の矢”? いや、“魔力の閃き”……でもない……。私の、知らない魔法だ)
 アルマは戦闘訓練を受けているわけではない。サーラや、―一応は――アイスバーグのような騎士とは違い、突然の不意打ちを冷静に処するようなことは不得手だった。
(いや、何かは重要じゃない。問題は攻撃されたこと、恐らくは今も狙われていること)
 それでも、何度か“冒険”をしてきた経験から、気持ちを落ち着かせようと努める。

サーラ<

「承知しました」
 魔法の光を放つ杖を掲げる。
(今は防御の魔法より、観察すること。相手に備えること……)


アイスバーグ

 息を荒げながら何とか立ち上がり、剣を抜く。

サーラ<

「はい、隊長!」
 青ざめながら、震える声を落ち着かせて答える。
 そして、サーラの横に進み出た。


サーラ

アイスバーグ<

「アイスバーグ、無事だな!?」
 反射的にアルマを背中に庇いながら、部下の名を叫ぶ。
‘何か’が飛んできた方向に、燃えるような金の双眸が向けられた。

アルマ<

「灯りを頼む。」
 視線を前方に向けながら、声をかける。
 いつでも彼女を庇って動けるよう、体勢を整えながら気配を探った。

「私に向かって喧嘩を売るとはいい度胸じゃないか。
 隠れていないで姿を見せろ!」
 混乱や不安と言ったものが微塵も感じられない、力に溢れた声が牢内に響く。
 闇で見えないとはいえ、サーラを知るものなら容易に想像できただろう。
 爛々と輝く目が、まるで炎さながらの光を放っていることを。


GM

 サーラたちは靴音を鳴らしながら、地下牢の通路を進んでいく。
 アルマは周囲にしきりに目をやり、アイスバーグはサーラの横で、自分にも何か感じられないかどうかを試している。
 通り過ぎていく牢の中はどれも空だ。
 看守から、囚人がどの牢に入っているかは聞いていないが、もとより、それほど埋まることのない騎士王国の牢だ。ほとんど空だったとしても怪しいことではない。


 技能判定:分類/魔力感知
  サーラ:失敗!
  アイスバーグ:優秀な成功!
  アルマ:成功!


 コの字になっている牢の一端から、もう一端の角を曲がったとき、アイスバーグがはっとした顔をして「隊長」と言いかける。遅れて、アルマが「いけない」と声を上げる。

 技能判定:分類/危険感知
  サーラ:優秀な成功!
  アイスバーグ:失敗!
  アルマ:失敗!


 サーラは首筋に何かを感じ、咄嗟にアルマを突き飛ばす。
 ごう、という音が二人の脇を通り過ぎていく。
 次いで、

 回避判定:分類/魔法回避
  アイスバーグ:辛うじて成功!
   回避!


 立ちすくんでいたアイスバーグが、通路の影に飛び込んだ。一瞬前に彼が立っていた場所を何かが貫く。


アイスバーグ

サーラ<

「隊長ならそう思われるだろうと思います」
 したり顔で頷く。
「まあ、クフォン伯爵は節約家でいらっしゃるから。あの方がシルヴァードの金庫の鍵を預かるようになったとたん、火のついた燭台の数が半分以上減ったという話です。
 ……そのころは私はまだ十歳にもなっていませんが」


サーラ

アイスバーグ<

 地下牢は基本的に暗くしてあるらしい、という言葉に鼻を鳴らす。
「暗くて狭い場所で大人しくさせておく、というのはあまり好みじゃないんだ。
 身体的にも精神的にも不健康だと思わないか?
 ・・・まあ、好みだけでどうこうなることじゃないが。」
 軽口めいたことだけを軽い口調で言いながら、歩を進めた。
 だいたい、これでは囚人が何をしているかこちらにわからないじゃないか。
 そんな思いは口には出さず、胸のうちで呟く。


 真っ暗な闇がわだかまる中、無造作にも見える足取りでサーラは前に進む。
 ただその顔を盗み見る者がいれば、爛々と光る眼差しの強さに気付くかもしれない。
 手を抜いているわけでも恐れるわけでもなく。
 闇を透かし見ているかのような双眸がそこにはあった。


GM

 先に進んでいくと、通路は途中で左に折れている。
 そこから、通路の左右には向かい合わせになった地下牢の格子が並んで行く。
 周囲一体には闇がわだかまっており、アルマの灯した魔法の灯りでも照らし切れない。


アイスバーグ

サーラ<

「――はい、隊長」
 冷や汗を、ひとつ垂らす。
 その横、やや後を歩きながら、自分が今隊長の正面に立ってはいないことを心から感謝する。

 周囲が暗いことに対する台詞に、

「そうですね。地下牢は基本的に暗いことにしてあるようです。
 決められたときに囚人に蝋を支給し、それ以外では看守が持って歩く灯りだけでまかなうようです」


サーラ

アイスバーグ<

 視線だけをそちらへ向けると、笑顔らしきものを作る。
「知らなかったのか、アイスバーグ?私はとても礼儀正しい人間なんだ。
 ああいう手合いはよくいるし、いちいち‘指導’するまでもないさ・・・・・・一回だけならな。」
 ふふ、ふふふふふ。
 不気味な笑いを漏らしながらサーラは足を進めた。
 その両目は完全に据わっているようだった。

アルマ<

「・・・これは油代の節約か?警備上、こんなに暗くてはやりにくいと思うんだが。」
 首をひねりながら周りの暗闇に目を凝らす。
 微かな報告の声に一つ頷くと
(――引きずり出してやる。)
 何があろうとも、と、ひとり言のように応えを返した。


GM

 看守の部屋から、牢へ続く通路には、鋼鉄を打った扉が備えられている。そこの鍵を開け、サーラたちは奥へ進んでいく。
 通路は暗い。この場所の燭台には明かりは灯されていないようだ。灯りを取りに戻ろうとするアイスバーグを止め、アルマは魔法を呟く。
 彼女の手にした杖の先端に、ぽうっと光が灯される。

サーラ<

(まだ、何も感じられません。サー・ナイト)
 微かな声でサーラに報告をする。
(あり得ないことです。“何もない”が故に、この先には“何かがある”はずです)


アイスバーグ

 事の成り行きを恐れるというよりは、どちらかといえば明らかに自分の隊長の嫌うタイプである看守を、サーラがどのように蹴散らすかを楽しみにみていたアイスバーグは、この展開ににやりとしている。

サーラ<

 サーラに移動を促され、
「はい、隊長」
 頷いて後へ続く。
 こちらは囁きで、
「隊長があいつを殴り倒さなかったのが不思議なくらいです。わたしでさえ、剣を抜きたくなりました」


アルマ

サーラ<

 目線だけでうなずきを示す。


ボード

 何やらまた、不平のつぶやきを漏らそうとしたが、サーラの目の光に気が付いたのか、何も言わずに口を閉じることに決めたようである。


サーラ

看守ボード<

 にいっ、と口元だけをつりあげて笑ってみせる。
「納得いただけたようでありがたい。
 ご協力、心から感謝する。」
 言葉だけは穏やかに、突きつけていた短剣を懐にしまった。
「楽しいかどうかは関係がない。
 貴君と同じように、こちらも職務を果たすだけだ。」
 瞳だけは全く笑わないまま、差し出された鍵束を受け取った。

アルマ<

 アルマの方へと一瞬視線を走らせる。
 何かを探っている風な表情を見て取ると、すぐに視線を戻す。
「・・・何かあったら、教えてくれ。」
 アルマだけにわかるよう、唇だけで囁く。
 彼女への注意が向かぬよう、アイスバーグら他の同行者に声をかけて牢の奥へと向かった。


看守ボード

 短剣を突きつけられ、びくりと身を竦ませる。
 斬られる訳ではないのだと分かると、ゆっくりと力を抜いて、息を吐いた。

サーラ<

「そんな命令が……」
 半ば反射的に反駁の言葉を口にしながら、サーラが突きつけた短剣を見る。
 じろじろと紋章を調べ、宝石を確認する。
 しばらくして、しぶしぶと口を開く。
「……なるほど、確かに赤燐騎士団 団長の一任を受けているようですね。……しかし、このような前例のない……」
 もごもごと不平を漏らす。
 それでも、ようやく、腰に下げていた鍵束に手を伸ばすと、サーラに差し出して見せた。
「よろしいでしょう、サー・ナイト。仕方ありません。見ても楽しいもんじゃありませんがね。どうぞご自由に」


アルマ

サーラ<

 サーラの目配せを受けて、密やかに微笑むと、一歩動いて、さらにサーラの蔭に入る。
 辺りを細密に確認し、
(……やはり陰気が感じられない。
 あまりに不自然だ。
 何らかの手段によって、隠蔽されている……?)


サーラ

アルマ<

 無言で頷き、辺りを見渡している様子を見て口を閉じる。
 一瞬、金の双眸が強い光を放った。
「調査の方は頼んだ」という風に、魔術師にだけわかるよう笑みを浮かべる。

看守<

 さりげない動きで、彼の視線からアルマが隠れるよう僅かに立ち位置を変えた。
 自分の部署に必要以上の干渉を嫌う、よくある手合いかと思いながら笑みを消した顔を相手へと向ける。
「もちろん、こちらが白鱗騎士団の管轄なのは承知している。
 通常であれば命令書が必要なこともな。」
 凄みをました金の目が、相手を射抜くように見据える。
 視線で人が縛れるなら、まさしくそうなるだろうというような眼差しだ。
「ただし、今回の件は『通常』ではない可能性がある。
 調査場所・対象ともに未だはっきりと絞ることはできないが、そうであるが故に、我々としては迅速に調査を進めたい。」
 言外に、いちいち書類だの管轄部署だのにこだわっている暇はないと告げる。
 大型の肉食獣の歩みにも似た、妙にゆっくりとした動きでサーラは一歩、看守へと詰め寄った。
「・・それでもなお、そちらが騎士団長の命令にこだわるというのなら」
 流れるような動きで、看守の眼前に華奢な短剣を突きつける。
「我が赤鱗騎士団団長、ギムリアス様より預かった短剣だ。
 この一件は団長にも報告し、徹底的に調査すべしというお言葉も頂いている。
 いわば非公式の命令書だな。・・・これでも不服か?」


看守ボード

 眉根を寄せてサーラの言葉を聞いていたが、やがて、不機嫌そうな顔でかぶりを振る。

サーラ<

「そういったことは事前にお聞かせくださらないと、困りますね。ご存じだろうとは思いますがね、この牢は白衣の騎士団の管理にあります。赤燐騎士団の方は管轄違いなのでは違いますか。
 騎士団長殿のご命令とあれば、ま、仕方ないですがね。騎士団長レベルの命令はその管轄を超越しますから。
 でも、サー・ナイト。あなたは命令書など、お持ちじゃないでしょう?
 騎士団長からの事前の連絡もない。
 でしたら、お見せすることはできませんね」

 神経質そうな目を光らせながら、調査を拒否する。

 確かに通常は、国王や騎士団長は直接の命令を与えた騎士には蝋で捺した紋章入りの命令書を渡す。騎士はそれを持って、自分が重要な権限を与えられていることを証明するのである。
 なるほど、サーラは命令書は持ってはいない。



アルマ

サーラ<

「…………」
 サーラを見て、無言で頷くと、思案げに辺りに視線を走らせる。


サーラ

アルマ<

 足元を確かめるように慎重に階段を下りていく。
 闇の中に沈むような階段やカビくさい臭い。
 この場の雰囲気が性に合わないと、大きくため息を吐きながらサーラは足を進めた。
「陰気がしない?しかし、通路の方では『共同墓地』に迫るくらいだと仰っていたと思うが。」
 アルマの言葉に首を傾げている。

看守<

 男の神経質そうな目を見返すと、一歩を踏み出し彼の正面に立った。
 カツン、と軍靴をならし、まっすぐな視線を男へと向ける。
「私は赤鱗騎士団隊長、サーラ・フィリス・ウィンダリアだ。
 騎士団長ギムリアス様の命で、城内の調査を行っている。」
 薄暗い部屋の中、特に声を大きくしたわけではないが、サーラの声は不思議と力に溢れ響いて聴こえた。
「急で申し訳ないのだが、少し牢内を見せていただきたい。
 少しここで調べたいことがあるのだ。あなたの仕事の邪魔にはならないようにするので。」


GM

 サーラたちは靴音を響かせながら、地下牢への階段を下りていく。階段の入り口の所だけに灯されていた燭台の明かりはいかにも心許なく、歩き慣れたサーラたちでも足元を見誤ってしまいそうだった。
 細く急な階段が闇の中に沈み込んでいく。
「……陰気がしない……」
 アルマが呟く。
 階段を下りると、そこにはカビくさい小部屋がある。
 正面には牢に続く通路が、右手には粗末な机と椅子があり、その奥には宿直を務めるものが控え、また身を休める部屋がある。扉はないから、明かりさえあればこちらからも、その部屋にある簡易寝台が見えるはずだ。
 机の前では、椅子に腰掛けた看守のボードという男が、ろうそくの明かりの下で何か書き物をしていたようだった。
 サーラたちの来訪には当然気が付いており、今は手を休めて、三人の方を伺っている。
 少し堅太りをした中年の人間で、神経質そうな目をしている。
「サー・ナイト。夜分にどんなご用で?」